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91.聖女

「そういえば、他の皆にはもう会ったの?」


 スード冒険者学校に行ったルークとグレースさん、イステン冒険者学校に行ったクロエさんもこの街に来ている可能性が高い。

 ……クロエさんは観戦に来るのが面倒で、仮病で休んでる可能性もあるけど……


「ううん、私もさっき着いたばっかりだからまだ会ってないよ!」

「ドミネウスについた途端、急に走り出したからびっくりしたわよ」


 話を聞いた限り正反対の門から入ってきたようなのだが…… 相変わらずララちゃんの気配察知能力は尋常じゃないな。

 苦笑しつつ話を聞いていると、セシリアさんがにこにこと微笑みながら近づいてきた。


「そういえばシリウス君、ララちゃんに癒術を教えたのが君って本当なのかな~?」


 ポソリと、僕と僕にくっついているララちゃんだけにしか聞こえないような小さな声でセシリアさんが呟いた。


「――ッ!?」

「えっ? えっ!?」


 できる限り同様を隠しつつララちゃんをチラッと見ると、ララちゃんは目を見開きながら僕とセシリアさんを交互に見ていた。



 本来、癒術は癒術局に認定された学校で修行して習得しなければいけない魔術であり、秘匿されているものである。

 ……本来はそうなのであるが、初級癒術である『治癒(ヒール)』レベルだと、魔術が使える冒険者の中で実はこっそり身につけている者も多いのが実態だ。

 癒術師に治療してもらった際に聞いた詠唱で、ある程度の腕前の魔術師であれば再現できてしまうためだ。

 そのように公然の秘密ではあるのだが、癒術局にバレると多額の罰金、もしくは懲役を課せられることになっている。


 僕の父レグルスも同じように『治癒(ヒール)』を覚えたのか、魔術教本に『治癒(ヒール)』の詠唱が小さくメモしてあった。それを読み、僕も使えるようになったのである。

 そして癒術師志望のララちゃんに、僕が知っている生物学の基礎レベルの人体の構造と 『治癒(ヒール)』を教えていた。

 ララちゃんには秘密だよって念を押していたはずなのだけど…… ララちゃんが簡単に約束を破るとは思えないし……



 僕はあわあわと震えているララちゃんの前に一歩出て、セシリアさんと向かい合った。


「ご想像にお任せします」


 必殺、責任逃れ。官公庁と仕事をする時には必須のスキルである。

 汚い大人の必殺技だが、こういう時には非常に有効なはずだ。


「あらあら、小さいのに凄く慎重なのね~…… うん、分かったわ。ララちゃんごめんなさいね、カマかけなんてしちゃって」

「えっそうだったんですか!? うぅ…… セシリアさん、ひどいです……」


 あー、そういうことだったのか…… やっぱりララちゃんが言ったわけではなかったんだな。


「ララちゃんの癒術の効果があまりに高かったからどうしてか聞いても全然教えてくれないんだもん~。ただ、普段からシリウス君は凄い凄いって言ってるからもしかして…… って思ってたのよね。今日会って確信したわ、シリウス君がララちゃんの先生だって!」


 そういってセシリアさんは名探偵ばりにビシリと僕を指さした。


「私にもコツを教えてくれると嬉しいな~、なんて」


「あうあう……」


 一方、隣のララちゃんは真っ赤になって俯いていた。



 ララちゃんの癒術の効果が高いのは、多少なりとも人体構造を教えたからだろうなぁ……

 この世界では魔術や癒術が普及している一方、科学や生物学、栄養学、医術といったものがほとんど普及していない。

 そのためかこの世界の人々には癒術を含む魔術の基礎である『対象となる現象に対する理解』が圧倒的に不足しているのだ。


 癒術局によって『癒術』という区分がされているけど、実態はただの無属性魔術だしね。

 癒術は神への信仰と加護によって齎される奇跡だの云々言ってるけど、医療分野を独占して治療費を吊り上げたいだけだろう。

 まぁあくまで癒術局の上層部が利益を吸い上げているだけであって、末端の癒術師は純粋に人助けをしたいという尊い志をもった人たちなんだけどなぁ。


 癒術学校ではほとんど生物学などは教えられないと聞くし、理解もそこそこに詠唱頼りの癒術師と、簡単でも人体構造を学んでいるララちゃん、どちらの癒術が高い効果を発揮するかは明白であろう。



 セシリアさんがどこまで考えての発言かは掴みかね、どうしたもんかなぁと頬をかいているとアリアさんがおずおずとセシリアさんに話しかけた。


「あ、あのー…… セシリアさんって、もしかしてあの【真実の聖女(トゥルーホワイト)】セシリア・スターライト様…… ですか……?」

「ん~、そう呼ばれることもあったりするわね~」

「あわわわわ!?」


 聖女……だと……!?

 驚きではあるが、異質な魔力を身に纏っている理由がこれで分かった。


 【聖女】とは、【勇者】と同様に『神聖魔術』を扱うことのできる存在である。

 ただし【勇者】のように手の甲に神聖文字は現れず、『神聖武器』を扱うこともできないらしい。

 しかし『神聖魔術』による癒術や浄化術などは普通の魔術とは比べ物にならないという。

 加えて今代の聖女は【真実の聖女(トゥルーホワイト)】の異名を持っており、人の心を読めるという噂である。

 それが本当であればいくら誤魔化しても意味はないが……


「大丈夫、人の心を読めるなんてただの噂よ~」


 読んでますやん。


「心を読めるのではなく、嘘を見抜く能力があると私は聞いたことが……」


 アリアさんがそう言うと、セシリアさんはちょっとだけ驚いた表情を見せた後、うふふと微笑んだ。


「あらあら、あんまり公にしていないはずなんだけどよく知っているわね~。でもそんな大層な能力じゃないのよ。さっきのシリウス君みたいにはぐらかされると分からないもの~」


 あっぶねぇ… 十分驚異となる能力でしょそれ……

 カマをかけて真実を引きずり出すことができるし、尋問などにも非常に有用だろう。

 【聖女】を尋問に使うかどうかはともかくとして、であるが。


「うんうん、大体分かったわ。まぁ暫くここに滞在することですし、その内シリウス君も話してくれるかも知れないしね!」


 セシリアさんはパチリとウインク…… したかったのだろうが、上手く出来ておらず両目をパチパチとさせて去っていった。

 キレ者なのか天然なのかよくわからないキャラクターである。


「ほら、ララも行くわよ!」

「シリウス君、またねー!!」


 ララちゃんもキノさんに引きずられながら、西門の方へ帰っていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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