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【全年齢版】呪われた辺境伯と無色の聖女  作者: 真紅愛


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84話 祖母マリアの証言:辺境の守護と不完全さの代償



アリアが精霊王の啓示を口にした時、マリアは静かに頷いた。


彼女はこの事態を予見し、その原因と責任を語る覚悟を持ってこの地に留まっていた。



マリアにとって辺境伯領への滞在は、本来、自ら願い出るべきものであった。


不完全な力を残した責任として、次世代の結末を見届ける義務があると考えていたからだ。


しかし、彼女が切り出すより先に、アリアとカイルはマリアの身の安全を案じてこの地での隠居を提案した。



かつて、当時の当主であった父――アリアの曾祖父の無知と偏った選民思想により、マリアもまた愛なき政略結婚の道具として差し出された。



その日から、彼女の人生は血の滲むような茨の道へと引きずり回されたのである。一族の身勝手な思惑によって尊厳を奪われ、孤独な戦いを強いられてきた彼女にとって、二人の純粋な気遣いはまさに望外の救いであった。


夕闇が迫る庭園で、マリアは事実のみを、自らを裁くかのように淡々と語り始めた。



「私の父は…そう、アリアの曾祖父ね。聖女の力を家門の道具としか理解していなかった。その無知の結果、私の器は完成を見ず、本来一つであるべき聖女の力は二つに割れてしまった。それが貴女たちの代に引き継がれた不安定さの正体なのよ」



その言葉の裏には、聖女の力の変質に関する衝撃的な真相があった。


本来、聖女の力とは、愛という感情を通じて世界の精霊と結びつき、万物を癒やす完全な円環として完成するものである。


しかし、マリアが愛を否定され、家門の利権のために継承を強いられたことで、その継承の儀式は不完全なものとなり、聖なる器は内側からひび割れ、その身体の中で砕け散ったのである。



マリア自身、聖女としての使命を全うしたいという高潔な志を持っていた。 

 

しかし、周囲の醜い思惑に翻弄され、その志を果たす道さえ奪われてしまった。彼女が抱え続けてきたのは、本来一つであるべき力を歪められ、分断させてしまったことへの、言葉にならぬ無念であった。



その際、一つの根源から生じるはずだった力は、性質の異なる二つの残滓へと分かたれた。


一つは、マリアが心の奥底に封じ込めた誰かを慈しみ、寄り添いたいという純粋な願い。


もう一つは、愛を奪われた絶望の中で、理不尽な世界を正し、力で律しようとする冷徹な規範への衝動である。



これこそが、アリアが受け継いだ調和と、リリアが背負うことになった秩序という聖女の力の根源的な分岐理由であった。



「世界は、失われた均衡を埋めるために二重の修正力を求めたの。アリア、貴女の調和が自然の理を癒やすなら、リリアの秩序は歪んだ人間社会の仕組みを強制的に正し、律する役割を担っている。この二つの力が揃わなければ、王国の再生は成し得ない」



マリアは、自身の代で果たせなかった悔いを、リリアという存在が孤独に背負っているという因果を静かに提示した。

 

「リリアは今、私が志半ばで遂げられなかった社会を律する厳格な守り手としての役割を、独りで完遂しようとしている。その冷徹な銀の光を融かし、真の調和へ導けるのは、愛によって力を完成させた貴女の光だけなのよ」

 

アリアは、祖母の告白によって初めて知らされた聖女の力の真実と、マリアが長年抱えてきた無念を、静かに、しかし重く受け止めた。


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