第十四章 第三幕 犬猿の仲?
中国地方毛利氏の小京都萩を目指した俺たちの前に、孫悟空が現れる。
「あの猿が、孫悟空とはね」
俺があげた桃を貪り喰らう孫悟空。それを横目で見る蓉子のセリフである。
「えっと。でも如意棒とか毛から生き物を作り出すので、間違いないと思います」
「あの、兄様?」
「あぁ、悪い。西遊記という話があってな。その主人公の一人だ」
うろ覚えだが、朱莉に説明した。三蔵法師と孫悟空、猪八戒、沙悟浄の四人が西の天竺にお経を取りに行く話だ。牛魔王とか芭蕉扇も出てきたが・・・そういえば金角・銀角というのも出て来た。有名な話の割には、詳細を知らないと知る。三蔵法師も当時の僧侶であれば、良いおっさんだろう。美少女のイメージが埋め込められているが。
「不思議な話ですね」
俺たちの旅も十分不思議の連続なのだが。まぁ旅している当事者からすれば、それが基準となるのかもしれない。
「朱莉ちゃん。この話は悟空さんには内緒にね!」
「え?はい」
葵衣のウインクに、朱莉は頷く。
そういえば、頭に輪っかがない。仮に孫悟空だとしても、三蔵法師に会う前なのだろう。孫悟空に未来を知らせないためだろう。
「で、あの猿はどうするの?」
「今後、人に害為す事はないと思いますけど・・・異界からの介入には違いありませんよね」
「茂玄の餌付け程度で大人しくなるとは思えないけど?」
「あの人は、葵衣さんと蓉子さんを同時に相手できます。あたしと兄様が加勢しても・・・」
「朱莉、別に戦わずに済めばいいんだ。相手がどれだけ強くても、戦わなければ負ける事は無い」
「茂玄。格好つけているけど、その方法を考えているんだからね」
「はい・・・」
「兄貴、もう一個だけくれませんか?」
「兄貴?」
「そう、兄貴です」
「あぁ、はい」
俺は常糧袋より桃を取り出して、孫悟空に渡す。
「これなら、茂玄のいう事は聞きそうね」
「うーん、でも旅についてくると思いますよ?」
「あの手の輩は、必ず厄介事を持ってくるからね・・・」
お前も人の事言えないだろう!と内心で蓉子に思う。
「あの、兄貴。そこの妖術使いを破門にして、俺を弟子にして下さい。一生尽いていきますんで」
「茂玄の餌付けに効果があったのね・・・」
「まぁ落ち着けよ蓉子。で、何で蓉子と別れないといけないんだ?」
「俺はあの妖女が信じられないんです。絶対に怪しいです。兄貴には相応しくないです」
「この猿が。口を開いたかと思えば、言いたい放題言ってくれるわね」
「正体を現したな。兄貴に馴れ馴れしくするんじゃない!」
「葵衣、あのさ。犬猿の仲って事はないよな?」
「さ、さぁどうなんでしょう」
俺の耳打ちに、葵衣は苦笑い。そして孫悟空と蓉子は視線で火花を散らす。
「大体、なんでわたしが茂玄の弟子なのよ。その前提が間違っているのよ」
「嘘をつくな。お前は兄貴の桃が目当てなんだろ!退治してやるから、本性を見せろ!」
「もう頭にきた。この猿は岩牢に閉じ込めて、溺れさせ、八つ裂きにして、消し炭にしてやる」
蓉子も大人気ないなと思う。
「朱莉、大蜘蛛を頼む」
「・・・はい」
呆気に取られている朱莉の式神を使って、孫悟空を黙らせる事にした。
「なぁ、悟空。俺と蓉子は対等な仲間だ。師匠と弟子とかの関係じゃない」
「流石は兄貴。俺の別名を知っているとは。そして弟子とも対等に接する、その度量。もう感激っす」
こいつは強いかもしれないが、人の話を聞かない。いや、おつむの出来は相当悪いのかもしれない。頭以外を糸巻状態で語る孫悟空に、蓉子は冷たい視線を送り続ける。
「で、茂玄はこの無礼猿をどうするの?弟子にしたんでしょ!」
明らかに蓉子の機嫌が悪い。そして孫悟空は蓉子に威嚇している。本当に犬猿の仲なのかもしれない。
「分った。じゃあ悟空を弟子にする。しかし無暗に暴れたり、蓉子と喧嘩しない事。それが条件だ」
「兄貴。いやお師匠様。ありがとうございます!」
孫悟空は蓑虫のまま、地面にひれ伏す。しかし器用な奴だ。
「お師匠は止めてくれ。茂玄でいい」
「滅相もない。では兄貴で」
「それでいいよ。蓉子もいいな」
蓉子は機嫌悪そうにそっぽを向く。
「じゃあ、とりあえず紹介しておくな。俺は武居茂玄。草彅葵衣、薙刀使い。蘆屋朱莉、陰陽師。白雪蓉子、占術師で精霊使いだ」
「葵衣姐、朱莉姐、そして蓉子ですね。わかりました」
「悟空さん、姐はいりませんよ。それより、蓉子さんは・・・」
「末弟子の俺にまで、温かいお言葉を」
糸を解かれた悟空は、右手で目を拭きながら感激で咽ている。
「悟空。それ以上、蓉子を蔑むならこうだ」
俺は常糧袋より桃を取り出し、蓉子に投げ渡す。蓉子はしてやったりと悟空を睨み、これみよがしに桃をかじる。常糧袋は全員持っている。だから蓉子が桃を取り出して、餌付けもできる筈なのだが・・・蓉子は俺に特別視され、孫悟空に劣等感を抱かせる方を選んだようだ。




