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【全年齢版】呪われた辺境伯と無色の聖女  作者: 真紅愛


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85話 精霊王と運命の鍵



マリアは、精霊王と契約を交わしたわけではない。


彼女の内に残された、完成しきれなかった聖女の力が、世界の根源と未だに閉じ切らず、辺境の精霊王の波動と微かに共鳴し続けているだけだった。


それは祝福ではなく、罰にも似た残響。


愛を奪われ、力を砕かれた代償として、世界の声から逃れられなくなった証である。


王都の人々が利権や欲に溺れて忘れてしまった世界の本質的な声を、精霊王はこの地を通じてマリアに伝えていたのである。



精霊王は、王都でリリアの秩序の器が発動したことをマリアに示し、それが崩壊しかけた王国の均衡を保つための必然であったことを証言したのだ。



「アリア、リリアの秩序は言わば、荒れ果てた庭を整えるための厳格な剪定せんてい。そして貴女の調和は、そこに新しい花を咲かせるための温かな土壌なの。この両方が揃って初めて、王国という庭は再生する」

 


マリアは、二人の力が車の両輪のように不可欠であると説いた。

 

「リリアは今、王国の仕組みを正すために、私情をすべて切り捨てて孤独に戦っている。その彼女が、過酷な役割に心を凍らせてしまわないよう、この辺境が彼女にとっての心の拠り所であり続ける必要があるのよ」




マリアがこの地に留まる本当の理由は、二人の愛に甘えたからだけではない。精霊王の声を聴き、辺境の調和を盤石にすることこそが、王都で独り戦うリリアの重荷を間接的に支える唯一の手段だと確信していたからだった。



傍らでこの話を聞いていたカイルは、腕の中にいるアリアの肩を抱く手に、より一層力を込めた。アリアの身体から伝わる柔らかな鼓動を感じながら、彼は思考を巡らせる。



(……アリアが抱える、妹への深い慈しみ。そしてリリアが背負った、逃げ場のない孤独。マリア様は、その両方をこの辺境で包み込もうとしているのか)



カイルは、武力で国を守る辺境伯として、そして一人の男として、宿命を背負った二人の聖女を想った。  



これまでのアリアは、リリアを助けたいと願う一人の姉であった。しかし今の彼女は、精霊王とマリアの言葉を通じ、自分こそがリリアの心の支えにならねばならないという、揺るぎない覚悟を抱き始めていた。



義妹リリアがどれほど冷徹に振る舞おうと、彼女の根底にはこの辺境の温もりが必要だ。ならば私は、アリアがその光を絶やさずにいられるよう、全力でこの場所を守り抜く。それが、二人の聖女を支える私の騎士道だ)

 


マリアの言葉は、アリアには救う力を、カイルには守り抜く盾としての新たな決意を、静かに、しかし力強く刻み込んだ。

 


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