13話 業務以外の大事な仕事
「恒例行事?」
朝礼で言われた仕事について尋ねたヒロキは、返ってきた答えを鸚鵡返しした。
「そうだ、定期的に行われる恒例行事だ」
北川が補足するように言葉を加える。
「やる事はいつもと変わらないけどな」
「出てきたモンスターを倒す。
それだけだ」
「はあ……」
仁科と安西の言葉に、分かったような分からないような返事をする。
そんなヒロキは、朝礼で渡された通達に目をおとす。
そこには、恒例行事とやらについての説明が書かれていた。
『異世界害獣駆除のお知らせ
新地道におけるモンスターの巣に、自衛隊主催による駆除を実施します。
新地道在住企業にも応援の要請がきてるので、我が社もこれに参加します』
内容を要約するとこういったものになる。
細かなところまで書かれてはいないが、何をやろうとしてるのかはおおよそ想像が出来た。
ただ、そこに参加というのがどうにも解せないというか、理解したくなかった。
「これ、俺らも行くんですか?」
「多分そうなるだろうな」
あっさりとした北川の言葉に、ヒロキは少しばかりうんざりした。
「それって、仕事が遅れることになるんじゃ……」
「そこは上が調整するだろうさ。
俺達は、言われたとおりに動けばいい。
動くしかない」
「はあ……」
相変わらず遅れ気味の運搬業務を考えると頭が痛い。
護衛であるヒロキ達はそれらにどうしても引きずられる形になる。
決して運搬を担当してる者達が悪いわけではなく、その原因を作ってるモンスターが悪いのはわかってはいるのだが。
だからこそ、遅れを取り戻すのに邪魔になるこういった業務外の作業には、呆れたり嘆いたりしたくなる。
「でもまあ、これもやっておかないとな」
「放っておくと街道にあふれる」
仁科と安西が恒例行事である害獣駆除について一言添えていく。
「こうやってモンスターの巣を潰さないと、どんどん出てくるから」
「すぐに増えるから、寝床を破壊しないとまずい」
言われてみれば確かにと思う。
モンスターとて一応は生き物なのだろう。
そうであるならば、子供を作って育ててもいるはずだ。
その為の場所を確保して定住してなければならないだろう。
モンスターの出産育成がどういったものなのかは分からないが、生まれたばかりの子供を連れてあちこち動き回るとは考えにくい。
ある程度育つまではどこかに定住しているものなのだろう。
それか、本当に一箇所に定住して周辺を自分達の縄張りにしてるのか。
実態はどうであれ、住み着いてるなら脅威にしかならない。
「確かに、増えたら面倒ですね」
出産から成人というか、自力で活動できるようになる周期は分からない。
だが、定期的にある程度の数が生まれてくるとなると脅威だ。
倒しても倒しても数が減らないことになる。
子供、そしてそれらを生み出す母親(や卵)なども含めて潰していかねばなるまい。
人間が生きていくためにはそうするしかない。
「そういう事だ。
それに、俺らまで声がかかるかどうかは分からないけど、行けと言われたら行くしかない」
「これって、やっぱり仕事の一つって事になるんですか?」
「ああ。
一応は仕事になる」
会社としての業務扱いになるという事だ。
ボランティアや有志として無償の奉仕や協力という事にはならない。
そういう事も出来るらしいが、会社として参加する場合は違ってくる。
「まあ、まだ先の事だ。
それよりも今日の仕事をどうにかしよう」
「はい」
北川の言葉で、少し先の未来ではなく今ここにある現在に戻っていく。
今日もあちこちを回らねばならず、忙しいことこの上ない。
銃の手入れや弾倉への装弾をしながら、ヒロキ達は出発の時間を待つ事になる。
あちこちで発生する問題と、それによる仕事への負担。
それらを受けつつも毎日をこなしていく。
運搬の護衛につき、一週間に一度は襲ってくるモンスターを撃退していく。
そんな事を繰り返してるうちに、異世界に来て半年が経とうとしていた。
研修期間はともかく、実際に仕事に出るようになってからは本当に月給三十万円になって驚いていた。
それらを用いて早速趣味を満たしていったりもした。
だが、全額を使い切ることもなく、結構な金額が手元に残っている。
ヒロキの人生においてかつてないほどの預金残高が作られていた。
そんな時期の話であった。
また一つ、この世界ならではの行事というか出来事に参加していく事になる。
定期的なモンスターの駆除は、新地道における定例・恒例行事である。
蔓延るモンスターの脅威を少しでも低下させるためには、周辺に存在するモンスターの拠点を破壊せねばならない。
繁殖しようとするモンスターを阻み、あらゆるものを殲滅していく必要がある。
それこそ生まれる前の卵や、子供を腹に宿した親から、幼体の小さなものまで。
これらをそのままにしてけば、いずれ巨大な群となって復活してしまう。
容赦なく、情けを捨ててかからねばならない。
生存競争という生き残りをかけた争いは、生半可な同情や憐憫が入る余地は無い。
だからこそ自衛隊が主導していく事にもなる。
この世界において自衛隊はかなり自由に行動が出来るようになっていた。
基本的に交戦権を持たないとされる日本であるが、異世界に交戦するべき他国は存在しない。
いるのはモンスターという脅威であり、これらへの対処を阻む規制は何一つ存在しない。
実在する脅威に対して、憲法をはじめとした不毛で邪魔な制限はない。
むしろ、的確に行動しなければそちらの方がまずい。
多少は理性や知性を持って行動する人間の国家と違い、モンスターは交渉や外交の余地がない。
まず確実に襲ってくるし、そんなものに対して専守防衛や正当防衛などという世迷言をほざいてる暇はない。
見つけたら即殲滅、先制攻撃は当たり前。
むしろこちらから探し出して容赦なく潰さねばならない。
そうでないと、どこからともなく流れ込んでくるモンスターが人類の、日本の勢力圏に襲い掛かってくる。
積極的に出向いて根絶やしにしていくしかない。
これを阻むのは、弾薬や燃料などの消耗品の在庫と、予算の限界、そして限られた人員の数である。
どれほど熱心に活動しようとも、金と道具がなければ行動できない。
これらがあっても、動かせる人員などは限られてるので、この範囲でしか活動できない。
異世界においても最高最大の火力や機動力を持つ自衛隊であるが、それでもこれらの範囲内でしか行動できないのは変わらない。
このあたりはヒロキが所属するような企業となんら変わらない。
その自衛隊、正確に言うなら日本政府や新地道自治体などによるモンスターの駆除。
一般的な企業や地元の有志達では手に負えない規模のモンスター達を殲滅する行事である。
一応は新地道知事からの防衛出動要請という形で行われてるが、これはほぼ常態と化している。
モンスターは途切れることなく出現し、それへの対応は日常茶飯事だ。
その為、一々出動要請をしてるわけにもいかない。
自治体からは常に要請がかかってるという、『出動要請みなし』常態である。
このため、新地道に駐留する自衛隊は、活動に制限がない。
また、日本政府も新地道の事情を鑑みて、この地域に駐留してる自衛隊の活動に自由を与えている。
政府の管理下にはあるが、自衛隊の活動が妨げられる事は全くと言って良いほど無い。
あるとすれば、現地の国民を守るために活動することといった基本的なものばかりとなっている。
その自衛隊主催による大規模なモンスター駆除が始まろうとしていた。
これらに民間企業や融資への参加呼びかけがあるのは、ただただ兵員不足によるものである。
新地道開拓によって税収も人口も大幅に増加してる日本である。
これに異世界である新地道の特殊性も考慮され、自衛隊の規模も拡大している。
なのだが、広大な範囲を守るには自衛隊の規模はそれでも小さかった。
大規模な駆除を実行しようとすると、あちこちからかき集めてもまだ足りなくなってしまう。
モンスターの巣に突入するのは問題ないのだが、その周囲を包囲・警戒する者がいないのだ。
危険な群への突入は出来ても、そこから漏れ出てくるものたちはどうしても出てくる。
それらを放置したらまたどこかで繁殖する可能性が出てしまう。
なので、一体も漏らさずに倒す為に群の周りを囲っておかねばならない。
同時に、他の場所からやってくるかもしれない別のモンスターを遮る事も求められる。
一応自衛隊のほうでも周辺の監視はしてるのだが、それらを発見できても対処できないとどうしようもない。
なので、発見がなされた場合にすぐに動ける者達も確保しておかねばならなかった。
こういった、比較的楽な作業への参加を自衛隊は、そして新地道自治体と日本政府は求めていた。
企業にしてみれば負担もあるにはある。
他の業務に従事している者達を派遣せねばならないので、どうしても作業に滞りが出来る。
しかし、先んじてモンスターの間引いておけば、その後の活動への支障は少なくなる。
現に、こういった駆除が行われる以前と以後では、年間を通しての損害が大きく違ってきている。
一時的に負担はあっても、長期的に見れば損失を抑えることにより利益が勝る。
このため、送り出す人や物の調整に悩みながらも、参加を拒否するといった事はほとんどない。
自前の護衛・防衛のための部隊を持ってない中小企業はさすがに参加できないが。
それでも、有志として一人二人が派遣される事もある。
何社かが合同でまとまった人数を出す事もある。
それほど異世界におけるモンスターへの対処は求められていた。
それに、自衛隊が中心になるので、負担もそれほど大きくないというのも見逃せない。
比較的安全に、強力な自衛隊の火力をたのむ事が出来る。
大規模で普段は手を出せないモンスターの群を倒すのに、これほどうってつけのものもない。
そこに参加する事で比較的安全に、そして確実にモンスターをしとめることが出来るなら、無視するのも得策ではなかった。
より完璧を期すために、その後の自分達の活動のためにも、参加に前向きになる企業は多かった。
ヒロキ達が所属する一井物産も例外ではない。
後日、ヒロキ達にも自衛隊と主催のモンスター駆除への参加指示が出される事になる。
受け取ったヒロキ達は、苦笑したり呆れたり嘆いたり文句を言ったりしながらも、当日に備えることになった。




