【 Ep.3-008 領都エイブラム 】
最近割と下書きのペースがいい感じに戻りつつあります。
アルティア湖畔ダンジョンを攻略して無事脱出し、保護した村人たちを連れてアルテック村へとボク達は戻ってきていた。朝方先に村へと戻っていった若者達が付けたであろう目印が道中に分かり易く設置されていたので行きよりも早めのペースで戻る事が出来て助かった。
アルテック村の近くまで来るとペインゴッズのおっさんは先の道で待っておくと言い残して一度ボク達と別れた。
村に戻ったボク達はダンジョン最奥部で救助した若者達を村人達に任せ、テガープ村長と対面していた。
「――ああ、皆さんよくご無事で!!先に戻ってきた若者達から話を聞いて心配でなりませんでした。それに彼らまで救っていただいてなんとお礼を述べれば良いか……!」
「成り行き上助ける事が出来たってだけだよ。それに……助ける事が出来なかった人達もいるし」
「それは……。いえ、それでもです。皆様方が居なければ皆死んでいたに違いありません。それどころかこの村の存続すら危うかったでしょう。さあ、此方をお受け取り下さい。皆様が出られた後すぐに領都の冒険者ギルドへ受注済み依頼として諸々の手続きをしましたので、こちらの割符を領都の冒険者ギルドでお出し下さればこの村の資金として預けている資金から依頼報酬を窓口で受け取れるはずです」
「依頼は確かに受けたけどさ、いいの?助けた人数考えたら結構な大金だよ?」
「なぁに、金などまた稼げばいいのですよ。私どもにとっては救って頂いた者達の命の方が何よりも価値がありますでな」
「分かった。じゃあ受け取らせてもらうね。それじゃ依頼も達成した事だしボク達はいくよ」
「はい、お気をつけて。皆様の旅路にルクスの御教えの御加護があらん事を」
こうしてテガープ村長と村人達に見送られボク達はアルテック村を後にした。
今回の依頼で得られる収入としては前金で金貨2枚と助けた人数に付き金貨1枚。ゼハクとキリカから保護できた4人と、ダンジョンのコアルームで保護できた5人で計9人なので追加報酬として金貨9枚の合計11枚の金貨を得られる計算だ。村を旅立ってから数日だというのに随分財布が潤う事になる。
「要件は済んだかの?」
「うん、お待たせ。依頼の報酬も割符を受け取ったし、領都の冒険者ギルドには話を通してもらってるからそこで報酬を受け取れば完了ってところだね」
「そうかそうか。さて、次はワシが報酬を支払う番じゃな。とはいえ前にも言ったが今手持ちがないもんでな。とりあえず領都に行けば用立てできると思うんじゃがそれでいいかの?」
「全然いいよー。ボク達も領都の冒険者ギルドに行かないとだめだし、報酬受け取ったらおっさんの分も渡すよ」
「いやワシの取り分は考えなくてよい。元よりダンジョン攻略を持ち掛けたのはワシの方じゃし、おぬしらはそれを受け入れ、その道中で村人を救う事が出来たのじゃから全てはおぬしらの判断の結果じゃよ。それにワシはもう冒険者ではないんじゃし気にしなくていい。さぁ、それじゃあ領都に向かおうかの」
「うん」
アルテック村を出立して暫く進んだ道の脇に立っていたペインゴッズのおっさんと合流し、ボク達は領都エイブラムを目指して足を進めた。狐火の反動は大分マシになっていて移動するくらいは問題ない。ただ戦闘となるとまだ少し力が入りづらいので一時的だけどボクは戦線離脱っていう感じ。
時刻は昼を過ぎているけど、距離的にも日が暮れるまでには領都には着けるだろう時間帯だ。
道すがらペインゴッズのおっさんから領都や王都についての話を聞く事が出来た。
このアートゥラ辺境伯領はハルキニア王国の最南部に位置していて王都ハルカニスへは、メルクメス男爵領、レンブラント子爵領、ツヴァイクベルト伯爵領の三つの領地を越えていかねばならない事や、王直属の騎士団総団長の剣聖アルマスギリについての話、ハルキニアの有名ダンジョンであるガラテア大迷宮とゲルクト大墳墓の二つについての話、そして何よりもボクの興味を引いたのはおっさんの扱うハルバードを扱う流派についての話だ。
ハルバードと言えどもその基礎的な部分は槍・棒術が根底にあって、そこから発展させてより戦場に則した武器として騎兵や重装兵を相手にしても十二分に渡り合える武器であるものの、扱い方を習得するまでが難しいという難点もある。そんな武器を得物とするペインゴッズのおっさんとボクがこの話題で盛り上がるのは当然の流れだ。
おっさんの流派は技の根底として風槍流の流れを汲んでいて、今現在は我流と複合した雷槍流とも言える流派にあるそうだ。基本的に自身が持つ魔法適性に準じた流派を習得する事が通例で、水が流れるが如き動きで連撃を繋ぐ事に長けた水槍流。一撃の破壊力を重視する剛の型を基礎とする火槍流。何よりも速度を是とする風槍流。守護の術に長けた土槍流の四流派が主流であるらしい。
おっさんの雷槍流はその中の風槍流を基に、自身の特異適性である雷属性を活かす型に発展させた傍流という扱いになるとの事。どの流派でも基礎部分の技や型は共通していて、そこから先で分化していくという説明を聞いてスキルツリーみたいな感じでイメージした。
おっさん曰く風槍流は技の速度においては群を抜いているが、その分威力面で不足する部分があったりとどの流派であれ得手不得手は必ずあるらしい。そしておっさんの雷槍流の特徴としては、"タメ"を作る事により威力を極限まで高め、それを解放する事で爆発的な速度を発揮する動と静を基軸とする正しく雷の様な特性をしているとの事で、火槍流と風槍流が合わさったようなもんじゃなって笑いながら説明された。
「さて、見えてきたのう。あれが領都エイブラムじゃ」
アルテック村を出て数刻、夕焼けが差し迫ろうかという時間になってまだかなり距離はあるが遠くに城壁らしき姿が見えてきた。距離的に考えても結構な規模の大きさだというのが分かる。
領都に近づくにつれ街道沿いには柵に囲まれた大規模な麦畑が拡がり、その稲穂は風に揺られてその黄金色の絨毯を靡かせるが如く光景にボク達の目は惹かれた。
時間的にも農作業は既に終わっているらしく畑の中に人の姿は見えない。
「綺麗なもんじゃろ?この辺りは定期的に兵士が巡回しているから魔物も滅多な事では出ないからの。住民達も安心して農作業にあたる事が出来るんじゃよ」
「ここまでの農作地となると農作業にあたる人員もかなり必要ですし、巡回にあたる兵士の数も相当数になるのではないですか?それにしても目を奪われる光景ですね」
「そうじゃのぉ、複数の部隊で持ち回りで巡回にあたっているはずじゃな。まぁざっと3万人規模の都市であるからして自給分程度は賄える様には作物を栽培はしているはずじゃよ。王国南部における最大の都市な上に南の大国レ・ノルン獣王国との貿易の玄関口でもあるでな、交易も盛んに行われておる」
「交易の玄関口となると都市の中に入るのに審査とか結構かかるんじゃない?」
「そこはワシに任せてほしいのう。言ったじゃろ?ワシは顔が広くて融通が利くと」
「それはそれで不正してるって感じでなんか嫌なんだけど。問題にならないの?」
「ハッハッハ!セラは真面目じゃのう。なに、心配はいらんさ。別に門兵と通じて間者を潜り込ませるわけでもなし、元Sランク冒険者ゆえの顔パスってやつのオマケじゃよ」
「問題にならないんだったらいいけどさ……」
麦畑に目をやりながらおっさんを中心に農作物や交易品などの話題で盛り上がっている内に領都のゲート前に並んでいる人影が見える距離まで来ていた。城壁は結構な高さがあり、容易に城壁に取り付かれないようにする為か掘は水で満たされている。遠くからだとよくわからなかったけれど、領都を取り囲む城壁はかなりしっかりと作られている。
「よし、ワシは先に行って話しを付けてくるからおぬしらはメインゲート脇の通用門の方までそのままのペースで向かってきてくれ」
「うん分かった。おっさんまだ腰完治したわけじゃないんだから無理しないでよ?」
「なぁに大丈夫じゃよ。これもリハビリみたいなもんじゃ」
呵々と笑ってペインゴッズのおっさんは駆け足でゲートの方へと消えていった。
ボク達がのんびりとしたペースでゲートに着くと一人の兵士に案内されて通用門の方へと通された。
「ファミーリア天兎の皆様ですね?話は伺っておりますので此方へどうぞ」
仕事を終えて中へ帰る人や行商人であろう馬車隊で混み合っているメインゲートの脇にある兵士たちの通用門から領都の中へと通されるがそこにペインゴッズのおっさんの姿はない。
「……おっさんは?」
「おっ…?!あの方は先に御自宅へ戻られて準備をするとの事なので、そこまでは私ハルキニア王国軍エイブラム駐屯部隊第五部隊長メヅクが案内させて頂きます」
「あ、先に家に帰ってるんだ。わかった、案内よろしくね」
メヅクと名乗った兵士は年齢は20代後半くらいだろうか、立ち振る舞い方や階級など歳から考えても結構出世している印象を受ける。そんな彼に先導されてエイブラムの大通りを進む。
街中の建物は開拓村とは打って変わって三階建てのアパートメントらしき建物が多く立ち並んでいる。三万人規模の単独都市で収容するとなるとこういった建物を住宅にしないと収容しきれないのだろう。
人通りは多く、馬車も多く行き交っていてその賑わい方は開拓村なんて比ではない程で人々の表情も明るい。所々にちょっとした広場の様なスペースがあり、楽器を弾いている人やベンチに座って読書に勤しんでいる人の姿が確認できた。治安が良くなければこうも皆が一様に明るい表情にはならないと考えれば、ここの領主は良い統治を行っていると判断できる。
「そんなにこの街が不思議ですか?」
「あ、いやみんな表情が明るくて活気があるなって」
「ははは、それは領主様が民の事をよく考えて下さっていてな。税負担も軽く、治安維持についても手を尽くしてくださっているからだよ。とはいえ、流石に王都の賑わいには勝てないがな」
我々はその分忙しいけどねと笑いながら語るメヅクの言葉を耳にしながら尚も街中に目を寄越す。大通り沿いに並ぶ建物の大半は商店で、品揃えを少し確認しただけでも開拓村の数倍はある。これでも王都には負けると言うのだから一体王都はどんな感じになっているのか想像するだけでも楽しみだ。
そんな感じで大通りをメヅクに案内されながら着いた先は他よりも少し小高い位置に鎮座する一際大きく剛健そうな建物の前だった。あのおっさん一体何者なんだろう……。嫌な予感がしてきた。
「皆様お疲れ様でした。こちらの建物でお待ちですので中へどうぞ」
「なぁ……ここって……」
「どう見ても普通の建物ではないですね……」
「ほんまあのおっさん何者なんやろなぁ?」
「ここでホントに合ってる?何か間違えてない?」
「いえ。此方で間違いありません」
ボクの問いかけにも間違いはないと即答するメヅク。いやきっと、ここで働いているんだろう。おっさん顔が広いみたいな事言ってたし多分そうだろう。
「確認なんすけど……ここってなんの建物っすか?」
「何ってそりゃあこの領地を治める領主ペインゴッズ・アートゥラ辺境伯の庁舎兼公邸ですよ?」
「は……?え?!」
「いえ、ですから領主ペインゴッズ・アートゥラ辺境伯の庁舎兼公邸です」
『…………』
・・・・・・
『はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ??!!』
*****
「いやぁスマンスマン。おぬしらを驚かせようと思っていてな!言いたい事はあるじゃろう、じゃが嘘はついてないじゃろ?」
「ウインクばっちりキメてドヤられても……」
ボクらは公邸にある食堂でペインゴッズのおっさん改め、アートゥラ辺境伯とテーブルを挟みながら会食をしていた。身分を明かされた時はそれまでの言葉遣いや態度でみんな一斉に顔が青ざめて冷や汗を流したけれども、おっさんはこれまで通りでいいと言ってくれ特に問題に問われなかったのは幸いだった。おっさんが元々冒険者であった事が一番の要因で豪胆な性格のおかげだろう。
「にしてもおぬしらがあの村で上げた成果は中々のモノじゃのう。アルバの森のネームドであるマンハントハンギング討伐に加え、ベタンの森の最凶の魔物であるナイトハウンドまで仕留めておるとはなぁ。それも突如増えた冒険者達も含めた村の食糧確保の為の任務のついでときておる。冒険者ギルドからの報告書に目を通しただけでも大した活躍じゃないか」
「マンハントハンギングもナイトハウンドもたまたま倒せただけだよ。実際かなり危なかったし、それとナイトハウンドは当面やり合いたくないよ……本当に死ぬかと思った」
「あれは普段滅多に人前に姿を見せないが、一度狙いを定めた相手には冷静に……そして狡猾にその牙を剥いて仕留める習性をもつ魔物じゃからのう。ワシでも倒すには苦労をする相手じゃしな」
「おっさんアレを一人で倒せんのかよ?!すげぇなマジで……」
「最後に相手をしたのは随分前じゃがの。それはそうとおぬしら、暫くはここを宿として使うがいい」
「領主様!貴方はまた冒険者を拾ってきて……一体何を考えているのですか!」
宿も取らずに直行で案内された為、ボク達は今日の宿が決まっていないのでありがたい申し出なのだけど、領主付きの官吏である内政官のエスメダさんはあまり快く思っていない感じだ。
「使っていない部屋なら何部屋かあるだろう。それになエスメダよ、この者達はアルテック村の住民を救い、この都市の水源たるアルティア湖に発生した魔造ダンジョンの攻略を手伝ってくれたのじゃぞ?感謝こそすれ無下に扱うなどこのペインゴッズの名誉、ひいては王国の威信にかかわるわい!」
「なっ?!そんな事が……。これは失礼致しました。天兎の皆様、先程の非礼をお詫び致します。今夜と言わず暫くはここの空室をお好きにお使い下さい。直ぐに手配をしておきます」
「い、いいの……?」
「ええ勿論です。この領都エイブラムはアルティア湖を水源としておりまして、そこが汚染されたとなればこの都市に暮らす3万人もの住民が汚染水の被害に遭うという事になります。そのような事態になれば被害は甚大な物となり最悪都市ごと捨てざるを得なくなっていたかもしれません」
おっさんの言葉に態度を一変させたエスメダさんは先程までのピリピリした雰囲気を解いてボク達に向け綺麗な仕草で頭を下げてきた。表情からも裏がある感じではなく、素直に自身の非礼を詫びているのが伺える。虎獣人である彼女の背後に見える縞模様が特徴的な尻尾も下がっていて申し訳なさを表現していた。
頭を上げた彼女はくるりとおっさんの方に身体を向けると途端に再びピリピリした雰囲気が滲み出てきた。……これはまだまだおっさん詰められそうだなぁ。
「――で、ご領主?貴方はまた勝手に出回ってそんな事をされていたのですね?私に執務を全て放り投げて?領地視察と言えば聞こえは良いですが、貴方のされておられる事は執務放棄そのものですよ?それも護衛も付けずに置き手紙だけ残されて……。聞いておられます?!」
「いやそれは悪かったと思っておるよ。じゃがもうすぐまた王都で暫く過ごさねばならんのだ、それまでに領地の不安要素は出来る限り摘み取っておきたかったという点は考慮してほしいのう」
「それは分かりますが、いつも貴方はそうやって―――」
先程とは打って変わった態度でおっさんに詰め寄るエスメダさんの表情からは、怒ってるいるというよりかは心配しているといった感情の方が強く読み取れる。詰められてタジタジしているおっさんからは見えないだろうけど、彼女の尻尾の動きからはそんな風に見えた。
「――少しは置いて行かれる私の心配もしてくださいッ!」
ジワっと彼女の瞳が潤む。あれ?もしかしてエスメダさん……。周りの給仕の人達に目をやるとみんな「あちゃ~」って感じで顔に手を当てている。――もしかしておっさん超が付くほどの鈍感ってやつなのでは。
何とも言えない空気の中只管出された料理を平らげていくケントと、暢気に二人の世界に浸って食事を楽しんでいるマリーとベネが羨ましかった。
先週は未更新というわけではなく、一章の手直しをしていました。
主にセリフ回しの句読点とカサネさんの話口調の調整です。
当初考えていたイメージが変化してきたので変化した方に合わせて修正加えていってます。




