31 懺悔
ちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえてくる。多分これは、スズメだ。
夜行性ではないスズメが活動している――つまり朝なのか………
意識を覚醒させて、目を見開くといつもと同じ天井が視界に入ってくる。カーテンの隙間から太陽の光が射し込んで、天井を明るく染めていた。
「あ、朝なのか……?」
自分の手のひらに感じるフカフカとする感触。これは、布団の感触だ。でも、俺は確か………
昨日は、家に着いてすぐ、玄関で倒れてしまった。
未来さんに連絡できない不甲斐なさを悔いていたからその時の記憶は鮮明である。
だけど、そのあと………
俺はどうやって、ここまで来たのだろう。自ら立ち上がってベットまで自力で来た覚えなどない。それに――額には、冷えピタが貼ってある。
もう、熱を吸収したせいかカリカリに乾燥してしまっている冷えピタ。これだけの乾燥具合を見ると昨日貼ったものに違いない。
全然、理解が追いつけていないところだが、取り敢えず起きようとした。
しかし、布団の感触を確かめた方とは別の反対の手に、温もりを感じた。
それは、人間の手のひらにとてもよく似ている。いや、人間の手のひらとしか思えなかった。
そっと、温もりを感じる方に首だけ向けてみた。
「み、未来さん……?」
振り向いた先、真っ先に視界に入り込んできたのは、未来さんだった。彼女は、俺の手をしっかりと握りながらベットに寄りかかる形で、寝息を立てている。
なんでだ?
なんで彼女が家にいるんだよ……
手を繋いだまま、俺は考えたそれと同時に一気に緊張が走る。
自分が未来さんと手を繋いでいるということ、それに未来さんが家に来て、俺の近くで寝息を立てているということに。
冷静になって事態の把握をするなんて、できなかった。彼女を起こさないように色々考えていると、彼女がむにゃむにゃと言い、瞼がゆっくりと開いた。
「な、凪くん?」
彼女は瞼を開くと、ゆっくりと俺の名前を呼んだ。
「み、未来さん……」
彼女の声にビクリとして、ゆっくりと俺は彼女の瞳を見つめる。そして、彼女の名前を呼ぶ。
彼女は、俺から手を離して、
「な、凪くん。体調は、だ、大丈夫ですか?」
と、とても心配そうにそう言った。彼女の瞳には僅かに涙が溜まっている。
「は、はい……取り敢えず……」
未だに事態を飲み込めていない中、俺は慌てて回答する。内心はどんな回答をすればいいかわからなかった。
すると、彼女の瞳から涙が溢れ出してきて、
「よかったです……」
そう言って再び、強く俺の手を握る。
彼女は、涙を流しながらしばらく俺の手を握り続けた。
やっと、事態を飲み込めてきた俺は、なんで彼女がここにいるのかを察する。
棚に置いてある冷えピタ。大量に置かれた飲料水。体温計。
そうか……未来さんが、一晩中、俺を看病してくれてたんだな。
時計の針は午前10時を回っていた。
その時計の針を見た瞬間に、再度、俺は自分のやったことの重大さを理解する。
未来さんは、俺のために学校を休んでくれたのだ。
あれだけ真面目な、あの未来さんが、、、
彼女を助ける……その一心でやってきたことが、逆に彼女の足を引っ張る形になり、取り返しのつかない事態にしてしまった。
未来さんをこんなに心配させて、一晩中看病させて、その上、学校まで休ませてしまった。
彼女が手を握るなか、俺はベットの上で彼女にひたすら謝り倒す。
――助けてるどころか足を引っ張ってしまいごめんなさい。
と………
数年泣いたことのない俺が思わず涙を流してしまった出来事であった。
すると、彼女は俺のことを見て今度は抱きしめてきた。
「凪くんは、ホントにバカです。大バカです。私がどれだけ心配したか。」
「すみませんでした」
「私のためとか、そんなことは、はっきり言ってどうでもいいんです。凪くんに倒れられた方が断然嫌です。だから、もう一生倒れないでください」
涙交じりで強く言う彼女。
過去に自分が言ったはずの言葉。彼女にあれだけ言ったはずなのに、俺が守れていない。
俺も彼女の背中に手を回しながら、「ごめん」と「わかった」を繰り返した。
俺はこうやって、彼女にひたすら懺悔した。
――自分に嘘をついて、無理をして、倒れて申し訳ない。もう、絶対に無理はしない。
と、、、
ブクマ、評価、よろしくお願いします!
新しく短編を投稿しました。
そちらの方も是非よろしくお願いします!




