28 風邪には、ゆずレモン
放課後。
授業を受けるにつれて、どんどん鼻水がひどくなり放課後になる頃には、かなり鼻水が出ていた。
なんだか、少しボーッとしてしまう。
保健室に行く……という手段もあったが、今朝、未来さんに言われたのだ。「待っている」と……
そんな風に言われてしまったら、直行してしまいたくなる。だって、彼女のことが好きだから。
鼻水を啜りながら、図書室のドアを開けた。
「あっ、凪くん。いらっしゃい」
図書室にいた彼女は、本の整理をしていたのだが、俺が図書室に入ると、こちらを向いて手を止めて笑顔で迎えてくれる。
「あ、もうやってたんですね。俺もすぐに手伝います」
一緒にすると言っていた図書室の仕事を先に未来さんがやっていた。出遅れてしまったため、慌てて机に荷物を置いて、すぐに図書委員の仕事を手伝った。
やはり、二人で仕事をするとペースが全然違く、あっという間に図書委員会の仕事を終わらせることができた。
次に、勉強会。昨日していなかったからか久々な感じがする。ノートを開いていると、鼻がすごくムズムズして、鼻水が出そうだったので、ポケットからティッシュを取り出して鼻をかんだ。
「風邪ですか?」
目の前に座り、一緒に教科書、ノートを開いていた未来さんがこちらを見て心配そうに声を掛けた。
「そうなんですよ……なんか、この前傘をさし忘れて雨の中帰ったせいですかね?」
「雨の中って………あの時ですか?」
そう、あの時なのだ。未来さんから拒絶された時。あまりにもショックだったのか、俺は放心状態に陥り何も考えられず雨の中、傘をささずに家に帰ったのだ。
それが原因で今の状況に至る。
「まあ、その時です」
俺からしても未来さんにしてもいい思い出ではない。今更掘り返したいとは、思っていなかったので苦笑いでそう言った。
「すみません……」
彼女は俺の顔を伺うと少し暗くなり、申し訳なさそうに頭を下げた。
「別に未来さんが悪いわけじゃないんですから。俺が悪かったんですよ。未来さんは気にしないでください」
「で、でも……」
「もう、解決したことです。未来さんは笑顔の方が似合います。笑ってください!」
「………凪くん」
彼女は、俺の言葉を聞くと申し訳なさそうな顔をしつつも少し微笑む。嬉しさ半分、申し訳なささ半分の表情と言った方がいいのだろうか。
ホントに未来さんが謝ることじゃないのにな……
そう思っていると、彼女が突然、
「でも、風邪はよくないです」
「え?」
「ですから、風邪をひいているのは、よくないことです。私が風邪を治します!」
と言い始めた。
「えっと……」
唐突で困った。それに治すってどうやって………
「今日は、紅茶ではなくてゆずレモンにしますね?柚子は身体があったまって風邪にも効くんですよ?」
そう言うと、彼女はカバンから「ゆずレモン」と書いてある市販のパックを取り出した。
「そんなの持ってきてたんですね……」
「はい、凪くんか飲みたがると思って……他にもコーヒーや麦茶のパックもありますよ」
「豊富なんですね……」
「出来るだけ……凪くんの笑顔が見たいので……」
彼女は視線を下に向けて恥ずかしそうにポツリと呟いた。
好きな相手にそんなこと言われたらもうヤバイよね。一瞬、鼻水が鼻血に変わるところであった。
しかし、冷静であれ!
俺は、彼女の言葉に謎の頷きをして、
「じゃあ、ゆずレモンでお願いします……」
と言った。
「わかりました。できるまで少々お待ちください」
彼女はそう言うと、毎度おなじみアルコールランプでお湯を沸かし始めた。数分後、沈黙が続いている図書室にぶくぶくと沸騰した音だけが残る。
彼女は、沸騰したのを確認すると、アルコールランプを消して、ゆずレモンの粉を入れて、プラスチック製のスプーンでゆずレモンが入ったお湯をかき混ぜる。
今度はプラスチックとガラスが擦れる音が図書室に響いた。俺の未来さんは、一言も話していない。俺は、シャーペンを走らせ、未来さんは、ゆずレモン作り、図書室という状況でなければ俺たちはどんな関係に見えるのだろうか?
そんな風に思って、ゆずレモンを眺めていると気付かず内に視線が上に行き、未来さんと目が合った。彼女は、目線が合うと微笑む。
「できましたよ」
彼女はコップにゆずレモンを注ぐと俺の方に渡した。
「ありがとうございます」
俺はコップを受け取ると、まだ温かいゆずレモンを火傷しないようにフーフーしてから、ゆっくりと飲んだ。
「おいしいです。」
息を履けば、冬の寒い時のように白い息が出そうであった。
「ほんとですか?」
自分の分も注いで自分の席に着き、俺と同じようにフーフーしてゆずレモンを冷ましている未来さんがこちらを見てそう言った。
なんか、すごく嬉しそうである。
「はい、とても優しい味がします」
「優しい味ですか?」
「未来さんの愛情ですかね?気持ちがこもっています」
「市販には、気持ちを込めるしかできないですからね」
「未来さんにゆずレモンを淹れてもらえるなんて俺はやっぱり幸せ者ですね。これだったらすぐに風邪も治りそうです」
「本当ですか?それは、よかったです。あの……凪くん」
「はい、なんですか?」
さっとは異なり、少し真剣な表情で未来さんが俺に話してきた。
「凪くんには、プールに行かず今日は直帰してもらいます」
「えっ、なんでですか?」
「風邪が悪化したら元も子もないです。だから今日は、お家でゆっくり休んでください」
「い、いえ、俺は大丈夫です。」
「ダメです!危険です」
「大丈夫ですって!鼻水くらい!俺は未来さんの力になりたいんです!風邪が悪化すると言うなら水には入りません!だから、一緒に行かせてください!」
「で、でも……」
「水に入らないなら、悪化もしませんよ!それに、よくなっているんですよ?」
「そ、そうなんですか?」
「はい!このくらいなら大丈夫です!」
「わかりました。では、水には入らない。約束ですよ?」
「もちろんです。プールサイドで見てますよ」
「それなら、よろしくお願いします」
俺が粘ったお陰でなんとか、未来さんは首を縦に振ってくれた。俺は未来さんの助けになりたいと日々思っているし、それに来週から水泳が始まるのだ。
だから俺たちには時間がない。1日も休んでいる暇なんてないんだ。
俺たちは、完全下校のチャイムが鳴ると、一緒にそのまま市民プールに向かった。
作者は、ゆずレモンが一番好きです!
生姜よりも効く気がします!(気持ちだけ)
明日、もしかしたら短編を投稿するかもしれません。(しれない宣言)
投稿したら読んで頂けると嬉しいです。
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