94話 王国全土へ広がる再生の息吹
辺境の最果て、嘆きの谷を埋め尽くした白銀の光と黄金の芽吹き。
それは一地方の奇跡に留まらなかった。精霊・妖精たちが織りなす目に見えぬ繋がりを通じて、アリアの放った再生の波動は、アルカディアス王国全土へと瞬く間に伝播していった。
アリアがその身に宿した真の聖女の力――。
それは風に乗り、水脈を駆け、人々の想像を絶する速度で国土を塗り替えていく。
長きにわたる戦乱と、魔獣が撒き散らした瘴気によって黒く変色していた各地の農地。
そこでは何年もの間、死が支配していた。ひび割れた大地、立ち枯れた果樹園、そして希望を失い、鍬を投げ出した農民たち。
しかし、その日は違った。
どこからか流れてきた清涼な風が鼻孔をくすぐったかと思うと、枯れ果てていた井戸の底から、清烈な水が勢いよく溢れ出したのだ。
地を這うような重苦しい空気は一瞬で霧散し、まるで何十年分もの冬を一度に飛び越えたかのような、力強い春の息吹が大地を芯から震わせた。
「見てくれ……! 土が、土が息をしているぞ!」
農夫が震える手で土をすくうと、そこには柔らかな湿り気と、どこか懐かしい生命の芳香が宿っていた。
かつて不毛の地と呼ばれ、誰もが見捨てた荒野には、一夜にして名もなき野花が絨毯のように咲き誇り、色彩の海が地平線まで広がった。
各地から王都へと届く奇跡の報告は、もはや単なる噂ではなかった。
それは、アルカディアス王国が再び豊かな母なる大地として蘇ったことを、揺るぎなく証明していた。
その知らせは、王座で厳しい政務に当たっていたリリアのもとにも届く。
彼女が守り抜こうとした「秩序」の枠組みの中に、アリアが紡いだ「生命」が満ちていく。二人の聖女が、今、真の意味で王国を救い上げたのだ。




