45話 帰りの馬車 — 独占欲の余韻
舞踏会が閉幕すると、カイルとアリアは逃げるようにその場を後にした。王族や貴族たちの卑劣な思惑と、ねっとりとした嫉妬の視線を振り切るためだ。
(あそこは、毒気が強すぎる……)
馬車に飛び込み、扉が閉まる。
ようやく訪れた静寂に二人は安堵し、自然と指を絡め合った。重なり合った手の温もりを感じた瞬間、張り詰めていた緊張が大きな溜息となって漏れ出した。
「やはり王城は嫌いだ。……一刻も早く、領地へ帰りたい」
「ええ、私もです。カイル様と二人だけの、あの場所に……」
少しの沈黙の後、アリアは遠慮がちにカイルの肩へ頭を預けた。
(あんなにたくさんの女性に囲まれて……。やっぱり、カイル様を想う方は多いのね)
胸を刺すような微かな痛み。アリアはそれを嫉妬だと自覚し、さらに深く寄り添った。
一方のカイルもまた、アリアに色目を使っていた男たちの熱っぽい視線を思い出し、奥歯をギリリと噛み締めていた。特に、あの一際熱い執着を瞳に宿していた男の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「……アリー」
名前を呼んだ瞬間、カイルはアリアの顎を掬い上げ、噛み付くように唇を奪った。
雪崩れ込んでくる激しい魔力と、独占欲の混じった狂おしいほどの愛情。アリアは驚きに目を見開きながらも、その強引さに心底ホッとしている自分に気づいた。
(好きです……大好き。愛しています、カイル様……!)
ありったけの想いを込めて、アリアはその強い口づけを受け止めた
アリアは胸の奥に込み上げる想いを抑えきれず、カイルの胸にすがりついた。
「……カイル様」
その一言だけで、彼の理性は限界を迎えた。
「……帰ろう、アリー」
低く囁くその声に、すべてが込められていた。
結局、タウンハウスに着いた頃、二人ともすっかり理性を失っており、後にカイルが侍従たちから冷ややかな目で見られ、こっぴどく説教を食らったのは言うまでもない。
しかし、二人がそうして互いだけに向き合っているその裏で。
アルフレッド王子の黒い葛藤、
そしてレオンハルトやセシリアの歪んだ執着は、確実に辺境の地へと届くほどの、色濃い影を落とし始めていた。
アルフレッド王子の黒い葛藤、そしてレオンハルトやセシリアの歪んだ執着は、確実に辺境の地まで届くほどの色濃い影を落とし始めていた。




