54.魔術創作
学校の授業は十六時頃に終わる。
前世の労働時間に比べるとあまりに短く、そのまま寮に帰る気は起きない時間である。
本当は魔物狩りにでも行きたいけれども、日没後は効率が悪いので大方鍛錬に費やしている。
学校には複数の訓練場がある。SクラスとAクラスは個人で貸切訓練場を使うことができるので、僕はいつも貸切訓練場を使っている。
学校に来てから実感したが、僕の魔術は異質であり、人の目に触れさせていたずらに目立つ真似は控えたほうが良いと思っているからだ。
僕の魔術には、前世の知識が魔術構築に大きく影響している。
科学や物理法則への理解や、ゲームや漫画、アニメで見た魔法やスキルの発想が大きいのだと思う。
今日は、先日授業で習った『無属性魔術』で試行錯誤していた。
その結果、『無属性魔術』は非常に汎用性のある魔術であることが分かった。
お陰で、今まで構想にはあったが中々実現できなかった魔術を創ることができた。
まずは『空歩』だ。
魔術、魔法の存在を知って、空を飛びたいとは常日頃思っていた。
風魔術を使って跳躍の高さや滞空時間を伸ばしたり、滑空することはできていたのだが、空中戦闘が可能なレベルの飛行はできていなかった。
ふんわり飛ぶので、魔術で撃ち落とされて終わりだ。
そこで今回新たに考えたのが、空中に足場を作る魔術だ。
『無属性魔術』を使うことでそれは簡単に実現できた。
『無属性魔術』で極小の足場を空中に作り、それを蹴って空中を歩く魔術、それが『空歩』だ。
『空歩』の課題として、走ることと次に踏み出す場所に座標を指定して足場を作ることを並行して行わなくてはいけないこと、次の足場の位置を相手に悟られないようにすること、というものがあった。
走ることと魔術を並行して行使することは、割と簡単に慣れた。
常に複数業務をマルチタスクで消化していた前世と比べたら、楽なものだった。
次の足場の位置については、現在特訓中である。
そもそも『無属性魔術』は属性魔力を使っていないため相当魔力に敏感な人にしか感知されないという特徴があるので、殆どの場合は気づかれないと思う。
あとは極力あらかじめ足場を作らないで踏む瞬間に足場を作れるよう、反復練習あるのみだ。
もう一つ新たに創った魔術が『物理探知』だ。
ソナーを参考にして創ってみた、無属性の魔力を放射状に放ち、その反射で物の位置を掴む魔術だ。
これで迷宮のマップや魔物の配置も一発で分かる! と思ったのだが、残念ながら迷宮の壁は微弱な魔力を発しており一定以上遠い場所になると反射した魔力がグチャグチャで上手く探知することができなかった。
この魔術は純粋に物理的に存在している物の位置を探知するため、『隠密』で気配を消していたり魔力を抑えていたりして『魔力感知』で感知できない相手を探知することができる点が非常に優秀だ。
――ほら、こうやって気配を消して窓から入ってくる人を探知したりね。
『物理探知』の反応に従い高窓に目を向けると、そこには夕日を背に受けた、真紅のヒラヒラした服を身に纏った少女がいた。
「むぅ、気配を絶っていた妾に気づくとは、お主はまた面白い魔術を創ったようじゃの」
楽しそうにくつくつと笑いながら、なめらかな金髪をたなびかせた幼女、ベアトリーチェは高窓から優雅に飛び降りた。
「ついこの間まで『無属性魔術』も知らなかったというのに、もう新たな魔術を創るとはの。本当に面白い奴じゃ」
「お久しぶりです、ベアトリーチェさん。気配を消してまで、僕に何かご用ですか?」
「あぁ。お主を驚かそうと思って気配を絶っていたのじゃがな、可愛気のない奴よ」
本当にそんなくだらない理由で気配を消して近づいて来たのか? と一瞬疑問が頭をよぎったが、悪意を感じられないのでとりあえずは納得することにした。
「アレキサンダーに聞いたのじゃが、お主『身体強化』と気力による身体強化を同時発動して失敗したそうじゃな」
アレキサンダー…… か。
父さんの試験官をしたという話といい、ベアトリーチェ…… さん、は相当古参の教官なのだろう。
そして実力も……
「はい。気力と魔力が反発しあう性質だってことを知らずに試してしまいました」
「ふむ…… 此奴なら実現できるかも知れぬな……」
「? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもないのじゃ。お主、妾の教えを受ける気はないかの?」
「――どういうつもりですか?」
「ふはっ! どういうつもり……か。妾はこの学校の教官じゃ。教官が生徒を教えて何かおかしいことがあるか?」
「おかしくはありませんが…… 担当教官ではない貴女が突然僕に何かを教えようというのは、違和感を感じます」
「お主は本当に十二歳か? 雷小僧も理屈っぽい奴ではあったが、お主ほどではなかったのじゃ」
中身はおっさんですからね…… しかも理系の。
「――で、どうしてなんですか?」
「――お主なら、妾の技能を授けられるかと思ったのじゃ。自ら創った技術を次の世代に託したいと思うのは、おかしなことかの?」
それだけではない気はするのだが…… 次の世代を育てたいという気持ちが強くなければ何十年も教官を続けられないということは分かる。
何より裏があったとしても、これだけ凄い人に師事できるのは願ったり叶ったりではないだろうか。
「……お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ。最初からそう素直に頷いておけばよかったのじゃ」
ベアトリーチェさんは嬉しそうにニヤリと笑った。
「この技能は操気と無属性魔術の高度な技術が必要じゃ。お主なら両方共及第点じゃろ。あとは練習と気合と根性じゃ」
おいおい、どこのブラック企業だよ…… 気合とか根性とか言う上司に良い思い出が全く無く、思わず眉間にシワが寄る。
「最初だから順序立てて丁寧にやってみせようかの。まずは普通に『身体強化』を発動するのじゃ」
そう言うとベアトリーチェは一瞬で『身体強化』を発動し、魔力を身に纏った。
その魔力の流れはとても滑らかで、見惚れるほどの技量だ。
「そして『練気』で気力を練り上げ、身体に纏わせるのじゃ。ここで注意すべきは、纏っている魔力を内側へ向けて均一に圧縮することじゃ。上手く行けばこのように、気力と魔力を同時に纏うことが出来る」
ベアトリーチェさんの身体には練り上げられた気力が纏われており、その外側から魔力でコーティングするような状態となっている。
正面に立っているだけでビリビリと威圧感を感じる。
反発する二つの力を芸術的なバランスで両立させている、凄まじい技術だ。
しかし……
「確かに凄い力を感じますが、そのバランスを保ちながら戦うのは不可能じゃありません?」
そう、あまりに精密なバランスで成り立っているため、少し戦っただけですぐに崩れてしまうだろう。
戦闘には向いていない。
「そう焦るな、これはあくまで準備段階じゃ。気力と魔力の放出量を同量に合わせ、気力を外側へ、魔力を内側へ圧縮させるのじゃ。こんな風にの」
一瞬ベアトリーチェさんから眩い光が迸り、それが収まると目の前には薄らと白い光を纏ったベアトリーチェさんいた。
強く力を放出している訳ではないのに、近くにいるとその白い光に凄まじいエネルギーが内包されているのが感じられる。
お読みいただき、ありがとうございます。
ベアトリーチェとの久々の絡みです。
ここのところちょっと説明多めで申し訳ないですが、もうちょっとで戦闘シーンが増えるイベントが来る……はず……!
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次回更新予定日は6/20(水)です。




