102話 漆黒の継承と真の和合:家族が溶け合う刻
東の最果て、幽閉の塔。
前国王の失脚に伴い、自らすべての罪を認めてこの地へ隠遁してから数年。
窓の外の断崖を眺めるエルヴァンの時間は、ニ十数前のあの日から止まったままだった。
その静寂を、確かな足音が破った。
「父上、母上。お迎えに上がりました」
入り口には、一切の光を拒絶する漆黒の髪をなびかせた長男、ゼノが立っていた。かつて、父の顔色を伺いながら怯えていた少年の面影はなく、そのバイオレットの瞳には静かな慈愛だけが宿っている。
その背後には、同じ髪色の弟、ガイアスが控えていた。
「ゼノ……ガイアス」
傍らのロザリアが震える手で口元を押さえる。
エルヴァンの身体は崩れ落ち膝をついたまま声を絞り出した。
「すまない。私のせいで…お前に取り返しのつかないことをしてしまった。あの時、お前をその漆黒に染まった髪も、お前を守るために叫んだロザリアの姿…声も昨日のことのように覚えている。本当に…本当にすまなかった……。」
自責の念を吐露する父に、ゼノは歩み寄り、その枯れた手に自身の大きな手を重ねた。
「父上、もういいのです。この色は、あの日母上が私を抱きしめ、守り抜いてくれた愛の証です。あの時のことを恨んだことも確かにありました。ですが私は、この姿であることを今は誇りに思っているんですよ」
ゼノの言葉に続き、ガイアスもまた父の前で片膝を突いた。ガイアスは父の手をそっと支える。
「僕も、当主となった兄上を全力で支えていく覚悟です。アリア姉上も、リリア姉上も、父上母上をお待ちしていますよ」
ガイアスの言葉は以前のような子供っぽさは影を潜めていた。
かつては大人の事情など何も知らぬまま無邪気に笑っていた末子が、今や一人の若人として自分を諭している。親が過去の後悔に囚われて足踏みしている間に、子供たちは自らの足で大地に立ち、遥か先へと進んでいた。
親が思う以上に、子の成長は早い。その揺るぎない事実に、エルヴァンは深いやるせなさと、猛烈な感慨を覚えていた。
「エルヴァン様……」
ロザリアが夫の肩に手を置いた。
彼女もまた、自分の選択が息子の人生を歪めたのではないかと自らを責め続けてきた一人だった。だが、目の前で胸を張る息子たちの姿が、彼女の20年の苦悩を「間違っていなかった」と肯定していた。
ロザリアは、息子たちが差し出した手を、感謝と謝罪を込めて握り返した。
「本当にごめんなさい…。ゼノ、ガイアス…いいえ、アリアやリリアに対してもね…本当に私は最悪な悪い母親だったわ………。そしてこうして迎えに来てくれて本当にありがとう。」
ゼノとガイアスは静かに頭を振った。
「母上の事情も今であればわかります。母上…もういいのですよ」
そうして母の両手を二人で優しく包んだ。
そして、ゼノが手をかざすと、部屋を覆っていた結界が光の粒子となって霧散した。
「父上、母上の罪は、もう二人だけのものではありません。私たちにも預けてください。だって家族でしょう?」
ゼノから溢れ出した柔らかな闇が、家族を包み込む。それはかつての暴走した魔力とは正反対の、すべてを許し、慈しむための癒しの闇だった。
「さあ、帰りましょう。私たちの家へ」
ゼノが母の手を引き、ガイアスが父の腕を支えた。
差し込む朝日の下、四 人の家族は連れ立って、光差す外の世界へと歩み出した。




