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お土産探せなかった

 その二日後、少し寝坊して慌てて朝食を食べに向かったら、どことなくやつれた様子の彼女と偶然遭遇した。

 船で話していた時にはわたしと別のホテルに泊まるつもりだと言っていたけど、多分旦那さんがこっちのホテルに泊まっているので連れ込まれたのだろう。

「あ、どうも……」

「……どうも」

 目は泣きはらしたように腫れていて、露出している首にいくつも赤が散っている。

 二年逃げていたということはその分お預けだったということで、まあそういうことがあったのだろう。

「……誰?」

 彼女の手を握っている、というか掴んでいる状態の旦那さんは私を不審人物を見るような顔で睨んでくる。

「えっと……」

「同じ船に乗ってた女の人。意気投合してずっと話してただけ」

「ふぅん」

 旦那さんは興味なさげに私の顔を見た後、彼女の腕をぐいっと引き寄せた。

 それで転びそうになった彼女の身体をひょいと抱えて、それじゃあ、と。

「はい、では……」

 と、いうやりとりがあった翌日、観光を終えてホテルに戻ってきたわたしは背後から殴られて気を失った。

 それで、気がついたら手をホテルの一室で手足を縛られて床に転がっていた。

 どういうこっちゃと混乱するわたしの前には怒り心頭という感じの彼女の旦那さんが。

「俺の嫁、どこに行ったか知ってる?」

 しらばっくれるつもりなら殺す、と視線と表情から伝わってきたけど、本当に何も知らないので首を横に振りまくる。

「ど、どういうことですか……!?」

 彼女の旦那さんは無言で一枚の紙切れを見せてきた。

 そこにはこう書かれてあった。

『まだまだ旅は続けます。お土産を楽しみにしていてください』

「あらら〜……」

 話を聞いてみると、ほんの数分目を離した隙にこの紙を残していなくなっていたらしい。

 図太いというかしたたかというかなんというか。

 でも多分、そういう人だったからこそ女一人で二年も旅を続けられていたんだろうなとも思った。

「荷物は残ってる、財布もだ。身一つで逃げたんだったら誰かしら協力してくれる奴がいると考えて逃げたんだろう、だとすると」

「知りません、ほんとに知りません!!」

 無罪を主張しても信じてもらえなかった。

 それでもこんなところで無意味な尋問を続けるくらいだったらさっさと探しに行った方がいい、あの行動力なら身体を売ってでも路銀を稼ぎそうだ、と言ったら凄まじい顔で立ち上がって部屋を出ていってしまった。

「え……ちょっと……」

 せめてこの縄をどうにかしてから行ってくれ、と言ってはみたものの、彼女の旦那さんは戻ってこなかった。

 結局、一時間くらいで彼女はお縄になって、わたしはその後ようやく解放されたのだった。


 後日、彼女の旦那さんを追ってきた旦那さんのお義兄さんに「弟夫婦が申し訳なかった」と平謝りされた。

 大丈夫だと言ったのだけど、どうしても謝罪がしたいと言われて、ディナーやらなんやらを奢ってもらうことになった。

 その結果、謎に意気投合してしまい、その後もお義兄さんとの関係が続いた。

 お義兄さんから彼女達の話を何度か聞いてみたが、どうもかろうじて和解できたらしく、今は二人仲良く一緒に生活しているそうだ。

 それから数年後、わたしはお義兄さんと恋人みたいな関係になっていた。

 というか、結婚秒読みな気がしている、わたしの自意識過剰でなければ近いうちにプロポーズされそうな予感がちょっとだけしている。

 彼のことは好きだ、大好きだ。

 優しいし気を使ってくれるし、話していて楽しい。

 だけど、ひとつだけ不満があった。

 彼は彼の弟、つまりは彼女の旦那さんのことが大好きなのである。

 簡単に言ってしまうと、重度のブラコンだった。

 多分、この先何があってもわたしは彼の一番大事にはなれないのだという予感がある、そしてこれはきっと外れてくれない。

 それの事実がどうにもわたしの心をチクチク突き刺してくる。

 なんかモヤモヤする、大好きだし好いてくれているのも十分理解しているのに、納得できない自分がどこかにいる。

 だからわたしはペンを取ってメモ用紙にこう書き連ねた。

『旅に出ます、お土産を楽しみにしていてください』

 ついでに適当に作ったゆるキャラもメモの端っこに描いておいた、我ながらうまく描けたと自画自賛して、わたしは家を飛び出した。

 さあ、冒険のはじまりだ、と意気揚々と旅に出た私は、たった三日であっさりと発見された。

 わたしも二年くらいは逃げ続ける気があったのだけど、どうにもうまくいかないものだ。

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