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職世界冒険録  作者: ハスキーひやま
フォレストの章
10/12

リジェルの街と少年アロン

数百年前。リジェル・R・フォレストは魔王軍の一員だった。世界には魔王は復活の兆しも無く、全く影響は出ていなかった。そんな中リジェルはある者の命令で飢饉で荒れ果てた街にたどり着く。

その街を見渡し、コレの原因が魔物であると聞いていた彼女はその原因のイノシシ型の巨大な魔物を仕留めた。


「『魔王が復活するまでは人間に手出しをするな。決まりを守らない魔物は駆除して構わない』か……全くあの人の考えは分からない。人間がなんだと言うのか」


そうつぶやく彼女に、街の人々は集まり『ありがとう、ありがとう』と口々に告げる。リジェルを囲む人々は皆目に涙を浮かべながら感謝を述べつづけていた。

……何なのだ本当に。私はただ、決まりを守らない者を粛清しに来ただけなのに。

リジェルは街を後にした。しかしイノシシ型の魔物は仕留められたものの、根本的な原因は別にあった。街の土地そのものに魔力の流れも栄養も無く、野菜や果物等を育てる事など不可能な程に土地が死んでいたのだ。


リジェルは再度確認のために街に戻って来た。相も変わらず人々は土地を耕し種を蒔いていた。


「……この街は死ぬな。いや、既に死んでいるか。なのに何故種を蒔く?奴らは何故意味の無い事を繰り返すのだ?」


疑問に思うリジェルの後ろからやせ細った体の少年が声を掛ける。『意味はある。諦めない事が意味のある事なんだ』と。

リジェルは理解出来なかった。この街の住人は街を捨て、移住をすればこんな飢饉は乗り越えられる。だが誰一人それを口にしない。街は蘇ると信じているのだ。


「バカバカしい……私には理解不能だ」

「じゃあねーちゃん。アンタも何かここに植えてみろよ。そしたら分かるさ!」


リジェルの職はあらゆる物質を無から創り出す事が出来る生産職の最上位職『創造者』彼女の手に掛かれば何の努力も無くこの街を蘇らせる事も出来る。しかし、『人間を粛清以外で救う事を禁ず』それもまた魔王軍の規則であった。


「……もし私が土地を蘇らせる事が出来るとしたら、お前は私になんて言う?」

「そりゃあ、出来れば皆が喜ぶだろうさ。だから俺は頼むかな。蘇らせてくれーって」


そうか。とつぶやくとリジェルはミカンの木をスキルで創り出し、それを地面に植えた。初めてリジェルはこの時魔王側としての規則を破った。ミカンの木を通して魔力を大地に流し込み、土地をあっという間に復活させたのだ。

本当にバカバカしい。私は何の為に今まで規則を守っていたんだろうか。


「え……今のマジだったの……?」

「ああ。マジだ」


この日を境に、リジェルは魔王軍を抜けた。

コレは、リジェルの街の始まりの話。

リジェルが街を蘇らせてから数日後。既に街にはミカンの木がたくさん植えられていた。全てが彼女の力によって生み出されたものである。


「いやーねーちゃんはスゲーや。一気に街の長になるし、街を救った大英雄だもんな!」

「ねーちゃんって呼ばないで貰えるだろうか。仮にも元魔王軍だぞ」

「だって名前知らねーし。ねーちゃんはねーちゃんだろ?」


だからねーちゃんと呼ぶな。そう言って頭を小突く。ただ、私は人間より数百倍強い。小突いただけだったが少年は壁にめり込む位吹き飛ばされた。ふむ……まだ加減が足りなかったか。だがこの少年もただ者では無かった。

この時代、職に覚醒している者は少なく、キッカケが無くては覚醒することはない位で、私のような生まれつき備わっている者の方が珍しかった。

この少年は生まれつき『バーサーカー』という職が備わっていたのだ。少年の頑丈さは人間を遥かに凌駕していた。


「いてーなもう!」

「リジェル。リジェル・R・フォレスト。それが私の名だ。分かったらもうねーちゃんはやめろ」

「ちぇっ、分かったよリジェルねーちゃん」


やめろと言っているのに……コレだから人間というのは。

やれやれと肩を竦めるリジェルに元街の長だった老人が声を掛ける。


「リジェル様。貴女様のお陰で街も安定してきました。ギルドを立ちあげ、ギルドマスターになってくだされば更にこの街は発展するでしょう。やってはみませんかの?」

「ギルドマスター?何故私が。私は元魔王軍だったのだぞ?」

「イイじゃん。リジェルねーちゃん、やろうぜ!」


少年がどうしても冒険家ギルドを立ち上げてくれと懇願する。とはいえ恐らく魔族である私がマスターをやっている内に人間の少年は寿命を迎えて死んでしまうだろう。少年が生きてる間だけでもギルドマスターをやってもいいかも知れない。


そして私はギルド『フォレスト』を立ち上げたのだ。

そしてその十年後。少年の名はアロン。彼はギルドでも一、二を争う程の実力者になった。

しかし平和だったある日の事。私を粛清する為に、魔王軍の使いが私の前に現れた。抜けたとはいえ私は元魔王軍の違反者だ。粛清対象になってもおかしくはなかった。


「粛清だ。リジェル、貴様を抹殺する!」

「アンタ程度に殺られる位なまってなんか無い。それに魔王軍は抜けた。粛清も何もないんじゃない?」

「知らん。貴様を殺らねば私が殺られるのだ!死んでもらうぞ!」


ソイツは毒ナイフを持っていた。私はその程度じゃ死にはしない。痛いだけだ。創造者の常時発動スキルのお陰で、私の身体は不老不死に近い。例え身体が粉々にされようとも再生する。

しかしそれを他の皆には知らせてはいなかった。そして私が刺されたという騒ぎを聞きつけたアロンはすぐに駆け寄って来た。


「リジェルねーちゃんッ!!しっかりしろおい!!」

「大丈夫よ、この程度じゃ死なないから」

「どけ。粛清の邪魔だ」


その時だった。アロンが黒い魔力を放ち始めたのは。まるで人が変わったかのようにアロンは黒い魔力を纏ってその魔王軍の者を一瞬で殴り殺したのだ。

いつもと違う、背筋が凍る様な目でアロンはソイツの死体に追い討ちを掛けた。死体はもはや原型をとどめておらず、完全にただの肉塊になるまでアロンは黒い魔力を纏った拳でグチャグチャにしていった。その姿はまさに狂戦士。バーサーカーそのものだった。

そして丁度止まった時に、上空から声がした。


「ふむ。こんな所に良い人材がいるじゃないか」

「あんたは……ルーヴィウム!」


鱗が手や足に存在する白髪の男。名をルーヴィウム・ヘルロギア。彼がその時代の魔王軍の実質トップで種族は半龍人。職は不明だがルーヴィウムは死者を操ることができた。

怒りのままにアロンはルーヴィウムに襲いかかったが、結果は圧倒的な力の差でアロンが敗北し、連れ去られてしまった。

────そしてルーヴィウムを追いかけ、ついにアロンを見つけた時には時既に遅く。彼は謎の力に操られ魔王軍の手下になっていた。


そして今に至る。


今その少年、アロンはリジェルに対し、怒りを顕に叫んでいる。


「リジェル……魔王軍の裏切り者がぁ……!俺を仕留めるだァ?ふざけんじゃねぇ!」


アロンが一歩前へ踏み出した瞬間、鎖が地面から伸びてきて彼を瞬時に拘束する。この魔法は先程川崎愛が撃ち損ねた筈だったもの(・・・・・)だ。

彼女は飛ばされながらも詠唱を完成させていた。そして飛ばされた先には丁度リジェルが居た。彼女はリジェルに受け止められ、自身のスキルでほぼ無傷まで回復していたのだ。


「あのガキ……!舐めやがって!この程度ォ!」

「我が力を天に捧げ、敵を縛り上げよ!『バインドチェーン』!」


黒い魔力を放出し鎖を破壊しようとした瞬間、新たに鎖が巻き付きさらに強固に拘束された。魔力を強く込められたソレを簡単に引きちぎる事はできない。

無論発動したのは川崎愛である。魔力回復薬を使い、魔力を全回復してここへ戻って来たのだ。


「川崎さん!良かった、死んでなかった……」

「勝手に殺さないで下さいよ!」


ごもっとも。

リジェルは拘束されたアロンに、俺の黒い魔力を消したあの『魔法らしき何か』を使った。しかし、バチッと言う音がして弾かれる。何か別の力が邪魔をしているようにも見えた。黒い魔力が何なのか、そしてリジェルが何故使えるのか、聞きたい事は山ほどある。


「チィッ!!アイツの力を借りるのは癪に障るがしょうがねぇ!」


アロンのズボンのポケットから小さな黒い玉がいくつかこぼれ落ち、地面に着いた瞬間玉が弾けて最初に戦ったあのゾンビと似たようなものが現れた。違う所は武装をしていてレベルも15とアレよりは強いし数が10体以上は居る事か。縛り付けられていたアロンはゾンビ兵に手を借り、拘束を解いてしまった。


「今回は撤退だ……ギルドマスターは流石に分が悪い。次は必ず潰してやる!」


そう言って奴は海に飛び込むと、イカの魔物クラーケンをおそらく同じ方法で召喚し、ソレに乗って逃げ出した。

追いかけようとしてもゾンビ兵が邪魔をしてやつの場所までたどり着けない。折れたショートソードで相手をするには数が多すぎる。


「これを使いなさい!」


リジェルが隼輝に渡したのは魔銀の剣。対魔族特攻の能力が付いている魔力を練り込んだ銀で作られた剣だ。受け取りすぐに装備を変えた。ショートソードは鞘に戻す。普通のありふれた武器とはいえこの世界で最初に手に入れた武器だ。愛着があるし捨てられない。

ゾンビ兵に俺は魔銀の剣を振るい、川崎さんが魔法弾を放ち、リジェルも同じく剣撃であっという間に全滅させた。


「完全に逃げられた……もう見えない」

「仕方ない。深追いは禁物よ、ギルドに戻りましょ。色々と……言わなきゃならないこともあるし」


ゾンビ兵の残骸を処理し、アロンが捨てていったフォレストのギルドの証を拾って、俺達は海岸を後にした。

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