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【 Ep.2-029 曙光 】

少し推敲したかったので投稿予定日がずれ込みました。

年内に累計40,000PV行くかなぁって感じですが、割と見切り発車で書き始めた割にそれなりに読まれていて嬉しく思います。



 開拓村の灯りに別れを告げ、天兎の面々は黙々と山道を進む。辺りはかなり薄暗くなってきておりそろそろ野営場所を決めなければテントの設営や食事の準備などに支障が出る。


「お、あそこなんか良さそうじゃない?どうかな、ベネ。」

「そうだな、あそこなら水場も近く広さもそこそこあるし通行の妨害の心配もなさそうだな。」

「なら決まりですね。よく見れば幾つか野営をした痕跡もありますし。」


 先頭を進んでいたセラが見つけた場所は、渓谷に沿って流れる川の近くのちょっとした広場になっている場所で、随分前に野営したであろう痕跡がいくつも残っている場所だった。

 カサネさんが言っていた様に、ベタンの森に拓かれた新しい街道がメインに使われ始めた影響なのだろう。人の行き交いが減少して寂れた道のかつての賑わいの証だが、今の状況からすればここが野営地点であった事を示す痕跡は、比較的安全なエリアであったという事を示す証拠でもある。

 面白い事に川の向こう側は開けており、遠くの方にはスィーダ平原の奥に位置していた巨大な蟻塚らしき構造物の影が薄っすらとではあるが確認できた。


「さて、それじゃ急いで野営準備をするぞ。陽が暮れるまであまり時間がない。まずはテントを張る事から始めよう。最初に手本を見せるから、昨日決めた班分け通りに分かれて設営していってくれ。」

「よぉ見ときやぁ。一人でやると大変やけど、二人以上おると結構楽にできるから。」


 ベネとマリーの経験者夫婦が早速テントを張り始める。押さえるポイントを口と実物で説明しながら作業をしていくので非常に分かり易かった。

 ボクの班はシオンとクロさんが一緒で、ベネとマリー、ケントとチグサとリツ、モーリィとシキとセトという班分けになっている。ボクの班はプライバシーを考えて女性のみで、ベネとマリーに関しては夫婦って事を尊重しているのと、ベネが巨躯である為二人分換算している為である。残り二組は当人達が相談の上でそれぞれの三人組に分かれた結果だ。


「意外とさ、簡単に組み立てられそうだよねコレ。」

「お二人の説明が分かり易かったおかげですね。」

「ペグ打ち込むからハンマー渡してくれない?」


 シオンとクロさんと喋りながら順調にテントの設営は完了した。一回しか経験のないボクや、全く経験のないシオンとクロさんでもちゃんと設営できたのは間違いなくベネとマリーの説明が良かったからだろう。


「よし、みんな無事に張り終えたな。次は飯の準備の為に簡易の窯を石組で作る。そうだなぁ……よしこれくらいがいいか、俺を含めた野郎組は河原近くまで行っても構わないから今俺が手にしている様な石を集めてくれ。女性陣は山側に少し入って十分乾いた枯れ枝を集めてきてくれ。」


 他の班も同じ様にテントを張り終えたのを見てベネが次の指示を出し、ベネが手に持っていた石に近い石を男性メンバーで拾い集めてくるとそれらを上手く組み合わせていき簡単な石組みの窯を作成していく。女性メンバーは街道脇の山に少し分け入って、よく乾いている枯れ枝を集めてきた。


「モーリィ、鉄板をここに出せるか?」

「おう、ここだな?」

「ああ、そこでいい。」

「モーリィ、此方にもまな板に使える物を出して頂けませんか?」

「おう、これを使いな。包丁かナイフはあんのか?」

「大丈夫です。昨日のうちに見繕っておきましたので。」


 ベネ主導で着々と野営の準備が進められ、あっという間に簡易的ではあるものの野設のキッチンが出来上がっていく。


「ねぇ鍋は誰が持ってるのー?」

「もうこっちに出しとるでー。セラとセトはそれに水入れといて。うちはちょっと火ぃ点けてくるわ。」

「ほい、了解。」


「ん~、食器はこんなもんかな?」

「食材は此方に出せばよろしいでしょうか?」


「なぁシキ、焚火ってこんな感じにしてから火を点けりゃいいのか?」

「いやぁどうなんすかね?ある程度適当でも<着火(イグニッション)>でどうにかなりそうっすけど。」



 それぞれ手分けして料理の準備も進み、思っていたよりも早く夕食を作り上げる事が出来た。料理に関してはチグサが献立を考えていたので、チグサ主導で指示通り調理をしていき問題なく作れた。

 料理もそうだけど、他の面でも一番重要な水の確保という部分は、水の魔法適性を持っているボクとセトの存在で解決できたというのは大きい。

 術者のマナポイントさえ切れなければ<手水(ハンドウォータ)>で事実上無尽蔵に生成する事が可能なのだ。湧き水等とは違って恐らくミネラル分などは含まれてはいないだろうけど、それでも水の心配をしなくても済むという状況は非常に恵まれている。


 野営跡に残っていた丸太や流木をそのまま流用する形で椅子代わりにして座り、夕食を食べながらみんな思い思いに談話に興じる。


「初めての野営って割には結構順調にできてるよなぁ。」

「設営中にモンスターの襲撃があったらどうなるか……びくびくしながらだったけど大丈夫だったね。」

「やはり火というものを動物と同じくモンスターも怖がって寄ってこないという感じなのでしょうかね?」

「元々野営跡があったくらいだ、この場所は比較的安全な場所なんだろう。まぁここがそうだとしてもどっちにしろ飯食った後は交代で火の番を立てて周囲の警戒はしなきゃならん。」

「順番はどうだったっけ?シキ、覚えてる?」

「えぇと、火の番は四交代制で最初がベネさんとマリーさんのペアっすね。二番目がクロさんとセトとリツさんっすね。三番目が俺とシオンとケントっす。四番目がセラさんとチグサとモっさんっすね。」

「気になってたんだけど、それってどういう基準で班分けしたんだ?」

「それは私から説明します。この班分けの肝はドーンエルフと獣人族(アニール)を各班に一名ずつ振り分ける事にあります。両者共夜目が利きますし耳も良く、獣人族(アニール)は鼻も利きます。それを一番重視して残りは各班から其々割り当てたという感じです。」


 野営と言っても此方の世界ではただのキャンプというわけにはいかない。元居た世界とは違ってモンスターという襲撃者の存在が大きく違うのだ。故に全員が寝るのではなく、数名は周囲の警戒も兼ねて火の番をする事は避けられない。

 火の番の班分けについては其々の種族特性を活かす形で分けたとは言え、皆どこかそれも含めて楽しんでいるように見えるのは勘違いではないだろう。


「――にしても野営でこんな旨い飯食えるとは思ってなかったなぁ。」

「ここに来るまでに食材が自分達からやってきたんやもんなぁ。これ確かあの山羊と猪の肉やんな?」

「ええ。流石にまだ手持ちの調味料や調理器具も少ないので叩いて柔らかくしたものに軽く塩で味付けした程度のものですが……。他にも一応狼の肉は干し肉に加工できればと思って仕舞ってあります。」

「毛皮は俺が持ってるが、あれも加工すればそれなりの物になるもんなのか?」


 ケントの言うように、初の野営にしては結構な食材が手に入ったという事もあり、十一人の腹を満たすには十分な量がある。調味料の入手ができなかった事を嘆いているチグサだけど、彼が音頭を取って作った料理はどれもしっかりと下処理をされている事もあって美味しい。

 ここに来るまでの道中に倒したモンスターは基本的に解体して素材化しているので毛皮や肉、甲殻や角に牙などそれなりに集まっている。そのまま売却してもいいだろうし、加工して自分達で使ったりと用途は色々とある。


「なんとなく作れそうなもんは浮かぶが、やってみねぇとどうにも言えねぇなあ。」

「ていうかいくらドワーフが手先器用っていう設定でもさ、なんとなく女性ものの衣服仕立てている姿とかは想像できないよね。」

「あー、わかるなぁそれ。一応ドワーフらしき女性も少しだけ見かけたけど、それでもなんか私も想像し辛いんだよね。」

「武器や防具ならやっぱりドワーフ製っていうのがロマンだと思うんすけどね。」

「今の装備だって半分はモっさんが作ってくれたもんだからなー。見ろよこの盾、他の誰も持ってねえオリジナルだぜ?」

「そういう目で見るとセラの装備は大半がドロップしたユニークやらマジックアイテムだな。」

「そう言われるとそうだね。転移現象に巻き込まれる前に入手できたのは本当に運が良かったなって思うよ。」

「可愛らしいセラさんにとてもよくお似合いだと思いますッ!」


 公式サイトでの各種族の設定の中で、ドワーフは手先が器用で製作関連の技術が卓越しているという説明文があったが、現実となった今でもそういった種族的特徴は生きているようだ。

 シオンとリツが言っているドワーフの女性についてはボクもチラッと見かけたけど、以前別のゲームでボクが使用していたようなドワーフの女性デザインとは少し雰囲気が違っていてキャラクターメイクの時にしっくりこなくて結局この獣人族(アニール)で作成した事を思い出した。

 それにしてもベネの言葉の通りで他のみんなの装備は大半がモーリィが製作したものになっているのに対し、ボクの装備品はその大半がマンハントハンギングからドロップしたユニークアイテムだ。唐突なクロさんの激しい同意には驚くけども、褒められて悪い気はしない。

 ただその点で言うならば、ケントの盾もマンハントハンギングからドロップしたレア品の盾をベースにしたモーリィの強化改造品だし、デザインの好みはあるとは思うけど特別なアイテムだと思う。



 ――こうして色々会話を楽しみながら出立一日目の夜の食事は各自の胃袋を十二分に満たして終了した。



「さて、飯食い終わったなら片付けは俺達がしておくからお前らはもう寝ろ。交代時間になったらそれぞれ起こすから寝れるうちにちゃんと寝るんだ。」

「せやせや。領都まではまだまだかかるんやから寝る時寝ておかんとこの先倒れてまうで~。」


 ベネとマリーに急かされる形でそれぞれ張ったテントへと入り就寝準備をする。ボクの寝る位置はクロさんとシオン二人の希望もあって真ん中にされていて、既にテントの中には寝袋をいつでも寝れる状態で用意している。

 寝袋に入る前に装着していた防具をインベントリへと収納し、武器に関しては直ぐに使える様にと枕元に置いておくことにした。


「ちょっとセラ……あんたねぇ、寝る時くらい武器もインベントリ収納しておいたら?装備しなおすのも意識さえすれば出し入れできるんだから。」

「んーそうなんだけどさ、やっぱいざって時その一瞬の時間が惜しくて。」

「……まぁ気持ちは分からなくもないけど。ならあたしも出してても文句ないよね?ていうかその尻尾ずるくない?セルフ抱き枕になってるじゃない。」

「そんな事言われてもこれ種族特典みたいなものだし……。いくら羨ましがられてもこればっかりは渡せないから諦めてね?―それはそうとそろそろ<光源(ライト)>切って寝ようよ。外の二人に怒られるよ。」

「そ、そうだね。」


 ボクの言葉に慌てて生活魔法の<光源(ライト)>を解除するシオン。テントの中はすっかり暗くなって先程まで見えていたシオンやクロさんの顔が見えなくなる。種族特性的に暫くすれば夜目が効いて見えるようにはなるだろうけど。


「おやすみなさい。セラさん、シオンさん。」

「うん、おやすみクロさん。セラもおやすみ。」

「おやすみクロさん、シオン。」


 暗くなったテントの中、落ち着いた声でクロさんが就寝の挨拶をする。シオンとボクもおやすみを返して目を瞑った。

 耳にはテントの外から火がパチパチとランダムに爆ぜる音や、姿の見えない虫が鳴くリーンという澄んだ鳴き声をはじめとした様々な音が聞こえてくる。明日開拓村で起こるであろう事態の事や、明日からの旅程についてなど頭の中で考えるうちに睡魔がセラを襲い、程なく寝入ってからテントの中には三人の静かな寝息が音を重ねるのであった。




*****




「セラ、交代の時間だよ。起きて。」


 ゆさゆさとゆっくりと体を揺さぶられて目を覚ます。


「……シオン?」

「そうだよ、おはよ。火の番の交代で次はセラの番だよ。ふぁ~……ちゃんと起こしたからあたしは寝るね。後はよろしく……。」


 眠たげな声でボクを起こした声の主はシオンだった。いつの間にか寝入って随分しっかりと寝ていたらしい。小声でありがとうと声を掛けると。寝袋から右手を軽く出して背を向けたまま此方に振ったあと再び寝袋に包まって静かに寝息を立て始めた。


 二人を起こさぬ様枕元に置いていた愛用の森羅晩鐘を手にとり、インベントリ収納していた防具と外套をステータスウィンドウからワンスイッチ着用してテントの外へ出る。


「おはようございます、セラ。」

「よぉ。まだ眠たそうな面ァしてんな?」


 セラよりも先に焚火の前に座っていたチグサとモーリィが声を掛けてくる。二人とも顔色は良く、いい睡眠をとれた事が伺える。


「おはよ。チグサ、モーリィ。」


 そう挨拶をして自身も空いている丸太の傍の地面に森羅晩鐘を突き刺し、背もたれにして腰掛ける。チグサは刀という武器の都合上腰にさしたままではあるが、モーリィはセラと同じ様に自分の背もたれ代わりに大きなハンマーを後ろに置いている。


「よく眠れましたか?」

「思ったよりよく寝れたよ。二人は?」

「私は少し考え事をしていたので寝付くまでに時間が掛かりましたが、寝入ってからはよく眠れた感じです。」

「俺は寝る前に酒の一つでもありゃぁなぁって感じだったな。ま、眠れたっちゃ眠れたが。」


 二人の様子は普段と変わりなく、特に問題はなさそうに見える。それぞれのテントを見回しても特に異常らしい痕跡もなく、耳を立てればそれぞれの寝息が薄っすら聞こえるのでよく眠れてるのだろう。


「意外とみんな大丈夫そうだね。」

「ですね。――こうして持ち回りで火の番をしつつ辺りの警戒をするというのも、本当に自分達が物語の世界に入り込んだんだなぁって実感がわきますね。」

「まったくだ。古き良き時代のロールプレイングゲームの主人公にでもなったような感じがするぜ。」

「大体こういう野営シーンの後は魔王が居を構える城に行くとかそう言う奴だよねそれ。」

「なんだったっけっか……そう、ファンタジーストーリー6だ。結構やり込んだなぁあれは。」


 ――元々天兎のメンバーは根っからのゲーマー気質の者が多く、一見堅物そうに見えるモーリィもネットゲームだけでなくコンシューマーのゲームもかなりやり込んでいる。

 他のメンバーで言えば、シキやセトは今は数少なくなったゲームセンターに通ってはそれぞれ格闘ゲームや音楽ゲームに勤しんでいたという話は聞いた事がある。シオンはクイズ系のゲームもやっていただとか、割とみんなジャンルはバラバラだったように思う。

 ただ、みんな共通しているのは、プレイしている世界をとても大切にしていた事。だからこそ、ラインアークでは不正撲滅の為に容赦の無いボクのスタンスにも付いてこれたんだろう。


 途中チグサが出してくれたスープを喉に流し込みながら、昔やっていたゲームや当時の話などを交え、時折パチパチと爆ぜる焚火に枯れ木をつぎ足し入れて火を絶やさぬようにしながら長いかと思われた時間は過ぎていく。



 気が付けばいつの間にか空は白みはじめ、夜の終わりを告げようとしている。



「夜明けだ……。」


 ――川の向こう、山々が途切れている開けた場所から曙光が刺し始める。その光景にセラは思わず立ち上がり、得物を手に持ち数歩その方向へと進んだ。


「あぁ。世界が変わっても夜明けの瞬間ってもんはいいもんだな。」

「そうですね。今日も一日頑張ろうと言う気になります。」


「もう朝かぁ……?」

「おはようございますっす!」

「ええ陽射しやなぁ……みんな、おはよーさん。」


 差し込む陽射しに刺激されたのか、朝を告げるように鳴き始めた鳥の囀りに反応したのか、其々のテントから皆が次々と起き出てきてはその光景を目にした。



 曙光に照らされ逆光の中、地面に突き刺した森羅晩鐘を斜めに傾けて右手を添え、差し込む陽の光で影になったセラの姿は、どこか神秘的で、しかし儚さをも感じさせた。


 一体どの位の時間眺めていたのだろうか。まるで絵画の様なその光景に目を奪われ天兎の面々は時を忘れて固まった。――その止まった時を再び動かしたのは他でもないセラだった。


「さ、朝ご飯を食べたら出発しよう!」


 皆に振り向き屈託のない爽やかな笑顔でそう口にしたセラに対し、天兎の面々は誰とはなしにそれぞれ拳を突き出し重ねてセラを待つ。

 地に突き刺していた森羅晩鐘を引き抜いて背中に懸架し、皆の元へと歩み寄り重ねられた拳へと自らの拳を重ね皆の顔を見回して頷くと他の面々も同様に頷いた。


『Make our hearts one!』


 朝焼けに染まる空に向け、その掛け声は響き渡り――そして溶けていった。







第二章は一応これにて一区切りです。

第三章の前に閑話や設定の方のページ更新をしたいので、第三章の投稿は来年からになると思います。

来年も引き続き愛読頂けると幸いです。皆様良いお年を。

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