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海戦

レパルス艦長テナント大佐はPOWが何時までたってもシンガポールに救援要請をしないことを怪しく感じていた。

日本海軍双発機ネルの雷爆撃を受けレパルス、POWは少なくない被害を受けていた。

通常の考えなら今すぐにでも航空機の救援を求めるべきである。

いくらシンガポール防衛のために航空戦力を温存しているからと言って、イギリスを象徴する二隻の巨艦が危機に瀕しているのならシンガポールの連中も航空機を出すだろう。

いや、出してもらわなくては困る。

(まさかPOWは電信機が破壊されて電文が打てないのか?)

テナントはそう考えた。

「よしっ!!シンガポールに救援要請を打て!!」

部下にそう命令する。

「しかし、独断で救援要請を打つのは問題になるのでは?」

「そんなことは関係ない!!死ぬか生きるかの問題なんだぞ!!」

そう怒鳴って部下を黙らせる。

「我、敵ノ攻撃ヲ受ケツツアリ」

この電文がシンガポールに向け放たれた瞬間。

レパルスは新たな衝撃に襲われた。


高橋隊は1時20分に黒煙を上げている英艦隊を発見。

高橋は被害が軽そうなレパルスに目標を定めた。

高橋機を先頭に五機が左舷から、一機が右舷からレパルスを挟撃し、その一分後すぐに左舷から残った二機が雷撃を放った。

「命中三!!」

高橋機の偵察員が機内で高らかに叫ぶ。

雷撃を喰らったレパルスは舵をやられたらしく右に向かって旋回し続けていた。

前話の攻撃から高橋機の雷撃までの時間差は約9分。

短いスパンの攻撃は英艦隊の士気を著しく低下させた。

そしてこの20分後、一式陸攻の雷撃によりレパルスは海中に没することとなる。


丁空襲隊は平文で電文を受け取るとすぐに、英艦隊に針路を向けるために西へ変針した。

壱岐中隊の壱岐春木大尉は(西へと向かうと空に雲が多くなってきたなぁ)と感じた。

戦場に向かうのにやけにのほほんとした感じである。

というのも、目標地点に来たにも関わらず濃い雲のせいで、敵艦隊がどこに居るのか解らないからであった。

先程、(今日もダメかもしれない)と思っていたところに英艦隊の位置情報を受け取った。

その時は天にも昇る気持であったが、続々と他の編隊が攻撃を成功したという報告を途切れ途切れに受診したのを聞いて(獲物がまだ残っているのか?)と不安になってきていたところだったのだ。

(もう甲乙隊が沈めてしまったのか?それにしても発動機は相変わらず五月蠅い...)

一式の四発は相変わらずの勢いでやかましく回転している。

(ん?発動機はこんな音であったか?)

壱岐大尉はその爆音にいつもとは違う異音が交じってるように感じた。

ふと、左の風防から見える左翼の双発に目を配る。

すると、双発のはるか向こうの断雲の中にゴマ粒ほどの機影が見えた。

単発複葉でどう見ても陸攻ではない。

壱岐は正体を見極めるために目を凝らす。

「英海軍の水偵だっ!!」

英海軍艦艇に搭載されている水上機であった。

異音は水上機のものだったのかもしれない。

「おい、あそこを見ろ!!」

壱岐は手前の偵察員の肩を叩いて指をさす。

「英軍機だ!!」

上部20㎜機銃の機銃手が一連の会話を聞いて意図を察し機銃を壱岐が指さした方向に向ける。

「まて、打ち落とすな!!」

幸い英軍機はこちらに気付いていないようだ。

「攻撃して我々の事を母艦に通報されても困る!!」

殺気立った機銃手を宥める。

「それよりも奴の来た方向をたどって母艦に行くぞ!!」

壱岐はそう怒鳴るとハンドサインと無線を駆使して僚機に知らせ、丁空襲隊は針路を水上機の来た方向へと向けた。

「いたぞ!!」

すぐに英艦隊は見つかった。


POWの甲板作業員は艦の被害確認及び応急修理を行っている所だった。

特に、これからも続くと考えられる日本軍の航空攻撃に対抗するため、対空砲の環境整備は早急に終わらせなくてはならなかった。

負傷した砲手を交代し、甲板上の薬莢を海中投棄し、加熱した銃身の冷却を行う。

そこに、海兵の耳に航空機の爆音が聞こえ始めた。

(またか...)

甲板上の誰もが暗い顔をした。しかし、ネルの航空機音とは何かが違う。

間もなく濃い雲の中から四発の爆撃機が現れる。

「対空戦闘用意!!恐らく水平爆撃だ!!」

高射砲の信管を水平爆撃の高度に合わせる。

これが、間違いだった。

「敵機!!高度を下げます!!」

新手の編隊は、四発機のその重そうな機体の下に魚雷を吊り下げていた。

「まさか!!ジャップは四発機で雷撃するのか!!」

英艦隊は予想しなかった事態に対空砲の対応が遅れた。


(すごい弾幕だ...)

壱岐はト連装が始まった後英艦隊に突っ込んだ。

その瞬間まるで酷い暴風雨の様な弾幕が彼らを包んだ。

丁空襲隊は事前の取り決めで第一隊はPOW、第二隊はレパルス、三番隊の壱岐隊は両者が打ち漏らした方を担当することになっていた。

(レパルスのほうが被害が軽微だな)

壱岐は四発の爆音と高射砲の振動の中、冷静に分析をした。

「目標をレパルスに変更する!!」

そう命令し、僚機もそれに続く。

レパルスは主砲、副砲までも動員し激しい抵抗を行っている。

一式は四発機であるため九六式に比べ低空での運動性に劣る。

その為、敵対空火器が容易に着弾した。

しかし、重装甲を誇る一式には高射砲の破片が当たろうがスピードが緩むことはない。

壱岐隊も負けずに全防空火器を二隻の戦艦とその周りにいる三隻の駆逐艦に打ちまくる。

誰かが打ち出した機銃弾が小さい駆逐艦の魚雷発射管に着弾したらしく、大爆発起こしている。運がいい。壱岐はそう思った。

機内の温度が吐き出された薬莢の熱で上がっていく。

顔から汗が流れてきた。

距離が900を切る

「よし、ヨーッ」

壱岐が魚雷を投下しよとした時

「レパルス反転!!」

急にレパルスが右に旋回し始めた。

「やり直せ!!」

すかさず指示を出す。

編隊がバラバラになってしまった。これでは編隊での突撃はできない。

だが、幸運なことにレパルスが変針したことで個別に再突入した陸攻達がレパルスを挟撃する形に偶然なった。

今度は左舷から突入し魚雷投下を試みる。

「距離を500まで詰めろ!!」

そう命令した直後、機にドカンと今までに感じたことのない衝撃が走った。

「尾翼が吹っ飛んだぁー」

後部銃座の機銃手が血まみれになりながら叫んだ。

どうやら直撃してしまったらしい。

「空中分解します!!スピードを落として下さい!!」

副操縦員が絶叫する。

「構わん突っ込む!!」

壱岐は怒鳴り返し操縦桿を握る力を強めた。距離が500を切った。

「ヨーイッテー!!」

魚雷が投下される。

レパルス上空を通過した壱岐の目に三本の魚雷が突き刺さ去るのが見えた。

ひとまず高度2000まで退避しレパルスを見る。

ちょうど沈んで行くところだった。一番隊も攻撃に成功したらしく、POWも傾斜し始めている。復旧できそうにないだろう。

「何機生き残った!!」

無線に向けて怒鳴る。

「2機やられました!!」

報告を受ける。確かに見渡すと数が減っていた。

「帰投するぞ!!」

壱岐はそう命令し、操縦桿から手を放して「万歳!!」と叫んだ。

そして、機内に閉まってあった葡萄酒を取り出すと、帰路の中搭乗員全員で祝杯を挙げた。

鹿屋隊はこの攻撃でPOWに4本、レパルスに5本の魚雷を当てることに成功する。

その後乙空襲隊の爆撃隊が沈みかけの英艦隊に50番を水平投下したのを最後に、後にマレー沖海戦と呼ばれる本海戦は終了した。

そして、本海戦で戦艦は航空機には勝てないという事が証明されたのである。


「提督!!退避して下さい!!」

沈みゆくPOW艦内で幕僚達はフィリップスに言った。

しかし、フィリップスは動こうとしなかった。

「日本軍如きに戦艦を二隻沈められた私を本国の奴等は追及するだろう。」

あまりにしつこい幕僚にフィリップスは静かにしゃべり始めた。

声は冷静だが顔には大粒の汗が流れている。

「私はここで責任を取る。」

「しかし!!」

幕僚達は食い下がった。

「何度も言わせるな!!ノーセンキューだ!!」

そう怒鳴るとフィリップスは幕僚達を追い出した。

こうして、フィリップス中将は艦とともに運命を共にした。

享年63歳であった。

「何も残っていない...」

風防越しに海兵を救助する二隻の駆逐艦を見て戦闘機に乗った男は呟いた。

救援要請を受けた戦闘機隊が到着したのだ。

シンガポールから救援要請を受け飛んできたバファッロー戦闘機11機が現場に到着したのは二隻が完全に沈んでしまった後であった。


「万歳!!万歳!!万歳!!」

甲乙丁空襲隊がツドウム航空基地に降りるとたちまち万歳合唱に包まれた。

またもや一式陸攻の伝説が上塗りされたのだ。

この海戦で日本軍は九六式1機、一式を2機と引き換えに戦艦レパルス、POWと駆逐艦ヴァンパイアの撃破に成功する。

全陸攻隊の内四割が被弾しており、被弾した九六式は修理不可能であった。

しかし、防弾性の高い一式の機材は修理が可能であり、この海戦でも防弾能力の高さが強調される結果となった。



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