22話 現地の状況と待遇の説明
「皆さんの業務内容については、既に離した通り輸送の護衛です。
それで、勤務地についてですが」
ホワイトボードに映された画像が変わる。
「開拓が進められてる地域に作られた町。
ここになります。
ここが周辺にある開拓地や採掘地の中心になってます」
表示されたのは、そこそこ大きな町だった。
「人口5万人。
周辺へ送り込んだり、採掘された資源などを収める倉庫と、運搬を行う業者。
これらを守るための守備隊や護衛とその家族が居住してます」
「そこでの護衛が仕事だと」
「その通りです。
この町と周辺の開拓地や採掘施設などへの物資運搬。
これの護衛が仕事になります」
「それじゃあ、モンスターも相当出て来るんじゃねえの?」
仁科が珍しく口を開く。
「戦闘は今より多くなると思うんだけど」
「なりますね。
こちらだと一週間に一度の襲撃が有るか無いかですが、この付近はそうはいきません。
一週間で二回か三回ほどはありえると聞いてます」
「実際にはそれより多い可能性があるということか?」
「あり得ます。
ただ、私も現地からの報告だけしか目を通してないので、はっきりとは言えません」
北川の問いかけに、関山は正直に答えていく。
確実にモンスターの襲撃はあると。
その規模が実際にはどの程度かまでは把握しきれないと。
「ただ、それで大きな損失を受けてるという話も聞いてません。
相当大変だとは思いますが言われてるほど死亡率は高くはないとは思います」
「それでも負担は大きいだろう。
自衛隊主催の駆除なんかも多いんじゃないのか?」
「ある程度定期的に行われてるとは聞いてます。
ただ、周囲の森などに阻まれて思う程進んではいないようでもあります」
「森を切り開くところから始めないと駄目なのか」
「ええ。
開拓の最前線ですので、まだまだ手が回ってない所が多くあります。
それを進めるためにも、作業の最前線に物資を運搬しないといけません」
「行かないと何も進まないって事か」
「その通りです。
この方面のモンスターを押し返すなら、開拓作業を続行せねばなりません」
でなければ、モンスターの圧力に負けて、勢力圏を後退させる事になる。
「自衛隊でも駄目なのか?
このあたりに居る連中じゃ無理なのか?」
「駐屯してる部隊はいますが、それだけでモンスターの全てを倒せてるわけではありません。
他の地域にも展開してるので、こちらにこれ以上の増員は無理だとも言われてます。
規模はそれなりのはずなので、押し切られるほど脆弱というわけではないでしょうが」
「どこも事情は同じか」
この地域だけの問題ではない。
モンスターに囲まれたこの世界において、自衛隊はあちこちに展開している。
その為、更なる増強を求めても出来ないような状態になっている。
「代わりにと言ってはなんですが、我々が保有してるものよりも強力な兵器があるので、火力は十分なものになってます」
「そりゃそうだろうけど。
しかし、頼る事が出来ないとなるとどうしようもないな」
応援を呼ぼうにも自衛隊には自衛隊の仕事があるだろう。
護送中に応援として呼ぼうにもそんな余裕がないと言われればそれまでである。
「我々が基地に納品する時には護衛もつきますが。
それでも自衛隊だけに護衛を任せるわけにもいきません」
「手が足りないのか?」
「はい。
自衛隊からも出来るだけの護衛は出してもらってるんですが、どうしても数が足りないらしくて」
「ここも人手不足か」
「そういう事です。
でも、それでも自衛隊が一緒だと心強いですから。
途中まで道が同じ時は、物資輸送で便乗する事もあります」
「どうせなら一緒に行動して少しでも負担を減らそうって?」
「身も蓋もないですが、そういう事です」
確かにその方が負担は減るだろう。
一部とはいえ自衛隊が同行するなら戦力の増強にはなる。
それに同行する事が出来れば負担を多少は軽減出来る。
「でも、そう頻繁でもないんだろ」
「一週間に一回くらいですかね。
もちろんその時に合わせて物資輸送を集中させてはいますが」
「俺らもそこに加えられるならありがたいよ」
「そのつもりではいます」
そうでない時もある、というのは言わずもがなである。
「あと、目的地までの距離とかはどうなってる?
道路も舗装されてるのか?」
「距離はそれほど離れてるというわけでもないですね。
最も離れてる地域でも50キロから60キロというところです。
ただ、舗装されてる道ばかりではありません。
一応、車輌が通っても大丈夫なくらいに開けた場所を選んで道にしているようですが」
「どのくらい開けてる?
こちらだと、道路周辺は伐採などもされてるが」
「場所次第ですね。
町の近くはかなり切り開いたようですが、開拓作業中のあたりはまだ十分ではないかと」
「そこは仕方ないか」
何事も万全を求めるわけにはいかない。
不十分だからこそ作業が必要というのもある。
何もする必要も無いなら、仕事が発生する事もない。
「とにかく、大変って事だけは確実だな」
「そうなります」
関山は頷いて北川の言葉を認めた。
「まあ、そんな訳で皆さんの待遇もそれなりには考えてはいます」
「具体的には?」
「とりあえず給料は現在より上げます。
とはいっても、月給に5万円増加ですが」
「それっぽっち?!」
「さすがにそれは」
不平が仁科・安西からあがる。
それはそうだろう、今より危険な所での作業なのに、それしか給料が上がらないのだから。
「加えて、引っ越しにかかる費用は全額会社もちになります。
まあ、これは当たり前ではあるでしょうが」
「いいのか?」
「ええ。
買い取った皆さんの家はこちらで活用します。
住居を必要としてる社員もいますので」
「そりゃあ、ありがたい」
住宅ローンの事を考えなくて済むのは助かる。
「出向いてもらう先の住居はこちらで用意します。
それまではマンションかアパートでお願いしますが」
住む所の問題はとりあえず考えなくて良いという事になる。
「それと、勤務形態ですが。
これは今までと変わります」
「どうなる?」
「まず一ヶ月は通常通りの勤務になります。
一週間に5日から6日の勤務。
その後に二週間の休暇となります」
「嘘だろ?!」
「本当か?」
「ええ。
そうでないと体がもたないので」
「……どんだけきつい仕事なんだよ」
「信じられん」
「それからまた一ヶ月の勤務に入ってもらいます。
これの繰り返しです。
いかがでしょうか?」
「それだけ休暇を取らねばならないほど大変な作業だという事か」
「日常的にモンスターとの接触があるとの事ですから。
さすがに簡単ではないでしょう」
だからこその休暇期間であるのだろう。
「そんなに休んで仕事に穴が空かないか?」
「ですから、皆さんのような人材を常に集めてるんです」
「良く言うよ」
そう言って北川は笑った。
「まあ、仕事についてはこれからの研修で理解出来る事もあるでしょう。
そちらの方が役に立つかもしれません」
そう言って関川はヒロキに目を向ける。
「あと、技能向上研修などですが。
これからは受講が少し難しくなるかもしれません。
現地ではなかなかそういった研修を開催する機会がないので。
出来るものは可能な限り実施してるようですが」
「……それは、ちょっと残念です」
「申し訳ありません。
熱心な方には出来るだけ便宜をはかりたいんですが、現地ではなかなか開催する余裕もないので」
「仕方ないですね。
でも、出来るならお願いします。
出来るだけ給料を上げたいので」
「ええ、出来るだけの努力はします」
その返事に、期待は出来ないなと思った。
「ああ、それと。
一応言っておきますが」
「なんだ?」
「生命保険への加入はやはり出来ません。
聞かれる事も多いので先に言っておきます」
「なんだよ、そこの待遇も良くしてくれてもいいだろ」
「皆さんの仕事で加入が出来たら、保険会社が破産します」
「そりゃそうだ」
そう言って北川も関山も笑う。
仁科と安西もつられて笑っていった。
「まあ、受取人もいないし……」
ヒロキのぼやきともとれる言葉に、笑いは更に大きくなった。




