モブと主役と、羨望の正体
「ムダムダムダ!あんたの攻撃なんか、全然効かないんだから!」
仄暗い目でクリトを見据えるティアに、ラウドが話しかけた。
「……其方、名前はなんと言うのだ?」
「へ?僕の名前?
い、今はインウィディアだよ」
「そうか。カッコいいな!」
にぱっとラウドが笑う。
インウィディアは戸惑う。
なぜ、この場で、このタイミングで笑えるのか。
「こんなところで、寂しくなかったのか?」
「ここからなら、見えるんだ!全部丸見え。
全部――僕の手のひらの上さ!
……寂しくなんか、ないっ」
「そうか。インウィディアは強いな。
ラウドなら、寒くて誰かに抱きついてしまいそうなのだ」
「……久しぶり、なんだ」
「どうしたのだ?」
「久しぶりなんだ、呼んでもらえたの。
ずっと独りで。
……いつからだっけ」
切られた箇所を瞬く間に修復しているエンヴィーは、余裕そうに見えていた。だが、クリトは構わずに無表情で斬り続けていく。最初は触手のように這いよる黒い靄を避けていたクリトだったが、次第に靄もよけずに切り裂くようになっていく。さらにクリトのペースが徐々に上がっていき、気がつくと、エンヴィーの回復を上回り、サイズが少しずつ小さくなっていく。
「はは。ダメか。
もう、無理っぽいね。
あれも僕なんだ。
……醜くて、嫌いなトコ。
やっぱり、どんなに強くても、負けちゃうよね」
「インウィディア……」
「なんでお前がそんな顔してるんだよ。僕はティアを奪っている敵だぞ?」
「……なんか、違うと思うのだ。
インウィディアとは、友達になれそうな気がしてるのだ。
悪いことをしても、ちゃんとごめんなさいをすれば、きっと大丈夫なのだ」
「……さすがに無理だよ。ずっと前からやりすぎちゃったんだもん。
最初は、インウィディアになる前は、みんなと楽しかったのにな」
クリトは止まらずに剣速を上げていく。
遂に小型の犬並に小さくなったエンヴィーはその一閃で両断された。その片側は、次の瞬間には一片も残らずに消滅させられていた。
そこでクリトは何故か太刀を振り抜いた形で止まり、一息を吐く。
そこで、自然体へと姿勢を戻し、フラリとあたりを見渡す。その瞳は暗く濁り冷たく、表情も冷え切っていた。
その瞳がティアの肉体を捉えると、クリトはゆっくりとそちらに歩み寄る。そして、無造作に太刀を振り上げ、ティアに向けて振り下ろした。
インウィディアは「あぁ、終わりなんだな」とぼんやりと考えた。
次の瞬間、ティアの身体はライムに抱えられ、太刀筋のすぐ脇へ転がっていた。そして、クリトには、ラウドが立ち塞がる。
すぐ脇に振り下ろされた刀に引きつる。ライムは続けて懐から瓶を取り出すとクリトに向けて投げつけた。
「クリト殿!気を確かに!」
パリンと軽い音を出し中の液体……この匂いは酒だろうか?を被ったクリトは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「ライム、か。すまん、呑まれかけてた」
そういって自分を嗤うように、口元を歪めた。
クリトは、改めて鋭い視線をインウィディアに向ける。
「さて。
姫さんのためにも時間ねぇから、一気に行かせてもらうぞ?
ラウド、いいな?」
カチャリと鍔鳴をさせながら改めてインウィディアに太刀を向ける。
「好きにしてよ。力も無くなっちゃったし。それに、やっと思い出したんだ。
僕ね、最初はみんなを助けたかっただけなんだよ。
勇者達と悪魔達のおはなしって知ってる?」
読んでいただきありがとうございます




