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【 Ep.1-012 リツ 】


 あの後トリネラさんに2,3点注意事項と、洗礼を受けた記念にと生活魔法の初級魔法書をプレゼントされた。今は神殿の外にあるちょっとした広場でケントを待っている状況なんだが、早く合流してくれないとまたあの樹の下の二の舞になりそうで怖い。

 努めて他の存在を警戒しながら無視をするという面倒くさい行動をとりつつ、広場の外縁付近にあるベンチに座り、貰った初級生活魔法の魔法書を読み進めてケントを待った。内容については省略するが、その魔法の詠唱や概念とイメージ。それらが図解入りで描かれていたので絵本を読むような感覚に近いが、内容はとても分かり易く夢中になって読み進めた。


 一通り読み切った後は、魔法書を見ながら手元で魔法を発動させる練習をしてみた。一つ一つ試していったが、適性のある水属性の魔法は発動までのラグもなくすんなりと使えた。が、やはり適性が無いと判断されている属性は、使えるには使えるが発動までが長く、また使用魔力量もロスが多いのか、適性のある水属性と比較すれば疲労が溜まっていく感覚がした。因みに闇属性魔法の生活魔法は<盲目(ブラインドネス)>しか載っていなかった。この魔法、使用してみても今一つ効果がわからなかったので、今後使いそうにない。


 そんな時間潰しをしていると、ようやくケントの姿が見えた。どうやら前衛職志望のケントは自分より早く水見の儀を終えて外に出て所用を済ませていたらしい。そう判断した理由はケントの横についてきている人物が関係しているのは明らかだ。


 淡い緑のローブから少し見える長い脚。細い線ながらも無駄なく筋肉がついているしなやかな体躯。何よりも長くたなびく金髪から突き出ている長い耳に文句なしのイケメンフェイス。どこからどう見ても顔面偏差値トップクラスのイケメンエルフである。


「悪い待たせた?」

「いや、大丈夫。魔法書読んで時間潰せたし」


 隣のイケメンに言及しないままケントとやりとりをする。自分が蚊帳の外へ置かれていても、イケメンエルフは笑顔を崩さない。そんなイケメンエルフはニコニコと微笑みながら此方へと近づいてきて自らの顔を指さし開口一言。


「だ~れだ?」


 なんだろう、ちょっとイラッとしたぞ。唐突に誰何させられる羽目になったが、半目で舐め回す様に全身を見る…。線の細さを見せながらも確かについている細マッチョな筋肉。どこかしら女性的なラインも混ざった背中から腰へのライン。ローブの下からちらっと見える脚も細く綺麗ではあるが男性的なラインを残してある。

 そして特筆すべきはやはり顔だろうか。歯を見せて笑えば「キラッ」とSEが鳴りそうな口元。目は切れ長でやや吊り上がり気味だが、凛々しさと爽やかさの比率が7:3ぐらいの比率のバランスになっている。髪の色は金髪は金髪でもキャラクターメイキングにあるデフォルトカラーの金髪とは違い、プラチナブロンドと呼ばれる明るく透き通るような柔らかい色合いに調整されていて、陽の光を受けた部分は白めに輝いている。


 中性的にも拘らず、しっかりと男性的な部分を押さえたキャラメイク…。頭の上から足の先まで丹念かつ入念にやりこんでいるのがありありと分かる。自分の記憶フォルダからこういう拘りを持つ人物を検索する。


「……リツか?」

「せーいかーい!さっすが我らが魔王セラだね!よく私だってわかったねー?」


 該当する人物の名前を挙げてみると、どうやら正解だったようだ。


「あんだけ理想の美男子エルフ萌えを豪語していたら嫌でも特徴覚えるし、その理想のキャラメイクをやり遂げる奴って言ったら俺以外リツしかいないだろ…。それと衆人環境の中で人を魔王とか言うのやめてくんない?鬼腐神(きふじん)様?」

「はいはい、ごめんごめん。人前で魔王は悪かったよ。お互い様って事でこの話は終了でいい? それとセラ、そのアバターで俺って自称は今後一切禁止。これ絶対に守ってね。絶対!」

「…やっぱりダメか?」

「ダメに決まってるでしょー。セラだってそのアバターに自分の理想をこれでもかって注ぎ込んだんでしょ?なら理想を突き詰めてやりきりなさいな。私に負けず劣らず情熱込めて語っていたんだからさ。少なくともその姿で"俺"なんて絶対ダメだわ。ケントも注意しなさいな」

「そこで俺に振る?俺、二人みたいにそのあたりの拘りないからなぁ……」



 ―リツと呼ばれたこのエルフ族の男性こそ、俺をゼノフロンティアへ誘った内の一人である。見た目こそ美麗の極みともいえるイケメンエルフだが、コイツの中身は女だ。リツこと朝比奈(あさひな) (りつ)とも割と長い付き合いになる。


 ラインアークをプレイし始めて3度目の大型アップデートが入った時期だっただろうか、その当時敵対排除していた不正行為上等のギルドに、初心者だったリツが騙されて加入していた。見慣れない新入りキャラに、当初は彼方のメンバーのサブキャラかと思っていたのだが、動きのぎこちなさや言動から騙されて取り込まれた初心者だと判明し説得を試みたのだが、初心者であるリツはある事ない事吹き込まれ、自分が騙されている事に気づくまでかなりの時間がかかった。


 説得に成功してからもリツは不正ギルドに所属し続け、他メンバーが不正をしている決定的な証拠集めを自主的に始め、それまで巧妙に運営の調査を煙に巻いていたリーダーを含めた幹部連中を、運営にそれまで揃えた決定的不正行為の証拠を提出し、永久BANに追い込んだのだ。

 当然の事ながらリツが所属していた不正ギルドは崩壊・解散するのだが、事の立役者のはずのリツは、BANをどうにか逃れた残党の存在もあり無所属のままになっていた。要は残党達による復讐相手(トラブルメイカー)を抱えたくないって所が多く、彼女を保護しなかったのだ。これまでその不正ギルドから被害を受けてたところは感謝してもいいくらいなのにこの仕打ち。まぁ残党相手でも対人が苦手なギルドも多いから仕方ない側面もあったのだろう…。どこも拾わないってんなら"奇貨居くべし"って事でうちで拾ったんだ。


 リツは無事に天兎メンバーと馴染み…いや、むしろ馴染み過ぎた。そのきっかけは年1ペースで俺が語る理想のキャラクターメイク論だった。熱く語る俺にリツも自分も自分もと賛同して議論は白熱。周りのギルメンがついてこれなくなるのに時間はそうかからなかった。2人で盛り上がってる会話に業を煮やした女性メンバーが強引に話に割って入り、今度は女性メンバーだけで盛り上がり、その話の中でリツの腐女子属性が発覚。男子禁制のBL談話に花を咲かせ、男性メンバーは理想のおっぱい論で盛り上がるという地獄絵図が出来上がったのだ。これが俗に言う天兎鬼腐神会と天兎おっぱい同好会誕生の瞬間である。


 ギルド"天兎"は俺が一番有名なのだが、この鬼腐神会の女性陣も負けず劣らず凶悪である。よくよく考えてみたら俺の口の悪さに耐性があり、悪逆非道とも言える言動にも動じない鋼の精神を持っているのだから当然の事かもしれない。

 実のところ俺の悪名の三分の一は俺自身ではなくメンバーが原因である。原因が何であれ、外からは俺の仕業とされる事があまりにも多かった。ならいっその事何かトラブルが発生したら基本的に俺のせいにしておけと言っちゃったので、メンバーの極悪非道な仕打ちもまとめて俺が引き受ける事となり、俺の悪名は日増しに増え、その分メンバーは目立たなく過ごす事が出来ていたのだ。

 ぶっちゃけて言えば、女性陣の方がやってる事は俺よりもえげつなかった。不正プレイヤーのブログやSNSに載っている写真から住所を割り出したり、ハニートラップを仕掛けて情報を引き抜いてきたり…。何気ない一コマ、ふとした一瞬の気の緩みが即致命傷につながる。

 絶対に敵対したくない相手が身内に居るこの恐怖ったら半端なかった。ゲーム内で淡々と何度も何度も心が折れるまで相手をいたぶり、どつき殺してる俺がかわいく見えるだろ?

 故に。貴婦人ではなく、鬼腐神と畏怖と皮肉を込めて天兎男性陣から2つ名がつけられていた。いつの時代も女性は強いのである。その鬼腐神会のリーダーがリツだ。俺が鬼腐神様と皮肉めいて言ったのもこの辺りが原因である。



 話がだいぶ飛んだが、リツについての人となりはこれで大体理解してもらえただろうか。要するにリツも俺と似通っている部分があり、俺同様キャラクターメイキングに異様なまでの情熱をかけられるオタクなのだ。だからこそ俺の一人称が許せなく、口を出してきたんだろう。



 しっかし一人称かぁ……。「私」だとどうしても会社気分になるしなぁ…。「うち」だと狐獣人(フォクシス)には似合いそうではあるんだけど、急に関西弁キャラになるというのも何かひっかかる。…となるともう「ボク」しか残ってないんじゃなかろうか。


「ボクっ娘かぁ…」


 そう呟いて、ワイワイやってるケントとリツの二人を横目に、これからの一人称が「ボク」となる事を想像して溜息が出た。






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