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30 番号交換



「あ、凪くん」


更衣室から出ると、未来さんが待っていた。


「すみません。未来さん、遅くなりました」


「いえ、全然気にしてないです……けど、凪くん。顔が変ですよ?」


「えっ……へ、変?」


「あ、違います。いつもと違う顔をしていると思って……」


未来さんは、普段から俺のことをよく見ている。少しの変化でも気付き心配してくれた。


「ありがとうございます。大丈夫ですよ?風邪がまだ完治してないだけです」


「プールに飛び込むからですよ。」


「すみません……未来さんが頑張っているところを見たら、自分も力になりたくて……」


未来さんの言い分はごもっともなのだが、俺だって頑張っている未来さんを見たら、その力になりたいのだ。


「凪くんは今でも十分、私の力になってくれています。だから無理はしないでください」


「無理なんてしてませんよ」


「頭ではそう思っていても身体がついていきません。」


「そうですかね?」


「そうです。」


「そうですか……」


「だから、凪くん……」


「はい?」


「凪くんの携帯の番号を教えてください」


「えっ?」


彼女はいったい何を言っているんだろう。本当に意味わからなくて、マジのアホみたいな声が出てしまった。


「凪くんが家にいる間も私が凪くんの体調管理に努めます。なので、連絡手段がほしいです」


なるほど、そういう意味か……それで携帯の番号を……

けど、、


「そんな……未来さんがそこまでやる理由は……」


やってくれる気持ちは嬉しい。けど、それでは未来さんが大変な思いをしてしまう。


「理由ならあります。凪くんが私を助けてくれるみたいに、私も凪くんを助けたいです」


「そんな……未来さんが疲れますよ」


「私は大丈夫です。凪くんと違ってもう無理はしません」


未来さんは真っ直ぐ俺を見てくる。彼女が言った「もう無理はしない」前の出来事があるので、こればかりはどう頑張っても嘘に聞こえなかった。


「凪くん。番号を教えてください」


そっと、俺の手を掴んで優しく言う未来さん。その優しさに包まれて俺は、気付いたら彼女と電話番号を交換していた。


「今日は、早く寝てくださいね?」


「はい。わかりました」


「なら、よろしいっ!」


彼女は笑顔でそう言った。そうだ。これこそが癒しなんだ。この笑顔を見るために俺は頑張っている。

だから、彼女に心配は絶対にかけない。


彼女の笑顔に力をもらい俺も笑顔を見せる。

その後市民プールから出た。


「凪くん。私、今日タクシーで帰るつもりなんですが、乗せていきましょうか?」


「え?いやいや……」


「凪くんは疲れてます。このまま歩いて帰ったら倒れちゃいますよ」


「でも、お金が………」


「お金なら大丈夫です。親からもらっているカードがあるので私のお金じゃありません。だから安心してください」


親のお金だから、大丈夫だと言うのは、少し間違っている気もするのだが、帰ろうとする俺の前に未来さんが両手を広げて立ちふさがり、「ダメです。タクシーです!」と言って俺を帰してくれない。


こんなイザコザが五分くらい続いて俺が折れた。


タクシーの車内でも、「ダメだったら、言ってくださいね?ご飯食べたら連絡してください!」など言ってめちゃくちゃ俺を心配していた。


家に着いた。

未来さんは玄関まで送ろうとしていたのだが、そこまでされては、もう介護なのでそこは断っておいた。


最後に未来さんに深々と頭を下げてお礼を言って、未来さんのタクシーを見送った。


よし、これでひとまずはなんとか大丈夫だ。


あとは、家に入るだけ。


やはり、誤魔化して無理をしていた代償は大きかった。おでこを触ると、とても熱い。きっとプールに入ったせいだろう。


今にもクラクラして倒れそうだった。


だけど、俺はなんとか意識を持って、玄関の鍵を取り出す。


玄関を開けて、家に入るまではまだ終わりではない。


まだ、あと少し………


鍵を回すとガチャっと玄関の開く音がした。

取っ手を持って、力の限り引く。全然力が入らなかったが、なんとか玄関のドアを開けた。


そして、家の中に入る。


やった……俺はなんとか、誰にも迷惑をかけずに、家にたどり着くことができた。


それまで、気が張っていたのだが、家に着いたことによりそれが一気に抜け始める。


まだベットに……


ベットに向かおうとそう思っていた。


けれど、俺はその場に倒れてしまったのだ。気が抜けた影響だろう。

段々と意識が遠のいていく。


ああ、もう……高熱でダメだ。

何も考えられない。なんとか、連絡を………


しかし、携帯を取り出す力はもうない。

俺は完全に動けなくなりその場に倒れるしかなかった。


すみません。未来さん……連絡出来そうにないです。


そう謝ってから、俺は意識を失った。

ブクマ、評価、よろしくお願いします!




短編を投稿しました。

自分の作品にしてはあまりないラブコメになっておりますので見ていただけると嬉しいです。


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