20 水泳のレッスン 3
「では、まずビート板を使って浮く練習から始めましょう」
夕暮れ時の市民プール。そこに俺たちはいる。プールにいる他の人々は、お昼時よりも少なく絶好の練習になっていた。
「はい!頑張ります」
ビート板をギュッと握って真剣に俺の話を聞く未来さん。真面目さは百点満点なのだが、それに反比例するように実力は壊滅的でありこれからどうやって練習するのかかなり悩んだ。
結局は、浮く練習からになったのだが………
「では、まず水に慣れることから始めましょう。脚だけをプールの水に入れて、水に慣れましょう」
これは、プールに入る前に水の温度に慣れるためにすることである。脚だけをプールに沈めて、ただプールの水を掬って自分の身体にかける。これをする理由はさっきも言った通りに、水に慣れるため。心臓が急激な温度低下に驚かないようにするためだと小学校の頃先生が言っていた気がする。
それを練習のメニューにするとは思ってもいなかったが、水に慣れることも出来るのでメニューに組み込んだ。
「こ、こうですか?」
未来さんは脚を水の中に入れてバタバタさせた。
「そうです。水は怖くないですよ、じゃあ、次はビート板を使ってプールに入ってみましょう!」
「わ、わかりました」
そう言って未来さんはビート板を浮かせて恐る恐る水中に入った。
「わわわ、や、やっぱり……」
「怖くないです!いざとなったら俺が絶対に助けます」
「は、はいっ!」
その言葉を聞いたからかはわからないが未来さんはビート板を掴んで水中に浮かんだ。
「どうですか?落ち着けば、脚はとどきますよ?」
「で、でも……」
「深いと思ってるから脚がつけられないんです。お風呂がちょっと大きくなったと思って脚を下げてみてください」
「わ、わかりました……」
俺がそう言うと、彼女は恐る恐る脚を下げるが……
「やっ、やっぱり無理です……」
よほど、あの川がトラウマなのだろうか……あと川は俺でも脚がつかなかったから、溺れても仕方ないがこれは本当に小学一年生くらいの身長しかない本当に浅いプールで逆に脚をつけない方が難しいのだ。
トラウマで動けなくなっている彼女に、俺は最後の手段を使う。
「ちょ、な、凪くん!?」
俺は未来さんの腕を掴んで、すぐ隣に立った。
「ほら、これくらいしかないんですよ?俺が絶対に未来さんを離しませんから、脚をつけてみてください」
「わ、わかりました……」
頰を赤くしながらそう言う未来さんは俺が腕を掴んでいる安心感からか先程よりも積極的に脚をつける。
「あ、あれ?」
「どうですか?ついたでしょう?」
「は、はい……わ、私、こんな浅いところに怖がっていたんですか?」
「そうですね……」
「は、恥ずかしいです………」
彼女の顔が過去最大くらいに赤くなった。これは絶対恥じている。ここはなにか言わなければ………
「だ、大丈夫ですよ。未来さんはあの川のトラウマがあったんですから仕方ないですよ……」
「そ、そうですか?」
「はい、仕方ないです。もう出来たんだから過去のことを振り返るのはやめましょう!」
「な、凪くん……」
なんだか未来さんがウルウルしながらこちらを見ている。これは成功を収めた嬉しさと俺に慰められた嬉しさ……だったらいいな……
そんな風に思っていると、
「うわ、あの人たち、めちゃくちゃイチャイチャしてるじゃんかよ!見せつけやがって……」
「お、おい!聞こえるって!」
見た目中学生くらいの少年がこちらを見ながらそんなことを言っている。それをもう一人の少年が必死に止めていた。
イチャイチャだと?どこがだよ?
と思って未来さんの方を見ると、未来さんの腕をしっかり掴んでいる自分が…………しかも超近距離である……
「す、すみません!」
俺は慌てて手を離した。
「い、いえ、い、いいんですよ……だって、凪くんは私を支えてくれていたのですから……」
彼女は俯きながらそう言った後にチラッと俺の方を見た。恥ずかしがっているのだろうか?
赤く染まった頰と上目遣いがたまらなく可愛い。
これには、ドキッとしてしまった。
よく見ると、彼女がとても色っぽく見える。
いかんいかん、こんな卑猥な感情。未来さんの前で出したら嫌われてしまう。それだけは絶対に嫌なんだ。
それだけは………
だから俺は心を無にして次の練習メニューを言う。
「未来さん、次はバタ足の練習をしましょう!」
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