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第72話 力の試練

◇◇◇◇


 銀霧の里から五日の道のりで、神話の山の麓の集落に到着した。

 そこは小さな集落だった。木造の家が五軒ばかり、山の入り口に肩を寄せ合っていた。集落の長老の元へ挨拶に行くと、彼は声を潜めて警告する。

 

「神話の山に登った者は、皆、戻ってこない」

「…………」

「しかし、十年に一度、麓に降りてくる生還者がいる」

 

 その男の名は、ノルスというらしい。俺たちは集落の奥にある、彼の小屋を訪れた。彼は、片眼鏡をかけた、初老の歴史家といった風情だった。

「儂は、神話の山の唯一の生還者じゃ」

 彼が、得意げに胸を張った。

「試練は、二つある。力の試練と、心の試練。特に心の試練は、厳しいものじゃよ」

「あなたは、どこまで行ったんですか」

「そのうち、教える」

 彼は、俺の顔をじっと見て、こう続けた。

「お前さんの持つスキルは、神話の山で特別な意味を持つはずじゃ。特に、心の試練でな」

 謎めいた言葉を残して、彼は小屋の奥に引きこもった。


 翌朝、俺たちは石の鳥居をくぐって、山を登り始めた。


◇◇◇◇


 道は、ぐねぐねと、険しい岩肌の谷を縫うように続いていた。左右に断崖が、ぐいと迫る。上を見上げると、空が薄い細長い帯のように見えた。岩の隙間を、風がひゅう、ひゅうと抜けていく。鳥の声は、もう聞こえなかった。

 

「アルテミスさん、空気、薄くなってますね」

 俺が息を整えながら聞いた。

「ふむ。高度が上がっておる。馬車では来れぬ高さだ」

「皆、大丈夫?」

「私は、剣の鍛錬で、こういう山道は慣れている」

 アメリアが、ふっと笑った。

「アイリーンは?」

「私、聖光の力で、息は楽ですわぁ」

「ずるい」

「あらん」


 しばらく登ると、道の脇の岩壁に、古い石碑が立っていた。石碑にはこう刻まれていた。

 『これより先、力の試練。力なき者、戻れ』

 俺は、思わず唾を飲み込んだ。


 石碑の先で、谷の道がぐいと開けていた。そして、巨大な、岩に囲まれた広場が現れた。直径五十メートルはあるだろうか。岩肌がぐるりと円形劇場のように、広場を囲んでいる。天井は開けていて、薄く雲が流れていた。広場の中央に、もう一つ石碑が立っていた。

 

 『力の試練。立ち向かう者、その力をここに示せ』


 俺たちが石碑に近づいた瞬間――。

 

 ぐらり。

 

 広場の地面が、揺れた。

 次の瞬間、地面のあちこちが、ばりばりばりっと割れ始めた。割れ目からずるりと、何かが起き上がってきた。

 巨大な、岩石ゴーレム。

 高さ三メートル。両腕の太さは丸太のようにあった。岩の顔には目も、口も無かったが、頭部の中央に、ぼんやりと青い光が灯っていた。

 一体目が、地面からゆっくり立ち上がる。二体目が続いて、起き上がる。三体目、四体目、五体目。ぐるりと、広場の四方から、ゴーレムが起き上がっていった。最終的に、十体の岩石ゴーレムが、俺たちをぐるりと取り囲んだ。


 俺たちは、広場の中央で、背中合わせに立っていた。アメリアが、剣を抜いた。アルテミスが、両手をぱっと開いた。アイリーンが、聖光の杖を頭上に、ぐっと掲げた。

「皆、行こう」

 俺が、息を深く吸い込んだ。

「力の試練、開始だ」


◇◇◇◇


 最初に動いたのは、左前方のゴーレムだった。太い両腕をぐっと振り上げて、地面をずどんと叩き潰そうとした。

 アメリアが、地を蹴った。

「一段ッ!」

 彼女の剣が、ゴーレムの右腕にぎりぎりと食い込んだ。岩の塊が、ぱきりと欠けた。

「二段ッ!」

 左腕にも、攻撃。

「三段斬りィッ!」

 ゴーレムの胸部に、深い斬撃。

 しかし、ゴーレムはぐらりと揺らいだだけで、倒れなかった。胸に開いた斬撃の穴を、ぐにゃりと地面に潜らせるようにして、自身の体重で塞いだ。


「再生はしないけど、頑強なのね」

 アメリアが、肩で息をしながら囁いた。

「アルテミスさんっ、火球をっ!」

「うむっ!」

 アルテミスが、両手から火球を放った。ゴーレムの胸部に、火球がずどんと当たった。表面の岩が、ぱりんと割れた。が、本体は無傷。

「ヤツらの本体、どこなんですかっ!?」

 俺は叫んだ。

「頭部の、青い光だ!」

 アルテミスが、別のゴーレムを火球で牽制しながら、答えた。

「あの光が核だ。あれを砕けば、止まる」

「でも、ゴーレムの頭、三メートル上ですよ!」

「上から、攻撃する手段がいるな」


 その時、後方からぱっと、何かが飛び上がった。サラだった。

「クワッ!」

 彼女が、巨体をばさばさと羽ばたかせて、ゴーレムの頭上にぐいと登った。そのまま、ゴーレムの頭の上に、どすんと体ごと落下した。その瞬間、ゴーレムがぐらりと揺れる。頭部の青い光が、サラの足の下で、ぱきんと軽く欠けた。

「サラっ、すごいぞっ!」

 俺は叫んだ。


 空中から、ぱっともう一つ小さい影が降ってきた。サラダだった。彼女は、サラの飛び方を必死に真似ていた。ぱたぱたと不器用に羽ばたきながら、ゴーレムの頭上にふわりと舞った。

「ぴーっ!」

 彼女は、ゴーレムの頭の青い光を、クチバシでつんとつついた。ゴーレムが、ぐらりと再び揺れる。


「これだ!」

 俺は叫んだ。

「サラ、サラダ、上から注意を引いてくれ! その隙に、アメリア、地上から足元を狙え!」

「了解っ!」

 

 連携作戦で、ゴーレムに対抗する!

 


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