【 Ep.1-013 冒険者登録 】
「て事でぇ、二人とも洗礼受けて魔法適正調べてきたんでしょ?なら後は冒険者ギルドに行ってー、冒険者登録をしてー、パーティ登録するっしょー?」
「リツ。イケメンスマイルでその喋り方してるとエルフのチャラ男にしか見えないよ」
「ブフwwwwwwwwチャラ男wwwwwwwww」
「むぅ…。まぁほら、3人揃ったんだしとりあえず行こうよ。中央広場の大通り沿いあたりにあるって話だから話しながら行けばすぐでしょ。で、セラはこれから一人称"ボク"でいくのね?」
「うん、そうするよ」
ウキウキな感じでリツがこの後の行動について語り始める。その顔はイケメンなのに、語り口調があまりにもわざとらしくて思わず突っ込んでしまった。キャラ作りとして意識してやっていただろう口調が不評でリツはむくれるが、今みたいな調子で話されるとむずむずするので普段通りに話してもらいたい。
すぐに気を取り直したリツは改めて次の予定地について話しを続け、物凄く雑なついでな感じで、先に告げていたこれからの一人称を「ボク」呼称にする事ついて念を押された。これ、ギリギリネカマじゃないよな?誰かそう言ってくれ。
――神殿前の広場から冒険者ギルドに向かって三人で喋りながら歩く。話題は当然それぞれの魔法適正とクラス選択についてだ。
このゼノフロンティアには様々な種類のクラスが存在し、適性を得ている場合取得が可能となっている。一部の特定クラスは取得に条件があるらしく、その条件を満たさなければ取得は出来ないらしい。基礎クラスは自動取得の仕様となっている。取得クラス数に制限はなく、一人で複数のクラスを持つ事も可能だという。その場合、メインとなるクラスを設定しておく事で、そのクラスをベースにした補正が適用され、サブクラスはその補助的な能力を付与する形になっている。
今後パーティでやっていくにあたり、全員が前衛だとまず立ちいかない。パーティの最少人数は2人からではあるが、2人は現実的ではないだろう。平地や初級エリアなどでのペア狩り程度なら問題が出るとは思えないが、その先を見据えた場合…例えばダンジョン攻略等であれば5,6名は必要ではないだろうか。場合によってはNPCの荷物持ちを雇ったり、NPC冒険者達ともパーティを組む事もできるそうなので、ボッチプレイヤーでもその辺りへの対応は一応可能にはなっているようである。
そういうわけで、それぞれの魔法適正と予定クラスを歩きながら話し合った。事前にクラスロールについては相談済みなので確認の意味が強いが、魔法適正についてはランダムだったので、そこの把握は必要だろう。
ケントの魔法適正は火。≪天恵≫は残念ながらなかったようだ。クラスは選択した武器が片手剣と盾なのでタンカークラスを担当。取得クラスは[初級戦士][剣士][盾使い]。それぞれ基本的に前衛職は最初に[初級戦士]になり、取得した武器によりそれぞれ分岐していく。片手剣と盾を選択したケントは、[剣士]と[盾使い]のクラスを取得できたみたいで、メインクラスは[盾使い]にするそうだ。
リツの魔法適正は風。副属性は微弱ながら光属性もあるとの事。≪天恵≫はケントと同様に発現しなかったらしい。クラスは両手杖を携えていることから最初から得意なヒーラークラスをするそうだ。取得クラスは[魔法使い][侍祭][練技士]。[魔法使い]は魔法主体で戦う者全般の初期クラスともいえる。これは攻撃志向であれ、支援志向であれ変わらない。[侍祭]は支援系回復職にあたる。分かり易く言うとヒーラーそのもの。[練技士]は所謂バッファーに当たるクラスで、このクラスは前衛職でも取得が可能らしい。リツはメインクラスを[侍祭]に設定した。
そして俺も自身の魔法適正の主属性が水属性で、副属性が闇属性である事と、≪天恵≫持ちであった事とその内容を説明し、武器はハルバードなのでアタッカークラスを担当するという役決めとなった。取得クラスは[初級戦士][槍使い][狂戦士]のクラスを取得している。メインクラスは[狂戦士]に設定してある。
「じゃ、事前の打ち合わせ通りの役回りで大丈夫みたいだし、これで冒険者登録をして、この三人でパーティ登録するって事でいい?他の連中の合流は遅れそうなんでしょ?」
「ああ、連絡見た限りでは他の参加組は遅れるみたいだし、この三人での登録で俺はオッケー」
「私もそれで問題ないよ」
役回りが正式に決まったあたりで開拓村の中央広場に到着したので、冒険者ギルドがどこにあるか辺りを見回す。恐らく人が一番多い所だろうと目星をつけて探すとそれはあった。
太陽に2つの月が重なったエンブレムが描かれた特徴的な看板。他とは一線を画す堅牢かつ大きな3階建ての建物、それがどうやら冒険者ギルドらしい。
開け放たれた間口の広い入り口から中へ入ると、既に登録を済ませた冒険者達と俺達と同じく冒険者登録を目的とする者達で溢れかえっていた。登録希望者が多い事から、ギルド窓口の受付ははやくもパンク寸前だ。臨時で二階の窓口が解放され、新規登録希望者は二階の新規冒険者登録受付窓口へと案内された。
比較的並んでいる人数が少ない列へ並び、他の冒険者達を見たりして時間を潰す。なんだかその光景は遊園地の人気のアトラクションに並んで、今か今かと待ちわびる人々の姿と被る。二人組の前衛ペアや、恋人なのかわからないけど男女のペア。奥の方には10名弱の大所帯な集団も…ってあいつ最初に勧誘してきた連中の中にいた「けもみみもふもふ」の獅子獣人じゃねーか!宣言通りその集団はアニールだけしか居ない。キャイノキャイノしている集団は他の連中からも浮いて見えて割と目立っている。獅子獣人の彼は威風堂々と立ってドヤ顔決めているんだが、尻尾がさっきからピッチンピッチンと上機嫌に揺れているので色々台無しである。
そんな光景を見ていると程なく順番が回ってきたので早速冒険者登録をする。
受付嬢のリントさんの説明に従い、窓口に設置されている石板へと手を当てる。程なくリントさんから金属製のチョーカータグを渡された。石板に触れた者の情報を読み取り、チョーカータグに転写する仕組みらしく、渡されたタグには
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・冒険者ランク ・・・ F
・名前 ・・・ セラ
・クラス ・・・ 狂戦士
・所属パーティ ・・・ 無所属
・所属ファミーリア ・・・ 無所属
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と刻み込まれている。
表記されているその5点だけで事足りるらしいが、依頼達成の情報や、犯罪歴等もタグは保存しているらしく、ギルド職員は様々な情報を読み取る事が可能らしい。所謂この世界の身分証明書だと捉えて問題はないだろう。勿論知り得た内容を他人に漏らす事は重大な違反行為に当たる為、そういった行為が確認された場合は官憲に引き渡されて厳しい処分を受けるとの事。
「そちらが皆様の冒険者の証となりますので、決して紛失なされないようお願い致します。もし無くした場合はギルドにて再発行は可能ですが、再発行手数料として5銀貨を頂きます。次に冒険者ギルドの説明をしますがよろしいですか?」
3人とも頷きリントさんからギルドの説明を受ける。
「冒険者はタグにもありますようにランクが設定されています。
最下級からF→E→D→C→B→A→S→SS→SSSの順にランク付けされており、昇級には指定数の依頼達成や、試験を受けて頂く等幾つかの条件が設けられております。認定は各地のギルドマスターの権限によってなされます。
次に依頼についてですが、依頼には幾つか種類がございます。大きく分けて「納品依頼」「討伐依頼」「調査依頼」の3種類あり、そこから更に「常設依頼」「指定依頼」「指名依頼」と分類されています。
「納品依頼」は文字の如く、指定された物品を採集や製造等し、納品して頂く依頼です。基本的には採集する様な物が大半ですが、時にはモンスターの素材なども対象となります。納品物の状態により、追加ボーナス等もあります。
「討伐依頼」は指定された対象を討伐する依頼です。こちらは討伐証明として、モンスターの部位の一部を証拠として持ってきて頂く事が殆どです。
「調査依頼」は指定されたエリアを文字通り調査して頂きます。多くは未発掘の遺跡や、ダンジョンの探索等が主たる内容となるでしょう。
続いて「常設依頼」ですが、主に薬草やポーションの原料となる素材等、常時依頼提示されている類のものとなります。駆け出しの冒険者にはお勧めです。
次に「指定依頼」ですが、此方は一定期間依頼提示され、その間に応募して頂く形になります。主に町から町への護衛依頼や、期限までに指定物の納品といった内容がメインです。これらは常設依頼とは異なり、基本その機会限りの依頼となりますので受注は先着優先となります。
最後に「指名依頼」についてですが、此方は依頼主の方が直接受注者を指名する特殊な依頼となります。基本的に上位ランクであるB級からの発注となります。この「指名依頼」は断る事も一応可能ではありますが、ギルドからの評価も関係しますので基本的に受注される事を推奨致します」
中々に詳しい説明だ。冒険者ランクは良くあるランク設定のようで安心したが、最下級のFから始まるとして、どれ程の時間を費やせばSSSランクにまで上り詰められるのだろう。この冒険者ランク、事前情報によれば別に戦闘をこなさなくても上げる事が可能らしい。所謂生活系コンテンツを極めていけば、それに応じてそちらでの功績が評価されてランクが上がるという仕組みなのだと。
「続いて受注について説明させて頂きます。依頼の受注は受注札に書かれてある推奨ランクを参考に受注して下さい。受注数の上限はありませんが、多く受注すると大変なので程々にお願いします。また受注に際して特例を除き、Cランクまでは自己ランクの上位2クラスまでは受注可能です。が、これも実力に自信がない場合は辞めておいた方が賢明でしょう。
受注手続きは依頼掲示板に提示してある依頼番号の書かれた札を受付までもってきて下さい。 また依頼の完了については依頼によって変わりますが、最終的にギルドにて報告を行って下さい。基本的に「納品依頼」及び「指名依頼」は受注したギルドにて報告して下さいね。その他の依頼については各ギルド支部にて受付が可能ですので任意のギルド支部で報告して下さい」
この説明も基本的に戦闘ありきでの説明となっている。だが"特例を除き"と述べた様に、生産系コンテンツでは受注制限は発生しない様である。一応ここは冒険者ギルドである為、戦闘コンテンツが前提での話で進められるが、この世界には冒険者ギルドの他にも商人ギルドや錬金術ギルド等、様々なギルドが存在しており、それぞれ評価システムを共有しているので色々なアプローチで冒険者ランクを上げる事が可能になっている。
「最後にパーティ登録とファミーリアについて説明させて頂きます。
パーティ登録は各ギルド支部の受付にて、パーティリーダーがメンバー構成を申請し、パーティ名を告げてタグを提出して頂く事で登録が可能です。メンバーの追加や除名、パーティ名の変更も都度して頂いても大丈夫です。
注意点としましては、登録メンバー以外の功績はパーティ貢献度には反映されません。また、ファミーリアは一定ランク以上の実力がある冒険者に認められる一種の特権です。設立にあたってはDランク以上の冒険者が家名をギルドに申請する事で認可されます。こちらはパーティとは違い、一度登録された物の変更はできませんので注意してくださいね」
パーティ名とファミーリアか…。リントさんの説明では設立に"Dランク"の条件が設定されているのは、家長としての責任能力や、メンバーを取りまとめる引率者としての能力を最低限有する実力を持っているかどうかを判断するためだと言う。
説明を受けて少し思案する。折角の新天地だ、新しい名前を考えてそれにするのも悪くはないと思う。だがケントやリツ、それに後から合流するメンバーを考えると、これまでと変わらない呼称の方が想いを継いでいけるのかもしれない。この世界に付いてきた者、残った者、全く別の道を歩む事にした者。それぞれの仲間の想いを慮れば今まで通りがベストなのだろうか。
気付かれぬ様にケントとリツの顔を伺うが、その表情から答えを導き出す事は出来なかった。




