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雷撃

白井隊の少し後に英艦隊の攻撃に成功したのは甲空襲隊雷撃隊である石原、高井大尉の部隊だった。

甲空襲隊隊長中西少佐は石原隊に一番艦(POW)、高井隊には二番艦レパルスを攻撃目標にせよと指示。

目標を支持された五分後、英艦隊の約10㎞手前で石原隊はそれぞれの攻撃目標へと左右に分かれて散開した。ドデカイ戦艦を挟撃するためである。

爆撃より危険なチキンレースの始まりだ。

雷撃は爆撃より危険である。

何故なら、ある程度の高度から爆弾を落とす爆撃と違い対空砲火を吐き出し続ける目標に低空で自分から突撃し攻撃を行うためである。

魚雷の射程、速度から考えて近ければ近いほど攻撃の成功率は上がる。

だが、それは雷撃を受ける側も同じで雷撃機が近づけば近づくほど対空砲火が当たりやすくなる。

正に落とされるか当てるかの命を懸けたチキンレースだ。

石原隊は左舷から第一第二隊が突撃し右舷から第三隊が攻撃を行った。

POWをサンドイッチの様に挟み込むためだ。

石原機は高度をプロペラが海面を叩くんじゃないか?というほどに下げた。

こうすれば対空砲火をある程度捌ける。

石原はふと横に目をやると機体の左右の海面に大小様々な水柱が立っていた。

まるで自分達の行く手を阻む様だ。

おそらく、POWの対空砲火が産み出した物だろう。

POWはその巨体に40㎜8連装ポンポン砲4基を搭載している。

同機関砲は可愛らしい名前に似合わず大口径の砲弾を毎分110発の割合で吐き出す厄介な対空火砲だ。

その反面故障が多くこの時POWに搭載されていた二基は何度も故障を繰り返していた。

「おい、ポンポン砲なんかに落とされるなっ!!今行けば俺たちが一番槍だぞ!!」

石原は自機の搭乗員を勇気づける。

機体を揺さぶる衝撃は支那で戦っていた時の支那軍のそれとは比べ物にならない。

しかし、石原には確証は無いが成功するヴィジョンが頭の中に容易に想像できた。

POWの巨体が眼前に広がるにつれ対空砲火が薄くなっていく、九六式を追い続けられなくなったからだ。

距離が900メートルを切った。

その瞬間、「ヨーイテッー!!」と

石原機は魚雷を投下した。僚機もそれに倣う。

が、投下直後POWが回避行動に入ったため二番機は射線を逃し目標をレパルスへと変更した。

一t近い重さの魚雷が機から開放され一瞬フワリと浮き上がった様に感じる。

石原の放った魚雷がPOWに突き刺さるのが見えると同時に中隊の三番機が自爆するのが見えた。

敵の対空砲にやられたのだ。

「小沼ぁ!!」

石原その機の機長の名を叫ぶ。

攻撃は成功したが何故か喜ぶ気分になれなかった。

その後雷撃は二番隊、三番隊と成功しPOWに魚雷が二本命中した。

この石原大尉の機から始まったPOWへの雷撃はたった二分間の短時間で終了したのだった。


POWの甲板上は非常に慌ただしいことになっていた。

先程8機の双発爆撃機の空襲を受け、何分もたっていない時に今度は先程の数倍の数の双発機がどこからともなく表れたからである。

「新たな目標!!対空戦闘用意―ッ」

既に対空砲が唸り声を上げている状態で活動していた海兵に改めて命令が下った。

「急降下爆撃では無い水平爆撃はそう簡単に当たらん!!さっきのレパルスは偶然だ!!」

今さっき起きたレパルスの被害に怯え切った右舷ポンポン砲の新米砲手へ別のポンポン砲を担当している古参兵が離れた所から怒鳴った。

だがその古参兵もすぐに怪訝な表情となる。

日本の新手の爆撃隊の高度が異様に低いのだ。

しかも対空射撃が集中しているにも関わらず真っ直ぐ突き進んでくる。

(まっまさか...あの双発機はあの機と同じか‼︎)

古参兵の頭にイタリア製の三発機の姿がよぎる

「うおおおおおおぉぉぉぉー!!」

日本のネルが意図していることが解った彼はポンポン砲を目の前に突っ込んできた機に向ける。だが、中々当てるのが難しい。

激しい対空火力のはずなのに数は一機も減っていない。二基が故障しているせいだと彼は思った。

(ヴィッカーズめ!!欠陥兵器を押し付けやがって!!)

心の中で悪態をつく。

先頭のネルが魚雷を投下した。

これはもう間に合わない。狙いを三番目に移そうとした直後POWが回避行動のために動きだした。すると偶然にも敵三番機に照準が合い40mm弾が直撃した。

大口径砲が直撃したネルは海中へと落下し始めた。

「やったぞ!!」 思わずそう叫んでいた。

だがその直後に「挟まれているぞぉー!!」と左舷側から叫ぶ声が聞こえた。

彼がその叫び声に反応して振り向くのと、真反対からの衝撃で転倒し意識が切り離されるのはほぼ同時のタイミングであった。


高井中隊は石原隊と同じく10㎞前後でレパルスへと雷撃体勢に入った。

石原隊と違い左右に挟撃せず雷撃を右舷側へと集中させた。

そして、高井機は石原と同じように900手前で雷撃を敢行しようとしたが魚雷にトラブルが発生。

機から落下しなかった。

「クソ!!諦めろ!!」

高井は物足りなさそうな顔をする搭乗員に対し退避するよう命令した。

その後二番隊、三番隊が魚雷を投下したがレパルスはそれに即座に反応し右に転進。

退避行動をとる。

しかし、回避しきれずに左舷に三本の水柱が爆誕する。

その五分後高井機は再び雷撃を行い今度は確実に魚雷投下に成功した。

レパルスは複数本の魚雷を受けたにも関わらずやはり何事もなかったかの様に航行している。

雷撃隊が攻撃を終了した直後さらに別の攻撃隊が英艦隊への「爆撃」を試みた。

諦めきれずに戻っていた白井隊の残存6機である。

既に作戦に支障がきたす被害を受けた2機は退避させてある。

「先程のお返しだ!!」

白井は穴が開き風通しのよくなった機内で叫んだ。

今なら敵艦隊は雷撃への対応が一杯でこちらには注意を払っていない。

念のため高度4000からの投下である。幸い対空砲はこちらにあまり飛んでこない。

「テーッ!!」

威勢よく6発の25番を投下する。

だが、先程に比べ高度が高かったこともあり命中弾はなかった。

白井隊の爆撃で始まり同隊の爆撃で終わった一連の雷爆撃の後、今度は乙中隊の高橋隊が行動に出た。



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