【 Ep.3-015 姉弟子エステラ 】
結局週明け投稿になりました。
本来であれば前話とまとめた方が良かったかなと思いつつも合わせると今度は長くなりすぎ問題が…。
邪魔にならない時ならという条件でどうにかアルフさんに弟子入りを果たしたチグサに生暖かい視線を投げかけつつ、天兎一行はアルフさんに食堂へと案内された。
比較的大きめの食堂の扉を開けてもらって中へ入ると、既に上座にはペインゴッズのおっさんが席に着いていて、その横には見慣れぬセラと同年代程度に見える獅子獣人の少女が席についていた。
髪は基となったであろうライオンの鬣に似て黄金色をベースに所々黒々としたメッシュが入っており肩からやや下がる程度の長さをしておる。此方に目を向けた彼女のその瞳は爛々と輝き、お目当ての獲物を見つけたかのような鋭さと獰猛さを放っている。口元はつり上がり少しだけチラ見している犬歯がこの後の展開を嫌でも予想させる。
「帰ってきたか。ワシの方が先に帰宅するとは意外じゃったが、その様子じゃと冒険者ギルドでの歓迎がそれなりにあった様じゃな?」
「まぁ。でも忠告のお陰で大事にはならなかったよ。――ところで其方は?」
「ああ、紹介がまだじゃったな。王都へ入る前に一度目にしていたとは思うがこの子が――」
「あたしは王国騎士団第六兵団王都守備隊飛行第三中隊隊長エステラだ!あの馬車の中にいたのはお前達なんだろ?おy・・・辺境伯様から話を聞いたがお前達は今従士なんだよな?」
「一応は」
コクリと頷いて同意する。だがこれ嫌な予感しかしないぞ……。
「んでもってお前がそのファミーリアのマスターのセラだっけ?」
「そう」
エステラの瞳孔が開き、獣気の様なものが急速に発せられるのを感じて尻尾の毛が逆立つ。
「……」
「…………」
闘気を発し始めたエステラと無言で見つめ合ったままでいると、バンッと机を叩いて立ち上がった彼女はニコリと笑いながら言った。
「よし!じゃああたしと勝負だ!!さぁすぐやろう!今すぐ!!」
「いや、やらないよ」
「なーんでだよ!やろうぜ!なぁ!!なあッ!!」
「しつこいなぁ?!なんなの?相手見つけたら戦わないと気が済まない野獣かなんかなの?!既に夕食も配膳され始めてるのにこの状況から手合わせとか馬鹿なの?躾のされてないダメ獅子なんですか?それに料理を用意してくれたシェフや従者の人達に悪いと思わないの?ねえ?!」
しつこく食い下がるエステラに対して食事前で空腹な為かイライラが暴発したセラが猛烈な勢いで口喧嘩をし始めたのを見て、ペインゴッズは仲裁に入ろうとするものの尻尾の毛まで逆立てているセラの様子にタイミングが掴めず、天兎メンバーは一様にそりゃこのタイミングで試合吹っかけられたら怒るわと言った顔でエステラを生暖かい視線で非難していた。セラ以外も普通に空腹感に襲われており、目の前に配膳され始めた温かい料理を個人の我儘のせいで手を付けれないとなれば当然の事だろう。
そんな状況を収める為に二人に声を掛けた勇者が現れた――
「御二方様共、先ずは食事を済ませた上で話を進めては如何でしょうか?空腹は時に冷静さを失わせ、心の余裕すら無くしてしまう病の様なもの。食事を摂り、腹を満たしてこそ互いに落ち着いて先の事を語らえると言うもの。それにエステラ様、腹が減っては戦は出来ぬと古くから申します。なればまずは食事をしてからの方がよろしいのではないかと愚考しますが如何でしょうか?」
ズズイと二人の間に割り込んで落ち着いた声色で売り言葉に買い言葉でギャアギャアと口喧嘩をしているセラとエステラへと語り掛けたのは家令兼執事のアルフさんだった。
突然意識外からの割込みに面食らった二人は落ち着きを取り戻し気不味く見つめあっていたが、エステラの腹の虫がグゥと泣いた事で二人とも場の面々へ謝罪した後先ずは食事を摂るということで決着した。
*****
「さて、ある程度腹も膨れたところだろうから先程話そうとしていた事の続きをしてもいいかね?勿論そのまま食べながら聞いてくれて構わない」
鳥らしき肉を口に運びながら頷くとおっさんも頷き返し、一拍おいてから話し始めた。
「先に自己紹介をしたがその娘の名はエステラという。ワシらを王都へと先導していたグリフォンに騎乗していた姿は覚えておろう?ワシが王城へ行った帰りに城内で捕まってな……ワシが王都を離れていた時の話などをしたところヌシらに興味を持ったようで顔合わせしたいと頼まれたのじゃよ」
「で、その結果が手合わせと。顔合わせじゃないよねそれ」
「そこは申し訳ない。だがエステラにはエステラなりに思うところがあるのじゃよ。そうじゃろ?」
「あったりまえだ!コイツらは辺境伯様の従士としてしばらくは過ごすんだろ?それにお前は辺境伯様から直々に稽古をつけてもらうって聞いた。それならあたしの弟弟子…?いやこの場合妹弟子?になるって事だろ。どんな奴なのか確かめるなら手合せが一番じゃないか!」
カラカラと笑いながらエステラは言う。……っていうか今弟子って言ったよね?つまりエステラはおっさんに稽古をつけてもらってた従士だったって事になる。やけにアルフさんがエステラの扱いに慣れてる感じだったのはこれが理由か。
それはそうとボク自身おっさんの得物の扱いに惚れ込んで稽古つけてもらう事にしたくらいだから、エステラが相当の腕の持ち主である事は間違いなさそうだ。――いや、やっぱりこれ面倒だなぁ。
「という事らしい。元々エステラはこの王都のスラム地区出身の問題児でな、そのまま放っておけば誰も手がつけられないまま重大な犯罪に手を染めかねなかった故に引き取って王国騎士団に入るまでワシの元で従士として稽古をつけてやってたのだ。騎士団に入隊後もこうして偶にこちらへ顔を出したりはしていたんじゃが……自分から相手を見定めようとした事は今回が初めてだ。おそらくお主に何かしら感じるモノがあったのかもしれん」
「だからって人の都合考えずにバーっと決められると少しはカチンとくるよね。でもまぁいいよ、手合わせは受ける。ただ条件はつけさせて欲しい」
「元よりエステラのワガママから出た問題じゃしな、いいだろう聞こうとも」
「大した条件じゃないんだけど試合時間を短めに設定してほしい」
「ああそれなら大丈夫じゃ。そうさなぁ……ヌシらの力量を踏まえると手合わせの時間は5分。それでどうじゃ?」
想定よりかは短い時間が指定された。流石にレンブラント子爵を相手にしていた時の様に10分超の手合わせは神経の磨り減り方が尋常じゃない。おかげで新しいスキルを習得できたものの、連日こんな調子で手合わせをし続けていくのは慣れてきたとはいえ完全に同調しきれていない肉体では色々と不都合が生じかねない。とは言え自分で出した条件で、想定していた時間よりマシだと思えば腹をくくってやるしかないか……。
「うん、それなら大丈夫」
「エステラもそれでいいな?」
「だいじょーぶ!さぁやろやろ!行くぞ行くぞー」
*****
エステラに手を引かれて前庭にある修練場に通じる一室に連れていかれると、そこには練兵用に使うであろう武具一式が綺麗に準備されていた。ていうか喧嘩吹っかけた相手の手を繋いで引っ張っていくとかどういう神経してんのコイツ。
「お前の武器ちょっと貸して。壊さないしすぐ返すから」
ぶっきらぼうに言ってくるエステラに向けて自身の得物を手渡すと、彼女は軽く振り回しては感触を確かめた後此方へ軽く放り投げて返してくると、すぐさま武器棚の方へと向かってボクの得物と同じ長さの棒に同じ形状に近いアックスブレード、スピアーヘッドとフルークをガチャガチャと取り付けると此方へ渡してきた。訓練用の得物をカスタムできる様にしてあるとは考えられているなぁと感心しつつ、これ絶対モーリィが興味をもって調べるだろう事は容易に想像できた。
訓練用に刃こそ鋳つぶされてはいるが、手に取ったそれは森羅晩鐘と変わりのないバランスに調整されており、さながらよくできた森羅晩鐘の複製品の様だと思った。
「そんなもんでどう?」
「ん。よくできてる」
手渡された手合わせ用の得物の感触に関心していると、自身の得物を調整し終え簡素な防具を装着したエステラに声を掛けられた。彼女の得物はグリフォンに騎乗していた時に懸架していた十字架を囲う感じにアックスブレードが装着されていて、フルークに当たる部位は見当たらない。ハルバードと言うよりかは両刃のバトルアックスと槍を組み合わせたかのような代物だ。
訓練用の得物を手に修練場へと上がる。広さ的には柔道の試合エリアより少し広い程度だろうか、あくまで訓練用ではあるがここにもしっかりと防護の加護がかけられている。大怪我を負う事はないとはわかっていてもあまり気乗りするものじゃないなぁと思う。そもそもラインアーク時代にもこういったコロッセウムの様な対人コンテンツは存在していたけど見世物感が嫌で殆ど参加していなかったしね。
「さて、双方とも準備はいいかね?手合わせをする時間は5分間。この修練場にも防護の加護はかかってはおるが気を抜いた状態で大ダメージを受ければ死に至る事はないとはいえ大怪我は免れん。基本的に魔法の使用は無し、急所を故意に狙う行為も厳禁じゃ」
おっさんからの手合わせ前の注意に二人とも頷く。既にボク達は向かい合っていてボクは上段半身に穂先を相手に向けて構え、エステラは下段半身で後ろ手に得物を構えた状態だ。
「さて、ここからは僭越ながら我が主に代わって私めが審判をさせて頂きます。先程のルールに加え、私が止めるべき瞬間だと判断をしましたら強制的に手合わせを止めさせて頂きますのでそのおつもりで。――では始めッ!!」
アルフさんの開始の合図と共にエステラへと駆け<刺突>を繰り出すと、シッと言う声と共に振り上げられたエステラの得物にガンッと合わせられ、その独特な形状のアックスブレードの曲線部でいなされる。
素早く脇を締め、いなされた勢いを活かす形で軸足を起点にして回転して<スラッシュ>へと繋げるが、それを予想していたのか此方のアックスブレード部へ<アッパースラッシュ>を合わせられた。瞬間――自身の身体を強烈な衝撃が走り、自身がダメージを受け流しきれなかった事を認識すると同時に修練場の端までノックバックさせられた。
……武器でなく身体に当たっていれば間違いなく一発ノックアウトだったに違いない。得物を握る手が軽く痺れて力が入らず笑っている状態だ。隙をつけなくもない相手ではあるけど、見た目以上に一撃の重さが半端なく強烈なのは洒落にならない。相手も初手で打ち合いをして感触を確認したのか追撃をかけてはこない。
思っていたよりもパワーファイターな上おっさんに鍛えられただけあって技の面も油断ならないのは確実のようだ。さて、どうしよっか――
「なっ?!」
セラとエステラが一合打ち合った瞬間、セラが大きくノックバックしたのを見て思わずチグサは声を漏らした。そんなチグサに気づいたのか、視線は二人に向けたままペインゴッズは口を開いた。
「そこまで強い一撃には見えんかったかの?」
「は、はい。刺突を受け流してからの流れは互いに無駄のない動きでしたがあの短時間での身体の運動エネルギーを踏まえると考えられない威力です」
口には出さないが他の天兎メンバーもチグサと似たような印象を受けていた。先程のエステラの動きは無駄がなかったが、セラをあそこまでノックバックさせるほどの威力を出すまでの"タメ"の時間は少なく、肉体の動きから発生する運動エネルギーも十分であるとは思えなかったのだ。
「まぁあの動きを見てそう思うのは仕方あるまいな。エステラにはワシが基礎を叩き込んだが流派は別じゃ。彼奴の流派は火槍流だからの」
「それは確か……一撃の破壊力を重視する剛の型を基礎とする流派でしたっけ」
「うむ、その通りじゃ。火槍流はどの様な状況下にあっても一撃の威力を最大限に発揮させるのに長けておる。一見先程のような威力が乗らないと思ってしまう状況であっても、流派独自の技術によってそれすらものともせんのじゃよ」
目の前の修練場では驚異的な火力を誇るエステラ相手にセラが攻めあぐねている姿が確認できる。初手程完璧ではないが、荒々しくも確かな技術を身に着けているエステラが相手であるので無理もない。
「それでは体勢的不利は生じず、打ち合いとなればセラが圧倒的不利……ですが勝ち目はあるのでしょう?」
「一応はな。火槍流はその火力に反して防御面では他の流派には劣る。何よりもその圧倒的火力を発揮できる時間はそう長くない……あれ程の火力に昇華させる為に肉体には反動として過負荷が掛かるのじゃ。つまりその猛攻を凌げれば或いはと言ったところじゃろうが今回は5分間と短い試合、セラの要望が裏目に出たという事じゃ」
まだ荒々しさが残る斬撃でセラに迫るエステラの攻撃は、槍の主体である突きよりもむしろアックスブレードを活かす形の斧系のスキルが目立つ。
技の面においては火槍流は他流派に比べると少し甘い面が多く、速度を是とする風槍流の刺突ほど速くは突けないし、一撃必殺の高火力を是とする為水槍流の流れるような連撃技を放つ事は出来ない。それ故自身の流派の特徴を認識しているエステラは"威力"特化をさせやすい斧系スキルを多用する癖が出ている。
エステラの威力重視の攻撃を体感し、打ち合いを避けて攻撃そのものを回避する事でセラは凌いでいるがエステラがパワーダウンした様子は見受けられない。試合時間そのものが短いのだ、この程度の時間であればエステラも余力は十分にある。
「そのような流派は主流となり得ないのでは?確かに火力は魅力的でしょうが……」
「普通はそうじゃろうな。今日まで火槍流が廃れなかったのにはちゃんと理由がある。火槍流の防御面の弱さや肉体への過負荷によるダメージ等のデメリットは騎兵であればその殆どを無いものとする事ができる」
「なるほど……そう言えば彼女はグリフォンに騎乗してましたね。確かに騎兵であれば攻撃に集中しやすく一点高火力での一撃必殺のヒットアンドアウェイが出来る……ん?!」
「どうやら気付いたようじゃな?」
「ええ。高火力は確かに脅威ですが反面防御が手薄となれば相手に攻撃の主導権を渡さなければいい。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですか」
「む?聞かぬ言葉だがなんとなく意味はわかるぞ、まさしくその通りじゃ。火槍流はな、連撃を得意とする水槍流を苦手としておる。その理由こそが攻撃の主導権が取りづらいという点にあるのじゃ。それ故その弱点をカバーする為の工夫が騎兵と言う手段なのじゃが今は地上での戦い。セラがそれに時間内に気付けるかどうかがこの手合わせの肝となるじゃろうな」
チグサはペインゴッズの言葉に唾を飲み込み二人への視線を強めた。猛獣の如きエステラの攻撃を必死に回避するセラの姿を見て額から流れた汗が頬を伝っていく。二人の会話を聞いていたであろう他のメンバーも固唾を飲んで試合の行方を見守るしかない。唯一ケントだけが他メンバーと違って余裕を持った表情で二人の姿を見ていた。
エステラはちょっと頭の抜けた脳筋寄りで快活な陸上部女子みたいなイメージで設定しています。
獅子獣人の肉体的強靭さからくる圧倒的火力偏重の火槍流の技の威力は、平均的な火槍流の威力と比較すると種族補正が掛かって1.2倍程度にはなるイメージです。
エステラの取得クラスは騎乗兵をメインに魔物使い、狂戦士、盗賊となっています。
※盗賊は辺境伯に引き取られる前の産物です。




