共生 9
「共有 3」と活動報告に自作の挿絵を追加しました。興味がある方はぜひご覧ください。
師匠は何かあったことに気づいていたようだったけど、何も言わなかった。しばらくは王都に滞在することに決めたようで、毎晩遅くまで酒場で歌っている。私は時々広場なんか歌っていたが、高音も低音も以前ほどきれいに出ない気がするし、悲しい歌ばかりうまくなっていると師匠に言われてしまった。これも、契約が封印(?)された影響なのかもしれない。
私はベッドに倒れこんだ。
リオと、契約を続けるか。伴侶になるか。良く、わからない。以前なら迷いなく続けると答えただろう。でも、あれから徐々に記憶がはっきりしていっている。今の私にはリオ以外にも、師匠という頼れる人もいるし、もう会えないけれど、大切な家族だっていた。その中で、私の大切な記憶を奪っていたリオを受け入れられる?私をだましていたのに?
考えても答えは見つからなくて、私はあきらめて外に出ることにした。
ーーーーー
あてもなく街をうろついていると、いつの間にか外壁のすぐそばまで来ていた。おかしいな、さっきまで市場にいたのに。まあいいや。壁を伝って門まで行けば戻れるし。そう思って歩いていると、開けた場所に建つおんぼろな建物があった。開けているのは敷地らしく、柵で囲ってある。なんだろうと眺めていると、後ろから声をかけられた。
「あら、また新入り?ほら、手伝ってちょうだい!」
突然現れた見知らぬ少女に、有無を言わせず食材の詰まった袋を持たされて、厨房と思しき場所まで運ばされる。荷物を降ろしてようやく彼女は私を視認した。
「ん?あなた、もしかしてここの子じゃない?」
今気づいたの!?と驚きながらも答える。
「うん、私新入りじゃないよ。それで、ここは何?」
「ごめんね!関係ない子を手伝わせちゃって!ここはイザーリ孤児院だよ。親のいない子供たちが暮らしているんだけど、最近新入りが多くて間違えちゃった」
少し強引な子だが、嫌みのない雰囲気のせいか、不思議と苛立ちは感じない。
「別にいいよ。ところで新入りが増えたってなんで?」
魔物が増えたという話は聞かないから、病気?疫病だったら、早く対策してここを離れたほうがいいよね。
「それがさ、王様の弟かだれか、とにかく偉い人がなんか上位種族との約束を破ったらしくて、その人だけじゃなくてそれに協力した人とか、知ってて放置してた人が呪われちゃったんだよね」
上位種ににらまれてるうえに、犯罪にかかわって呪われた人間の子供なんて面倒見たがる人もいないから、みんなここに来るの。と凪いだ表情で言う。
「もともと裕福な家の子だったりすると、自分じゃ何もできなくてほんともう大変なんだよ!」
そう言ってこちらを見た彼女の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
ーーーーー
夕食までに戻ればいいやと思って、私はしばらく孤児院の手伝いをしていた。まあ、掃除なんだけどね。なんと、ここにいる子供たちは、ほとんどがまともに魔法を使えなかったのだ。大半の子はマッチくらいの火を起こすとか、コップ半杯の水を出すといった、生活魔法にも届かないレベルだった。まともに使える子はここに来る前に教わっていただけで、まさか他の子がこんなに魔法を使えないなんて思ってもいなかったみたい。
数年に一度魔力検査が行われて、才能がある子には奨学金を与えて学校に入れるんだけど、そう言う子たちは卒業後は国に仕えることが決まっているので、学業と仕事の準備に忙しくなってなかなか帰ってこない。戻ってきても食糧なんかの援助が中心で、魔法については忘れられていたようだ。
そもそも、寄付金や補助金ではこの人数を食べさせるのはぎりぎりで、子供たち総出で働いているので、そんな暇なんかなかったらしい。
「いやー、助かったよ、ありがとうね!」
少女改めタチアナが背中をバンバンたたいてくる。地味に痛い。
「どういたしまして。でも、やっぱりちゃんと魔法を覚えたほうがいいよ。高いところの掃除も楽になるし、土魔法や水魔法は農作業に便利だと思うよ」
なるべく自然に距離を取りつつ、思ったことを言う。
「えー、魔法はいいよ。難しそうだもん」
乗り気でなさそうなタチアナに、魔法の利点を告げる。
子供は大人と比べて小さいし非力だから、孤児院裏の畑を耕すのは重労働だろう。魔法でやわらかくできたら、あとはシャベルとかで肥料を混ぜればいいもんね。水も結構重いから、井戸と畑を往復しなくてよくなれば助かると思う。
「え、そんなこともできんの?」
それを聞いた途端、さっきの態度が嘘だったかのように積極的になったタチアナに苦笑する。
「できるよ。じゃあ、早く終わって空いた時間で練習してみよう。畑の奥のほうはまだ何も植えてないんだよね?」
こうして、なぜか私はタチアナ以外にもいつの間にか増えた子供たち相手に、魔法教室をやる羽目になったのだった。




