【 Ep.3-014 王都でのこれから 】
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進行は緩めですが日常回はもう少し続きます。
ギルド長が待つ応接間へと通されたボク達を出迎えたのは歴戦の戦士や往年の冒険者などといったお約束的な外見をした男ではなく、どちらかと言えば軟弱な印象を受けかねない線の細い青年だった。
「カサネから話は聞いてるよ。君達がファミーリア天兎の一団で間違いないね?」
「はい。ファミーリア天兎マスターのセラです。この冒険者タグでも確認して下さい」
「確かに……。うん、これは返そう。手間を取らせてすまない、自分は泡瀬真悟。こっ恥ずかしいがここではグランドマスターと呼ばれている。君達が開拓村と呼んでいた初期拠点の冒険者ギルドの長であるカサネとは同僚でオラクルの社員でもある。彼女から聞かされた君達の推測、考察した意見は実に興味深い。いや、ここにきて最早その内容を疑う事などできはしない。……とは言えこんな状況だ。自分に出来る事があれば可能な限り協力はしたいのだが、いかんせん自分自身この状況に適応するだけで手一杯でね、君達の期待より役に立てそうもないんだ。だから先程みたいなトラブルはなるべく起こしてくれるなよ?お目溢しができる限度もあるにはあるのだからね」
「そう言うならあの手の輩を追い出しておいてほしいけどね。変に絡まれなければボク達だって何もせずに済む話だよ」
うんざり気味に言われたお小言に思わず反論してしまったけど、ギルド内の治安が良ければあの手の輩は居場所を無くして淘汰されていくはずだし、自身の管理下の職場の環境コントロールくらいはしてほしいものだ。と言ってもああいったお約束な展開はそこまで嫌いなわけではないけど。
「やれやれ……彼女が言うように手厳しいね君達は。勿論君の言うようにあの手の輩を排除できればそれに越した事はない。だが冒険者ギルドとしては登録されている冒険者である限りは誰であろうと対等に扱わなければならないんだ、その点は理解してもらいたいね」
「理解はしてるし同情もするよ。だけど降りかかる火の粉は払わせてもらうのは変えないよ?喧嘩を吹っかけるって事は当然それに連なる結果を受け入れる覚悟があるって事なんだから」
「……その時は可能な限りお手柔らかに相手をしてやってくれ。それよりも王都には暫く滞在するのだろう?君達だけ特別扱いする訳にはいかないが、元プレイヤー達を簡単に死なせない為にもある程度の融通はするつもりだ。君達からの意見もその為には必要だろう、どういった支援や援助が効果的だとか、冒険者目線からの意見を聞かせてくれ」
「なら――」
こうして小一時間ほどハルキニア王国の冒険者ギルドのグランドマスターであり、オラクル社員のプレイイングゲームマスターでもあったアワセと元プレイヤー達への支援方策について意見を交わし合い、過度な援助にはならずに他の一般冒険者達からも不審がられない支援の方法などを一つ一つ詰めて話していった。
細かな調整は彼がするだろうし、カサネさんと連携が必要な部分も彼らの役職であれば問題なくこなせるに違いない。正直なところこれ以上はボク達が手を尽くす問題ではないだろう。元プレイヤーの保護についてはオラクル側の都合だし、この状況になった以上はこの世界の住人となったボク達自身がどう生きるかは自身で決断していかないといけない。いつまでも彼ら運営側の人達を頼れる保証なんてないんだしね。
「ふむ、アートゥラ辺境伯も多少融通してくれるのはこちらとしても助かるね。後は彼女と調整していくしかないか……。ありがとう君達、偶然とはいえそうした繋がりの上に此方も乗る形にさせてもらえて大助かりだ。今後どういう展開になるかは不明だが少なくとも元プレイヤー達の支えになるのは間違いないだろう」
「そうですか、それでしたら紹介した甲斐があります。結果的に仕事を増やしてこの後の調整とか大変だとは思いますが無理のない範囲で頑張って下さい。では話すべき事は話しましたのでボク達は引き揚げます」
「ああご苦労様だったね。――月並みの言葉で申し訳ないが、生き抜いてくれ。期待してるよ」
「"お互い様"、ですよ」
アワセとの話し合いに区切りがついたので応接間から退出し、ボク達は冒険者ギルド併設の飲食スペースのテーブルに付いた。邸宅での夕食まではまだ若干の余裕があるので、これからの生活についての再確認をする意味合いも兼ねての話し合いの場だ。
おっさんの邸宅にて一応従士としての身分をもらった上での王都で生活をするわけだけど、昼食は抜きにしても朝晩の食事が提供される上に屋根どころか調度品まである様な一室で寝泊まりができる。いくら辺境伯の従士であるとはいっても恵まれすぎている。となればボク達自身でも身の回りの事や手伝える部分は積極的に手伝うのが同じ家で住む者として、また辺境伯の従士としての務めなんじゃないだろうかとボクとチグサは皆に説いた。
「まぁ寝泊まりさせてもらえるうえに御飯まで用意されるっていうんやから気前がいいっちゅーかちょっと気が引ける部分あるもんねぇ。うちらは夫婦という事で同室にしてもろとるし、甘えてばかりじゃなくてセラやチグサの言うように手伝えるモンは手伝っていくのが筋やろね」
「普通に考えてもホテル暮らし並みの待遇だし、それが当たり前になるっていう感覚も後々の事を考えると怖いからwin-winになるかはわかんないけど持ちつ持たれつ?みたいな感じにはしておきたいよね精神衛生上」
「とは言ってもだ。俺らはまだここにきたばかりだし何ができるのか、何をしても問題ないのかすら分からねぇ。自分勝手に良かれと行動した結果問題発生しましたじゃあ話しにもならねぇ。その辺りは考えておかねぇと裏目に出るかもしれんぞ」
「っすね。文化や常識、道徳観とかはあまり俺達の居た世界とそこまで変わりない感じっすけど、ふとした何気ないところに落とし穴ってあるもんっすからねぇ」
ボク達の話にマリーとシオン含め皆基本的に同意の意思を示してくれたけど、ベネやシキが言うように自分勝手で良かれと思って行動するのも逆に迷惑をかけてしまうかもしれない。
「二人の注意ももっともだと思う。だからここで仮決めしたボク達ができる事や手伝いとかは家令兼執事のアルフさんに一度相談してから許可が下りたものから実行していくって形になると思う」
「ま、それが無難だろうな。おっさんに話を通せばそれでも済むとは思うけど、それはそれでアルフさんの存在を軽く見ているって受け取られかねないし、これから一緒の家で過ごす事になる一員にそんな態度はとりたくねぇもんな」
「そだねー。ま、悩んでいるよりかはとりあえずアイデアバーっと出してこ。セト、出たアイデア箇条書きでもいいからメモに取っておいてね」
「あ、ハイ」
そんなこんなでとりあえず出てきたアイデアは次の通り。
・家賃として稼いだ中から一定額を入れる
・ダンジョンなどで得た食料品などの一部を納入する
・部屋の掃除は各自で行う
・食事の準備なども可能であれば手伝う
・家に関する事も時間があれば手伝う
並べると極めて普通と言わざるを得ないけど、でもまぁ共同生活をするにあたって押さえておくべき事項はこんな感じだろう。続いて王都生活における天兎のルールについても話し合う。
・一週6日間のうち2日間は休日を挟む
・ダンジョンや依頼は必ずペア以上で当たる
・パーティ行動の際は必ずヒーラーを編成に組み込む
・女性陣の体調不良には柔軟に対応する
・基本的に王都内でもペア以上で行動。どうしてもソロ行動をする時は必ず予定を誰かに伝えておく
子供のお約束事かと言われても仕方ない気もするけど、勝手が分からない世界のまだよく分からない土地で過ごす以上はこれくらいは決めておいた方がいいだろう。特に一人で行動するのは男性陣はまだしも女性陣にとってはリスクでしかない。王都の治安は悪くはなさそうだけど、場所によっては警備隊の目が届かない路地も多くあるだろう。自分達の実力が劣っているとは思わないけども、上には上がいる世界であるからには警戒しておくに越した事はない。
「――まぁこんなものですかね」
「後は必要に応じて細かく柔軟に対応してブラッシュアップしていけばいいかなと」
「なんかここまででも感じてた事っすけど、こういう取り決め話し合ってるの修学旅行とかキャンプ行ってるノリっすよね」
「それにしちゃァ宿泊先は豪勢なホテルみたいなもんだがなァ?奇縁とは言え俺達はツイてるな」
「だねー。とりあえず堅苦しくするのも嫌だけど、予め予想される事への対処を先に決めておくとトラブルの発生を回避しやすいのは確かよねー」
実際問題それなりに王都で暮らしてみない事には問題点というのは直ぐには出てこないだろう。予め決めれるのはあくまで基本的なことがせいぜいなのは仕方がない。とは言え住居となるおっさんの屋敷は貴族街の一角で隣人トラブル等と言った元居た世界でありがちなご近所トラブルとは疎遠そうなのは助かる。
ペインゴッズのおっさんが王城でどういった報告をするにせよ、すぐにでも登城して謁見するというのはあまり考えられない。であれば明日は一日かけて王都を見て回るのが無難だろう。
「さて、じゃあ屋敷に戻ろうぜ。時間的にもそろそろって頃合いだろ?」
「そうだね、後はアルフさんやおっさん交えて話すしか進展しないだろうし。あ、それと明日はみんなで王都巡りの予定なんだけどどうかな?」
「うちはそれでかまへんで」
「あたしもそのつもりだったからそれでいーよー」
「かなりの規模の都っすから1日かけても回りきれなさそうっすね!」
「こんだけでっけぇ都市だ、ある程度回るところに目星つけとかねェと時間が足りんだろう」
「と思いましてー、出来るエルフのリツさんが君達に此方をプレゼント〜」
そういってリツが皆に配ったのは王都のミニマップとも言える簡易地図だ。隅に冒険者ギルドの印が押されているのでここで配布されているパンフレットみたいなものだろう。一体いつの間に手に入れてきたのだろう。
「それがあれば行きたい場所の希望や目星はつけれるでしょ?戻ってから各自部屋の中でゆっくり考えればいいし、今日は依頼も受けないんだから戻ろうよ」
「流石ライターやってただけはあって情報収集能力ぱねぇっすね」
「いやぁ、正直これあくまでもわかりやすいとこだけしかマークされてないし、自分に合う店とかはやっぱり自身の足で探すしかないっぽいけどね」
夜の帳が下りると共にガヤガヤと活気溢れる冒険者ギルドを出ると、王都はその様子を一変させていて、メインストリートを含めた路地に一定間隔毎に設置されている魔法灯が煌々とした灯を放っていて暗さは感じない。暗さを感じないけどそれは決して目に毒になるような強い光ではなく、優しく照らす様な柔らかなものだった。
「ねえ、上見て!」
シオンの声につられて視線をあげると王城の上空に不思議な紋章が浮かび上がっていて、そこを中心に王都全体を覆うように優しく発光する光の帯が伸びている。また王城そのものも薄くではあるが白く発光している。
「これが王都を守護する防護結界魔法というものでしょうか……ゲームの設定やビジュアルではよく見たものですが、こうして自分自身の目で見ると心の底から感動しますね」
「すっ………………っげぇなぁこれ!」
「綺麗っすねぇ……。暗くなるまで見えなかったっすけど、こういうのって常時展開するタイプのやつっすよね?どういう仕組みしてんすかねぇ」
「こんだけの大魔法を常時展開するとか一旦どんだけ魔力消費するんやろね。想像つかんなあ」
空を覆う王都の防護結界魔法「白亜守護結界」を見上げながらそれについてああだこうだと語らいながら屋敷へと戻ると門の前でアルフさんがボク達を待ち構えていた。
「ただいま、アルフさん」
「お帰りなさいませ皆様。旦那様も先程お戻りになられましたので夕食の用意を進めております。時間的にもそろそろ出来上がる頃でしょう、一度自室に戻られた後、一階の食堂までお越し下さい」
優雅とも言える所作でボク達を迎えるアルフさん。同時にやや後方から感じるキラキラした熱気。間違いなくこの感覚は完璧なる執事の二つ名を冠していたチグサから発せられているに違いない。そう思って後ろを振り向こうとしたところ――
「アルフさん!今の動きを見て確信しました。このチグサ、貴方を師として弟子入りさせて下さい!!」
「は、はい……?」
「言うと思った」「むしろ良く持った方だろ」「こういう時だけ豹変するよねチグサって」
「いいんじゃないっすか別に」「(セラさんの尻尾がかわいい……)」
「こういう時だけ言い出したら聞かねぇンだよなぁ」「チグサの趣味というかライフワークだしね」
「えらいごめんなぁアルフさん」「人の事言えねぇもんなあ俺ら」
戸惑いながらどうにかチグサの相手をするアルフさんの背中を見ながら、みんなそれぞれ思い思いの言葉を口に出しつつ屋敷の中へと向かうのであった。ごめんね、アルフさん。
今回短めだったので今週中にもう一話投稿するかもです。その場合週後半になると思います。
王都中央区の冒険者ギルド本部は円形状の構造となっており、四方に出入口が設けられています。
王都の防護結界魔法「白亜守護結界」の当て字は割と語感で決めました。




