表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/94

【 Ep.3-020 悪魔を屠る悪魔の帝王達 】

イベント参加も終えたのですが、帰ってきてからも少しごたつくのは何なんでしょうねえ……。

累計アクセス数が8万を超えていました。ありがとうございます!




 ――フロア中央に向けて駆け出したケントに合わせボク達も駆ける。此方の進行を確認したバフォメットとレッサーデーモンもその四肢に力を入れ此方へ向け飛び出してきた。


 バフォメットは先陣を切って突進するケントに狙いを定め、向かって左側のレッサーデーモンはチグサ達三人へ狙いを定め、右側のレッサーデーモンは正面に居るボクに狙いを定め一心不乱に突進を仕掛けてきた。


 最初に衝突したのはケントだ。

 ガギンと大きな音を立てながらマンキャッチャーの刺突を大盾でいなしたケントはそのままの勢いで<シールドスマイト>を放ってバフォメットを一度後方へとノックバックさせた。


 続いて衝突したのはボクだ。

 ボクの眼前まで迫ったレッサーデーモンはその豪腕を翼の様に広げたかと思うと、両手で挟み潰すかの様に勢いよく振るってきた。ブォンと風切音を立てながら振られたその腕はボクの身体を鋭い爪で引き裂こうと迫りくるが、流石にその動きは大振り過ぎる。

 後方へ飛び退いて直ぐに無防備になっている相手の頭部へ向けて刺突を繰り出すが、ギャリっと音を立てて相手の爪で防御された。が、それで攻撃の手を止めるつもりは毛頭ない。

 防がれてすぐ得物を素早く引き戻し再び刺突を連続して繰り出して相手の意識を防御に傾けさせ、これでもかと刺突を繰り出しては都度防御されて爪と刃が甲高い音を奏でていく。

 相手の意識が防御に傾いた気配を感じ取ったボクは、得物を引き戻すモーションを途中で変えて身体を一回転させてパワースラストをそのまま打ち込むとレッサーデーモンは大きくノックバックした。

 爪の間から覗く気色の悪い複数の眼球は苛立ちを覚えているのかボクを恨みがましく凝視していて反撃の機会を窺っているのが読み取れる。が、それを大人しくさせてやる程ボクは慢心していない。

 相手がノックバックしてる間に詠唱を済ませておいた<手水(ハンドウォーター)>の派生魔法である<水球(ウォーターボール)>をレッサーデーモンに向けて放ち、森羅晩鐘の固有スキルである樹槍を<水球(ウォーターボール)>の陰に隠しながらも追い抜き通過させる様にして解き放った。

 レッサーデーモンの眼前で<水球(ウォーターボール)>を樹槍が貫き、パシャッと弾けて一瞬レッサーデーモンの目を眩ませる。<水球(ウォーターボール)>を貫いた樹槍はレッサーデーモンに迫るが<水球(ウォーターボール)>そのものを警戒し防御態勢をとられていて大したダメージは与えられなかった。しかし寧ろそれこそがボクの狙いだ。

 一旦呼吸を整える為に攻撃の手が止まるが、それを確認したレッサーデーモンはボクが息切れしたと思ったのか次は自分の番だと咆哮を上げて此方へ向かってくる。

 水が撒き散らされた床をビシャビシャと音を立てて此方へ向かってくるレッサーデーモンだが、その足が不意に止まる。


「<氷結拘束(アイスバインド)>!お前の連れがぶっ倒されるまで、その状態でボクと遊んでもらうよ」


 態々樹槍と<水球(ウォーターボール)>を組み合わせて床に撒き散らされた水はこの為の下準備だ。手元であれば<水球(ウォーターボール)>は自在に操作できるが、距離が離れた上に放った後はそうもいかない。最初から相手の前面にスプラッシュさせる形で撒く事も考えたけど、それだとその状況を何かの仕込みだと意識されやすくなる。その為<水球(ウォーターボール)>を程よく四散させ、意識を逸らす為に樹槍を利用したのだ。そして床に広がった水を苗床にしてエレドアのお婆さんが選んでくれた魔法書で新たに習得した<氷結拘束(アイスバインド)>に繋げたんだ。

 何もリソースがない場所で<氷結拘束(アイスバインド)>を成功させるには習得したてのボクの技量では無理だ。だからこその下準備。元よりコイツを一人で倒せるだなんて思ってはいない。ボクの狙いは一定時間コイツを足止めする時間稼ぎをする事なのだ。


「リツッ!!!!」

「<電撃(ショックボルト)>ォォオオオ!!」


 <氷結拘束(アイスバインド)>で一時的にその場に押し留めたレッサーデーモンにリツの放った<電撃(ショックボルト)>がクリーンヒットする。<氷結拘束(アイスバインド)>だけではそこまでの拘束効果は期待できないけども、<電撃(ショックボルト)>を重ねれば<気絶(スタン)>効果が合わさり更に時間稼ぎができる。しかも、だ。目くらましも兼ねて放った<水球(ウォーターボール)>が弾けた際にコイツは全身に水を浴びている。純水であれば話は別だけど、<水球(ウォーターボール)>に一度樹槍で貫いた時点で不純物が入り込んでいる。つまり電気伝導率を高くした状態のところに<電撃(ショックボルト)>がクリーンヒットをしたらどうなるか……効果は倍以上見込めるだろう。


 こちらの予想通りボクに対峙していたレッサーデーモンは動きを止め沈黙している。このまま一気にとどめを刺したいところだけどボスの取り巻きモンスターが一人だけの攻撃ですぐさま沈むとは思えない。ここはグッとこらえ、一気呵成に仕留める為にアタッカー陣を集中させていたチグサ達があっちのレッサーデーモンを倒すのを待つ。


「お待たせしました」

「っす!」


 未だ<気絶(スタン)>にはあるものの指先がピクリとし始めてきた頃にチグサ達がもう一方のレッサーデーモンを仕留めてボクの方へと駆け寄ってきた。皆それぞれどこかしらに緑色の血液らしき汚れが付着していて攻撃の激しさを物語っていた。


「ケント、一旦交替(スイッチ)だ。少し下がって呼吸を整えろ」

「おうすまねぇ、助かる」


 此方へのアタッカー陣の合流に合わせ、バフォメットの猛攻を凌いでいたケントとベネが交替(スイッチ)する。レッサーデーモンと戦うボク達の方へ攻撃が向かない様にヘイトコントロールしながら防御重視で戦うのは思っている以上に神経を使う。ボク達がレッサーデーモンを倒せなければ集中攻撃を喰らうのはケント自身だし、逆に自身がヘイトコントロールをミスすればこの配役と作戦が失敗となり全員死に一直線と言う事態も招きかねないのだ。互いに互いを信じているからこそ其々の行動に専念できる。いわばこれまで築いてきた信頼関係の上に成り立った作戦だと言えた。

 ケントから防衛の要をスイッチしたベネは早速自身へヘイトが向くよう入れ替わりながら<アンガーシャウト>を使って自分へと攻撃対象を移した。


 隣でベネとバフォメットが派手な音を立てて撃ち合う中、残り一体となったレッサーデーモンを速攻で倒すべく集中砲火を浴びせていく。既に<氷結拘束(アイスバインド)>の効能は解除され、<気絶(スタン)>効果も切れ始めていて薄っすらとだが意識が戻り始めている様子がうかがえる。

 警戒して様子を一度見たいところだけど下手にここで時間を掛けてバフォメットがレッサーデーモンを再召喚するという事態は極力避けたい。であれば――


「相手の意識が不明瞭なうちに仕留めるよ!」

「「「おう!!」」」


「<ピアシングスラスト>!!」「<居合・霞斬り>!!」「<フォースバスター>!!」「<バックスタブ>!」


 それぞれの高威力スキルが一斉にレッサーデーモンに叩き込まれその大ダメージにレッサーデーモンが覚醒する。突如受けたダメージの大きさから恐怖に駆られたのか、闇雲に腕を振り回し暴れはじめて止む無く前衛陣は一旦距離を取るが問題はない。


「みんなもう少し離れてやぁ。―――集い、纏まれ、一筋の焔!盛る炎よ、我が敵を穿て!<焔穿(ピアシングフレイム)>!!」


 半ば錯乱状態となりその場で闇雲に腕を振り回していたレッサーデーモンを凝縮された一閃の焔が貫き、穿たれた孔からは煙を上げながらドロドロと緑色の体液が止めどなく溢れ出している。

 程なくして力尽きたレッサーデーモンは動きを止め、自重により前にぶっ倒れた後に消滅し始めた。残るはバフォメットだけだ!


「ベネ!こっちの処理は終わったよ」

「よし、順調に進行できてんな!ケント、いけるか?」

「ああ、おかげさまでスタミナも戻ったしいつでも全力で行けるぜ」

「アタッカー陣はスイッチに合わせて攻撃、一気に畳み込むよ!」


「ぬおおおおおおおおぉぉ!!!オラァァアアアアッ!!!」


 ギャリンとひと際大きな音を立ててバフォメットのマンキャッチャーを弾き返したベネは即座に「スイッチ」と口にしてケントがバフォメットとベネに間に入り込むと、再び振るわれたマンキャッチャーでの攻撃を大盾で防ぐとそのまま<シールドバッシュ>でバフォメットを<気絶(スタン)>状態へと持って行く。


「相手の姿勢が崩れたよ、態勢持ち直される前にここで一気に大ダメージを叩き込もう!」

「行きます!<高速抜刀斬>!!」

「<モータルブロー>!」


 正面から駆けるボクを追い抜き、チグサとセトの二人がクロスアタックを仕掛けバフォメットの身体に深い傷を刻んでいく。相手はダメージによって<気絶(スタン)>状態が解けつつあるが次はボクが叩き込む!

 相手の右脇を駆け抜けるルートを取りつつ得物を後ろに引き絞って駆け抜けざまに力の限り振り抜く!


「ハァァァアアアアッ!!!<チャージングストライク>!!!」


 ドゴッという鈍い音と共にバフォメットは後方へノックバックするが、ヒットする直前でギリギリ覚醒したバフォメットがマンキャッチャーの柄でギリギリ防御した為想定よりもダメージが入っていない。


「よそ見してちゃダメっすよ!フォーーーーースバスタァーッ!!!!」


 直前に自身を攻撃したボクに気を取られていたバフォメットに、シキの放った<フォースバスター>が放たれる。――が、マンキャッチャーの先に収束された緑色の炎をぶつけて相殺される。


 サイドに位置するボクとチグサにセトを警戒したバフォメットは追撃してこなかったが、その様子を観察すれば最初に攻撃したチグサとセトからのダメージが大きかったのだろう、斬られ突かれた傷からは緑色の血液がダラダラと流れだしていた。そんな自身の状態を認識したバフォメットは目の色を赤く変化させ明らかに激高している。


『ン"メ"ェェ"ェエエ"エ"エエ"エッッ!!!!』


 怒りを発散させる為かどうかは分からないがバフォメットは咆哮を上げ、先程までと比べて一段速い動きを見せて矢鱈滅多に攻撃を繰り出してきた。もはや眼に映るもの全てを破壊しつくさんと言うくらいの勢いがある。


 ガガンガンガンと武器同士が激しくぶつかり合う音を立てさせながら致命傷を避けて防御に徹してバフォメットのスタミナが一度切れるのを待つ。流石にこの状態ではマリーの魔法はアタッカー陣を巻き込みかねないので撃てないし、支援をしようにもケントより前へ出る事も出来ない。

 しばらくこいつの猛攻を凌いでいるとようやく息切れを起こしたのか肩で大きく息をして呼吸を整え始めたので元居た陣形へと急いで再集合した。この行動も情報通りだったからこの次に来るであろう行動も恐らく十中八九間違いないだろう。


「ここまでは情報通り。次の行動もあってたらすぐに取り決め通りの行動に入るよ!」


 ――檄を飛ばして次の行動への準備をする。


 ギラリと目を光らせたバフォメットは先頭で盾を構えるケントに向けマンキャッチャーの先端から炎を出して浴びせかけると大きく跳躍して空中からの上段斬りでケントの頭部を両断しようとマンキャッチャーを振るう。ケントは炎を盾で防いでいた為前面が炎で視線が通っておらずそれに気付けない。


 ガィイイイイイイイン!!


 マンキャッチャーの凶刃がケントの頭部に迫るがそれを防いだのはベネのウォーアックスだ。落下による体重の乗った強力な斬撃ではあるが、地に足を付け万全の姿勢でそれを迎撃しに振り上げられたベネの刃の方に分があった。ギャリギャリと耳障りな音を立てて刃と刃が不協和音を奏でながら鍔迫り合いのような形になるが、既に威力を殺されたバフォメットがウォーアックスの刃の腹を蹴って後ろへ飛び退く。


「早々簡単に俺らのタンカーを沈めさせやしねぇよ!」

「事前の打ち合わせ通りの攻撃だし、予め決めてた対応だけどヒヤっとすんなこれ」

「次、来るよ!」


 ボクの注意と共に前傾姿勢で突貫してきたバフォメットは獅子舞が舞っているかの様に上半身を激しく動かしながら連続攻撃をケントに浴びせかけ、その予想が付かない動きにボクを含めたアタッカー陣は迂闊に手が出せない。

 巧みに自身が持つ大盾を動かしてその悉くを防いでいるケントを見守るしかないのが歯痒いけども、バフォメットがとる次の行動にボク達は備える。


「シールドスマイトーーーッ!!」


 連撃の隙をついたケントの反撃に再びノックバックしたバフォメットはその勢いのまま大きく後退しボク達との間に距離を取った。

 距離を取ったバフォメットは両手でマンキャッチャーを持ち今度は強く床を打つと、バフォメットの前方に主人を守るかの様に横一列に並んだフローティングアイが11匹出現した。


「よし、情報通りだ。マリー、セト、リツ、モーリィ!遠距離攻撃で目玉を潰すよ!シキも備えて!!」

「うっす!!」


 ――情報によると召喚されるフローティングアイはパーティメンバー数と同数。その内一匹を除いて通常のフローティングアイで、一匹は近接攻撃しか受け付けない特殊個体で攻撃をしてくるとあった。

 つまりパーティメンバーの内ランダムで一名だけ自由に動けることができ、残りのメンバーはその場に<拘束(バインド)>された状態でこの局面を乗り切らねばならないってわけだ。今回その自由に動ける一人に選ばれたのはパッと見たところリツだった。

 が、誰が自由に動けるとかはボク達には関係ない。予め遠距離攻撃の手段を持ったメンバーはケントがノックバック攻撃を仕掛けた時点でケントの横へと広がっていつでも攻撃できるように対策済だ。


「貫け、樹槍!」「焼き穿て、<火矢(ファイアアロー)>!」「切り裂け、<風切弾(エアショット)>!!」「ッシ!」「足が動かなくてもこちとらボウガン持ちだってなァ!」


 ボクは森羅晩鐘の固有スキルである樹槍で、マリーは<火矢(ファイアアロー)>、リツは<風切弾(エアショット)>で対応し、セトは<スローイングナイフ>をフローティングアイに当てていく。何度見てもモーションがかっこいい。モーリィもお手製のボウガンで丁寧に射抜き、ボク達を拘束していたフローティングアイ達は弾け飛んで行った。

 拘束が解けてすぐに駆け出したのはチグサだ。チグサは唯一残っていた攻撃タイプであろう目の前に赤い光を集束させていたフローティングアイへ一直線に駆け、<霞一突き>と呼ばれる突貫攻撃スキルで一撃で仕留めた。

 チグサが動いたのと同時に拘束中に獣化していたシキがベネに向けて飛び掛かる。


「っし、行ってこいやぁぁぁあああああああっ!!!」


 飛び掛かってきたシキをウォーアックスの刃の腹で受け止めると、ベネは思い切り勢いを付けフルスイングしてフローティングアイの後方で何やら詠唱をしていたバフォメットへと投げ飛ばした。


「<獣迅脚>!!!」


 大砲の弾のようにバフォメットに向けて撃ちだされたシキが詠唱で無防備になっていたバフォメットの側頭部へ強力な蹴り技を叩き込むと、バフォメットは顔を大きく歪ませて首があらぬ方向へと曲がった。


 ン"メ"ェエ"エ"ェェ"ェェ・・・・・・


「とどめっす!ハアアァァァァァァ……<八卦双極掌>!」


 折れた首をもたげて尚闘争の意思を見せるバフォメットの胸部へ、獣化して基礎能力が上がった上に<狼の祝福(ヴォルフゼーゲン)>のスキル効果で更に能力が跳ね上がったシキのクラススキル<八卦双極掌>が打ち込まれた。


 ――シキが打ち込んだ両の手をゆっくり引き抜くと、バフォメットは折れ曲がった首の先にある頭部からゴボッと緑色の血を吐き出し、全身から力が抜けたのかドサリとフロアに突っ伏した。


 急いでその場に駆け寄って様子を窺っていたが、やがてバフォメットはその全身を緑色の炎で焼かれていってその姿を消し、バフォメットが最初に居た場所に結構大きめの宝箱が出現した。


 ――ボク達天兎の勝利だ!!


「っしゃ!勝ったぞーーー!!!」

「お疲れ様、シキ。いい動きしてたよ」

「ヘヘッ。セラさんの作戦が良かっただけっすよ。自分はただその内容通り動いただけっす」


 照れ臭そうに頬を掻いて俯くシキにチグサが声をかける。


「謙遜はいいとして自己を卑下するのよくないですよ、シキ。幾ら作戦だと言ってもそれを実行出来るだけの度胸と胆力、覚悟と信頼が無ければできない事をしたんです。もっと胸を張っても誰も文句は言いませんよ。ですよね、セラ」

「そうだよ。正しいかどうかもわかったもんじゃないボクの指示を信じてLA(ラストアタック)取りに行っただけでも大したもんだよ。だからシキ、もう少し自信を持ってもいいと思うよ」


 そう、シキはラインアークで天兎に移籍してからもそれまでの結果が出せなかった経験から自分自身への自信というものがあまりなかった。元敵対勢力であったボクから見ても、彼の指揮とその狙い、此方への対応はそう悪いものではなかったけども、それを聴く側の兵の方に問題があって良い結果が出せなかっただけだ。ぶっ飛んだ凄さはないものの、堅実で着実な一手を指すシキを気に入ってフリーになった時にボクは彼を身内に引き込んだのだ。

 そんなシキであればこそボクの狙いを正しく読み取ってしっかり結果を出してくれると信じてLA役を委ねた。


「せやでシキィ。最後のスキルだってうちらに隠れてセトと頑張ってた得たヤツなんやろ?あんなん簡単に誰でもやれる事ちゃうんやし、もっと胸張りぃや。……にしても獣化するとアンタもモッフモフやなぁ気持ちええわぁこれ」

「わわっ?!ちょ、ちょっとマリ姐さん、ベネさんの前っすよ!!」

「あっ、マリ姐ズルイ!あたしも触りたい!!」

「ちょまっ!?ぇええええ助けて!!」


 チグサとボクに続いてマリーがシキの努力の成果を認めて声をかけたまでは良かったけど、未だ獣化状態のシキの体毛に手が触れるとその感触を気に入ったのかベタベタと触り始めた。それを見たシオンも感触が気になっていたのかマリーに混ざってシキをもふりはじめた。

 ……これ下手するとボクも二次被害受けるのでは?


「おーいその辺にしておいてやれよー!それよりもドロップ品の確認しようぜ!」

「アルティア湖のダンジョンはダンジョンコア以外の収穫が無かったからね。ペインゴッズさんが言うにはできて間もなかったからだろうって言ってたけど……」

「まァとりあえず箱開けて中身を見ていこうや」


 ケントの声掛けでシキは二人から解放され、全員宝箱の前に集まった。一応宝箱そのものに罠がないかセトがチェックするが、流石にそこまで悪どいトラップは無いようだ。

 箱前面のロックを外して蓋を持ち上げると中には待望のお宝(ボスドロップ)が入っていた。お金を掻き分けながら装備品らしきものを外に取り出してモーリィが一つひとつ鑑定していく。


 ――鑑定結果と処理結果は次の通りだ。


------------------------------------------------------------------------------------------


レッサーデーモンの手に似た武器・・・

正式名:下級悪魔の爪(レッサーデーモンズクロー) 階級:マジック

 クリティカル効果上昇。基礎筋力上昇。

→シキ用に確保


赤黒い独特の模様が入ったローブ・・・

正式名:悪魔教徒の法衣(デモニストマント) 階級:マジック

 魔法耐性小上昇。火属性耐性。魔力回復量小上昇。

→マリーが欲しがったのでマリーへ


先端部にフローティングアイらしき目玉を模した宝石が嵌められている杖・・・

正式名:眼差しの杖(ゲイザースタッフ) 階級:レア

 魔法力小上昇。詠唱速度小上昇。

 固有スキル:任意の対象一体に<拘束(バインド)>効果を付与。

→サポートに使えるかもという事でクロさんへ


目玉を模した宝石が埋め込まれたアミュレット・・・

正式名:耐束縛の首飾り(アンチリストレインアミュレット) 階級:マジック

 <拘束(バインド)>耐性中上昇。魔力小上昇。

→四つほど出ていたのでマリー、シオン、クロさん、リツに分配


レッサーデーモンの頭部そのもの・・・

正式名:レッサーデーモンの頭蓋 階級:マジック

 レッサーデーモンの頭部の外骨格。強度はかなりあり硬く、衝撃耐性が備わっている。

→2つほど出ているのでモーリィが加工して武具にする予定


バフォメットの角でできたかのような腕輪・・・

正式名:捻じれ角の腕輪(バフォメットホーンブレスレット) 階級:レア

 着用者の身体能力を強化。攻撃速度小上昇。<幻惑>耐性。<錬成>効果上昇。

→2つ出ているのでセトとモーリィに


バフォメットをモチーフにしたと思われる指輪・・・

正式名:黒山羊の指輪(バフォメットリング) 階級:ユニーク

 <錬成>成功率上昇。右手に装着した場合<溶解>スキルを獲得。左手に装着した場合<凝固>スキルを獲得。錬金術師が高い金額を払ってでも手に入れたい逸品。

→モーリィ向けなのでモーリィへ


バフォメットの角だと思われるもの・・・

正式名:バフォメットホーン 階級:レア

 ガラテア大迷宮第十層フロアボス"バフォメット"の討伐証明部位。錬金術の高位素材。武具の強化素材としても使用する事が可能。

→冒険者ギルドへ提出する為にボクが所有。


緑色の炎がそのまま固まったかのような宝石・・・

正式名:転移石(ポータルストーン):ガラテア[10] 階級:レア

 ダンジョン:ガラテアの第十階層まで転移が可能となるアイテム。使用者と接触しているパーティメンバーも一緒に転送が可能。破壊不能。

→今回の目的物。パーティリーダーのボクが所有


黒に近い紫色の球状クリスタル・・・

正式名:魔晶核(バフォメット) 階級:ユニーク

 ガラテア大迷宮第十層フロアボス「バフォメット」の魔晶核。

→旅の大きな目的の一つである魔晶核なので代表してボクが所有


------------------------------------------------------------------------------------------


 ――とこのような感じになった。一緒に入っていたお金は三分の一をファミーリア資金にし、残りを頭割りして分配。そこまで大金ではないはずだけど、相応に懐が温まる程度には十分な収益だ。


「あー後あれどうする?」


 ケントに言われて指さされた方向に目をやるとそこにはバフォメットが使用していたマンキャッチャーがフロアに突き刺さっていた。見た感じ槍として使えるとは思うけどそこまで食指が動くような造形ではなくて惹かれない。唸りながら思案しているとツカツカとモーリィが近づいていって隅々まで鑑定していった。


「別に呪いみたいなモンはかかってねェみたいだが……まぁ使わなくても素材やいざって時のスペアウェポンにゃなるだろうよ。ほれっ」


 引き抜いたマンキャッチャーを軽くこちらに投げてよこしてきたのをキャッチしてインベントリへと収納した。

 ボス部屋はボク達以外に存在はなく、ドロップも回収し終えたので静謐な空気が満ちている。先の戦闘でバフォメットを始めとしたモンスター達がまき散らした血だまりも、時間の経過と共にダンジョンリソースへと還元されていっているのか随分とその量も減らし、再び綺麗な床へと戻ろうとしていた。


「――目的も済ませたし、今日はこれで帰ろう」

「ソっすね」

「結構な量敵ぶったおしたし、討伐証明部位の納品だけでも割と稼げてるんじゃね?」

「納品と言えばミノ肉やゴートヘッドの肉は如何しますか?金額が微妙ならアルフさん達に渡したいと思っているのですが」

「世話になっとるしうちらの食卓にあがるっての考えたらそっちの方がええんとちゃう?実力の証明にもなるやろーし」

「だな。俺もアルフさんに渡す意見に賛成だ」

「他のみんなも異論なさそうだしそうしよっか」


 会話をしながらフロアの奥にある第11層へと続いているであろう扉へと足を進める。

 バフォメットの討伐もそうだけど今回結構な量のモンスターを結果的に倒してきている。それらの討伐証明部位の精算で更に収入が得られるだろうし可食部位のドロップはボク達の食事として提供されるのを考えると今日の攻略は大成功だと言っていいと思う。


 フロア奥の扉を開けると円形状のホールになっていて、中央部にはポータルストーンを利用するためのスフィアが静かに浮遊している。スフィアに向かって歩きながら、シキはラインアーク時代にセラと話し合った時の事を思い出していた。


 ――あれはいつだったか、シキが天兎に移籍してから少し経った頃の対人コンテンツの花形「攻城戦」を終え反省会も済ませた後の気怠さの残る微妙に熱が冷めきらない時間帯に先程の戦場でのセラの指揮について質問した時だ。


***


 ――その時の戦争はコンテンツ開催残り時間が残り僅かと迫る中、制圧対象である"ルーンクリスタル"が配置されている重要拠点である城塞正面から天兎が所属している連合と同程度の実力を誇る黒鐡連合が迫り、裏手方面より強さは黒鐡連合には及ばないものの動員人数の多さに定評のある我楽多連合が迫ってくる挟撃の状況が出来上がりつつある中、即座にセラの指示で我楽多連合側に集中突破をかけて裏手方面へ全軍抜けて我楽多連合と正面側から追ってきた黒鐡連合をぶつけたのだ。

 城塞の裏手側から大回りで正面側に抜けつつ我楽多連合を抜く時に出た脱落者たちと合流して正面に布陣していた別連合を制圧して即座に城塞内部へと突入。複数の勢力が入り乱れ乱戦状態になっていたところを面で押しつぶしていき内部を制圧。即座に外からの進入に備えて迎撃布陣を敷いて内部への進入を狙う他の勢力を押し留め、損害を出しつつも内部への進入を許さず外部での乱戦を誘発させながら最奥部のルーンクリスタルに支配者の刻印を成功させる事で勝利を収めた。

 この流れを一体どこまで読んで指揮をしていたのだろう。――同じ役割をしていた身としてシキはどうしても質問してみたくなったのだ。


「――なぁシキ、シキならあの時どういう指示を出していた?」

「そうっすね……自分だったら挟撃を避け次の行動にすぐ移れるように一度全軍撤退させたと思います」

「うん、それも間違いじゃないね。俺もそのパターンは考えていたけど採らずに我楽多連合を一点突破して戦場奥手側へ移動する事を選んだ。これの理由はわかる?」

「はい。正面側の黒鐡連合とぶつかれば自軍被害も馬鹿にできないですし、黒鐡側を抜いても戦場復帰してくる他連合とぶつかる可能性が高いっていうのが一番っすかね……。ただあのタイミングだと残り時間的には悪くはない布陣につけたと思うんすけど」

「メリットデメリットは分かってるみたいだけどそれだけじゃあ駄目だよ。自軍の脱落者との合流可能ポイントを押さえつつ、黒鐡の兵力をあの局面で可能な限り落としておけば限界時間にそれが絶対此方のプラスになって帰ってくる。あの場面で全軍撤退していたらその時点から黒鐡が戦場をコントロールしやすいポジションにつく事になるし、そうなれば戦場へ戦線復帰をしても黒鐡以外との小競り合いで徐々にこちらの兵力も削られて内部制圧する余力がギリギリのラインになると踏んだんだ」


 成程。セラの言う理由は脳内でシミュレートしても恐らくそうなるだろうなと思わせた。自身のプランに絶対の自信があるわけではなかったものの悪くはない判断だと思っていただけに、より勝利へと近付ける選択肢を示された事で自身の未熟さとセラの思考範囲の深さに素直に感心するほかない。


「シキの選択も持って行き方によっては可能性はあるとは思うけど、その選択だと自分でその後の選択肢の幅を狭めている事に気付いた?残り時間を踏まえた上で全体の流れをある程度読んで可能であればコントロールする余地がある様に持って行くのが指揮の仕事だよ?行動しながらも常に状況と情報を精査して複数の指示とその結果をシミュレートして"王手(チェックメイト)"の可能性が高い選択をしていかないとさ」

「事ある毎に言ってますもんね、指揮だけに任せきりにするんじゃなくて"常に考えろ"って」

「"勘"ってヤツもある程度は大事なんだろうけどさ、大きな視点で見たら心理戦な部分もあるし、自身の持ち駒と相手の持ち駒を考えて詰将棋していくって考えたらシキだってこれくらい出来るようになるさ」

「なるんすかね……いまいちそんな感覚ないんすけど」

「なるさ!その可能性や地力があると思ったからシキをうちに引っ張ってきたんだからさ。だからもっと自分自身に自信を持てよ。そしていつか俺を驚かせてよ」


 自身も別勢力に居た時から指揮を執る事もあり、同じ役割を遂行するセラに対しては羨ましさや劣等感、憎しみや嫉妬といった感情を覚える事もあったが、何よりもシキ自身の中で一番大きな感情が尊敬という感情だった。

 自身も戦闘をしながら常に次の手どころか更にその先の先を考え行動し、次々に指示を出していくセラのその様は集団を統率して引っ張って行くリーダーそのものであり、自身がラインアークをプレイし始めていつの頃からかぼんやりと思い描いていた理想像に最も近い存在だったのだ。

 そんな存在がやや臭いもののキラキラした目をしながら自分に期待をしていると言うのだから胸の奥がくすぐったくて敵わなかった。


***


 ――あの時から自分は成長できているのだろうか。セラの期待に応じられているんだろうか。確かめるのが怖い。セラから今回の作戦を伝えられた時だって自分にラストアタックを任していいのだろうかと不安に駆られた。

 それでも目指す頂点に立つセラから任された期待に成果を出したいと奮起して無我夢中でやりきった。―いや、もしかしたらそんな自分すら予想した上でこの人は自分を指名したのではないか?一体どこまで先を読んだ上で今回の作戦を組んだのだろうか……。悪魔的な指揮の才はついに本物の悪魔を屠り、その才能の保有者から目をかけてもらってる境遇。


 目の前を尻尾を揺らしながらスフィアに向けて歩くセラの背中を見て、シキは若干薄ら寒いものを感じると共にもっと胸を張ってこの人の横に並び立てる自分になろうと決意を新たにするのだった。






忘れがちだけどシキももふ枠(ケモ族)

よくあるMMOのレイドボスって取り巻きを先から倒すのが割とメジャーな手法で、

取り巻き先処理だと時間経過で再召喚だったりRePOPしたりとか一匹は残さないと全部復活するとかそういうのありますよね。

火力が過剰だったり参加者の火力に自信がある場合は取り巻きを無視して本体集中短時間撃破と言う手法を取るとは思うんですが、前述のパターンだったりすると取り巻き無視は実は最も効率の良い手法だったりするのかもしれません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ