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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
25/40

第24話 ミロク達の修行

ーーーー 図書館・分析 ーーーー


外では雪が降り続け、窓の向こうで白い世界がゆっくりと広がっていた。

冬休み初日。


人の気配はほとんどない。


その中で——

タカミザワは一人、机に座っていた。


手元には一枚の書類。


能力鑑定魔法——

《ステータスオープン》レベル5


それによって可視化された、仲間達の情報。


タカミザワは視線を落とす。


まずはミロク。


——————


ミロク Lv 1 (変化なし) Rank F


・魔法適正 風/雷


・体力    8

・魔力    5

・気力    8

・攻撃力   8

・防御力   6

・魔法攻撃力 5

・魔法防御力 5

・俊敏性   15

・運     5


・固有能力 鳥飼い(バードマスター)

・魔法

 ・風魔法 "初級"

・スキル

 ・阿吽の呼吸

・契約

 ・加護契約 "クロネコ"

 ・守人契約 "ケイタロウ"


——————


レベルは変化なし。


だが——

ステータスはわずかに上昇している。


「……上がらない、か」

呟く。


通常、レベルとステータスは連動する。


だがミロクは違う。


なぜか、レベルは上がらない。

だが、能力は伸びている。

現段階では、まだ一般の子どもの域を出ない。


次に視線を移す。


——————


スコール Lv 12 Rank E


・魔法適正 水/木


・体力    210

・魔力    108

・気力    202

・攻撃力   151

・防御力   110

・魔法攻撃力 82

・魔法防御力 61

・俊敏性   186

・運     5


・固有能力 決死

・魔法 "洋性"

 ・水魔法 "初級"

・魔法 "和性" "龍魚"

 ・水魔法 "初級"

・スキル

 ・阿吽の呼吸

 ・心眼

 ・俊足

・桜花流剣術 "初級" "下級"

・東刃流剣術 "龍魚"

・契約

 ・召喚契約 "龍魚"

 ・加護契約 "クロネコ"


——————


「やはりな……」

タカミザワは小さく頷く。


数値は明らかに前衛型。

実戦とレベル上昇による伸び幅も優秀。

スキルや桜花流の成長も圧倒的だ。

"東刃流剣術"と"和性魔法"は、龍魚のおかげだろう。


「……強い」


率直な評価だった。


これまで遭遇した雑魚モンスター程度では、もはや相手にならない。


当面の主戦力。


そう結論づける。


次。


——————


ケイタロウ Lv 10 Rank E


・魔法適正 なし "守人"


・体力    240

・魔力    0

・気力    280

・攻撃力   181

・防御力   152

・魔法攻撃力 0

・魔法防御力 321

・俊敏性   198

・運     8


・固有能力 水波

・スキル

 ・阿吽の呼吸

 ・心眼

 ・俊足

・一般格闘術

 ・空手、柔道、柔術 "3級"

・契約

 ・加護契約 "クロネコ"

 ・守人契約 "ミロク"


——————


「……こちらも悪くない」


ケイタロウの伸び代も、正直悪くない。


実践とレベル上昇での上がり幅はスコールと同等。


そして、スキル。


阿吽の呼吸。


スコールとの連携が成立している。


だが。


「……ミロクとは共有できていない」


そこに小さな違和感。


タカミザワは一瞬だけ思考を止める。

だが、すぐに次へ進む。


そして——


最後に、自分。


——————


タカミザワ Lv 7 Rank F


・魔法適正 全属性


・体力    21

・魔力    1

・気力    4

・攻撃力   1

・防御力   2

・魔法攻撃力 1

・魔法防御力 1

・俊敏性   2

・運     1


・固有能力 絶対記憶、千里眼

・魔法 "洋性" "和性"

 ・全魔法 "初級"

・契約

 ・加護契約 "クロネコ"


——————


紙面に並ぶ数字を見て、口元が歪む。


「……冗談だろ」


あまりにも低い数値。


体力。魔力。攻撃力。


すべてが、他の三人を大きく下回っている。

レベルが上がっても変わらない。


伸びない。

伸び代すら感じられない。


「呪いでもかかっているのか……?」


思わずそう疑いたくなる。


スキルはない。

武術もない。


あるのは——


絶対記憶。

千里眼。


そして、

全属性の魔法適性。


だが、

「……それだけだ」


静かな吐息。


戦闘能力としては、致命的に不足している。


『自分が一番弱い』


その事実が、頭の中で何度も反響する。


「どうしたものか……」


深いため息。


だが、

完全に戦えないわけではない。


魔物を倒す程度の力はある。


しかし——

それ以上は望めない。


絶望的。


この事実を、もしミロク達に知られれば。


「……確実に見下されるな」


小さく呟く。


胸の奥に、わずかな苛立ち。

そして焦燥。


タカミザワはカップを手に取る。


ブラックコーヒー。


一口、啜る。

苦味が広がる。


だが、

落ち着かない。


むしろ、思考が冴える。


——力がないなら、どうする?


答えは一つしかない。


「……知能戦だ」


静かな声。


真正面から戦えば、負ける。


ならば、頭で勝つ。


ハッタリ。

ブラフ。

誘導。

錯覚。


トリックスター。


それが、自分の強み。


それしか選択肢はない。


タカミザワは立ち上がり、

窓へ歩く。


窓に手をかけ、開けると、

冷たい風が流れ込む。


頬を刺すような寒気。


だが、それが心地いい。


思考が研ぎ澄まされる。


白く染まる世界を見つめながら、呟く。


「……最後の最後まで」

「騙し通す」


その目に迷いはない。


それが——

自分の戦い方だ。


ーーーー 天満寺の冬修行 ーーーー


雪が積もる山の寺、天満寺。


冬休み初日。


ミロクの修行が始まった。


早朝——滝行。

日中——祖母との体術。

夜——父ボサツによる式神と符術。


それが、この冬の全てだった。


——————


滝行は、やはり過酷だった。


氷のような水が背を打つ。


何度も、何度も失敗する。


息が持たない。

心が折れる。


それでも、挑み続ける。


——————


体術は、

まず身体作りからだった。


雪山を走る。


足を取られる。

呼吸が乱れる。


だが止まることは許されない。


祖母は容赦しなかった。


——————


夜。


式神と符術の勉強。


魔法とは違う体系。

古代語。


記号。

意味。

構造。


頭が追いつかない。


「……むずかしい……」


ミロクは何度も机に突っ伏した。


——————


そして——


十日目。


滝の水に、少し慣れてきた。

それでも失敗は続く。


体術では、“気”の扱いを教わる。


見えない力。

掴めそうで、掴めない。


符術では——


ついに。

紙で作った人型が、歩いた。


「……動いた……!」


小さな成功。

だが、確かな前進。


——————


二十日目。


滝行は、三十分以上耐えられるようになった。


体術の成果か、

身体が、持つようになってきた。


祖母の教えは、次の段階へ進む。


爺婆(じじばば)体術」と呼ばれる、奇妙な武術。


だが、無駄がなく強い。


符術も実用段階へ。


・結界符

・爆発符

・人避符


戦いに使える力になっていた。


——————


そして——

冬休み、最終日。


寺の境内。


雪はすでに払いのけられ、

まるで戦場のような空間が広がっていた。


ミロクと祖母が向かい合う。


「ミロクや」


祖母が軽く言う。


「体術も式神も、何でも使って戦ってみろ」


挑発のような声。


そして。


「ハンデじゃ」


祖母は目を閉じた。


「目を閉じてやろう」


余裕の笑み。


武術において祖母は、祖父よりも強い。


それは、事実らしい。


静寂。

風もない。


その空気を裂いたのは——


「勝負開始!」


祖父、ムシンの声。


瞬間。

ミロクが駆け出す。


「《符術——爆発符》!」


あらかじめ用意していた札を投げる。


祖母の顔めがけて。


しかし。

目を閉じたまま、首を傾ける。


回避。


次の瞬間。


札が背後で爆発。


轟音。

その音に紛れて、ミロクは動く。


祖母の右側へ。


踏み込む。


《掌底》!


脇腹を狙う。


——だが。


「甘い」


祖母の手が、ミロクの腕を掴む。


そのまま。


腰の力で——

投げる。


宙へ。


ミロクの身体が空に舞う。


高く。

高く。


二十メートル程。


「う、わ……っ!?」


視界が揺れ、下を見る。


祖母が拳を構えて待機している。


『まずい……!』


落ちれば、一撃で終わる。


その瞬間。


『風よ——』


無意識だった。


詠唱はない。

記憶法による風魔法。


だが。

風が、動いた。


身体が流され、軌道が逸れる。


「風が……?」


祖母の眉が動く。


ミロクは着地する。

祖母の背後。


即座に距離を取る。


ボサツが腕を組み、笑う。


「ほぅ……やるじゃないか」


祖母が振り向く。


「ふむ……惜しいのぅ」


その瞬間。


ひらり。


祖母の肩に何かが落ちる。


祖母の反応は速かった。

懐から符を取り出す。


「《結界符》!」


爆発。


肩の上の札が弾ける。


それは、

ミロクが落とした爆発符。


偶然。


だが——

当たった。


祖母の口元が歪む。


「偶然を味方につけるとは……」


ニヤリと笑う。


「さすがは、ボサツの息子じゃ」


ミロクは息を吐き安堵した。


その瞬間。


「俊歩」


背後。

祖母がいた。


「え……?」


振り向く間もなく。


手刀。


意識が途切れ、

ミロクの身体が崩れる。


「全く……油断するでないわ」


祖母がため息をつく。


そのままミロクを抱え、縁側へ運ぶ。


ボサツが受け取る。


そして、祖母が言う。


「こやつ、魔法を使いよったぞ?」


視線を向ける。


「お前が教えたのか?」


ボサツは小さく笑う。


「いや?知らないねぇ」

「俺じゃない」


肩をすくめる。


祖母がムシンを見る。


「魔法など使わせて……どうなるか、知らんぞ?」


ムシンが睨み返す。


「ワシに言うな」


険悪な空気。

祖母と祖父は犬猿の仲。


祖母はボサツに言う。


「魔法はいつからじゃ?」


「夏くらいからだな」

「俺が戻った時には、もう魔力があった」


祖母の表情が曇る。


「……魔法教会が黙っておらんぞ」

「ちゃんと守ってやれ」


ボサツは笑う。


「大丈夫だって」

「俺の子だぞ?」


軽い口調。

だがその目は真剣だった。


「しかし……誰に教わったんだか」


頭を掻く。


その時。

ミロクが目を覚ます。


「ハッ!」


起き上がる。


「……負けた!!」


悔しそうな声。

祖母は一転、笑った。


「よし!」

「目が覚めたなら、もう一戦じゃ!」


楽しそうに言う。

ミロクは目を見開く。


修行は、まだ終わらない。


ーーーー 祖父の山小屋ーーーー


雪に覆われた山道を、一台の車が進んでいた。


車内。

スコールは窓の外を眺めている。


白く染まった木々。

削りきれていない雪道。

タイヤが雪を踏みしめる音。


車はガタガタと揺れ、時折、天井に頭をぶつけそうになる。


山に入ってからは、時速二十〜三十キロ。

ゆっくりとした進行。


どれくらい走っただろうか。


やがて、車が止まった。


「着いたぞ」

父、シンの声。


スコールは車を降り、大きく背伸びをする。

冷たい空気が肺に入る。


「……ふぅ」


長い道のりだった。


シンが顎で示す。


「あの先に見える荒ら屋が、ジジイの家だ」


雪の向こう。

確かに、一軒の古びた家が見える。


「話は付けてある。行ってこい」


手をひらひらと振る。

そのまま車は方向転換し、山道を下っていった。


残されたのは、静寂。


スコールは一人、祖父の家へ向かう。


木造の平屋。

電気が通っている気配はない。


外には、五右衛門風呂。

煙突の跡がある。


中に入ると、

古民家の匂い。


土間。

竈門。

積まれた薪。


居間には、囲炉裏。


窓際には、干された川魚と大根。

生活の気配はある。


だが。


「……冬休み、ここに来たの間違いだったかもな……」


小さく呟く。


その時だった。


「おぉ!来たか!こう!」


裏手から声が飛んできた。

祖父だ。


「こっちじゃ!」


手招き。

スコールは裏へ回る。


そこにいたのは——

上半身裸で、薪を割る老人。


雪の中で。


「……寒くないの?」


当然の疑問。


祖父は笑う。


「動いておれば寒くないぞ」


スコン!


薪が割れる。


——刀で。


「……斧じゃないの?」


スコールは思わず聞く。


祖父は首を傾げる。


「いかんのか?」


常識が通じない。

それだけは分かった。


祖父は刀を差し出す。


「コウ、お前もやってみなさい」


五十センチほどの刀を、

スコールは受け取る。


「……分かった」


無茶だ。

普通、刀で薪は割れない。


だが——

思い出す。


龍魚の鎧。

鎌鼬との戦い。


「……いけるはずだ」


スコールは目を閉じ、集中。


『心眼』


呼吸を整え、振り上げる。


そして——


『滝崩し』


振り下ろす。


ガチッ!


硬い音。

薪には刃の跡だけが残る。


やはり、割れない。


「……無理だよ」


弱音が漏れると、

祖父が手を差し出す。


「どれ、貸してみなさい」


刀を受け取る。

髭を撫でながら言う。


「コウ」


静かな声。


「心眼で、力の流れをよく見なさい」


祖父は構える。


中段。


腰を落とす。

地に根を張るような姿勢。


目は閉じない。


ただ、薪を見据える。


『心眼』


スコールの視界に映るもの。


——気。


祖父の身体の内側で、力が流れている。


腰。


(へそ)


そこから全身へ。


そして——


一瞬。


刀が振り上げられ、

振り下ろされる。


スコン!


音は軽い。


だが。

薪は真っ二つだった。


「こうやるんだ」


祖父が言う。

スコールは息を呑む。


確かに、見えた。


振り上げた時。

力は背中へ、引き上げる。


振り下ろす時。

力は腹へ、引き下げる。


「……腕に、あまり力が乗ってない?」


気づく。

すると、祖父が笑う。


「ご名答」


ニカッと。


「ワシらはな」


刀を軽く振る。


「刀を使う前に——」


自分の腕を指す。


「ワシらが刀になるんじゃ」


スコールは黙って聞く。


「腕の軌道が、そのまま刀の軌道になる」

「つまり」


祖父の目が鋭くなる。


「身体の使い方で、すべてが決まる」


スコールの手に、再び刀を渡す。


「分からなければ、分かるまで見ればいい」


祖父は背を向ける。


「さぁ」


薪を置く。


「一緒にやるぞ」


スコールは刀を握り、深く息を吸う。


雪の中。


二人の影が並ぶ。


スコン。ガチッ。


スコン。ガチッ。


静かな山に、薪の割れる音が響いた。


ーーーー 山の生活・剣の道 ーーーー


その日の夕方。


外では、雪が静かに降り続いていた。


スコールは五右衛門風呂の前にしゃがみ込み、火入れを行っている。


乾いた薪。

火種。

そして——竹筒。


口をつけ、息を吹き込む。


「ふっ……!」


弱い。


火は揺れるだけで、育たない。


再び吸う。

そして、肺が少し痛む。


「……これも、修行か」


呟く。


『スキル"阿吽の呼吸"』


気力を肺に巡らせ、

火の動きに合わせて息を吸う。


コオォォォォ……!


吐く。


ホオォォ……!


炎がわずかに大きくなる。


だが足りない。

何度も、何度も繰り返す。


肺が焼けるように痛む。

それでも、続ける。


やがて——

火は安定し、湯が温まり始めた。


——————


家の中では祖父が、

干していた大根や川魚を鍋に入れている。


味噌の香り。


囲炉裏の火。


「今日は、味噌飯じゃ」


祖父の声。

スコールは座り、箸を取る。


一口。


「……う、美味い!!?」


思わず声が出た。


味噌の深み。

魚の旨味。

大根の甘さ。


体に染み渡る。


そして、

風呂もまた格別だった。


外の寒さ。

湯の熱。


その落差が、身体を解きほぐす。


布団は重く、温かい。

気づけば、深い眠りに落ちていた。


——————


次の日の朝。


薪割りではない。


銀杏洗い。


桶に入れられた銀杏の実を、ヘラで掻き回す。


一ヶ月、水に浸されていたものだ。


ぬるりとした感触。


スコールは目を閉じる。


『心眼』


桶の中。

銀杏の実が外れた感覚を確認する。


十分だ。


水を捨てる。


銀杏の種をザルへ。

そして、乾燥小屋へ運ぶ。


「……多すぎないか?」


軽く見積もっても、二ヶ月分はある。


もはや修行ではない。

ただの労働だった。


——————


さらに次の日の早朝。


「今日は肉を獲りに行くぞ」


祖父の一言。


「肉って……動物?」


「もちろんじゃ」


あっさりした答え。


ついに来た。狩猟。


祖父が何かを差し出す。

木の枠に縄を編んだ道具。


「ほれ、かんじきじゃ」


「……何それ?」


祖父は呆れた顔をする。


「雪の上を歩くためのもんじゃ」


履いて見せる。


そのまま雪の上へ。


沈まない。

軽やかに進む。


「すご……!」


スコールも履く。


ザクッ、ザクッ。


沈まない。


「外ではな」


祖父が振り返る。


「証拠を残すなよ?」

「獣が寄り付かんようになる」


スコールは頷く。


「よし」


祖父が言う。


「狩猟開始じゃ」


——————


雪の中を歩くこと、数十分。


「……何もいないね」


「当然じゃ」


祖父が笑う。


「冬は滅多に出てこん」


さらに歩く。


その時、

祖父が動きを止めた。


しゃがむ。


「コウ。心眼じゃ」


スコールもすぐにしゃがみ、

目を閉じる。


『心眼』


——いる。

十数メートル先。


濃い気配。


「……熊だな」


「く、熊……!?」


声が震える。


逃げる?

戦う?


思考が揺れる。


「どうするの?」


祖父は迷わない。


「狩る」


短い言葉。


(さきがけ)はお前じゃ」


殿(しんがり)はワシ」


「そんな……!」


祖父が静かに言う。


「大丈夫じゃ」

「ワシがいる」


一瞬の沈黙。


「どんな一撃でもいい」

「やってみろ」


スコールは目を閉じる。


呼吸。

深い。

いつもより、深い。


酸素が脳に流れ込み、

意識が研ぎ澄まされる。


気配が形になる。


——捉えた。


「桜花流……!」


刀を振る。


「花鳥風月!!」


空を斬り、

斬撃が飛ぶ。


バシンッ!!


命中。


「グオォォォ!!」


熊の咆哮。


その瞬間。


地面が揺れる。

来る。


祖父が前に出る。


「見ておけ」


居合の構え。


低い姿勢。

雪の上とは思えない安定感。


熊が迫る。


中距離。

近距離。

至近距離。


一瞬。


「桜花流——」


刀が走る。


「一刀一手・一文字斬り」


横一閃。


ズルリ。

熊の首が落ちた。


静寂。


スコールの呼吸が乱れる。


——血。

——命。


記憶がよみがえる。


鎌鼬(かまいたち)を斬った時の感覚。


冷たい。

頭が冷える。


「……うぷっ」


吐き気。


だが。

こらえる。


吐かない。


『証拠を残すな』


祖父の言葉。


スコールは目を閉じない。


呼吸を整え、現実を見る。


ポン…と、

スコールの肩に手が置かれる。


「よく我慢した」


祖父の声。


「偉いぞ」


軽く笑う。


「お前の姉ちゃんはな、速攻で吐いたぞ」


スコールは小さく笑う。


「今日は熊鍋じゃな」


祖父の

間の抜けた声。


だが、

その軽さに、少し救われる。


雪の山。

静かな空気。


この修行は——


この冬休みの間。続いた。

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