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【 Ep.2-013 調査任務開始 】



 白鯨と黄金の交易路(シルクロード)を見送った後、ボク達天兎はモーリィを製作施設へ残し、村の外へ出て生態が変化したというモンスターの調査に向かう事にした。


 調査対象のエリアは西側のアルバの森、北側の街道沿いに広がるベタンの森、東側のスィータ平原の三つのエリア。南側の初期スタート地点だったエリアは今も変わらず長閑な状況であるらしく、村に住む者達が農地確保や村を広げる為に手を入れていってる最中であるとの事。今後の事を考えたらこの村に残るプレイヤーもいるだろうし、村の発展も大事な事業であるのは間違いない。幾つかのプレイヤーのパーティも依頼として受注し、その作業に従事している。

 そう考えればボク達の行う調査任務は村の発展にも関わる重要な案件だという事がわかる。


「さて、どっから調べるんだセラ?」

「んー、比較的エリアの広いスィーダ平原を早めに済ませておきたいね。チグサの言っていたキラーアントの危険性や対応策も把握しておかないといけないし。アリの習性からしても近辺で一番の脅威になりうると思うんだよね」

「確かに。はやめにキラーアントへの対処法を確立しておくに越したことはありませんね」

「向かうんはええんやけど、何か対策考えてあるん?」


 最初の調査エリアの対象をどこにするかケントはセラに尋ねる。天兎においては基本的に大まかな方針決定はマスターであるセラが決める事が多い。勿論セラがメンバーに多数決を取って決める事もあるのだが、今は状況的にも意思決定が速い方が好ましい。

 セラの提案にチグサをはじめとしたメンバーも頷き、村の東側に広がるスィーダ平原を最初の調査エリアとする事が決定された。

 ただ、そのスィーダ平原に生息するキラーアントが起こした惨劇を踏まえてマリーが対策があるのか尋ねる。無策で対峙するには危険性が高い相手なのだ。直接攻撃力や防御力の低い魔法職であるマリー達からすれば確認しておくべき事項である。


「そうだね、これまでの経験から推測するに一応この村の周囲は初心者エリアに該当するレベル帯の特性を残しているって考えられるよね」

「あー、うん。せやね」

「だから基本的には周囲のモンスターもその辺りを踏まえた設定が生きていると思うんだ。つまりは特に変わった耐性みたいなものはないと考えていいんじゃないかなと。そしてその仮定で話を進めるとキラーアントはでかいと言っても虫の一種類。であるならば、弱点も大きくなっても変わらないんじゃないかな?」

「虫の弱点と言いますと……部位では触角や関節部、攻撃方法としては"火"や"水"あたりでしょうか?」

「うん。多分その辺りが有効な手になると思うんだよね」

「ならうちが大活躍できるやん!はよいこ!」

「あくまで仮定の話だからね?生態が変わっているっていう情報で調査に出るんだから、各々幾つかのパターンを想定して動く様にしてね」




***




 マリーに急かされる形で村を出てスィーダ平原へ向かう。村に比較的近いエリアは然程危険度は高くないと判断されてか、採集依頼を受けたであろう冒険者達の姿を見ることが出来た。


 平原の丘陵地帯を越えてからがこのスィーダ平原での調査任務となる。なだらかな丘をいくつか越え、少しだけ小高い丘の頂上から辺りを見回すと、まだ距離はあるもののいくつかの特徴的な光景を確認する事が出来た。

 一つはデミゴブリンの小規模な集団とキラーアントが交戦している様。どうやらモンスター同士でも敵対関係は存在するらしく、この光景もこの世界における生態系の一つの形なのだろう。感心しながら見ているとキラーアントに有効な攻撃手段を持たないデミゴブリンがその数を順当に減らしていき、戦意を無くした者から逃亡をし始めている。

 また他にも目を凝らすと、かなり遠くにはなるが蟻塚らしき構造物が目に入る。巣の入口らしき場所を頻繁に出入りしている光景からしてあの場所がキラーアントの巣であるとみて間違いないだろう。

 受け取った資料によると、このスィーダ平原の主要な出現モンスターは五種類。お馴染み雑魚モンスターのデミゴブリンにショウリョウバッタを巨大化したようなグラスイーター。同じく巨大化したダンゴムシのジャイアントロリポリ。生息数は少ないものの、空中から襲い掛かる巨大なトンボのギガヤンマ。そして恐らく平原の支配者とも言えるキラーアントだ。

 並べて見てもわかるように、昆虫系のモンスターが多い。ある程度の社会性を有したデミゴブリンや、キラーアントがその大半のエリアに存在し、他の三種類はそこまで生息数が及んでいないのはこの平原がある程度の知性を持ち、社会を築いている生物が上位に存在出来るという生態系で成り立っているという一例を示している。


「そこらで起きているデミゴブリンとキラーアントの交戦見る限りでは、デミゴブリンに大きな変化は見られないね」

「キラーアントも私が見た限りではさほど変化がない様に思えます」

「俺もそう思うっす。ただ、実際戦わない限りはわからないっすよ」

「実際戦闘もせずに調査終了ってわけにもいかないしね……。ケント、キラーアント数匹釣ってこれそう?」

「ああ、大丈夫だけどその前に全員バフ入れとこうぜ」

「リツ、クロさんお願いできる?」

「はいよ、<纏風脚(エアステップ)>!」

「少々お待ちを。―――ケントさんとベネデクトさん、それと後衛の皆さんは此方へ……いきます、<防御強化(エンハンスドディフェンス)>!」


 戦闘前の準備は大事だ。釣り役のケントにリツが足を速くする<纏風脚(エアステップ)>を掛け、クロさんがケントとベネデクト、そして後衛のリツ、シオン、マリーと自分自身に物理ダメージを軽減する効果のある支援職専用魔法の<防御強化(エンハンスドディフェンス)>のバフを投げる。それぞれの身体の周囲を半透明の盾の形をしたエフェクトが周回しつつ身体に溶け込んでいく。

 [練技士(エンハンサー)]のクラスを獲得している二人はパーティメンバーであれば纏めてバフを掛ける事が出来るが、リツは[侍祭(アコライト)]としてのサブヒーラーであるという立ち位置を踏まえてか、魔法適正のある属性魔法を使う事で消費するマナを抑える様にしている。

 そういうそれぞれの役割認識のおかげで、メインヒーラーはシオン、クロさんが強化魔法職(バッファー)として後衛は役割分担している。

 強化魔法なら全員同じバフを重ねればいいと思われがちなのだが、ゼノフロンティアの仕様上低レベル帯のプレイヤーへのバフの最大有効数が有って、今現在の其々のレベルを考慮した場合二種類までが限度である。それ以上のバフを重ねる事も可能だけど、ちゃんとした効果が恐らく発生しない。


「ん?俺も防御重視で行けって事か」

「ケントだけじゃカバーしきれない場面出てくるだろうからね。ベネはサブタンクとしての動きも意識して戦闘してね」

「了解した」

「セラさん、チグサさん、シキさん、ベネデクトさん、セトさん此方へ……<攻撃強化(エンハンスドアタック)>!」


 続いて物理前衛職の五人に攻撃力を増加させる<攻撃強化(エンハンスドアタック)>のバフが掛かる。此方は半透明の剣を形のエフェクトが同様に身体の周囲を周回しながら溶け込んでくる。身体の中に溶け込むと同時に芯から力が湧いてきてバフの効果が発生した事を感じる。


「もう一度後衛の方は此方へ……<魔法強化(エンハンスドマジック)>!」


 続いてクロさんは後衛職、つまりは魔法職の面々に魔法の威力を増加させる<魔法強化(エンハンスドマジック)>を掛ける。こちらは杖の形をした半透明のエフェクトが発生し、それぞれの身体へ溶け込んでいく。因みにこの魔法、バフを掛ける前に使えば効果が上がると思われがちだが、強化魔法(バフ)は熟練度による補正を受けるタイプの魔法であるらしく効果はない。

 また近接アタッカーであるボク、チグサ、シキ、セトの四人に防御魔法を重ねていないのは、それぞれの自己バフスキルを発動させた時にしっかり効果を発揮させる為だ。


「よし、バフはこんなもんかな?最初は軽めに数匹引いてくるからそのつもりで頼むわ」

「一応念の為に掛けとく、<治癒水(キュアウォーター)>」

「サンキュ!んじゃいってくら」


 キラーアントを引きに行くケントに向けて、リジェネレイトタイプの回復魔法である<治癒水(キュアウォーター)>を掛けておく。過剰な気がしないでもないが、この調査任務の内容を踏まえればそれぐらいでもまだ足りないという可能性もある。

 盾を背中に懸架し、両手をフリーハンドの状態でケントがキラーアントの小集団へ向け駆けていく。この間に村で話し合った対応策を誰がするか決めておく。


「チグサは触角を斬って反応を確認してみて。ある程度観察出来たらそのまま潰していこう。で、マリーは火属性魔法の有効性の確認を。ボクとシキ、セトは敵に合わせて遊撃で」


 それぞれ頷きケントが引いてくるであろうキラーアントに対応する為、何時でも交戦に入れるように布陣する。気を付けなければいけないのは、引いてきたキラーアントがそのままケントを取り囲む状況にしない事だ。後衛陣の守りをベネに任せる形で気持ち前に出て何時でも割って入れる様に森羅晩鐘(えもの)を構えて腰を落とす。

 


「わりぃ、少し多く釣れちまったーーーっ!」


 そう叫びながらケントが此方へ走ってくる。その少し後ろには八匹のキラーアントが綺麗に一列をなしてケントを追いかけている。速度的にケントを追い越すような速さは出ていないので、回り込まれて取り囲まれるという事態にはなりそうにはない。


 皆の元へと辿り着き、即反転しながらケントは盾を構えてキラーアントへ向けて<挑発(タウント)>を使用する。

 ケントの<挑発(タウント)>に反応したキラーアントの群れはケントを取り囲もうと動くが、ボクとチグサがケントを間に挟んで扇状に陣取った為包囲は失敗し、その後ろ側にはシキとセト、そしてベネデクトがそれぞれシオン、リツ、クロさんを守る形で布陣していて、キラーアント達は取り囲もうとする動きを諦め、ケントに四匹、ボクに二匹、チグサに二匹に分かれて対峙する。

 ケントが四匹を引き受けてる間に数を減らさなければいけない。気持ちは焦るがここは落ち着いて改めてキラーアントを観察すると、頭部と胸部は堅そうな外殻に覆われているが、腹部は比較的柔らかそうに見える。物理的な弱点は恐らく腹部ではないだろうか。

 その考えを元に相手の背後を取ろうと動くが、触角を細かく動かしてこちらの動きを素早く察して背後を取らせない。それどころかもう片方が隙を突こうと逆に此方の背後を取ろうと動く。弱点部位の推測はこの動きからして恐らく正解だろう。

 それにしても、蟻という種族特性のお陰なのかは不明だが、巧みな連携で此方を切り崩そうとしてくるコイツらは少人数のパーティだと対応しきれずに犠牲になる可能性が高い。


「セイッ!!」


ガギッッッッ!!!


 真正面から叩き潰す様にアックスブレードを頭部に向けて振り下ろすも強靭な顎により受け止められ、此方の動きが止まったのを好機と見てもう1匹が素早く攻撃をしてくる。


「させない」


 ボソリとしたセトの声と共に、攻撃を仕掛けて来たキラーアントの触角の片方が空を舞い、斬り飛ばされた根本から体液がブシュリと少し飛び出た。

 ―何が起きたのか。それは地面に突き刺さり鈍く光る投げナイフがその答えだろう。セトのスキル<スローイングナイフ>が見事に決まってキラーアントの触角を部位破壊したのだ。

 触角を一本斬り飛ばされたキラーアントは痛覚でもあると言わんばかりに頭部を激しく動かし、顎をガチガチと鳴らしている。


「まずはこっちから!」


トッ! ッタン! ザシュッ!


 手負いのキラーアントを後回しにし、一度身体を右に振ってから左へ飛んで一気に無事な方のキラーアントの背後を取りに行く。抜け駆けざまに腹部に向けて一撃をお見舞いすると思ってた通り刃の通りが良く、横に大きく切り裂かれた腹部からはドロドロと体液が溢れ出してきていて他の部位よりも防御力が低い事が証明された。


「このまま倒すよ!セト、そっちの一匹任せた!」


 コクリと頷くセトを他所に、既にセラの目線は目の前のキラーアントに向けられており、半身溜めの姿勢を取ってから一気呵成に連続攻撃を仕掛ける。


ザンッ! ザシュ!! ブゥン! ギィンッ!!


 触角を斬り飛ばされて錯乱状態にある一匹をセトに任せ、腹部を切り裂いたキラーアントに向け振り下ろしからVの字型に切り返し、再度上に振り上げられた得物の勢いを殺さぬ様軸足を中心にその場で回転する事で更に勢いを付けて回転斬りへと繋げ追撃を加えていく。

 セラの苛烈な連続攻撃に対して既に手負いのキラーアントはまともに防御行動を取る事が出来ず次々と刻まれていく。

 程なく受けるダメージの限界を超えたキラーアントは生命活動を停止し、六本の脚から力が抜けてドサリと大地に転がった。

 一匹を仕留めたがそれで気を抜くことはできない。もう片方のキラーアントに対応しているセトの援護へと即座に回る。

 片側の触角を斬り飛ばした事が功を奏しているのか、セトはリーチの短いダガーでキラーアントの攻撃を上手くいなしつつ隙を見て攻撃を加えていた。


 ガチッ! ガギンッ!!


「くっ……!」


 片側の触角しかないせいか、キラーアントの攻撃は精緻さを欠いており幾つかの攻撃は空を切っている。だがその分その顎に込められた力は幾分か増しているらしく、直撃する攻撃だけをダガーでいなしているセトの表情には余裕はない。

 直撃ではないものの、捌き切れなかった細かなダメージはリツが<治癒(キュア)>で癒す事で支えている。


「セト、そのままもう少し気を引いといて!」

「――!」


 そうセトに声を掛け、セラは再び腰を落として丹田を意識する。力の流れを全身へ行き渡らせるイメージを浮かべ、更にその力を掌から構えている森羅晩鐘(えもの)にも流す。その効果があったのか不明だが、刃は薄っすらと薄紫色の光を放っている。


「いっくぞぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!!」


 掛け声と共にセラの身体は大きく跳び上がる。


「っらァァァアアアーーーーっ!!!!」


ブオォォンッ!!


 空気を切り裂く鈍い音を轟かせ、アックスブレードが猛烈な勢いでキラーアントへ叩きつけられる。片側だけになった触角では正確な状況判断が出来ず、目の前のセトに意識が向いていたキラーアントは回避する暇もなくまともに攻撃を受けた。


ズシャッ!!! ドゴォォオオオン!!


 斧系の基本スキル「パワースマッシュ」の発展スキル、「ストライクインパクト」が綺麗に決まってキラーアントの胸部から下の部位はバラバラに四散する。

 キラーアントの半身をバラバラにしたアックスブレードはそのまま地面に突き刺さり、小さいながらも軽くクレーター状の窪みを作り出していた。

 ピギュ…と力なく鳴くキラーアントの頭をセトが蹴り飛ばして完全に止めを刺す光景を、地面に突き刺さったアックスブレードを引き抜きながら確認し自分に向かってきた二匹の処理を終えた。


 自分に狙いを定めてきた二匹は処理できたが、ケントとチグサ達もまだ戦闘中だ。少し離れた位置で交戦しているチグサは上手く敵を誘導して引き込みながら、巧妙に敵の攻撃を回避しつつカウンターで相手の触角や関節部を切り裂いていき、動きの鈍ったキラーアントにシキが[修道士(モンク)]の基本スキル「寸勁」を当て止めを刺していた。あの様子であれば態々加勢するまでもない。

 直ぐにケントを見やると、右手に盾を持ったケントが四匹ものキラーアントの攻撃を防ぎつつ、時には「シールドスマイト」で反撃してダメージを与えているが、防御する事に意識を傾けているせいで大したダメージは出ていない。だがノックバック効果があるおかげか、ヒットしたキラーアントからの攻撃を一時的に無力化すると言う点ではよいスキル運びをしている。

 対処しきれずに受けたダメージはシオンの回復魔法でケア出来ているが、スタミナまで回復できるわけではないのですぐに加勢に向かう。


「ごめん、待たせた」

「おー、何とか持たせたぞ。これさ、実際やってみてわかったんだが、利き腕で盾持たねぇとやってられねーわ」


 ケントと声を掛け合いながら相手にしていたキラーアントを一匹受け持ち対峙する。汗を流しながらもセラ自身も疑問に思っていた利き腕で剣ではなく盾を持つという行為に対する回答を、実戦で痛感したケントは思わずセラにこぼした。


「……結構余裕あるじゃん」

「いや、これでも!結構ギリギリだって。んのぉーッ!」


 バゴッ!という音と共にシールドスマイトで再度迫ってきたキラーアントを吹き飛ばす。が、ノックバックしたキラーアントと入れ替わる形で別のキラーアントが盾を引き戻していないケントへ襲い掛かる。


「ウラァッ!!!」


 ゴゥン!という重々しい風切り音と野太い声と共に幅広の両刃斧のアックスブレードがキラーアントを吹き飛ばし、ケントの前に大きな影が割って入った。


「メインタンクのお前ばかりに負担をかけるわけにはいかんからな」

「サンキュー、ベネ。今のは助かった」

「なぁに、これもサブタンクの仕事の一つだ。チグサとシキの方もそろそろ片が付く。そうなればこっちの数的優位性は揺るがん。この四匹もいい加減年貢の納め時ってやつだ」


 軽く首を後ろに向け、その大きな背中をケントに晒しながら語るは天兎メンバーの中で最年長かつ随一の巨躯を誇るベネデクト。事前にサブタンクの役割(ロール)を振られていた彼は妻のマリーを中心に、シオンやクロさんといった後衛職を守る為にパーティの中心に近い位置で動いていた。

 ベネが前線に出てきたという事は、一番見やすい位置で戦況把握をしていた彼が前に出ても大丈夫な状況になったという事だろう。

 

「此方も片付きました」

「お待たせっす!」


 ベネの判断を裏付けるかの様に、チグサとシキもキラーアント二匹を倒したらしく近くに駆け寄ってくる。


「よし、マリーの火属性魔法が効果あるか検証するよ。今度はこっちがこいつらを包囲する番だ!」


 セラのその掛け声と共に残りのキラーアント四匹を前衛メンバーで取り囲んでいく。

 ケントが盾を前面に構えてキラーアント達の中央部を「突進(チャージ)」を仕掛けて北側に抜け、ケントに気をとられたキラーアント達を見ながら西側にボクとセト、東側にチグサとシキ、南側にベネデクトが布陣し、西側のボクらの後方にリツが付き、東側の二人の後方にシオンが布陣し、ベネデクトの後ろ側にマリーとクロさんが布陣していく。

 キラーアント達は此方の動きを警戒して防御の弱い腹部を互いにカバーする様に十文字の形に防御陣を形作る。――狙い通りだ。


「マリー、こっちの準備は出来たよ!」

「―――囲え、囲え、火をくべよ。猛る炎よ我が敵を焼き払え!<炎陣(フレイムサークル)>!!!」


 合図の声を掛けると同時にマリーの詠唱が終わる。詠唱の終わりと同時にマリーの前で防御していたベネが横にずれ、マリーがスタッフで指し示したキラーアント達の足元の地面に取り囲むように魔法陣が刻まれていき、術式が完成したと同時に赤い光を放つ。

 マリーが使用した<炎陣(フレイムサークル)>は、対象範囲内を強力な炎で燃やす火属性の範囲魔法。

 地面に描かれた魔法陣から放たれる炎の勢いは強く、瞬時にキラーアント達を炎の壁が囲う。突然の出来事に狼狽えた様な仕草を取ったかのように見えたキラーアント達は脱出する事も出来ずにギチギチと悲鳴を上げながら炎に巻かれて命を散らした。


「見たかー!これがうちの火焔魔法やー!!」


 ブスブスと少し嫌な臭いのする煙を上げる焦げたキラーアント達の残骸を前に、手に持ったスタッフを上に掲げながらマリーが勝鬨を上げた。

 



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