ゼロじゃないなら
「んで、お前はどうしたい?」
「決まっている。トーマをあの化け物から取り返す」
「まぁ、魂魄昇華が完成していれば、ヒトの身を捨てて精霊化するようなもんだからな。
おまえが安全な場所まで逃げたと確信できれば、緑玉に退避している可能性もゼロじゃない。
だが、それ以前に俺たちを信じられるのか?」
「ゼロじゃない可能性があるなら、私からすれば、その他のリスクは無視できるのよ。
だけど、まあ、この際だから一つだけ、聞いてもいいかしら。
アナタたちが黒骨騎馬を狩る目的ってなに?」
「……ま、簡単に言うと、俺もサナも呪われているようなもんでな。
その、まー解呪には、魔力を集める必要があって、そのためには化け物共を狩る必要があるってわけだよ」
「なら。トーマは、魔力の塊だけど、そっちはどうなのよ?」
「正直、トーマの魔力でも、もらえるんなら集めたい。
だが、解呪の構造上、恨みのような感情が混じるのはあんまりよろしくないわけさ。
それに、チセもサナもお前を気に入っててな。
トーマとの仲を応援したいんだってさ」
「……魔道具ってのは、意思があるものもあるのね」
「こいつは特別だよ。
なんせ、俺の師匠の最終傑作のひとつだしな」
「あんたの師匠って、どんだけぶっ飛んでるのよ」
「チェイル亭の地獄炒めよりもぶっ飛んでるよ」
「あんたも、大概だけどね」
むすっとするクリトにニヤニヤと笑いかけるユーナ。
「これが今の俺なんだから、仕方ないさ。
んじゃ、魔剣の続きすっから、向こうに行ってろ。
それと、トーマを抽出するってんなら、確率を上げるためにもういっちょ仕込みがいる。
明日からそっちもやるから、飯は任せた」
「りょーかい。
リクエストある?」
「黄鮭あったろ?あれでムニエル作ってくれよ」
「むにえるってなによ?」
「あー、サナ、チセ。レシピ教えてあげてくれね?」
こうしてその日も暮れていく。
トーマを取り戻すチャンスはたったの一度。
その日はもうすぐそこまで来ている。
そして、ユーナにはもう迷いはなかった。




