62.暗殺者
前回のあらすじ:国がきな臭くなってきた
小雨が降る中、トルネ商会で喫茶店の打ち合わせをしてから迷宮に行こうと寮を出て街を歩く。
この世界では傘はあまりメジャーではなく、撥水性の高いフォレストフロッグの革で出来たレインコートが主流であった。
ちなみに貴族は馬車や竜車で移動するため、雨具が不要であるそうだ。
僕も例に漏れずフォレストフロッグのレインコートを着込み、街を歩いていた。
しとしとと雨の振る朝人通りはまばらで、珍しく街は静かであった。
トルネ商会が見えてきたところで、裏路地に気になる魔力反応を感知した。
視認していないので断言はできないが、誰かが複数人に追いかけられ、攻撃を受けているように思える。
取り越し苦労ならそれで良い。念の為フードを目深に被り、裏路地に向かって疾走する。
◆
路地裏に入ると、ボロボロになった高級そうな衣服に身を包んでいる同い年程度に見える少女が、黒服のいかにも怪しげな集団に捕まりそうになっている瞬間であった。
黒服の手にはナイフが握られており、少女の命を刈り取ろうとしているようにしか見えない。
最初は事情を聞こうとか考えていたがそんなことは頭から吹っ飛び、考えるよりも早く少女に追いすがる黒服に夜一を叩きつけていた。
「ガハッ!?」
黒服は壁に叩きつけられピクリとも動かなくなった。
やべ…… 死ぬほどの威力では殴っていないはずだけど大丈夫だよね……?
冷や汗が背中を伝う中、唐突に仲間がやられたことで警戒したのか黒服達が少し離れた場所で動きを止める。
先程ノした相手を含め、五人の黒服がいた。
僕は少女を背に庇い、黒服に相対する。
「すいません、どうにもあの方々とお友達ではなさそうだったので、事情も知らず咄嗟に手を出してしまいました」
黒服からは目をそらさずに後ろの少女に語りかける。
少女が息を呑む気配がした。
「あ、あなたは…… いえ、助かりました、ありがとうございます。あなたがいらっしゃらなかったら私は死んでいたでしょう……」
「貴様、何者だ? ……いや、何者でも関係ない。我々の邪魔をすると死ぬぞ? そこの女を置いて帰れば命だけは助けてやる」
仲間が一人やられているのにも関わらず冷静に語りかけてくる黒服。
黒服達は隙なくナイフを構えており、ただの雑魚ではないことがうかがえる。
「この少女をどうするつもりですか?」
「……貴様には関係ない。死ぬか去るか、どちらか選べ」
話を聞かない人だな……
ここで少女を連れて逃げるのは簡単だけど、後にこの人達に殺されるという危険性もあるので全員片付けた方がいいな。
「その二択は承服しかねます…… ね!!」
『雷光付与』によって雷を身に纏い、黒服達に切りかかる。
黒服達は攻撃に全く反応できておらずリーダーっぽい男を除き、一瞬で全員壁にめり込んだ。弱すぎる。
リーダーっぽい男だけは両手両足の骨を砕くに留め、首元に刃を当てた。
両手両足が砕けているため蹲る事もできず、男はうつ伏せで地面にへばりついている。
「首と体を切り離されたくなければ動かないでください」
もう魔術以外は何もできないとは思うが、念の為に脅しておく。
魔術もこの距離なら発動前に殴って止められるのだが。
「あがぁっ…… あ、な、なな……」
男はピクピクと震えながら、涎を垂れ流していたがお構いなしに問いかける。
「あなた達は何者ですか? なぜ少女の命を狙っていたんですか?」
「き、きざまぁっ!! こんなことしてただで済むと思っているのか!? 我らは王国からの依頼でそこの女を連れ戻そうとしていたのだぞ!! 国家反逆罪で死刑だ!!」
「国の依頼…… 連れ戻す……? ナイフで命を刈り取ってからですか?」
「ぎ、ぎざまには関係ないッ!!! まだ間に合うぞ!? そごの女を殺して置いていけば、きざまの国家反逆は見逃してやる!! 国に追われたくはないだろう!?」
「まだ立場が分かってないようですね。目撃者が全員いなくなれば、全てはなかったことになるのですよ?」
男に向けて気力を放ち威圧をする。
満身創痍でろくに抵抗できない男は威圧を受け、ズボンを濡らしてしまった。
「あばばばばば…… ず、ずびまぜん!!! ずみばぜん!! ころざないでぐだざい!!!」
「ひッ!?」
やべ、後ろの子にも余波が行っちゃったかな……?
恐る恐る後ろを振り向くと、少女は震えながら頬を赤らめ恍惚とした表情を浮かべていた。
……僕は何も見ていない、何も見ていないぞ。
すぐに男の方に目線を戻し、尋問を再開する。
「で、王国の誰からの依頼で、なぜこの少女を殺そうとしたのですか?」
「こ、国王だ!! そこの女が国王の命を狙っているのが判明して逃げ出したから、命を問わずに捕まえてくれって! 国王からの依頼だと言われたんだ!!」
国王…… それが本当だとしたら厄介極まりない話だが……
国王を殺そうとしたと黒服が言う少女にチラと視線を向ける。
少女は悔しそうに唇を噛み、俯いていた。
うーん、どうもきな臭いな。
仮に国王の命を狙ったとして、こんな暗殺者みたいな奴に頼むか?
普通は指名手配して、衛兵が捕まえると思うのだが。
ん……? そういえば、言われたって……
「国王からの依頼だと、誰から言われたんですか?」
「さ、宰相だ!!」
「なるほど…… ご協力ありがとうございます。とりあえず、眠っていてください」
これ以上情報は出てこないだろうと判断し、男のうなじを殴打して気絶させた。
◆
「大丈夫ですか?」
地面に座り込み俯いている少女に手を差し伸べる。
「あ、あの…… ありがとう…… ございます……」
少女は俯きながら僕の手を掴んで立ち上がった。
「貴方様は…… 何者なのでしょうか……?」
俯いたままおずおずと少女が問いかけてくる。まだ少し頬が赤らんでいるように見える。
「僕は、一応Cランク冒険者のシリウスです。貴女の話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「彼らを一方的に倒すほどの実力者の方がCランク……? いえ、そもそもこの年齢でCランクということが……」
僕の回答に少女は驚愕の表情を浮かべ、思案するようにぼそぼそと何かを呟いている。
「……シリウス様、お命を助けていただき誠にありがとうございました。私はシャーロット・エル・アルトリア。アルトリア王国の…… 第三王女です」
そう語り、顔を上げた少女と目が合った。
顔を上げた少女は雪のように透き通るような白い肌と潤んでキラキラと光る大きな瞳を持っていた。
お姫様ですと言われても納得できる、言われなくても一目見ればお姫様だとすぐに分かるほどの美少女がそこにいた。
黒服から逃走しているときについた汚れや傷ですら、その美しさを際立たせるアクセントに思えるほどであった。
「シリウス様、どうか、どうか我が国を助けていただけないでしょうか……!」
僕の手を握り、真剣な表情で問いかけてくるシャーロット王女。
その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「え、え、えっと…… 国を助けるとは……? 彼はああ言っていましたが、一体何があったのですか?」
キリッと表情を引き締め、シャーロット王女は口を開いた。
「我が国…… いえ、我が父アルトリア王は、何者かに操られています。父を止めなければ我が国は、大変なことになってしまいます」
「国王が操られている……? それで命を奪おうと?」
「そ、そんなことはしておりません! 私は父の状態を確認するために、昨日父の部屋へ立ち入っただけです! すると朝方、私の寝室に武器を携えた暗部の者達が押し入ってきたのです。部屋への侵入者を感知する魔道具身に付けていたためすぐに気づき、城から脱出することはできたのですが…… 結局追いつかれて、今に至ります……」
なるほど…… 確かに魔人族領への侵攻といい、ここ最近のきな臭さを思うと国王が操られていると言われると確かにシックリ来る。
「集中して魔力を探ると、父からは仄かに闇魔術の残滓が感じられました。恐らく精神支配系の魔術で操られているのだと思います…… でなければあの様な国を滅ぼすようなことはしません!」
「魔人族領への侵攻、ですね」
シャーロット王女が軽く目を見張った。
「ご存知でしたか……!? そこでシリウス様にお願いしたいことがあるんです」
「僕にできることでしたら……」
「私の護衛になってくださりませんか?」
「護衛…… ですか?」
「はい、私はこのまま王城に戻るつもりです。流石に相手も王女を正面から害することは出来ないはずです。そこで私とシリウス様で父を操っている者を探すのです」
「……僕にそのようなことが出来るとお思いで?」
「ええ、思います。私もただ王族の血を継いでいるだけではありませんの。シリウス様の魔術素養の高さは私をも凌いでいることくらい一目瞭然ですわ。シリウス様の魔力感知が優れていたからこそ私の命はまだ潰えていないのです」
「買いかぶりです…… ですが、承知いたしました。助力させていただきます」
ここまで知って放っておけるはずがないよね。
恭しく礼をして、シャーロット王女に笑みを向けた。
お読みいただきありがとうございます。
暗殺者達は大体Bランクちょい上程度の実力を持っていました。
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次回更新予定日は7/1(日)です。




