共生 5
今更ではありますが、私は音楽の理論をきちんと学んだことがないので、このお話に出てくるポイントなどは実際のものと異なると思います。ご了承ください。
すねるちびを何とかなだめ、ぬるくなってしまった夕食を食べ終えると、私はルーンを取り出した。ちなみにリオはちびを放り投げようとして、師匠に怒られていたのでまだスープをすすっている。師匠はといえば、すでに食事を終えて敷物の上に座ってくつろいでいる。
さっきまでのことがなかったかのようにキラキラした目で寄ってくるちびを一歩離れた場所に座らせ、最近の課題曲を弾き始める。以前の「あなたと共に」は恋歌だが、この「若者の歌」は、一人の青年が仲間を増やして敵を打ち倒す英雄譚だ。わかりやすく言うと、勇者が魔王を倒す的なやつ。ちびもまだ子供みたいだし、恋歌よりもこっちのほうが好きだろうしちょうどいい。
昨日言われた魔力操作を意識し、それでいて声の強弱やトーンにも気を配る。昨日ほどではないにしろ、なかなか体力気力を削られる。それでも手は抜かない。というか師匠が真剣すぎて抜けない。
歌い終えると、そっとルーンをわきにおいて息を整え、水でのどを潤す。ふと顔をあげると、ちびが興奮冷めやらぬ様子でぴょんぴょん飛び跳ねていた。どうやらお気に召したらしい。
師匠はしばらく余韻に浸るように目を閉じていたが、こちらを向くと優しく微笑む。そうするとものすごくいい男っぽくなるんだよね。
「かなり良くなってるな。じゃあ一回リオのほうを確認して、二人でやってみるか」
そう言って師匠はリオのほうを向いた。いつの間に食べ終えたのか、ルーンの準備をしていたリオは、師匠の指示を受けて歌い始めた。
私とリオの声はよく似てるって言われるけど、こうして聴くと全然違う。リオの声は自信に満ちていて頼もしい感じだけど、私の声はよく言えば純粋そうな感じで、悪く言うと何も考えてなさそうに聞こえる。やっぱりこの歌では、メインはリオのほうがいいと思う。
リオも合格をもらって、今度は二人の番だ。すでに何度か二人で歌ってはいるが、主旋律をどちらが歌うか決まっていないので話し合いから始まる。
「やっぱり主旋律はリオがいいよ。リオの声のほうが頼れそうだもん」
「え、僕頼りになる?うれしいなぁ」
リオは嬉しそうだが、違う意見のようだ。
「でも、この歌は勇者を周りから見た視点だから、レオみたいな優しい声のほうが向いてるんじゃないかな」
「たしかにそうなんだけど、人前で歌うなら、みんなに共感してもらえるほうがいいと思うな」
「なるほど。たしかに、勇者目線で歌った方が、感情移入しやすいかも」
何とか説得に成功し、主旋律をリオが歌うことになった。私はルーンとコーラス担当だ。
主人公が様々な経験を経て強くなり、その信念で仲間を増やす。言葉にすると簡単だけど、表現は結構難しい。挫折し暗く、乗り越え明るく。波乱万丈なので、変化も激しいのだ。おまけに伴奏もテンポが速いので気を抜けない。
終わったときには二人ともくたくたになっていた。どう考えても二回連続、しかもメインのリオのほうが疲れるはずなのに、私と同じくらいの疲労度に見える。おかしいな。
内心首をかしげていると、わしわしと師匠に頭を撫でられた。
「「うわっ」」
頭までぐらぐらして、ちょっと酔いそうになるまで撫でられた。師匠が何か喋ってるけど、正直それどころじゃない。リオもなんだか辟易としてる気がする。なんとなく、めちゃくちゃ褒めているのだけは伝わったけど、後でもう一回聞き直さないといけない。
そんな中、急に近くの茂みががさがさと揺れ出した。つい先日を思い出させる展開だ。
「素敵な歌に誘われて来てみたら、あなただったのね」
茂みから現れたのは、妖艶な美女だった。足元にはちびがまとわりついている。プラチナブロンドの長い髪を後ろに流していて、森歩きにはふさわしくない赤と黒のドレスを着ている。そして、一番目を引くのが両耳の上に生えた二本の角だ。視線はまっすぐ師匠、ではなくリオに向いている。
「リオ、知り合い?」
私の問いかけに、リオは自信なさそうに答えた。
「従姉、だと思う」
「ひどいわ、私のこと忘れちゃったの?」
女性はくすくすと笑いながら言う。
「それにしても、あなた伴侶を迎えたのね。じゃあ名前も得たんでしょ?お姉さまに教えて頂戴な」
彼女はちびを抱き上げながら言った。ちびはというと私のほうなど視界にも入らない様子で美女にじゃれついている。ちょっと寂しい。
リオが何か言おうとしたが、それより先に師匠が割り込んできた。
「伴侶!?え、だれが!?」
たしかにちょっと気になるかも。




