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12話 指示を出す側の、無くなりも終わりもしない苦労と苦悩

「今回はこれで上手くいきましたな」

 一井物産新地道支社の一角で、集まった者達の中からそんな声があがる。

 異世界における一般業務を受け持つ者達。

 現場に最も近い責任者達が、採掘施設で行われた戦闘を振り返っている。

「やっぱり増員があると違うね。

 モンスター殲滅までの時間と費用が違う」

「人手がいるからではあるけど、こうも違うとは」

「砲弾の消費がないのが大きいな」

 あがってきてる報告を見て、各自が思い思いの言葉を出していく。

「まあ、常時これだけの人数を貼り付けるのは無理だけど」

「人件費がかかりすぎるからなあ」

「あくまで運搬護衛がいる場合だけの対処方法だな」

 利点と問題をしっかりと把握していく。

 あくまで数字で分かる部分、特に経費と利益の関係が焦点になるが、それでも良し悪しをしっかりと把握しようとしている。



「となると、護衛がいる場合は対処させたほうがいいのかな」

「いや、あまり得策でもないと思う。

 護衛が動けなくなって運送が遅れるし。

 採掘現場の負担が減るのはいいけど、他の部分に問題が出るから」

「ああ、そうか。

 やっぱりそう上手くはいかないか」

「今回、届くはずの原料が半日遅れで、実質的に一日遅れて到着だからね。

 その分、原料到着以降の作業に遅れが出ている」

「そうすると、差し引きの損益はあまり変わらないのか?

 むしろ損失の方が大きいか……?」

「まあ、採掘現場が壊れるよりはマシだけど。

 遅れが出ると、色々なところにしわ寄せっていうか問題が波及するからな」

「影響範囲の大きさを考えると、遅れた事の方が問題かもしれないしな」

「時間通りに事が進まないのは痛いか」

 全員、影響する範囲を考えていく。

「でも、採掘現場が壊れたら、復旧するのにも金と時間がかかる。

 人が死んだら、その補償も大変だし。

 怪我をした場合でも、治療や入院してる間の世話がね」

「そこだよなあ。

 それを考えると、他を遅らせても守ったほうが安上がりになるかもしれないしなあ」

 損益だけを考えても、結局は施設の破壊や社員の死亡・傷害がないのは望ましい結果ではある。



「あと、これだ」

「ん?」

「なんだ?」

「現場からの意見書。

 まあ、いつもの通りではあるけど」

 それを手にとっていた者が、他の者にも見えるようにと机の上に置く。

「本来の業務とは別の作業に加えられた事で、今後のしわ寄せがくるからやめてくれ……そういう内容だ」

「ああ、なるほど」

「現場は分かってるなあ」

 口々にそう言ってため息を吐いていく。

「遅れた分を取り戻すために無理しなくちゃならなくなるからなあ」

「半日も遅れたら相当きついからな」

「一週間で取り戻せればいいけど、そうはいかないだろうな」

「モンスターが出てこなければなあ」

 誰もが口々に悩みと嘆きを声に出していった。



 モンスターの襲撃がなければ、採掘施設に到着したその日には資源を持って帰還が出来ていた。

 そして、準備と休憩を挟んで次の仕事に入っていたはずだった。

 施設の防衛という作業に入ったことで、その仕事が出来なくなっている。

 それでも作業は残っており、これをこなさなければならない。

 必然的に、多少は急いで運搬をこなさねばならず、その分だけ負担が増える。

 速度を上げての移動に、休憩や準備時間の短縮。

 それらをこなして、遅れを取り戻さねばならない。

 もちろん一回で取り戻せるわけがない。

 一つの作業で数分から数十分短縮できるかどうかというところだ。

 半日の遅れを取り戻そうと思ったら、意外と時間がかかってしまう。

 大雑把にみて一週間はかかるかもしれない、という予想になる。

 しかも、途中でモンスターの襲撃などが発生しなければ、という条件でのことである。

 実際には一週間に一回はモンスターがあらわれ、これを倒すために多少の時間を割かねばならない。

 ちょっとした遅れを取り戻すのは結構大変な事になる。



「それで、今回の遅れで保管費用はどうなってる?」

「そっちも少し影響が出てるよ。

 まだ吸収しきれる範囲ではあるけど」

 次に出てくる問題は、各地で保管されてる物資に関わるものになる。

 当たり前だが、原材料にしろ製品にしろ、運び出さなければ在庫として倉庫に置かれることになる。

 それは、場所を食いつぶす事になり、新たに別の品を入れる際の障害になる。

 運搬運送の遅れはこういったところにも影響を与えていく。

「倉庫そのものには余裕がまだあるけど、これが今後も続くようだとまずいな」

「今回の遅れで一週間くらい在庫がある状況になると、ちょっとは影響を出すかな」

「今回だけならね。

 けど、これが今回だけじゃないのが問題になってるんだよな……」

「今までの分の遅れもあるか」

 遅延の発生は今回だけではない。

 これまでも何度か起こっている。

 それらの積み重ねが解消しきれない負担となっている。

 深刻な問題となるほどではないが、積み重なる遅延は損失であるので、どうにかしたいところだった。

「施設に損害が出なくても、こういう負担が出るからなあ」

「出来ればあまり余計な仕事をさせないようにしたいよ」

 出来るならやってるが、そうもいかないのが辛いところだった。

 施設を放置して損害が出れば、それも損失だ。

 そうはさせまいと手間をかければ遅延という損失になる。

 これらを解消するありがたい方法はまだ発見されてない。



「ただ出荷にどれだけ影響をするかだな」

 問題は結局ここに行き着く。

 運びこむべき物資が届かないことで、提供する商品の調達が遅れる。

 遅れれば売れないし、場合によっては違約金などを支払うことにもなりかねない。

 それがなくても、納期通りに物を持ってこないというのは信用問題になる。

 求める時間に求めた物がやってこないという事は、注文をする側からすればとんでもない問題になる。

 予定通りに納入されないとなると、商品を販売することが出来ないので売り上げにかかわる。

 特に季節限定品のようなものだと、納入時期が遅れると商品として売れなくなる事にもなりかねない。

 納期を遅らせるところとは取引するのを控えるようになる。

 異世界における事情を知る者達は、この遅れを想定して納期を設定はするのだが、それでも遅延の発生は不安を呼ぶ。

 出来れば期日を前倒ししてくれれば、というのが異世界と取引する者達共通の願いでもあった。

「まあ、今回はまだ大丈夫だけど、これがこのまま続くとなるとね」

「取引先が不安を抱くようにもなるか」

「こっち側だけでやりくりするなら何とかなるかもしれないけど、本土の方はさすがにねえ」

 事情を熟知している異世界の者達は、納期についてはある程度寛容ではある。

 だが、体感的に理解しにくい地球側の者達はかなり納期については厳格である。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、それが一井物産としては辛いところであった。

「まあ、どうにかして解消できるようにしよう」

 そう言って現場に近い責任者達は、自分達の出来る範囲で遅延などによる損失の解消を考えていく。

 実際に現地で動いてるわけではないが、動いてる者達が効率よく活動できるように。

 現場にいないからといって、責任者が仕事を放棄してるという事は無い。

 形を変えて彼らも仕事に臨んでいるのだ。

 だからこそ、発生する問題に向かい合い悩むことになる。



「これ、どうするか」

「こっちを先にすれば……いや、それだとこっちが後回しになるか」

「先にこっちを片付けてから、こっちに向かうのは?」

「いや、まずはこっちの在庫を解消しよう。

 加工するにもこの材料がないと動かないはずだし」

「加工工程の部署からも要望が出てたっけ。

 じゃあ、まずはこっちか」

「むしろこっちは、モンスターの襲撃で遅延が出てるし。

 いっそ後回しにしてもいけるか?」

「その分、後が大変になるけど……しょうがないか」

 あちこちから入ってくる情報をもとに、現在出来る最善の運用を考え、彼らは業務時間の全てを用いていく。

 それでも足りずに残業にまで突入する。

 そうこうしてる間にも、あちこちで発生した問題がまた飛び込んできて、彼らの負担を重くする。

「勘弁してくれ……」

 偽らざる気持ちを誰もが口にした。

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続編はこちら。
『異世界開拓記 ~トンネルの先は異世界だった~』
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ブログのほうでも幾つかは掲載している。
『よぎそーとのブログ』
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