【 Ep.3-002 魔族との遭遇 】
更新がずれ込んですいません。
取りあえずある程度の段階での投稿という形なので後程少し修正入れるかもしれません。
※2019/2/27 13:00 サブタイトル一部修正しました。
テガープ村長が教えてくれたルート通り、村に引き込んでいる水源であるアルザス川の支流を辿ってアルティア湖へと向かう。
村長の言っていたようにこのルートは多少道は悪いが比較的安全であるらしく、付近にモンスターの気配は感じられない。
「足場は言われていたように少し悪いですが、森の中でモンスターを相手しながら土地勘のないまま湖を目指すよりかはマシですね。」
「坂の上からだと位置関係が分かるけど、流石に高低差があまりない状態になるとどの方角に湖があるかは視覚的に把握しづらいしね。」
「川の上流目指せば湖に着くんやから楽でええやんね。オマケにモンスターの心配も少なくて済むし。」
「一応周囲の気配は探ってるんすけど、小さな野生動物くらいしか探知に引っかからないっすね。」
周囲を警戒しながらアルティア湖へ向け川の上流へと進んでいくと、徐々に森が開けていき視界に光を爛々と反射する水面がその姿を現した。
「ん~~綺麗だね、やっぱり。」
「見惚れる気持ちもわかるけど、日が暮れるまでにはある程度手掛かりだけでも見つけておきたいから急ごう。」
「ですね。」
先頭に飛び出したシオンの気持ちも十分理解出来る光景が目の前に広がっている。
透明度の高い水質なのだろう、浅い部分の湖底ならそのまま見る事ができるレベルで、舟でも浮かべればまるで浮いているような錯覚に陥りそうだ。
とは言えいつまでもその光景に見惚れているわけにもいかない。今は依頼を受けてその任の真っ最中なわけで、陽が落ちるまでには村へと戻れるように急いで探索をしなければならない。
「結構な広さがありますね。ここは二手に分かれて湖の周囲を一回りしてみませんか?」
「そうだね。班分けはどーしようかな。」
「基本いつもの職ベースでの分け方が一番楽なんとちゃう?」
「かなぁ。じゃボクの方にケント、リツ、クロさん、モーリィで、もう片方はチグサ、シキ、セト、シオン、マリーとベネで。」
チグサの提案を受け、職ベースでのパーティ分けをする事にした。探索できる時間も限られてる中で、安全性を確立しつつ効率を求めるならこの方法が今のところベストだ。
ボクの班はケントがタンカー、リツとクロさんがバッファー兼ヒーラー、ボクとモーリィがアタッカーのロール。チグサの班はベネがタンカーで、シオンがヒーラー、シキはアタッカー兼バッファーとして動き、チグサとマリーとセトがアタッカーというロールだ。
「では私達は対岸側から探索してみます。一応何かあった際には此方はマリーが火球を打ち上げて合図を出します。」
「了解。ボク達はこっち側から探索するね。こっちの合図は……。」
「それなら丁度イイのがあるからこれを使えセラ。」
そうしてモーリィから放り投げられたのはしっとりした手触りのする掌大の白いボールだ。
「何これ?」
「名前はつけちゃいねぇっつーか、そのまんまなンだが、平たく言うと照明弾って感じだな。魔力を込めるとそれに呼応してある程度飛び上がった後3分程度はその場で光源を維持するってシロモノだ。エンチャントの練習で作ってみたんだが、使えなくはないだろ?」
「そうだね、それなら合図にはいいかもしれない。じゃあこれ貰っていくね。」
「リツ、私達に<纏風脚>のバフをお願いします。」
「了解。みんな近くに寄っておいてね~……<纏風脚>!」
「ありがとうございます。それでは私達は彼方側から探してきます。さ、行きますよ。」
チグサの要望通りにリツが<纏風脚>を掛けると、チグサを先頭に川から突き出た岩を足場にして対岸へと渡っていく。
結構な川幅があり、どうやって対岸へ渡るのかと考えていたけど、魔法の力とこの世界の肉体は元いた世界の身体よりも遥かに高スペックなのだろう、難なく対岸へと渡っていくメンバーを見送った後ボク達の班も探索へと出発した。
*****
陽が傾いてくる中湖畔に沿って奥側へと進んでいくに従い、周囲にどことなく臭気の様なものが漂い始めてきた。まるでゴミ出し現場がカラスに荒らされた時の様な悪臭で正直普通に臭い。
「さっきから酷い匂いがするんだけど……。」
「そうか?やや煙いなとは思うけどそんなにか?」
「セラは獣人族だから嗅覚も私達より優れているんじゃない?私も匂いは分からないけど、この先の森の奥から何か騒めきみたいな雰囲気を感じるよ。」
「私もリツさんと同じ様に何か気配を感じます。」
「どっちにしろ変化があったんだ、バフかけておこうぜ。」
モーリィの言葉を受け、リツとクロさんがいつ戦闘に入っても大丈夫な様に強化魔法を掛け、ボクも背中に懸架していた得物を手に持ち万全の状態で臭気の濃い方へ向かった。
足を進めるにつれ臭気はより濃くなり、目に見えて霧のように辺りを漂い始め"何かある"と思わせるには十分な状況がボク達の緊張感を高めていく。
『ーーーーーーーーッ!!ーーーーろっ!!』
『〜〜ッ!!〜〜〜ィ!!』
ふと誰かの叫び声らしき声を耳が捉える。距離がまだあるせいか内容はハッキリとはしないが、その声色から逼迫した印象を受ける。これはもしかしなくても捜索対象の村人達かもしれない。
「声が聞こえた。みんな、こっち!」
「おう!」
音源の方へと駆けながら臭気の靄は濃くなっていき、視界が悪くなってくるに従ってボク達の耳に甲高い金属音が響いてくる。その音が一つだけでは無い以上、間違いなく誰かと"何か"が交戦していると判断できる。意識しなくても得物を握る手に力が入る。
―ガガンッ!!ガキンッッ!!キン!ギャリン!!
金属同士がぶつかり合って発する音がハッキリと全員の耳に始めてすぐにその光景が目に入った。
――2メートルは優に越す大柄なシルエットの男。その両手には禍々しいオーラを放つ大柄な戦斧が握られ、信じられない様な速さで振るわれている。
頭には捻れた角が突き出していてその形は獣人族には見られない歪さを醸し出している。何よりもその顔は蜘蛛のような眼が八つ付いており、口もまた獰猛そうな牙が見え隠れしている。
そしてその男の側には直剣を柄で繋いだ形の槍の様な武器を巧みに扱う、スレンダーなボディに凶悪な主張をする胸、薄いネイビーブルーの肌をした女性が付き従っている。
此方は顔は人族と変わらない作りをしてはいるものの、頭部には男同様捻れた角を有し、腰に近い背中からは小さいものの蝙蝠に似た翼が生えている。
多少の差異はあるものの、その身体的特徴から村長の話に出ていた魔族の二人で間違いないだろう。
そんな魔族の二名を相手に、背後に行方不明となっていたのであろう腰を抜かした若い男達を守る様に猛攻撃を凌いでいるのは、齢五十は超えているかと思われる立派な髭を蓄えた老練な雰囲気を纏ったヒュームの男性だ。得物はボクと同じくハルバード系であり、まるで自分の腕のように武器を巧みに操り、代わる代わる連携攻撃を仕掛けてくる魔族の二名を相手に一歩も引かない攻防を行っている。
だが後ろに護衛対象を抱えているせいで動きの幅が制限されており、緩急をつけた魔族二名の攻撃に押され気味の様に見える。
二人掛かりの攻防で何度か入れ替わりが発生するが、手数が多い魔族の女性が前面に立ち男性がやや後方へ下がったかと思いきや、男は懐から何やら取り出しそれを地面へ撒くとそこから異臭を放ちながらインプが召喚された。
召喚されたインプの数は八体。下級悪魔でありそこまで強くないと言われているインプではあるが、二人の相手をしている老獪の戦士にはそれらを相手取る余裕などなく、召喚されたインプ共はゲタゲタと不快な笑い声を上げながら男性が守っていた若者達の元へとにじり寄っていく。髭の男性もそちらをどうにかしたいような素振りを見せるが、魔族の二人を相手するだけで手一杯の様でインプへ一切の対応をさせてもらえない状況だ。
「ケント!強制介入するよ!!」
「おうよ!!!」
それぞれ得物を手に駆けながら、モーリィから受け取っていた照明弾に魔力を流す。その瞬間手の中にあった白い球は手元から離れて空へと浮かび上がっていった。
『あの女の武器……ボクの予想が正しければ女の方は封殺に持っていける!だからってそっちに真っ直ぐ行くのは男の方からの横槍を入れられる可能性が高い。ならフェイントも兼ねてまずは男の方に一発入れに行く方が対応はし易くなるはず……!』
後方から照明弾の明かりが射す中、ボクは一直線に髭のおっさんと対峙する魔族の元へと距離を詰めていく。ケントとは視線で会話を交わし、ボク以外は若者達の方へと流れてインプへと対応を開始している。
打ち上がった照明弾に魔族と髭のおっさんの双方も気は付いてはいるものの、あくまでも意識は目の前に対峙する相手へと向けられている。
インプの召喚をする間場を持たせていた女性が下がり、再び魔族の大男が髭のおっさんと熾烈な撃ち合いを再開し、辺りには重く響く金属音が反響する。割り込むならこのタイミングしかない!
「加勢するよ、おっさん!」
「おぉ、誰かは知らぬが助かる!」
声を掛けながら速度を最大に上げて駆け、運動ベクトルを<刺突>に乗せて魔族の男性へとお見舞いする。
「ゼハク様ッ!!」
魔族の女性がボクの動きに気付いて片割れに警告を促すが一歩遅い。助走の移動エネルギーを乗せた穂先は彼の胴を貫く勢いで既に放たれている。
――気のせいか、一瞬彼の眼の中のひとつがこちらを見た気がした。
ガィィインンンッッ!!
単純ながら全ての槍系武器の基礎スキルとなる刺突はそのままゼハクと呼ばれた魔族の男性に決まるかと思われた。だがしかし、渾身の刺突であったにも関わらず、おっさんへの攻撃に振るわれた薙払いを無理矢理その腕力で軌道を変えてボクの森羅晩鐘を弾き返してきた。
その威力は凄まじく、恐るべき膂力で持って振るわれた戦斧から伝わる衝撃は刃から柄へと伝わり、柄から腕へと、腕から身体へ、身体から脳へと伝播し、一瞬ではあるがセラの意識を飛ばしその身体は宙を舞った。
『なんて膂力なんだ!虚をついたのにそれへと対応して尚この威力?!こんなのと打ち合ってたあのおっさん何者なんだ……っと、でもこれで狙い通り!』
宙を舞いながら意識をすぐさま取り戻し、空中で体勢を整え危なげなく地面へと着地したところに魔族の女性が襲い掛かってくる。
「我等の邪魔をするな、矮小な人族ども!!」
両刃の武器を自身を軸にして振るってくる彼女の攻撃は棒術と槍術をベースにしているのが見て取れる。動きは洗練されてはいるが、一撃の重さはゼハクの戦斧ほどの威力はない。
二、三合打ち合ったのち互いに距離を取ると、こちら側に近いゼハクの眼が鈍く赤く光り、女の方へ声を掛ける。
「……キリカ、そいつの処理は貴様に任せる。」
「ハッ!畏まりました。」
どうやら魔族の女の名前はキリカと言うらしい。
――互いに間合いを読み合い、相手の一挙一動を逃すまいと場の緊張感が高まる。
「先に言っておくよ。お前の攻撃はボクには通じない。」
「大口を!我が一族に伝わるこのケミスブレードが通じないかどうか、その身を以て後悔するがいいッ!!」
自身の武器と技に余程プライドがあるのだろう、ボクの挑発を受けたキリカは顔に青筋を立てて襲い掛かってきた。狙い通りだ。
――この世界にきて初となる対人戦だ。これまで経験したゴブリン等の亜人種ではない見た目もほとんどニンゲンと差異の無い相手の戦いだけど、こいつのプライドをへし折ってやる!
ゼハクとキリカは後々もう少し掘り下げた容姿を描こうと思っています。
魔族は基本的に通常あり得ない肌の色や獣人族で角を有している種族とも異なる異形の角、そして大きさの大小や形の違いはあるものの背中側に独自の翼を有しています。
魔族の中でも一部には尻尾を生やしている者もいれば、多腕であったり、虫の頭部をしていたりと割と個性豊かな容姿をしています。




