63.登城
前回のあらすじ:悪い奴らに狙われている少女を助けたら第三王女だった
「ひっ! 姫様!? い、いったいなぜ外から!? こ、この男は……?」
堂々と王城の正門からシャーロット王女とともに入ろうとすると、門番が目ん玉をひん剥いて上司を呼びに走っていった。
門番が連れてきたのは騎士団長であった。
「姫様!! いつの間に外出をされていたので!?」
「寝室に暗殺者が侵入してきたので外に逃げ出したのです。そこで私を助けてくださったのがこちらのシリウス様です。また暗殺者から狙われる恐れがあったため護衛として雇いました」
「冒険者のシリウスと申します」
名乗りを上げ、一礼する。
こんな子どもがと言いたげに、騎士団長は驚愕の表情を浮かべる。
「な!!?? お、王城に暗殺者ですと!!? そ、その者達は……?」
「こちらのシリウス様が全員倒してくださいました」
「で、ではすぐに確保して尋問を!」
「そ、それは…… 咄嗟の事だったのでシリウス様も手加減できずに、全員消し炭になってしまいました」
ちょ!? 言い訳!! もうちょっといいのなかった!?
秘密裏に首謀者を見つけ出して片付けるために、大事にしないよう暗殺者達は縛って人が滅多に来ない裏路地に放置しておいた。
捕まえたなんて言って口封じに全員殺されても後味が悪い。
しかし勿論そんな事情を知らない騎士団長は胡乱気な目をこちらに向けてくる。
「……私が駆けつけた頃には王女殿下が囲まれ斬りかかられるところでありました故…… 王女殿下の命を優先し、確実に賊の命を奪うことが可能な魔術を行使いたしました」
「そ、そうでしたか…… シリウス殿、姫様をお助けいただき無事に届けていただき、誠にありがとうございました。あとは私が命に代えてもお守りいたします。報酬が後日、ということでよろしいでしょうか?」
「リィン、勝手に何を言っているの? シリウス様は本日から私の護衛として任命します」
「なっ!? 姫様お待ち下さい!! 確かにシリウス様は姫様の命の恩人です。しかし男性を護衛として身近に置くのは問題が……」
「私の命が失われること以上に問題なことなどありますか?」
「う、うぐぅ…… しかし、私が!!」
リィン騎士団長がキッとこちらを睨む。
僕のせいじゃないんですが……
「王城への暗殺者の侵入という今回の不始末の責任は、解決後に必ず私が取ります。首を差し出しても構いません。ですのでどうか、どうか私に護らせていただけないでしょうか?」
騎士団長がシャーロット王女に跪き、頭を垂れる。
手を固く握りしめ、震えている。責任感の強い良い人だな。
「頭をあげなさい、リィン。貴女を責めるつもりはありません。誰がどう言おうと、シリウス様を護衛とすることは確定事項です。これは必要なことなのです」
リィン騎士団長がピクリと肩を震わせた。
頭を上げシャーロット王女の目を見つめ、そして立ち上がり僕の目を見つめてきた。
「必要なこと…… ですか…… 私は剣を振るうことしかできない無骨者です。きっと姫様にはまた深いお考えがあるのでしょうね…… シリウス殿、貴殿は姫様を護り切れるのか?」
リィン騎士団長は僕の瞳を見つめたまま、不意に気力の塊をぶつけてきた。
なんて威圧感だ!? 母さん以上の威圧感だぞ……
騎士団長の地位は伊達ではなく、今まで出会った剣士の中で最も強い人であることが分かる。
しかし僕も伊達に母さんと鍛錬をし続けていたわけではない。
直接斬り結べば瞬殺されるだろうが、威圧程度で怯む鍛え方はしていない。
こちらも気力を放ち、リィン騎士団長の気力にぶつけ返す。
「ただの子どもではない、ということですか……」
「騎士団長殿には到底及ばない腕ではありますが、王女殿下の命はこの身命を賭してお護りする所存です」
リィン騎士団長に向けて深く頭を下げる。
頭越しにふぅという軽い溜め息が聞こえた。
「シリウス殿、頭を上げてください。姫様を何卒よろしくお願いいたします」
リィン騎士団長は、真剣な表情で僕に頭を下げた。
◆
「まさかリィンの威圧を受けても動じないとは、流石シリウス様ですわ」
王城の廊下を歩きながら、シャーロット王女が嬉しそうに微笑んだ。
「いえ、威圧はなんとか耐えられましたが、実力は隔絶していたと思います…… あの方が操られていたら僕の方が消し炭にされていましたね」
「ふふふ、そうですわね。リィンはあの【シングルナンバー】で【剣聖】の二つ名を持っているんですの。この国でも一、二位を争う実力者ですわ。脳筋なのがたまに傷ですけど」
マジで!?
……いや確かにあれだけの凄まじい強さを持っている人だ、【シングルナンバー】と言われても何ら違和感はなかった。
「ッ!?」
廊下を進んでいると、その先から闇属性の魔力が僅かに漂ってくるのを感知した。
警戒しつつ進むと、笑顔をたたえた五十代くらいの男性が歩いてきていた。
「おぉ、これは王女殿下! ご無事で何よりです。騎士団長殿から暗殺者が出たと聞いた時は心臓が止まるかと思いましたぞ」
「ヴェルデリッヒ、心配をかけましたね」
「いえいえ、姫様が生きてらっしゃって本当によかった ……ところでこちらの少年は?」
「こちらはシリウス様、この度私の護衛に任命しました」
「シリウスと申します」
「こちらはヴェルデリッヒ、我が国の宰相です」
一礼しつつ、『洞察』でヴェルデリッヒ宰相のステータスを確認する。
……概ね想定通りだな…… 平静を装って一歩下がる。
「ほう、護衛…… ですか。シリウス殿、王女殿下をよろしく頼みますぞ、ハッハッ」
口では笑っているが目は全く笑っていない。
肩をポンポンと叩くヴィルデリッヒ宰相に作り笑いを返す。
「国王陛下も王女殿下を心配されてましたぞ。あと、シリウス殿。王女殿下の命を救われたということで、国王陛下が是非会いたいとおっしゃっておられる。来てくださるかな?」
シャーロット王女の様子をチラリとうかがい、返答する。
「謹んでお受けいたします」
「では、私も参りますわ」
ヴェルディッヒ宰相の眉がピクリと動いたかと思うと、怖いくらいの笑顔になった。
「そうですかそうですか、かしこまりました。では、参りましょうか」
ヴィルデリッヒ宰相に続き、廊下を歩いていく。
空気の層を作って特定の相手にのみ声を届ける風魔術『風話』でシャーロット王女に報告をする。
便利な魔術ではあるのだが、一方通行なのが玉に瑕だ。
会話ができる音を完全に遮る魔術もあるが、魔力をほとんど使わない『風話』の方が発動に気づかれにくいためこちらを使った。
「私の能力で調べたところ、ヴィルデリッヒ宰相は洗脳状態でした。やはりこの王城のどこかに操っている者が居そうです」
シャーロット王女が一瞬軽く目を見開きこちらを見たが、すぐに目を逸らした。
それにしても、空気が澱んでいるな…… まるで迷宮の中にいるみたいだ。
なんらか力によって魔術が阻害されているようで、魔力感知の範囲がかなり狭くなっていることも不安に拍車をかける。
――ゾクッ
背筋が泡立つような感覚に突如襲われる。
それに遅れて、大量の闇属性の魔力が魔力感知にひっかかった。
闇属性の魔力が漏れ出る豪華な扉は、まるで地獄の釜の蓋のように見えた。
お読みいただきありがとうございます。
遂に冒険者ギルド最強の九人【シングルナンバー】の登場です。
ただし冒険者ギルドには登録していますが、今は騎士団の仕事で手一杯なので冒険者としては活動していません。
実はリィン騎士団長の威圧に膝がガクガクしそうになるのを必死に抑えていたシリウスでした。
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次回更新予定日は7/2(月)です。




