体育教師現る
村の西側は草原になっていた。向こうまで見渡せる位の広い草原。魔物と戦うとレベルが上がるようで、既にレベルは2になっていた。ステータスはレベルに応じて上昇する他、装備によっても上昇したりする。ステータスを見ながら歩いていると魔物が現れた。
【スネープ】Lv1
ロープのような蛇……いや、蛇のようなロープだろうか。剣を抜いてスネープの頭をを突き刺す。一撃でスネープは息絶え、素材のスネープの死骸になった。
「レシピ。ヘビロープ」
素材を使いアイテムを作り出すのがサラの職『生産』である。スネープの死骸をあっという間にロープにしてしまった。俺はロープを受け取りカバンに入れる。
「ふむ……ヘビロープは別のアイテムの素材になるわね」
「へぇーじゃあ集めるか?」
「沢田先輩、乱獲は良くないのでは?」
「うっ」
「ふふっ、後輩に注意されちゃうとはね」
見渡すと他の魔物を見つけた。メトルヤドカリという名前でレベルは13。見た目はヘルメットのようだが、中にヤドカリのようなのが寄生しているようだ。腰くらいまでの高さと、横幅1mはある位の大きさがある。レベルが高いため勝てなさそうなら逃げる事にしようと相談して、俺から襲った。しかし『メトルヤドカリにダメージはない!』というメッセージが出そうな位攻撃が効かなかった。
「なんだコイツ……」
「ちょっと、刃こぼれするわよ!誰が研ぐと思ってんの?」
「多分魔法なら倒せます。私に任せて下さい!」
そういうと川崎さんが杖を構えて念じた。何も起こらなかった。うーむ……ビックベアの時は素手でやっていた。杖は使わなくても良いのではないだろうか。
するとサラが布の包みから鍛冶用ハンマーを取り出してヤドカリに近いた。
「コレで良くない?」
「あっ……」
一振りで殻が少し砕けた。脳筋バンザイ。使い方絶対間違ってるけど。中からヤドカリが驚いて出てきた。すかさず俺が剣で仕留める。しかしでかい……食えるかな。
メトルヤドカリを倒した俺達のレベルは5に上がっていた。経験値がうまいな……他のを探したが見当たらなかった。
レベルが上がったらすぐに次のスキルが開放される訳ではないようだ。スキルツリーのパワースラッシュの次の項目には鍵マークがついており、開放条件は不明だ。どこまで行っても不思議な世界だなここは。
「あ、ウッドメット貸して」
「あぁ」
「レシピ。ヘルメット」
サラは殻を使いウッドメットを強化していく。ウッドメットはヘルメットに進化した!って言いたくなるな。ヘルメットはまるで工事現場のおっちゃんのヘルメットのようなマークが付いていた。
「なぁ……なんで工事用ヘルメットみたいなマークが付いてるんだ?」
「ノリ」
「うぉい!?」
そんなやり取りをしながらしばらく進んだが暗くなったため、野宿する事になった。夕食のメインは焼いたメトルヤドカリだった。ヤドカリは調理すれば食べられるそうだが、メトルヤドカリはパサパサしていてあまり美味しいものでは無かった。しかし……海じゃなく草原にヤドカリがいるとは。海が近いのか、もしくは何かの偶然で居たのか。
俺達はその辺になっていたリンゴっぽい木の実で口直しをして交代制で寝る事にした。
こういう世界は盗賊が付き物だからな。用心するに越した事はない。最初は俺が起きている。火の番をしながら剣の手入れをして、ケータイのアラームがなるまで時間を待つ。元の世界では俺はどういう扱いだろう。死んだ事になっているか、もしくは行方不明だろうな。ケータイの充電もそう長く持たないだろうし出来る限り早く帰りたいものだ。
思いふけっているとガサガサという音が背後から聞こえた。振り向くと、ただのスネープだった。
……ん?スネープみたいなロープ位の大きさのヘビなのにガサガサなんて音がするか?
怪しい。スネープが出てきた木影に向かって小さめの石を投げた。すると『あたっ』と、男の声が聞こえた。俺は剣を構え怪しい男に声をかける。
「誰だ!」
「黙れ盗賊っ!俺が成敗してや……え?沢田か?」
「な、中橋先生?!」
そこにいたのは高校の体育教師『中橋拓三』だったのだ。異世界に似つかわしくないジャージ姿で本人は無傷だが彼の着ているジャージは所々穴が空きボロボロになっていた。
「沢田お前が盗賊とは……!」
「いや違いますから」
状況説明をして、理解してもらった。勘違いはやめてもらいたい。そういえば先生の職を聞かないと。先生なのに職って変だが。
「職……?教師だろ?」
「ステータスもわかりませんか?」
「ゲームの話か?」
だめだ。やっぱり覚醒するまでは気が付かない、この話は置いておくべきだな。しかし、大人が付いていれば多少は安心できる。
しばらくすると先生の腹がなった。
「あっすまん。しばらく何も食べて無くてな」
「残りのメトルヤドカリ食べます?」
「いいのか!?ありがとう!」
先生は泣きながら旨い旨いとあっという間に焼きメトルヤドカリを食べ尽くした。そんなに美味しいか……?と思ったがそれだけ腹が減っていたのだろう。
「ふぅ……ご馳走様。しかし沢田。お前が仕留めたのか?」
「いえ、俺だけじゃ無理でしたよ」
そう言えば今まで何をしていたのだろうか。服がボロボロだが、無傷だから戦闘経験は無さそうだ。パーティに加えるというのはお互いが仲間だと思い、承諾する事でパーティ扱いになるとヘルプにあった。
「先生は一緒に行きます?」
「うーむ……まぁ味方が居るのは心強いが、先生は多分あの見た事ない生物達とは戦えないぞ?」
「俺は戦士です。川崎さんはヒーラーでサラは生産。みんな一応戦えるので、安全な場所まで送りますよ」
そう言うと、先生は『分かった』といって付いてくる事を承諾した。よし、パーティメンバー扱いになった。メンバーのステータスをパーティリーダーは見る事が出来る。さっきメトルヤドカリを倒した時全員レベル5に上がっているのが分かったのはその為だ。
どれどれ先生のは……
中橋拓三
レベル1
職:無し
スキル・通常戦闘技能1
魔法無し
他の数値は省略したが、体力攻撃以外は全て1桁。体力攻撃も2桁でとてもじゃないが戦えない。しばらくこれは一緒にレベリングをしなきゃならないな。
そう思いながら、他の2人を起こして事情を説明し俺は眠りに付いた。
朝になっていい匂いがして目が覚めた。なんと先生が料理をしていた。確か中橋先生は独身だったか。料理の腕はそこそこだと自慢しているのを聞いた事がある。
「みんな朝だぞ!飯食って街を目指そう!」
「鍋?どっから鍋を持って来たんですか?」
「私が作ったのよ……レシピにあったから」
眠そうにしながらサラが答える。多分俺が寝てる間に作ったんだな……買っておいた食料で何を作っていたのだろうと思ったらシチューだった。
元いた世界と似たような野菜が売っていたので買ったのと、あとは何かの肉と牛乳らしきもので作られたシチューは懐かしい味がした。
「美味しい!久々にシチュー食べました!」
「うん。まぁまぁじゃない?」
「そうかそうか!いやー良かった。昨日のヤドカリのお礼だ、みんな食べろよー」
女子2人、シチューに釣られる。シチューを食べた後、鍋を分解しもう一度作り直して容器を作る。石で出来ていたようだ。
カバンに収納し、俺が持とうとすると中橋先生がカバンを持ってくれた。先生を荷物持ちにするのは悪い気がするが……本人がいいと言ったのだ。気が済むまでやらせるのが吉だろう。
「さぁーて!みんな行くぞぉ!」
先生が先頭になって歩き始めたが、俺が思うに多分、先生はここが魔物が出る場所だという事を失念してるのでは
「うわぁ!ヘビだ!」
やっぱり。先生が仲間になったが先が思いやられそうだ。






