モブのいた日常
それから、季節が巡り、再び冬になる頃。
王都で"聖女祭"が開催されることになった。
――このグランタイズ王城はかつて聖女の鏡があった。その鏡にあやかり、町は鏡で装飾される。
そして、この祭り時だけは、みな白い衣装に包まれる。騎士団長も、侍女も、大人も、子供も。身分に関係なく。ただの一人として、祭りに参加をする。
一部の洒落者は、白い仮面までつけて、全身真っ白で参加をしている。
そして、もう一つの決まりごと。一つでも、"キラキラ"した何かを身につけること。皆で少しずつキラキラで満たすこと。
どこの誰だかわからない。というより、誰だとか彼だとか関係なく、みんなで楽しむための祭り。
……噂では、王子や王女も、真っ白な仮面お忍びで参加をされているとか。
あの時、ティアが助かったのは小さな奇跡がそろったから。
ラウドが、ティアを守れるほどに強くなることを諦めなかったから。
ライムが、限りなくゼロに近い可能性すらも諦めなかったから。
そして皆が、ティアとの未来を諦めなかったから。
だから、聖女祭りは、小さな奇跡を諦めないための祭。
特別な誰かに出会えれば、幸せになれる……かもしれない。そんな願いを込めたお祭り。
“特別な人”から転じて、想い人を見つけて告白をするというイベントにもなっている。
年頃の若人は、想い人を探したり、出会いを求めたり、高値の花に挑んでみたり。皆が小さな主役となるお祭りになっていた。
毎年グランタイズ城下町では開催されるようになった、そんな祭りの準備を進める彼は同じ隊の連中を振り向きながら、伸びをする。
「器用な奴だったけど、まさか旅立つまでの半年でこんな祭りをブチ上げるとはね。あいつのアレは呪いなんだか、祝福なんだか」
余談だが、クリトの“キャラ”は、エンヴィーの魔力を回収したことで変化していた。
そのキャラは、“お祭り男”。
この後しばらく彼が旅の途中で滞在した村は新たな祭りによる村おこしが行われ、グランタイズ王国は特色のある豊かな文化を持つ国として栄えていくことになるが、それはまた別のお話。
とりあえず、彼は二年目の祭りで「想い人」と出会えた。なのでまごうことなくクリトは救世主であった。
今年の彼は運営側。白い衣装は着ていても、兵士として衛兵としての仕事をしなければならない。
「それにしても、ラウド殿下は立派になられたよな」
「あぁ。
殿下自身の努力も我々には到底追えるものではないが、
――それ以上になんというか、あー、かり、かりせ、、」
「カリスマな」
「そう!そのカリスなんとか。仕えたいというか、この方についていけば安心というか!」
「四文字の単語も覚えられないようなヤツに、殿下もついてきてほしくないだろうさ」
「うっさい!俺だってなぁ、なんかの役にはたつんだよ」
「わーかってるって。お前の槍術は天下一品だよ。なにせ、お前の嫁さんとの出会いもそれに笑ってくれたのがきっかけだったしな」
「大車輪は大道芸じゃない!あれは、ちゃんとした――」
「はいはい、とっととやんねーと開始に間に合わねーぞぉ」
――今日から始まる聖女祭。身分もなにも関係なく、みんなが小さな出会いと奇跡を信じる日。
「あの、これを。受け取っていただけますか?」
誰かが小さな勇気を出す日。
聖女祭は、今年も小さな物語を、街角でヒトの数だけ、小さく紡いでいく。
「はい、この剣はグランタイズのものですが、この御身は貴方のために。
――お慕いしております。…ィア様」
後年、ラウドは、人の才能を生かし、育てることで盤石な体制を整えた中興の祖として歴史に名を刻む。特に、料理人を厚遇し大衆料理文化が華やかに実ったことも特筆されている。そして、王家が強い力を持ちながらも、その身分よりも実力を重視する独特な政治体制へ移行していくこととなる。
まぁ、そんな先の話はさておいて。
ギャン泣きしていた誘拐王子は、少しは成長したようだ。今日は、身分も関係ない聖女祭。
町の悪ガキどもの先頭で走っている、見覚えのあるシルエット。
彼が首から下げているのは、ガラス片にしか見えない。
その子らが楽しそうなので、聖女の鏡の物語もこの辺で終幕。
モブに徹していた男が、次にどんな役割を得るのか。
それはまた、次のお話で。




