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【 Ep.2-021 次なる任務 】

総合評価ポイント200越えました。ありがとうございます。



 ガチャンと音が鳴り会議室の扉が開かれる。


「ん?珍しいな、あんたら二人だけか?」

「「「うーっす。」」」


 開いた扉から姿を見せたのはパーティ"フロントライン"のベックとそのメンバー達だ。


「そ、今日はちょっと体調が優れなくてね。ボク達は外へ行かずにこの世界で書かれた本を読んでこの国の情報とかの調べものをしてたんだ。」

「ほう、そらまた殊勝なこったな。何か面白れぇもんでもわかったりしたのか?」

「面白いかどうかは分からないけど、この国の歴史や文化とかは大体分かったかな。」

「そうか。こちとらマッピング機能が死んでるから世界地図みたいなもんがありゃ大助かりなんだけどな。」

「この村くらいなら区画とか覚えるのは楽な方だけど、ここ以外の村や町、それらを繋ぐ道とかの地図はこの先必要になるだろうね。ただこの世界での地図とかは、軍事的な面から見れば簡単に手に入るとは思えないけどね。」

「だろうな……。まぁそこは冒険者ギルドや商人ギルドあたりに協力してもらうしかねぇだろうけどな。」


 この世界での地図の価値は値千金と言える。マッピング機能が死んだ今、大規模な都市内での迷子の可能性の回避、旅をする際の道程の安全確保やルート確認など、現代社会に慣れ親しんでいた者達にとって地図の有り無しは最悪の場合命取りになり得る危険性がある。

 一応冒険者ギルドでは簡易的な地図の提供を受けれるが、本格的な詳細地図というものは値が張る高級品であり、ともすればその国にとっては安全保障にも関わる機密でもある為そう易々と手に入るものではない。


「そう言えばそっちはもう今日の仕事は上がり?」

「おう、俺の班はこれから休息時間だな。俺らのパーティは今12人だから、4人一組で三班作ってシフト組んで回してんだよ。」

「よくそれで回せるね……。」

「状況が状況だからな。とは言え流石に厳しい部分が出てっから、明日にでも人員増強と協力してくれそうなパーティに声を掛けてみるつもりだ。」


 ファンタジーの世界だというのに、現代社会でもよく耳にするような会話が続く。この世界が現実となった以上当然とは言えるが、なんとも言えないむず痒さを感じた。

 彼らの主な任務はカサネさんの身辺警護と村の中の治安維持ではあるが、村の守備兵達とも連携をとって調整する苦労を考えれば中々高度なマネージメント能力が要求される。そんな状況の中、更に人員増強を図るというのだから、このベックという強面の男性は見た目に反してそうした繊細な仕事も熟す出来る男というわけだ。


 そうしてベック達と会話していると、再び会議室のドアが開かれ聞き慣れた声が飛び込んできた。


「お、居た居た。」「ただいま~。」「おう、戻ったぞ。」

「帰ったでー!」「ただいまっす!」「あー疲れた…。」

「ただいま戻りました。」「……っす。」


 新たに部屋に入ってきた面々はアルバの森へ調査へ出ていた天兎メンバー達だ。彼らはベックやフロントラインのメンバーにもそれぞれ会釈や軽く挨拶してボクの近くに来た。


「おかえり。アルバの森の調査はどうだった?」


「なーんの問題もなく終わったよ。」

「ええ何も問題はありません。殆ど事前の情報通りの結果でしたので、後はレポートを出せば今日の仕事はおしまいって所です。」

「じゃあこのまま会議室でレポート仕上げちゃおうよ。宿に戻って作業するのも二度手間でしょ?」

「そうだね、シオンの提案採用してここで仕上げちゃおう。」


 気楽にケントが返事を返しながら椅子に腰かけ、チグサが作業進行度をボクに報告するとシオンがアイデアを出してリツが同意し、会議室でのレポート作成が決定された。


「あー、すまん俺はモーリィんとこに差し入れしてくるわ。必要な情報はマリーに伝えてあるからよ。」

「ボクは借りてた本を返してくるよ。みんなはそのまま作業進めておいて。」


 それぞれ椅子に座っていく中、メンバー随一の巨体を誇るベネデクトは椅子に座らずドアの方へと足を進めながら顔だけを皆に向けて一言告げた。

 ボクも貸し出しされていた五冊の本を読み終えたので返却に向かう為椅子から降りてベネに続く。


「あ、セラ。もう体調はええんか?寝とった方が良かったんとちゃうの?」

「リントさんに薬湯飲ませてもらってね、それなりに効果があったっぽくて大分楽になったよ。」

「そかぁ。ま、自分がそれでええんならうちから言う事はないな。んじゃうちらは作業進めとくから行っといでー。」

「うん。まぁすぐそこだけど。」



 レポートを書き始めたメンバー達を会議室に残し、ベネと二人部屋を出てガチャンとドアを閉めて廊下を歩く。ボクはギルド長室を目標に、ベネはギルドの出口へ向けて。

 そんなに広くない廊下を幅いっぱいに使い、足下の床板を軋ませながらセラはベネデクトを見上げて声を掛けた。


「ねぇベネ。」

「なんだ?」

「みんなああ言ってたけど変わった事はなかった?」

「……心配性だなお前は。大丈夫だ、全員いつも通りだ。それよりお前こそ体調崩してんだろ?他人の心配する前にまずは自分の身体を大事にしろ。歳とか関係なしにお前は俺達のボスなんだ、頼りにしてるぞ。」

「こっちも頼りにしてるよ、ベネ。じゃ、ボクはカサネさんに用があるからここで。」

「おう、また後でな。」


 ギルド長の部屋の前でベネと別れ、ボクはカサネさんの居るギルド長室をノックして入った。

 部屋の中は魔法灯の不思議な明りに包まれ、そんな中でカサネさんは机の一角に積まれた書類を取っては目を通し、必要であれば判を押して反対側の一角へ書類の種類ごとに分別して積み上げていっていた。


「如何でしたか?随分と時間をかけて目を通されていたみたいですが。」


 ボクが入室した事を確認すると手にしていた書類を最後に作業の手を止めて、ボクの目を真っすぐ見ながら話しかけてきた。


「あの短時間で選んだとは思えないほど見事なチョイスでしたよ。」

「それはそれは…。選んだ甲斐があったと言うものですね。あ、本はこちらでお預かりして後ほど戻しておきますよ。ところで明日以降について少し相談させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい。」


 ギルドマスター兼プレイイングゲームマスターのカサネさんから相談された内容は次の通り。

 白鯨と同じく領都へ向かった商会系パーティの黄金の交易路(シルクロード)。彼らの先遣隊が転移三日目にあたる明日の夕刻には村の北にあるベタンの森へと到達するそうだ。彼らは念の為護衛を付けて向かってきてはいるのだが、野盗は兎も角積載している食糧の匂いに釣られて魔物が寄ってくる可能性があるという。

 普段は魔物のあまり活発化しない陽の出ている時間に輸送する事で危険度を下げるらしいのだけど、今回は間近に迫った食糧難を回避する為の強行軍として速度を優先している為、そのような事態になっているとの事。

 開拓村はまだ自給自足には至っていない為、領都からの定期便で食糧支援を受けてはいるものの、そういう設定だったとはいえ一度に1万人規模の人間が増えた上にそのまま滞留すればとてもじゃないけれど賄いきれない。対策会議の場でも言われていた事だ。

 護衛を付けているとは言えど、ベタンの森に生息する魔物はその地形を活かした襲撃が得意で、夜の時間に活性化するタイプの魔物も多く今回のような規模が大きめの夜行では恐らく被害を防ぎきる事ができないだろうと予想されている。


 要はその先遣隊を迎える村側からの護衛として彼らに合流しに向かってほしいという内容だ。

 これが単なるゲームであったなら即答で引き受けた事だろう。大方失敗しても依頼達成料から減額されていくようなタイプのものだと想像できるから。

 でも今は違う。依頼の中身を考えずに安易に頷く事は出来ない。この開拓村の飢餓の危機も考えなくてはいけないけども、ボクが最優先するべきは仲間の安全だからだ。


「荷馬車の台数などは把握できているんですか?」

「先遣隊の荷馬車の台数は8台。積載量をある程度犠牲にした速度重視の物です。」

「合流予定地点から安全圏と考える地点までの距離はどれほどですか?」

「ある程度詳細な見取り図を出しますので少しお待ち下さい。」


 机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出し目の前に広げられたそれを覗くとベタンの森の割と詳細な見取り図が描き込まれている。

 開拓村の北出口がギリギリ描かれており、後はベタンの森の中を貫く街道を主軸に道の目印となるランドマークが記されている。


「まず君達に向かってもらいたい合流地点はここです。」


 指で示されたポイントはベタンの森の中央部よりやや北に近い地点。ランドマークとして大きな樹が捻じれて絡み合っている図柄も描き込まれている。


「ここがスパイラルオークの群生地の開始地点であり、領都からの玄関口とも言えるポイント、通称"ツイストゲート"。街道脇に生えた二本の巨大なスパイラルオークが互いに絡み合って門の様になっています。」


 地図を見るにそこから森を現す色が濃く描き込まれている。


「ここを開始地点とし、安全圏の目安となるのがこの"巨人の腰掛け"と呼ばれるポイントまでです。」


 カサネさんの指を追ってそこを見ると、巨大な切り株が街道沿いに描かれていた。先程のツイストゲートと巨人の腰掛けまでの間の距離は、縮尺から見て凡そ3㎞程度はありそうだ。


「この距離をあちらの護衛と含めてボク達で守れと?」

「ええそうです。勿論あなたの言いたい事は分かりますよ。この距離をこの人数で護衛しきるのは無理があると、そう言いたいのでしょう?」


 コクリと無言で頷く。そう、どう考えてもこの距離を馬車に付き添って守るのは難しい様に思える。どれ程のモンスターが襲ってくるか予想も出来ず、日中でさえ薄暗いあの森の中を夜が迫る夕方に護衛しながら抜けなければならないのだ。


「陽が完全に落ちてしまえば魔物は完全に活性化して護衛が居てもこの任務は失敗するでしょう。ですが夕陽でも陽が出ていれば魔物の行動規模は夜に比べて格段に落ちます。安全圏までのルートの中に幾つか炎のマークが描かれているのは分かりますか?」


 カサネさんに言われ、再び地図に目を落とすと確かに言われた様なマークが描かれている。


「このマークがあるポイントは聖火を灯された灯籠が設置されている地点です。この周囲凡そ30m程度は魔物はこの火を嫌がって近寄ってきません。本来であれば街道沿いに一定距離で設置しておきたいのですが、何分この聖火を灯す為の灯籠は簡単に作る事ができず、設置する際に術式を埋め込んでいるので動かす事も出来ないのです。」


 頭の中でその灯籠を馬車に積んで使えないか思案していたが即座に否定された。それはそれとして残念ではあるけども、この灯籠の安全地帯を利用しながらであれば護衛成功の可能性は高くなる。

 地図を見ると灯籠のあるポイントはカーブの直前だったり、道幅が一時的に狭くなる地点の前後だったりしている。設置間隔としては次の灯籠がみえる位置よりかは少し距離があるといった感じだろうか、馬車を数台ごとにわけてこの安全ゾーンとも言える灯籠を利用すれば被害を出さなくても済みそうな気がしてきた。


「どうでしょう、行けそうな感じでしょうか?」

「メンバーとの詰めの話し合いは必要だとは思うけど、これであれば護衛の成功の可能性は上げれそうかな。後は夕刻から夜に出現するモンスターの情報があれば対策も考えやすいかと。」

「そうですね。ベタンの森へ行った事はありますよね?」

「はい。」

「ゲーム時での設定ではウェープコボルト、フォレストウルフ、ジャイアントスパイダーの三種類とそのレア種が出現モンスターとして指定されていました。転移後の報告ではここに巨大な蛾のモンスターであるヒュージストレンジモスとナイトハウンドと呼ばれる大型の狼タイプのモンスターが出る可能性が高いです。」


 カサネの説明を聞いて行くうち、巨大な蛾というフレーズを聞いた瞬間セラの耳がペタンと折れたのは虫嫌いのセラとしては当然の反応だと言えた。大丈夫な虫もそれなりにいるのだが、虫タイプのモンスターは大体が害虫が元になっている事が多く、その手の虫はセラでなくても苦手な者は多いだろう。


「蛾はなんとなく想像出来るんですが、ナイトハウンドについて詳しく教えてもらえますか?」

「ええ勿論。ナイトハウンドはフォレストウルフと比べて体格が1.5倍ほど大きく、裂けた様な四つの亀裂から覗く瞳は深紅色に輝き毛色は艶のある黒色。フォレストウルフとは違い単独行動をする個体が殆どで、前肢の鋭い爪による攻撃と首周りから生えている二本の触手状の部位による攻撃を仕掛けてくるのが特徴です。」


 言われて今までのネトゲで体験してきた触手持ちのモンスターの動きを脳内で再生する。触手を持ったモンスターが登場してくるのは大体のゲームで中盤以降だ。その多くは植物系モンスターか悪魔系のモンスターだったが、どちらも攻撃範囲とタイミングの掴み辛さからくる対応力を試される実に嫌なタイプだった事を思い出す。

 数をこなして屠ってきた敵ではあるが、この世界で対応できるかは正直未知数だ。今のこの体の動体視力や感覚の鋭さには自信があるが、こればかりは実戦になってみないと何とも言えない。


「一応ギルドとしても護衛任務として依頼提示するつもりではあるのですが、内容の難易度を踏まえるとどうしても受注条件が厳しくなり、依頼を受けれる冒険者が限られてしまうのです。現時点でこの村で最も高位の冒険者集団は天兎である以上ギルドとしてもこの任務は君達に指名依頼を出さざるを得ないのです。」

「……指名依頼で出されると此方としては拒否のしようがないですね。わかりました、その依頼はお引き受けしましょう。"相談"の見返りは期待しますからね?」

「何かしら用意はしておきますよ。では、そういう事でよろしくお願いしますね。手続きは此方で済ませておきますので。」



 ギルド長の部屋を出てから一つ小さく溜息をつき、会議室の方へと足を進める。

 カサネさんとは協力関係を結んでいる間柄ではあるが、この世界でやっていく以上彼女の役職である"冒険者ギルドの長"という立場を無視する事は出来ない。指名依頼も制度上拒否する事は可能だが、そうした場合冒険者ギルドからの評価が著しく低下する事となる。説明された時はBランクからとか言っていたように思うんだけど、流石に今の状況下では緊急事態として運用せざるを得ないのだろう。


 いずれにせよ、依頼を受けた事になった以上打てる手は打って行かなければならない。


 本日分のレポートを仕上げて提出した後、ボク達はモーリィとベネの居る製作施設へと向かって合流し、一旦全員で宿に引き上げた後遅くまで話し合いを続けてこの難易度の高い任務に備えて対策対応を詰めていった。




次回は戦闘シーン入ると思います。

ナイトハウンドは魔獣に分類されるモンスターで、開拓村近辺のモンスターとしてはかなり上位の強さを誇るモンスターとなります。

特殊個体になると触手の数が増えたり、体にも裂けた様な模様が浮かび上がると言われています。

その強さはFランクやEランクの冒険者では太刀打ちできない程の強さ。

幸いな事に群れを作らない習性なので、多対一の構図に持っていければ勝ち目はある。

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