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【 Ep.3-007 ダンジョン攻略戦 】

色々調べる事があってスローペースで更新中です。

6月中には王都あたりまでは進めたいところです。



「すっげぇ……。」

「これが、ペインゴッズさんの実力の一端ですか……。元S級冒険者というのも頷けますね。」

「おっさん凄いやんか!こんな強いんやったらここのボスも余裕とちゃうか?」

「今の……目で追えなかった……。」

「俺はなんとか目で追えたっすけど、逆に見ない方が良かったかもしれないっすよ。閃光で少し目がやられたっす……。」


 次々と上がる賛辞の声にもペインゴッズのおっさんは一切動じない。その体はピタリと、まるで石造の様に動きを止めていて何か張り詰めた空気をボクは感じた。


「おっさん……?」


 おっさんがあまりに動かないから心配して顔を覗き込むと、おっさんの額からは滝のように汗が流れ出ており何か異常事態が起きた事を如実に表していた。


「おっさん?!大丈夫!?」

「な、なんやなんや。どうしたんや?」

「どうかしたの?」


 慌てるセラの声に呼応して次々とペインゴッズのそばに駆け寄る天兎メンバーに対し、真剣な面持ちでペインゴッズは口を開いた。


「…こ……。」

『こ……?』


 ゴクリと喉がなる。


「腰をヤってしまった……。すまん……。」

「え、嘘でしょ……?」


 何かとんでもないものを見るようなセラの視線に思わず目を逸らしてしまうペインゴッズであったが、経験のあるモーリィとベネデクトは無意識に後ろ手で腰に手を当てていた。



*****



 ギックリ腰になったペインゴッズのおっさんをベネが背負い、ボク達は下の階層を探索する事にした。あれだけかっこよかったのに色々台無しになったけど、ボクの中でおっさんへの好感度は中々に上昇していた。強くてどこか憎めないチャーミングな所が琴線に触れたんだと思う。


 第三階層はこれまでの二層とは違って通路の大きさが拡大されており、時折道の脇に鉱物や水晶の様な結晶体が突き出して生えていて、モーリィが採れるものを回収しながら最奥部を目指していく。

 出現するモンスターもさらに変化して、ゾンビより動きも強さも格上のグール、スケルトンが武装しているスケルトンナイトやウォーリアー、アーチャー、ランサー、そして骨だけで飛び回るボーンケイヴバットと敵の強さも確実に上がっている。


 グールは単純に性能が上がったゾンビという程度で、硬さと速度がゾンビ以上なのだけど火属性魔法や光属性魔法の前には紙装甲であるのは変りなく、マリーがノリノリで"焼却処分"をしていた。

 スケルトンの方は武装をする事で攻撃パターンにバリエーションが出来、ある程度の連携を取ってくるので此方もパーティの利点を生かして敵の得意レンジを潰す形で殲滅していき、其々がアンデッド達のコアの位置を確度はまだ高くはないものの掴めるようになってきていた。おっさんからはダンジョンに入るまで知らなかったのにもう掴めたのかと驚かれたけど本来ならもう少し時間がかかるような感覚らしい。

 厄介だったのはボーンケイヴバットと呼ばれる小型の骨だけで飛び回るコウモリで、的が小さい上に素早く飛び回るので狙いが付け辛く、此方の攻撃がなかなか当たらない上に、あちらの攻撃はダメージは小さいものの食らうので見かけによらず苦戦を強いられる事となった。ただ、そういった場面を何度か経験すると相手の動き方が読めるようになり、第三階層のセーフエリアに着く頃には問題なく倒せる敵となっていた。



「さて、歩いてきた距離的にそろそろ次の階層への階段かダンジョンコアが存在するコアルームに着く頃じゃ。すまぬがワシはこの通り戦力にはならん状態だが、なに、おぬしらならきっと攻略できるはずじゃ。」

「高く買ってくれているのは悪い気はしないけどさ、あの魔族が作り出したのなら一筋縄ではいかなそうだよね。」

「そうじゃな。じゃがだからと言って避けて通れはせんだろう。最大限警戒して万全を期すしかあるまい。」

「いい事言ってんのに当の本人がその様だと説得力に欠けるなぁ。なぁ?」

「うっ……。それは言わないで欲しかったのう……。」


 ケントのツッコミに項垂れるおっさんはやっぱりどこか憎めない愛されキャラみたいでかわいいなって思った。顔つきは結構堀が深くて精悍で格好いいんだけどね。

 そんな会話をしながらも足を進めていると目の前に大扉が見えてきた。間違いなくアレが所謂ボス部屋って奴だろう。


「分かり易いっちゃぁ分かり易いけど、これ間違いなくボス部屋だよな?」

「ですね。」

「そんなん見たらわかるやん。後は中のボスをいてこまして仕舞いや!」

「……ボス部屋?とはなんじゃ?」

「おっさんの言ってたコアルームってやつの事だよ。ボクらの間ではそう呼んでるってだけ。」

「ほう……。最近ではそう呼ぶのが普通なのか。いやしかし、おぬしらダンジョンは初って話じゃったろ?!」

「確かに実際こうしてくるのは初めてだけど、あたし達一応その手の知識は持っているんだよ。」

「そうか……。そういうもんなのかの。」

「それはともかく中に入る前に強化魔法(バフ)をかけ直そう……って少し休憩挟む?ベネはペインゴッズさんずっと背負ったままだったでしょ。」

「この場所の安全性って大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。コアルーム前まで来るモンスターは基本的にはおらぬから一度休憩するのにはうってつけじゃよ。」

「なら少し休憩取ってから内部に突入しよう。」


 ボクの言葉に皆頷き、大扉前で小休憩をはさむことにした。

 第三階層のここに着くまでに普通に2桁を超える戦闘が発生していてそれなりに疲労が溜まってきているし、ペインゴッズのおっさんを背負ってきたベネは戦闘には直接参加していないものの、おっさんを守りながら位置取りを変えていたので精神的疲労は見た目以上にきているはずだ。

 魔法職にあたるマリー、リツ、シオン、クロさんはマナポーションを飲んでマナを戻している。ボクも何度か飲んでみた事があるんだけどお世辞にも美味しい飲み物では無い。目的を踏まえればマナさえ回復できればいいのだろうけど、それにしてももう少しマシな味にできないだろうかアレ……。

 一方後衛職らとは違ってボクも含めた前衛職の連中は体力回復ポーションを飲んでいるんだけど、此方は基礎材料さえしっかり錬成できれば後からフレーバーを足しても問題がないらしくイチゴに似た味がするベリー系のフレーバーを入れてあるおかげで口当たりは悪くない。マナポーションはその辺りが少し難しいらしく、余計な物を混ぜ込めない故にあの味のままであるんだとか。

 そんな事を考えていると体力回復ポーションの効果が出始めたのか身体がポカポカしてき始めた。この体力回復ポーションは傷口にかけても効果を発揮するのだけど、経口摂取が最も効果が出る接種方法らしい。手傷を負った時とかは流石に悠長に飲むわけにもいかないのでかけて使う事が一般的らしく、その場合は即効性はあるもののある一定ライン以上の治癒効果が発揮されなくなるというデメリットもあるんだとか。

 そうした観点から回復職の治癒魔法は破格の性能らしく、パーティに一人は加えておきたいクラスと言われているのだけど、適正持ちの希少さゆえに非常に厚遇される存在でもあるらしい。

 それでも病気などには回復魔法は効果が発揮されず、その手の対処は薬師や錬金術師の範疇にあるというのをカサネさんのところの文献で見た。

 基本的には便利な魔法だけど、それでも万能な力とはいえないのは現実に則したファンタジー感があるなぁと思った。


*****


「さて、そろそろいいじゃろう。このダンジョンにケリを付けんとな。」

「おっさん腰大丈夫なの?」

「立ち上がって歩ける程度には回復はしたぞ。ただ流石に激しい戦闘は出来んじゃろうな……。おぬしらに声を掛けた本人なのに申し訳ない。」


 そう言ってペインゴッズのおっさんは丁寧に頭を下げてきた。見た目だけで言えばチグサと同程度だけど、実年齢だと確実に年配者であり、かつ元S旧冒険者だというのにこのおっさんはボク達新米とも言える冒険者達に向けて誠意のある行いをしてくるのでとても印象がいい。


「気にしないでよ。さっきのアレがなかったらここに来れてなかったと思うし、それに臨時とは言え今はボク達同じパーティメンバーなんだからさ。それぞれができる最善を尽くす。それでいいでしょ、ね?」

「そうっすよ!後は俺達に任せておっさんはどっしり構えておけばいいんすよ。」

「こう言う奴らなンだよ。だからアンタが気にするこたぁねぇさ、ペインゴッズさんよ。」

「せやでぇ。うちらいつもこんなんやし大丈夫や。気にする事あらへんで。」


 ボク達天兎の基本方針は"それぞれができる事の最善を尽くす"。個々人がそれぞれ多種多様な事情を抱えているネットゲームにおいて互いの距離感を保ちつつ、強制感を可能な限り抑えつつより良いパフォーマンスを引き出すための方針だ。

 短い時間しかログインできないメンバーや、対人が得意ではないメンバー、対人は得意だけど金策が苦手なメンバー等色んな奴らが居て、それぞれが互いの短所を補って埋める様に、そして長所を伸ばせるように協力していた。今も昔もこの方針はボク達の中で不変のお約束ってやつだ。


「おお、そうか。――良いパーティ、良いファミーリアじゃの、おぬしらは。」

「ニシシ!褒めてもなんも出ぇへんで~。」

「そうだよ、別に気にしなくていいよペインゴッズさん。私達の間ではいつもの事だから。ほらみんな強化魔法(バフ)かけるからこっちきて。悪いけどクロさんも半分担当して。」

「はい、任せて下さい。」


 リツとクロさんにバフを掛けなおしてもらい、改めて大扉に向き合う。

 ――出来て間もないダンジョンだというのにその金属部分はある程度の年月を経たかのように変化していて、真新しさは感じられない。所々錆びが浮き出ていて一部は欠けているのだ。


「突入後はケントを軸にした受け組と攻撃主体の二組に分けれて対応。シオンはケント付き、クロさんはアタッカー組を、リツは状況に応じて対応して。ベネはいざって時のサブタンクよろしく。シキはおっさんの方も気に掛けつつ攻撃陣へ……それじゃ開けるよ。」


 中での動きのベースとなる編成を伝えながら扉へ力を込める。見た目の古臭さに反して意外にもその重さはそれほど感じる事はなく、音だけはズズズと扉が床を擦る重い音を鳴らしながら開いて行く。


 開かれた扉の先に広がっていた光景はこれまでとは似ても似つかぬ様相を呈していた。

 ――灰色の壁に覆われた円形状の大広間。これまでの自然を再現したかのような光景とは異なる明らかに人工物で占められた空間。その中央部には此方に背を向け、俯いている男らしき背中が伺えた。その人物は扉が開かれた音を耳にしているであろうに一向に此方へ振り向く事なく、小刻みに身体を震わせている。


「なぁ、あれって人間……だよな?」

「パッと見は……ですが、明らかに異質です。」

「ちゅーか見るからに罠やんあんなん。なぁ?」


 あからさまな罠の気配に皆警戒を強める。それぞれ得物を構えつつゆっくりと男へ近づいていく。


「……ったじゃないですか。」


 ある程度近付いたところでボソっと男の声が聞こえた気がした。


「なんだ……?」

「ケント、構えは解かないで。」

「遅かったじゃないですか。皆さンが来るのを待っていたんでスよ……?」

「「「「「!?」」」」」


 背中を向けたまま男は言葉を発する。存外その口調ははっきりとしており、置かれている状況から異様な空気が大広間を包む。


「……お前は誰だ。」

「私……ですか?あの村の人から聞いてイませんか?私はここへ調査にきた風水士(ジオマンサー)のギュンターと言います。」


 そう言えばアルテック村の村長の話の中で、先に汚染の原因を調査にきた風水士(ジオマンサー)が居て何日も帰ってきていないと言っていたっけ。

 だけどそうだとしてもこの状況はおかしい。このダンジョンそのものがあの魔族が作り出したものである事。そんな場所の最奥部の、しかもコアルームのど真ん中に此方に背を向けたままの行方不明になっていた人物がいる。そしてこのダンジョンの種類は不死(インモータル)であるという点からあの風水士(ジオマンサー)が"生きている"人間である可能性はほとんどないだろう。


「それで?こんなところで何をしているの?」

「あァいえ……調査をしてイたらここに辿り着きマしてねぇ。フフ……。」

「ボク達を待っていたっていうのは?」

「それは決まっていルでしょう?ここから出る為に君達の協力が必要だかラですよ。」


 そう言いながら身体を起こし、こちらへ振り向いたギュンターの顔色は既に生者のそれではない土気色をしている。そして彼が俯いていた理由がぼこぼこと盛り上がり通常の人の倍以上に膨らんだよく分からない臓器な様なものが表面に浮かび出ている歪で不気味な右手に握られていた。

 ――首の皮一枚で繋がっている干からびているような人の胴体と頭。身体の至る所に噛み付かれ、引き千切られた噛み跡が見られる。辛うじて伺えるその服装からアルテック村の住民の一人だと思う。

 間違いない、コイツが――このギュンターと名乗る男が"喰べた"のだ。


「私ガもう一度外に出るための贄としテ!きミ達を待っていタんだよ!!さァ、私に君達の血肉ヲ捧げろ!!!!グルォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアッ!!!!!!!!」

「来るよ!!」


 此方に向けて駆け始めたギュンターだが、直ぐにその体に異変が現れる。皮膚がブクブクとうねったかと思うと、そこの部位が激しく膨張して彼の右手と同じ様に醜く歪な肉体を形成していく。その光景は一部に強いファンがいたサバイバルホラーアクションゲームの再現のようだ。

 ギュンターの変貌と同時に部屋の壁面の一部が開いてそこからゾンビとグールがのそりのそりと這い出てきた。


「雑魚はそっちで掃除して!それが終わり次第こっちに加勢を。それまではボク達がこいつを引き受ける!」

「っす!任せて下さいっす!」

「すぐに加勢してやるからそれまで踏ん張れよ!」


 咄嗟に動きの指示を出してシキとベネが答える。マリーとリツは既に詠唱に入っていて即応力の高さを見せつけている。おっさんは少し離れた位置にいて壁から湧いてきた手近なゾンビ達をその場から動かずに一網打尽に斬り伏せていってる。

 そのおっさんがゾンビ共の処理の間隙を縫ってこっちに視線を寄越す。

 おっさんの視線の先、ギュンターが盾を構えるケントの前に着いた時には、既にその肉体はヒトの形から大きく外れた醜い怪物へと変貌していた。


「グールの特異種……?いや、これはゾンビロードか。それもなんらかの儀式である程度の意識を保たせたまま狂化されておる。なんと悍ましき事か……。」


 おっさんが漏らした言葉を他所に、ブォン!という重い風切音を鳴らして振るわれた下段からのアッパーパンチを盾で受け止めたケントは、その場で支えきれずにズザァーっと音を鳴らしながら5m程度ノックバックさせられた。


「なんつー重さのあるアッパーしてきやがんだよコイツ。だが、防げねぇ程じゃねえ。タゲ受けは俺に任せてみんな攻撃頼むぜ!さ、セラ!チグサ!いくぜッ!!」


 トントンとその場で軽くジャンプしながら軽口を叩いた後、ケントは腰を低く据え、盾を構えるとそのままシールドチャージを仕掛けた。


「うおおおおおぉぉぉッッッ!!!」


 ボクもそれに続く形で駆け、チグサもボクの後ろに続いた。出し惜しみ無しにボクたち三人が得意とする連携技"三ツ星の流星(メテオレ・ア・トレステーレ)"で相手の上を取りに行く!

 ギュンターはボク達三人の軌道を読みきれず、真正面からケントの<シールドチャージ>が決まって<気絶(スタン)>状態に入った。

 ボクはそれを確認する前に大きく踏み込んでケントの背中越しに空中へ跳びあがる。アニール所以の身体能力と尻尾があるおかげで空中での姿勢制御もし易く、態勢を整え得物を振りかぶって<ゾンビロード・ギュンター>の左肩に<ライトニングスラッシュ>を打ち込んだ。

 ボクのスキルが決まると同時に、相手の右側を駆け抜けたチグサの<高速抜刀斬>が綺麗に入り、ギュンターの右脇からは腐った臓物が飛び出し、左肩から先はドサリと地面に斬り落とされた。


「アァァ"アア"ア"ア"ッ……!!!!」


 攻撃の痛みにによりスタン状態から復帰したギュンターは目の前に居るケントを無視し、ダメージを与えたボクとチグサの方へ体を向けようとするが、その横っ面に大きな火球が直撃して頭部全体を包んだ。


「ヌゥァアアアアアアアアアアアアアア"ア"ア"アアッ!!!!」


 火球に包まれた頭部を残った右腕で庇っているところへ次々とボルトが刺さり、そこへダメ押し

のリツが放ったであろう<電撃(ショックボルト)>が直撃し、ギュンターは体勢を崩して床へ転がった。攻撃陣は既に雑魚処理を終えたみたいだ――このチャンスを見逃す手はない。

 一旦ギュンターの後方へと駆け抜けていたボクとチグサはその足を止めずに再度ギュンターへ攻撃を繰り出す。前方ではケントがギュンターを警戒しながら後方のシオンを守りつつ次の手をいつでも出せる様にしている。さらにその後方ではマリーとリツが再度詠唱に入っていて、モーリィとセトでクロスボウを構えていた。ボク達二人が離れ次第追撃を行うつもりだろう。

 クロさんとベネは中間に位置取りどちらもカバーできる状態になっていて、シキはおっさんの近くに陣取って警戒に当たっていた。いちいち指示を言わなくても良い位置取りをしているのは安心できる。


 ボク達の連撃の前にギュンターは細かく斬り刻まれ、焼かれ、ダメージを着実に蓄積しているものの不死者故の特性なのか、傷を負った部分から百足の様なものが飛び出したかと思うと傷口を縫合しては塞いでいく。初手で斬り落とした左腕も不格好ながらも既に元に戻っていて見た目的に大した痛手を負っていない様に見える。

 いや、それどころかヒールエフェクトの様なものが現れたかと思った次の瞬間、ギュンターの肉体が一回り膨らんだ気がする。いや、確実に一回り大きくなっている!


「おっさん!これダメージ与える前より強化されてない?!」

「恐らくダンジョンコアの影響じゃろう。そいつの肉体の中にダンジョンコアが埋め込まれている可能性が高い。基本的なダンジョンではありえん事だが、ダンジョンコアをそのまま"コア"と同調させているんじゃろう。」

「何かいい手はないのですか?」

「確実なのはダメージを回復される前に高火力で押し切ってダンジョンコアを破壊するという手じゃな……。傷を修復すると共にそいつの肉体はより強固に強化されていくみたいじゃし…――いや待て、何かおかしい!」


 おっさんが修復していくギュンターを見ながら対応策を教えてくれていた時その現象は起きた。

 一回り膨張したギュンターの体の中からビシュっと音を立て、血管の様な赤い管が四方八方へと鞭のようにしなりながら伸ばされたのだ。


「いかん!<生命力吸収(ライフドレイン)>じゃ!みな、避けるんじゃ!!!」


 ボクとチグサは咄嗟にバックステップを踏み難を逃れ、ケントは後ろに居るシオンを守る形で盾を構えて防いでいるのを確認出来た。


「ぐぁッ!!」

「グッ!!」


 悲鳴の上がった方向、マリーやリツの居た攻撃組のあたりでベネとセトのくぐもった声が耳に入ってきた。自身の身の安全を確認してすぐにその方向へ目を向けると、飛び込んできたのは恐らくマリーを庇ったのであろうベネの左腕に管が突き刺さっていて、詠唱していたリツをカバーしたセトの右太腿にも同様に管が突き刺さっている姿だった。

 突き刺さった管は脈動し、その都度二人が苦痛に顔を歪ませ、逆にギュンターの体は更に膨張して強化されているように見える。


「ベネ!セト!!」

「今すぐその管を斬るんじゃ!」


 おっさんの声に即座に反応しセトがダガーで自身に突き刺さった管を切断し、隣のベネの管も切断したところで力が抜けて膝をつくと同時に、二人に向けて<治癒(キュア)>と<回復(リカバー)>の回復魔法が掛かる。

 二人がダメージを受けたのを見てすぐにシオンとクロさんがカバーに入ったおかげでベネとセトの傷口が塞がっていき顔色も回復してくる。

 声を出したおっさんは自身に向かってくる管を斬り伏せて防いでいた。流石元Sランク冒険者だと安心だ。


「此方はお任せを。」

「あたしが居るの忘れてない?絶対死なせやしないわ!セラはさっさとそいつをやっつけてよね……ってセラ、後ろ!!!」


 顔だけ此方に向けて焦るシオンの声に反応してギュンターへと向きなおすと、奴の後ろの壁に突き刺さった管の周囲が崩れ落ちそこにぐったりと倒れている5人ほどの人影が確認できた。遠くて良くは見えないが微かに身体が動いているので死んではいなさそうだけどギュンターの<生命力吸収(ライフドレイン)>を受ければ間違いなく死ぬ。壁をぶち破った管は獲物を選ぶかのようにウネウネと先端をしならせている。放っておけば間違いなく彼らが犠牲になってしまう。


「セラはアレを倒せる手立てをお願いします。彼らは私がなんとかします!」


 ボク達の中で最も彼らに近い位置にいたチグサがギュンターが伸ばした管を斬り倒しながら彼らの元へと向かった。だけどギュンターもただそれを黙って見過ごすはずがなく回復し一回り以上膨張した体を起き上がらせチグサに向けて攻撃を仕掛け始めた。


「そうは、させるかよッッ!!!セラ、相談する時間は稼ぐ。こいつを倒すカードを見つけてくれ!」


 チグサへと意識が向いたギュンターの攻撃を再び自身へと向ける為、<シールドスマイト>でケントが強烈な一撃をかますとギュンターのヘイトはケントへも向けられチグサが倒れている人達の元へとどうにか辿り着けた。

 ボクはその様子を見ながらケントにギュンターを少しだけ任せて一旦マリー達と後退して合流し、あの化物を倒しうる高火力の攻撃手段について急いで相談した。


「――と言うわけでボクは<狐火>を全力でぶっこむから。」

「そしたらうちは<炎陣(フレイムサークル)>を叩き込むから巻き込まれんように気ぃつけや?」

「セラ、あれを練習してんのは知ってるが、全力で使ったら意識飛ぶだろまだ。大丈夫なのかそんなので。」

「ギリギリで粘ってみせるよ。それに……このままだとジリ貧からの全滅コースだよ?ぶっつけ本番だけどやるしかないんだよ。」

「ベネも覚悟決めなよ。セラがこうなったら私らがいくら言っても聞きやしないって。」

「リツの言う通りだぜベネ。俺らのボスがこう言ってんだ、信じて俺らも動くしかねェだろ。」


 ボクの<天恵(ギフト)>である<狐火>と、マリーの火属性初級魔法の中でも火力を一、二位を争う<炎陣(フレイムサークル)>の合わせ技(クロスアビリティ)なら、あのギュンターの不死属性の多くが弱点とする火属性で大ダメージを狙えるはずだ。

 ただベネとしてはまだボクが<狐火>を使った後マナ不足でぶっ倒れた事があるから心配みたいだ。こればっかりは火力調整次第だからボクもどうなるかは分からない。けど、この状況を打破する一手は恐らくこれ以外に今の状況ではないと思う。


「はぁ……リツは俺側だと思ってたんだけどなぁ。まぁ分かった、マリーもやるって言ってんだしな!俺もやってやるぜ!」

「<狐火>と<炎陣(フレイムサークル)>の合わせ技っすか……火力は期待できるっすけど影響は大丈夫なんすか?」

「そこで私とクロさんの出番ってわけ。二人とも侍祭(アコライト)練技士(エンハンサー)のクラスを取得してるから強化魔法(バフ)の一種の<魔力の防壁(プロテクションバリア)>を張って輻射熱とか諸々防ぐんだよ。僧侶(クレリック)のクラスにいったシオンだと出来ないけど、あっちはケントの盾のカバー範囲に入れば大丈夫だよね、モーリィ。」

「あぁ問題ねェ。アイツの持ってる盾なら熱風くらいなら防げる。」


 あの盾結構優秀なんだなぁって思いながら、ボクは<狐火>の発動準備をする。後の指示はこのままリツが続けるだろうし任せておこう。


「ってことでシキとセト、私達二人はチグサの方へ合流しなきゃいけないからあそこまでしっかり私を守ってね?ベネとモーリィはマリーとクロさんを守りつつペインゴッズさんと合流して。」

「イケメンエルフにそんな感じに頼まれると中々複雑っすけど…了解っす。」

「分かった……。」

「こっちも了解だ。任せてくれ。」

「聞こえてたよなぁ、ケント?」

「ああちゃんと聞こえてる!タゲ維持と守りは任せてくれ。」

「よし、じゃあみんな行動開始!!」


 リツの掛け声と共にそれぞれに分かれて行動に移る。リツ、シキ、セトの三人は壁沿いをチグサの方に向かってギュンターの管による攻撃を跳ね除けつつ駆け抜け、ベネ、マリー、モーリィ、クロさんはペインゴッズのおっさんの近くへと合流し、即座にマリーが詠唱に入りクロさんは強化魔法をそれぞれへと掛けなおし、ベネとモーリィとおっさんの三人でギュンターの攻撃を退けている。

 ボクはケントの後方へと移動し、ギュンターの猛烈な直接攻撃を凌いでいるケントを信じて石突を下にして得物を床に立て、目を瞑り、内なる力を引き出すために集中する。


 ――静かな暗闇の中、微かに燈る揺らめく蒼き焔。そこへと近付き両の手を抱える様に炎へと手を翳す。瞬間、自身の掌に強力な魔力の揺らめきを感じる。これこそが<天恵(ギフト)>の<狐火>の力。


 目を開けるとギュンターの攻撃を往なしてカウンターに<シールドストライク>を叩き込んだケントの姿がそこにある。自身の掌に集う大きな力を全身に行き渡らせながら森羅晩鐘(あいぼう)を手に取り穂先をギュンターに向ける。


「そのまま床に貼り付いてろ!樹々怪々!!」


 穂先が指し示すギュンターに向け、何もなかった空間から樹槍が現れてはギュンターを床に縫い付ける様に突き刺さっていく。これでやつは碌に動く事も出ない。


「マリー!!」

「―――集い、渦巻き、彼の者を囲め!沸き立つ火の粉、躍る炎よ、我が敵を焼き払え!<炎陣(フレイムサークル)>!!」

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」


 樹槍で床に貼り付けにされたギュンターをマリーの<炎陣(フレイムサークル)>が轟々と音を爆ぜながら炎で包んでいき、渦巻く炎の中からギュンターの絶叫が突き抜けてくる。

 顔面に強い炎の熱風を受けながら再度ケントの後ろへ入って得物を床に突き刺し、全身にみなぎる大きな流れを一つにまとめ上げていく。


『集え、謳え、躍れ、業火の紫焔よ。我らが炎、我らが力、我らが光、我が身に顕現し、その力を今ここに示せ……!!』


 胸の前にボールを持つように上げていた両の掌の中空に青紫色の炎が浮かび上がり、同時に身体の内側から物凄い勢いで力が吸い取られていくのを感じる。


「なんじゃあの炎は……!?それにあの黄金色に変わった眼……これはセラの<天恵(ギフト)>なのか?!」

「せやで。よぉ見ときやぁ……うちらのボスかておっさんには負けとらんとこ見せたるわ。」


 胸の前で輝きを放つ<狐火>に意識を集中する――。より強く、より熱く、再生も出来ぬほどの威力となるよう力を注ぐ。――狐火は大きくなり更に輝きを増す。


 自身の持てる力を殆ど注ぎ込んだそれを右手で操作し、舞うように跳躍していまだ燃え盛る<炎陣(フレイムサークル)>の中のギュンターへと投げつけた。


 グ・・・アアァァ・・・・・・・オオオオォォオォォ・・・・・・・・オオオ・・・・ッ!!


 二つの炎が重なり合った瞬間、<炎陣(フレイムサークル)>と<狐火>が互いの炎を互いに強化していくように爆ぜた――強烈な熱風がギュンターを中心にコアルーム全体へと吹き抜け、轟々と燃える火柱の中から声にならぬ断末魔の叫びが部屋全体へと響き渡った。


 赤き炎と蒼き炎は互いを喰らい合う様に螺旋を描き、膨大な熱量を放った後静かに鎮火した。


 少しだけ燻る火の粉が部屋の中を舞う。その発生源であるギュンターはその肉体の全てを炭化させボロボロと崩れ始めている。

 膨張していた肉体も焦げ付いた匂いを散らしながら灰へとその姿を変えていき、上半身は元の姿であろうヒト形に戻っていて、彼の心臓があったかと思われる場所に酷く汚れて毒々しい色を放つ緑色のコアが露出した。


 ケントの盾の陰から得物を支えにして歩み寄り、ギュンターの前に立つ。


「――まない……。」

「?!お前…意識が?!」

「……流石に…回復が追い付かないみたいだよ……はは。迷惑を、かけたね……。」


 ボクとギュンターの様子に気付いたみんなが近くに寄ってくる。


「あの……魔族に囚われて…このザマさ……。実験だ…なんだと言われ、体にダンジョンコアを埋め込まれたんだ……。そこからは……よく覚えて…ないんだ。ただ…自分が得体の知れない……狂気に呑まれていたのは…わかる……。」


 息も絶え絶えに語るギュンター。彼の肉体は既に下半身は灰となって消えている。


「一つ…頼みがある……。領都の、ギルドに……リシアという名の受付嬢に、これを……。」


 そう言ってギュンターが右手を首元にあてて差し出し渡してきたのは彼の冒険者タグだ。ボクに手渡すと同時に右手も炭化の影響でモロっと崩れ落ちた。


「――折角、私の為に……依頼をとってくれたというのに……最後まで…私は情けない…奴だ……。あぁ……だが、君達に……出逢えた…のは……、これ以上……私の様な……犠牲を出さずに済んだから……少しは意味があったのかも…しれないな……。」


 そう言いながらギュンターの肉体は全て灰となり、ゴロリとダンジョンコアであろう毒々しい緑色のコアが床へと転がり、しばらく弱弱しく明滅し脈動した後光を失ってその動きを止めた。

 なんとも言えない空気が辺りを包むが、ボク達が初のダンジョン攻略を成し遂げた事に変わりはない。床に転がっているダンジョンコアを手に取り、インベントリポーチへと収納する。

 隠し部屋に倒れていた村人たちもシオン達の回復魔法での手当のおかげかふらつきながらも立ち上がり始めている。ボクも立ち上がろうとしたところで膝から力が抜け、床が眼前に迫る。


「ったくやっぱり無理しやがって……。」


 こけかけたところをベネが体の前に腕を差し入れて受け止めてくれたお陰で顔面強打せずに済んだ。無意識に気が緩むと途端に体から力が抜けるのが<狐火>の反動でありデメリットなんだよね……。セトが無言で差し出してくれたマナポーションを手に取り口に含む。――美味しくない。


「まだ足がふらつくだろ?おぶってやるからしばらく休んでろ。」

「……ありがと。そうさせてもらう。」


 マナポーションである程度気怠さはマシになるものの、マナ以外も消耗するみたいで十全な状態とはいかなくてベネの言葉に甘える事にした。広くて少しごつごつした背中にもたれ掛かるとベネに背負われて視界が高くなる。


「さて、ダンジョンコアも回収したし外へ出よう。ダンジョンコアの不活性化が成った今、このダンジョンは暫くして崩壊してなくなるじゃろうて。」

「出るのはいいけど来た道を戻るの?」

「いや、その心配はいらん。奥を見てみるんじゃ。あそこの床に描かれた魔法陣が見えるかの?あれの上へ立てばダンジョンの入口までテレポートできるんじゃ。」

「それは助かりますね。何しろ保護した村人の方々を守りつつ来た道を戻るのは流石に骨が折れそうでしたし。」

「さ、崩壊する前に脱出しよう。――よくやったなおぬしら、これにてダンジョン攻略達成じゃ!」




 ペインゴッズのおっさんの労いの言葉といい笑顔に、ボク達天兎メンバーはようやくダンジョン攻略を成し遂げた事実を噛みしめ各々に笑顔がこぼれた。






次回はいよいよ領都です。

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