【 Ep.3-003 キリカ・キリク戦 】
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髭面の親父が村の若者を守る為に魔族二人とやり合ってるのを見つけた俺らは魔族の男が放ったインプから若者達を守る為に状況へと強制介入した。
指示を出したセラは途中で方向を変え、髭面の親父の方へと加勢へ向かったが、あの体格差は流石に無理があるんじゃねェかと思った。
「なァおいケント、セラがあっちとやり合うつもりらしいが大丈夫なのか?」
「あぁ、多分大丈夫。」
「多分ってお前……。まァこっちはこっちで数的不利があるから人のこと心配してる余裕はねェけどもよ。」
「セラの狙いは多分あっちの女の人の方だよ。」
「……の割には野郎の方に向かって行ってるが。」
「それも仕込みの一つだろうなぁ。……モッさんさ、あの女が持ってる武器に見覚えない?」
「あん?……あぁー、成る程なァ?」
ケントに言われ女の持ってる得物を見て理解した。あの武器、どこかで見たような事があると思ったら白鯨のセルゲイナスが一番よく使用としてた変形する武器にそっくりだ。
セルゲイナスが最も得意とする武器は双剣だが、いつの頃からか普段は両刃の直剣を柄の部分で合体させた独特の形状をした槍に分類される<ブレードランス>という特殊な武器を使い始めていた。
両端が両刃である為扱いが難しいシロモンなんだが、対多人数戦にも向いている上、舞う様に攻撃を繰り出すサマは隙がある様に見えて実際対峙すると攻めあぐねる実に厄介なモノだ。
その上任意で直剣二振りの双剣に分離させる事もできるってなもんで、その変幻自在な攻撃手段にアイツの宿敵だったセラは相当苦しめられていた。まァ散々煮え湯を飲まされたお蔭か、それへの対応策を何度もトライアンドエラーして掴んでいったっけか……。
――つまり見立てが間違ってなければ、あの女の持つ武器についてセラは特性や攻撃範囲などを殆ど把握・認識していて対応が可能だって事だ。
とは言えケントの様に楽観的にはいられねェ。照明弾を打ち上げたが、チグサ達がここに到着するにも2、3分で済むはずがねぇ。いつあの巨体の魔族の野郎が追加で召喚するかわかんねぇし、早い所このクソッタレなインプ共を始末して加勢すべきだろう。
「ッしゃぁ!いくぞオラァッ!!!」
半ば怒声の様な喝を自身に向けて叫び、大槌を両の手で握りしめてモーリィはインプ達へ向かっていった。
*****
ガン!ギィン!! ガッ! ガッ! ――ブォン!
激しい撃ち合いが繰り広げられているのはセラと対峙する魔族の女性<キリカ・キリク>。
彼女の部族<ノアルマ>は女尊男卑の傭兵業を生業とする戦闘部族であり、魔族の中でも有数の有力部族の一角である。
そんなノアルマ族に伝わる武器が"変貌する剣"であり、キリカはその使い手の四柱の一人として名を馳せていたが、部族間抗争に傭兵として参加していた折りにゼハクに敗北し捕虜となった際に尻尾を斬りおとされ、以降その時に刻まれた呪印によって魔大公レゲネンエルトに仕える上級戦士である"業血"のゼハク・モロボストルに従属させられている。
半ば奴隷とも言える身分に堕ちながらもその身に流れる戦闘部族の血は衰えず、生来の好戦的性格が幸いしてか現状の自身の立ち位置には不満を抱いてはいない。むしろ血を好むゼハクに付き従ってさえいれば自身の身の安全と戦闘欲求を満たす事が出来る絶好の処遇であるとさえ考えている。
――だが、そんなキリカを以ってしても今撃ち合いをしている眼前の小生意気な獣人族の少女に、一撃を入れる事さえかなわない事実に焦りと苛立ちが募る。
「まだ一撃も貰ってないよ?大口じゃなかったって、素直に認めたら?」
「フン、戯言を。良かろう、そうまでして早死にしたいのであれば、我が刃の真の力を味わうがいい!!」
安い挑発だが買ってやろう。初見で我がケミスブレードの真価に対応出来る人族など余程の使い手でなければ居よう筈もない。器用に我が剣筋を読んで躱しているが、それも形状変化で終わりだ。
……それにコイツに時間をかけ過ぎるとゼハク様からの叱責を避けようが無くなる。それは回避せねばならん。
セラと撃ち合いながらもキリカは高速で思考を巡らせ、自己の中で気を張り直して再度目前の少女へと狙いを定め、俊敏烈火――流れるような剣筋の軌跡は要所要所で剣戟の花を咲かせて行く。
『纏う雰囲気が少し変わった……恐らくここからコイツの本領発揮って所かな。ここまで撃ち合ってみたけど一撃の重さはあのゼハクとか言う奴に比べれば軽いと言ってもいいくらいだ。動きの本筋はセルとやった時と基本は変わらないし、武器を分離させるタイミングも多分似た様なタイミングでくる……。』
――それまでの動きから微妙に変化したキリカを見て、即座にセラはそう判断を下した。
本来であれば武器を両槍状態から双剣へと分離する際の隙を狙うのが定石だけど、一度目はわざと分離させた上で攻撃を受け流した後の次に完全封殺した方がコイツのプライドを崩していける。自身の武器とその扱いに相当自信があるっぽいし、それをへし折った方がダメージは大きくなるだろうし、その時どんな表情を見せるのか……少しワクワクする。勿論戦闘を長引かせれば強化魔法が解けて優位性が損なわれるかもしれない点には注意だ。
――相手を完膚無きまで叩き潰すには相手の"芯"を折らないといけない。
装備が自慢のPK相手にはその装備でも大して結果が変わらない事実を認識させ、仕様を利用して相手を罠に嵌め装備品をドロップさせた上で目の前で砕いたり……口だけ達者な相手には理論詰めで反論も口答えも出来なくなるまで追い込んで黙らせる。リアルを絡めてきた相手には逆にそいつのリアルの情報を手に入れて容赦無く叩き潰す。
どれもこれもデモンズオンラインの頃から培ってきた様々な抗争によって得てきたロクでもない"ノウハウ"だ。
そんなロクでもない経験でも……。実際命が懸かっているこの戦闘で、卑怯や卑劣などと言う誹りなど何の意味も持たない。負ければ"死ぬ"のだ。なればこそ使える手札は使える時に切っていかなければいけない。――それが例え悪魔の所業だと非難されようとも。
ガン!! ギン! ギン! ギン! ギャイン! ガッ!! ギギン!
青藍色をしたセミロングの髪を靡かせながらキリカはセラに対して止め処なく連撃を見舞って行く。流れるように放たれる攻撃は一撃の重さこそ軽いものの、次々と打たれる連続攻撃の速度によってセラの反撃を許さない。狙いは意識を防御する事に傾ける事だ。
そんなキリカの狙いなどとうにお見通しなセラであるが、敢えてそれに付き合いながら"その時"に備えている。
舞う様な攻撃の手を緩めないキリカが三回転連撃を見舞うと、セラもそれに合わせて得物を動かしウェポンガードで防ぐ。更に連撃を繰り出すフェイントを入れ、セラの意識と態勢が防御寄りになった瞬間をキリカは見逃さなかった。
『ここだッ!!!!』
それまで狭く握っていたケミスブレードの柄をスライドさせながら広げて持ち直し、念の為の一撃をセラに見舞った瞬間にケミスブレードを分離させ、両槍状態から双剣モードへと切り替える。逆手持ちになった双剣を手首をクロスさせながら自身の額部分で交わる様に動かし上半身を逸らしていき、まるで鋏で首を斬るかのような動きへと繋げる。
ザンッ!!
――決まった。これまでとは違う手に伝わる感覚と、響いてくる斬撃音を耳に感じキリカはそう思い口角を吊り上げた。これまでと同様にすぐに首を狩られた胴から噴水の様な血が我が身に浴びせられるだろうと。
……だがキリカがその感覚を味わう事は無かった。
――シュッ! ドゴシャッ!!
「ァゴベッ?!」
ゴシャッ!と言う音を立てキリカの顔面にセラの蹴りが綺麗に入り、キリカは上半身を逸らしている態勢であった事も影響してブリッジのような形を取ったあと一回転して後方へ転がった。
キリカの顔面に蹴りを放ったセラは脚を引いてから口を開く。その顔は、その目は、その声は、見た目からは想像し辛いまでの冷たさを放っていた。
「何勝った気でいてるのさ?最初に言ったよね、お前の攻撃はボクには通じないって。」
「ば、馬鹿なっ?!」
――相手の思考を誘導し、意識も態勢も防御へと差し向けたはず。何よりも確かに細首を繰り落とす感覚は掌から伝わっていたのだ。キリカは目の前に立つこの少女は一体"何者"なのか、得体の知れない不気味さを感じていた。
「フェイントも入れてボクの意識を防御方面に向け、その隙を突いて武器の形態を変化させて咄嗟の判断を遅らせる。そんな事は端から知っていたし、フェイントを使うのはお前だけの特権じゃないんだよ。それと自信満々の今の技でボクの首取ったとでも思った?でもざぁんねん、お前が斬ったのは"コレ"だよ。」
「ンなっ?!樹だと……!?」
青い鼻血を垂らしながらキリカがその目に映したるは鋭利な刃物で切断されたそれなりの太さのある樹だった。スパッと切られた切り口はささくれ一つなく綺麗な断面を晒しており、キリカの腕の良さを証明している。それ故逆にそれ程の攻撃をこうも簡単に潰してくる目の前の少女からキリカは目を離せずにいた。
「種明かししてあげるけどボクの森羅晩鐘は特別でね?魔力さえ込めればこうして樹槍を生み出せる。」
「くっ!」
種明かしをしながら自然な流れでセラは樹槍をキリカへと放ち、キリカはそれを転がりながら何とか回避した。――だがそんな事で攻撃の手を止めるセラではない。
攻防反転、攻め手に回ったセラの攻撃をキリカは自慢の剣槍術が破られた事に動揺してどうにか防ぐ事で手一杯の状況に陥った。
『冗談ではない!私の……ノアルマ四柱の私の技が破られただと!?……いいや、まぐれだ。今のは偶々回避できた事をあの態度でそういう風に見せているに違いない。』
キリカは先程は偶然の産物を演技し立て、さもそれを普通にこなせると勘違いをさせる"ブラフ"だと思う事でどうにか冷静さを取り戻し、再びケミスブレードを合体させ自身の前面に右手で垂直に立てて構え迎撃の姿勢である<遡上龍魚の型>をとる。
「今のは偶然……って顔をしてるけどさ、そうじゃないって事、嫌という程教えてあげるよ。」
「ッ!!」
勢い付いたセラの猛攻はキリカの想定を上回り、手持ちの得物の他に樹槍も時折混ざった攻撃を繰り出し、<連続突き>や緩急織り交ぜた<刺突>を遡上龍魚の型でどうにか往なすだけで手一杯となる。撃ち合おうにも力点をずらされ、自身の力が逸らされる感覚に何度も首筋に嫌な汗が伝うのをキリカは感じた。
「その守り方も次に打ってくる手の予備動作もアイツ以下だよ!」
『クソっ、反撃の隙が無い。コイツ本当に――』
セラの攻撃を受け止め往なし、その流れを活かしながらケミスブレードを再分離しようとすると樹槍で妨害され、更にその隙を狙って鋭い<刺突>を放たれる。キリカの動きは完全に読まれている状態になった。最早反撃の事前モーションすら読まれており、流れを自分に引き戻す事も敵わない。
――ここにきていよいよキリカもセラの言葉がウソではなかったと思い始めたが既に形勢は決まりつつあった。だがそれでも目の前の現実を信じられないキリカは必死の形相で猛攻を往なすが、交わる刃の向こう側、対峙する突然の乱入者である獣人族の少女の口角が上がっている事に気付いた。
『――こいつ、笑って……?!』
ガン!ガガガッ!!ガツッ!!ドッ!!
セラが笑っている事を認識した瞬間、キリカの背筋をゾクリと冷たいモノが奔る。
「グッ!!!……何故だッ!!何故貴様がこのケミスブレードの技を知っているのだ!」
「……その武器の名前がなんであるかなんてどうでもいい。ただ単にその武器ととてもよく似た武器を扱う奴をボクは知っている。そいつはお前よりもその武器を上手く使いこなしていたし、技のキレもお前以上に鋭かった。そいつとは何度もやり合ったし何度もボコボコにぶちのめされた。その都度ボクは対策を講じ、動きの所作を見極め、相手の先を取る動きが出来る様になった。それだけだよ。」
本能が対峙する相手を脅威であると認めてしまったが故に恐怖し、反応が遅れて往なし損ねた<刺突>に左肩を貫かれ、苦痛に顔を歪ませながらもキリカはセラに食って掛かった。
自身の半身とも言える武器と己の技をここまで完全に封じられるなど捕虜となった日ですらもあり得なかったのだ。圧倒的な力量差を見せつけ、絶対者の恐怖を身体に刻んできたゼハクとはまた違う、静かな、それでいて鋭さのある恐怖を放つ少女の話した内容をキリカは体を震わせながら聞きなおした。
「我が一族以外の使い手だと……?!それも、私以上の……?」
「理解してくれた?納得したなら思い残す事は無いよね?だから――死んでくれる?」
綺麗でまだあどけなさの残る少女がにこりと微笑みながらキリカに死を突きつける。表情とはかけ離れた冷たさのある殺気に、自身の意思とは別に身体は言う事を聞いてくれない。
『こんな……こんな所で死ぬわけには……!!』
肩を貫いていた得物を引き抜き、"タメ"の隙をカバーする様にキリカに向けて樹槍が放たれる。
利き腕である右手でケミスブレードを扱いそれらを防ぐが、本命であるセラの<刺突>に対してその動きは自ら隙を見せる行為であるものの最後の悪足搔きとも言えた。
『くそッ!避けきれぬっ!!最早これまでか……。』
眼前に迫る<刺突>に、遂にキリカは死を覚悟して目を瞑った。
「……ッ!!」
「吼えろ!唸れ!その刃を血色に染め上げよ!ヴォーマ!!!」
ガギィィィィイイインッ!!!
「キャッ!!!」
下腹部に轟く様な低い声が言葉を紡いだ後、重い金属同士が激しくぶつかる音がキリカの耳に響き、それに重なる様に可愛らしい悲鳴が上がった。
「……引くぞ、キリカ。」
目を閉じ自身の死を覚悟していたキリカの耳に次に届いたのは、付き従っている表情の読めない蜘蛛顔の魔族で上級戦士であるゼハクの低く唸る様な声であった。
その声に閉じていた瞼を上げると、すぐ隣にはいつもの表情が読めない蜘蛛顔をしているゼハクが立っていた。
「ぜ、ゼハク様?!」
渾身の力を込められたセラのトドメの<刺突>は、キリカの眉間を貫くギリギリ手前で、先程まで髭の男性と交戦していた蜘蛛顔の魔族ゼハクの言葉と共に戦斧の片割れが突如巨大化したと思うと刀身が赤黒く光りだし、キリカに迫る<刺突>のピークポイントの前に割って入ってガードしたのだ。
あまりにも一瞬の出来事であったが、この戦斧の業により弾かれた反動の威力によってセラは吹き飛ばされていた。
実のところキリカの角についてはどんな形状にするかまだ決まっていません。
耳の上あたりから前方向へ伸び、おでこの前あたりで少し上を向くような感じで想像してますがあくまで仮設定。
ゼハクは次話でもう少しだけ触れますが頭部は蜘蛛の頭部とプレデターを合体させた様な感じでイメージしてもらえればと思います。




