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11:金の道標

「エルミヌちゃん、こっちの箱は何処へ運べば良い?」

「え、えっと……それは窓際にお願いします」

「この本棚も移動してみる?」

「ち、力仕事じゃないですか! そ、そこまでして頂く訳には……」

「いいのよ。さ、力仕事は貴方の出番よガドリガ! そっちに運んで運んでー!」


 浮遊魔法に、グリフォンに。魔女ヴァートは鍵探しのサポートをしてくれる。私は指示を出すだけで体力的には疲れない。精神的には限界だ。

 私はこれまで誰かの命令に従うばかりで、自分で指示する立場になかった。慣れないことをするのがこんなに疲れるなんて思いませんでした。


(だ、第一にっ、人口密度が過密過ぎますぅううう!!)



 今回私が挑むべく……解錠したのは一見何の変哲もない部屋。造りは客間のような小さな部屋で、きっちりと整理整頓されてはいるが不思議と生活感が漂う。

 誰かがいた部屋。昔は誰かが使っていた部屋。部屋の小さな机にはシンプルな茶器があり、湯気こそあがらないものの……まだ中には紅茶が入っていた。ポットにもまだ熱がある。中身だって触れたらきっと、温かい。

 特徴と言えば、その程度の簡素な部屋。この部屋で何をすれば鍵が見つかるのだろう? タンスの中からベッドの下まで隈無く探してみたけれど、何も起こらない。時間ばかりが過ぎて行く。


「エルミヌちゃん、この衣装ダンスは――……あら、お疲れみたいね」

「す、すみません……」

「いいの、私が好きで手伝わせて貰っているんだから。少し座って休んでいて」


 私がふらついているのを見て、慰めるようヴァートが私の肩に手を置いた。椅子の方へと促され、私は彼女の言葉に流された。指示をされる方が、やっぱり気持ちは楽だった。


「エルミヌ……大丈夫? これ、食べる?」


 私の暗い表情に、アージェント様はあたふた戸惑う。衣服を探り、携帯していた飴細工を分けてくれた。


「うぅう……美味しいです。疲れた身体に沁みますぅ……でも、どうしたんですかこれ」

「ライネが、おやつにってくれた」


 執事のライネさん。私達にはいつも怖い顔してるのに、王子様には甘くないですか? けれど今は文句を言う気力も無くて、私はバリバリ小綺麗な飴を噛み砕く。塩飴でしょうか? 身体に甘塩っぱさが広がって、それは涙に変換されて溢れてしまう。


「ふえぇ……アージェント様ぁああ!! 何なんですかこの部屋! 可愛いエルミヌちゃんがこんなに探しても何にも見つからないなんておかしいですよぉお……きっと可愛い子には鍵が見つからない部屋なんですよぉおお……!」


 どさくさに紛れてアージェント様に抱きついてみる。小さな手がポンポンと、優しく私の背中を擦る。この包容力……お、大人の男!? いえ、どちらかと言うと……


お母さん(ミノア)――……)


 小さくて温かい手が、私の片手に熱を灯す。“彼女”から奪った鍵が、アージェント様に反応したように感じた。

 今の彼が幾ら女性的外見でも、小さな少年に養母を重ね見るのは異常です。ミュラル様の妹投影より問題かもしれません。鍵にはもっと素敵な王子様成分を願わなければ。そう思うのに、抱きついた腕が外せない。甘えたいだけ甘えさせてくれる。この人は、人を駄目にする王子様です!! 早く腕を離さないと離さないと、……離さなくても良いんじゃないですかね、いや駄目です! でもちょっとだけ――……


「エルミヌちゃん?」

「ひぎょうぇひいいいぃひはいっ!!」

「あら、ごめんなさい。お楽しみ中だった?」

「い、いえええええはいいぇす、そんなこと全然ありままありありありあるあれませんけど」


 年端もいかない少年に甘えているところを、魔女に見られた。声をかけられた私は、驚きのあまり椅子から転げ落ちて床を這う。


「大丈夫? 腰を打たなかった?」

「だ、大丈夫ですどうも。じゃっ!!」


 投げ出されたアージェント様を支えながら、ヴァートは私を助け起こそうとしてくれる。優しい……。って、少し優しくされたからって靡きませんからね!! お礼だけ告げて私は彼女の手を振り払う。


「エルミヌでも見つけられないなんて……この部屋はもしかして」

「アージェント様、何かご存知なんですね!?」

「この部屋は……うん、あの………………えっと、あれ? うん、ごめん。ライネとリネルなら何か知ってるかも」


 思わせぶりなアージェント様。何かが思い出せそうで、それでも結局何も解らなかった様子です。彼は笑って誤魔化すでもなく、しゅんと気落ちし肩を落として――……私の傍へと膝を折る。


「ごめんね? 今日は部屋の方が、気持ちの準備が出来ていないのかも」

「お部屋がですか?」


 見つからないことを私の所為だと言わない王子様。部屋は彼自身にも等しい。アージェント様がまだ、知られたくないこと。暴かれたくない何かが邪魔しているのだと本人が主張する。お互いの波長が合わないのだと。まるで自分の責任だと言ってくれるみたい。


「うん……エルミヌ。また日を改めよう?」

「は、はい!!」


 困り顔の王子様も愛らしいです。すっかり魅了された私は首がもげる程勢いよく頷きました。


「あら、そうなの? 困ったわ……」

「え……?」

「とても言い難いことでね。先にごめんなさいって言わせて欲しいの」

「え………………??」

「全然そんな気なかったのよ、本当にごめんなさい! あの……その、鍵、……見つかっちゃった」


 申し訳なさそうに苦笑する、×100エルフ。彼女の手には、金色に――……光る鍵が握られていた。






 ――……と言うのが、今日の大まかなあらましでした。そんな女と一つ屋根の下どころか同じ部屋に押し込められている私の心境や如何に!?


(き、気まずい……)


 ミュラル様達早くお風呂から上がってくれませんかね。っていうかこの人どうして私の部屋に一緒に付いて来ているんです?


「あ、あの。ヴァート……さん?」

「何かしら?」


 婚活エルフは私のベッドでゴロゴロしている。脳内変換で王子様にしてみようとしましたが不可能でした。変換するには脂肪が魅力的配置の究極布陣過ぎました。

 それでも美形が自室の寝台でゴロゴロしている様…………これが男性だったらっ!! 美形のエルフなお兄さん、サービスシーンではないですかね? 誘ってますよね? 

 脂肪全部股間に一点集中変換したら脳内にクリーチャーが出来上がったので、消去しました。あれはもはや触手です。服の下にどうやって隠すのかわかりません。そんな王子様は美形エルフでも嫌です。


「あの、ここ……私の部屋、なんですけど」

「良いお部屋ね。とても居心地が良くて私、好きよ」

「あ、はい。どうも……って、そうじゃないんですよ!!」

「ああ。どうぞお構いなく。勝手にお邪魔している身ですもの、お茶とかはむしろ私が用意しましょうか?」

「あああああ、そ、そういうお話でもなくてっ……あああああ!!」

「ふふふ、なぁに? 可愛い。変なエルミヌちゃん♪」


 ふわりと微笑まれたらもう、言えなくなってしまいます。今すぐここから出て行けなんて。それでも心は嘘を吐けない。一秒でも早く、この人に出て行って欲しい。


(この部屋は……私の思い出の部屋なのに)


 手に入れた二本の鍵を使って、私は養母と暮らした家を創造してしまいました。自分の部屋と聞いて思い出すのが、ウェーゼル家となるのが嫌で。幸せな記憶を回想し、再現した二つの部屋。隣室同士の鍵を入手した甲斐あって、小さな家の内装は……二部屋分に収まってしまいます。

 銀の城が居心地良くなって、私の家になっていく。部屋を開放していく毎に、ますます此処は私にとって幸せな場所に近付いていく。その、はずなのに。


(どうしてこの家にいるのが。この部屋にいるのがあの人じゃなくて……)


 養母(ミノア)でもない他人が、私の思い出に踏み込んでいるのが落ち着かない。


「あの、あのですね!? ヴァートさんも鍵、手に入れたんですよね? あの部屋改造してそこを自室にしては? 此処なんかよりよっぽど落ち着けるかと……」

「そういう使い方も出来るのね! エルミヌちゃんは天才ねー!」

「ううう……くっ付かないでくださいぃ……」


 銀の城に入ってから私の、【鍵の女】としての力は弱まっている。魔法を弱体化させるお城の仕組みの所為? 鍵魔法は使えるという話なのに、私はきちんと使いこなせない。


(開けようと、思ったのに――……)


 この女が何者か。触れられる度に、私は“解錠”を試みている。魔女ヴァートからも、アージェント様からも私は何も引き出せない。

 私だってミュラル様に協力して、少しは元のアージェント様の復元を手伝おうという気持ちはあります。彼自身から眠った記憶を掘り出して、彼の知る記憶の部屋を復元させたいって健気な気持ちはあるんです。あるんですって!!

 ミュラル様の気持ち悪い欲望カスタムルームを笑えない、私のテリトリーを前に……多少は胸も痛む。


「表情が暗いわ。きっと疲れているのね。あの人達が上がるまで暇でしょう? 今日は疲れたし、お姉さんと一緒にお昼寝でもしましょう!」

「もう日が暮れました……」

「美容と長生きの秘訣はお昼寝なの、正室を目指すならまず自分磨きよエルミヌちゃん」


 魔女の髪の毛はふわふわで柔らかくて。身体も良い匂いで温かい。あの部屋でのアージェント様を彷彿とさせる。

 体格や背丈では、ヴァートの方が“それ”に近しい。実年齢だと私の養母より遥かに年上。この人は得体の知れないライバルなのに、母性攻撃に屈しては駄目!


「着替えないで寝っ転がるなんて駄目ですよ! 誰が洗濯すると思ってるんですか!?」

「えっと……リネルちゃん? 仕事増やしたら良くないわね、後で手伝いましょうか。他人のことまで気遣えるなんて優しいのね。貴女に殿下が懐くのも解るわ」

「うぅ……撫でないでくださいー」


 彼女を思い出すような優しい手で髪を撫でられる。振りほどこうにもこの部屋がいけない。養母のことを思い出し、彼女を邪険に出来なくなる。


(…………あれ? ……“手”?)


 手で触れる。触れられた。この人も花嫁候補。銀の城を、自力で侵入した一人。当然、“鍵の力”を持っている。


「エルミヌちゃん?」


 ヴァートを突き飛ばし、寝台から転がり落ちる私。彼女は少し驚きながら、おいでと再び手を伸ばす。私はミュラル様から貰ったお守りを、金貨の首飾りを握りしめ……呼吸を落ち着かせる。

 ここにはミュラル様も、アージェント様もいない。この人は、私一人でどうにかしなきゃいけないんだ。私にはお守りが二つ。

 外では大活躍したけれど、城内で何処まで使えるか解らない不確定要素な金貨と。凄い力を持つものの……どうやって使うのか解らない指輪。泣いても良いですかね?


「ヴァート、さん。貴女は私を“開き”ましたね!? 私の記憶を暴いて、私の大切な人の真似をしてっ!! 私を懐柔しようとしたっ! 違いますか!?」


 そうだ、この人は。鍵探しの時からそうだった。スキンシップを図り、少しずつ……心理的距離を詰めていく。


「幾らアージェント様でも、あんなに短時間で貴女に懐くなんてあり得ない! 鍵を一本も取る前から、餌付けだけで好感度を上げるなんて不可能です!! 貴女は、アージェント様すら“解錠”した! 鍵も取らずにあの人を暴くなんて、失礼じゃないですか!?」

「そんなことないわ。彼は私の物だもの」

「や、やっと本性を現しましたね!! 貴女、正妻の座狙っていないなんて嘘じゃないですかっ!! 負けませんよ!!」

「狙ってないわ。正妻なんて。私が欲しいのはもっと別の物」


 私は自分の意思で、両手で魔女の手を掴む。左手には指輪、右手には金貨を握って……私は祈る。


(開け、開けっ、開け――……っ!!)


 私の思いに反して指輪の紋章は何の奇跡も起こさない。代わりに光り輝いたのは私の右手――……“母さん”の鍵が宿った手の内側。ミュラル様の金貨が光を発した瞬間に、魔女の姿が溶けて崩れる。


「ぎぃゃああああああああああああああああああああああ!!」


 でも悲鳴を上げたのは彼女ではなく、それを目撃してしまった私の方。“彼女”は余裕を崩さぬまま、顔も姿もないままに……床に張り付く影になる。光を受けても決して消えない暗い染み。それは人の形になった後、金色の鍵を影の中へと飲み込んだ。


「銀の城に、金の鍵なんかあるわけないじゃない。馬鹿よねぇ? こんなにヒントをあげたのに……アージェント、まだ何も思い出していないのね。よぉく解ったわ。花嫁候補も馬鹿ばかり」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!! 黒くて大きいぃいい!! でかい触覚ぅうううう!! 新手のゴキブリですかぁあああああああああああああああああ!!」


 それをまだ、退治可能な恐ろしい物に頭の中で置き換えて。私は手近なモップをひっ掴み、影に向かって床をゴリゴリ削ろうとした。

 魔法も満足に使えなかった私のことを馬鹿にして、影は彼女とは違う声でケタケタ笑った。


「きゃはははは! なぁに、それ! …………無礼だけどその愉快さに免じて見逃してあげる。また会いましょう、薄汚い溝鼠(どぶねずみ)。お前の傍はちょっとだけ心地良かったわ」

「わ、わぁい……よく解らないけど、ありがとうございます」


 得体の知れない者に情けをかけられた。良いんです、そうやって生き延びてきたんですから。愛想笑いで一礼した後、其方を見ると……もういない。すっかりそれが消えた後、無性に腹が立って来た。


(何ですかあの人(?)!? どうなってるんですかこの城の警備ぃいいいいいいいいいいいいい!!)


 私の安住の地よさらば。こんな部屋にいられるか! 私はお風呂に入らせて貰います!! こんな不気味な場所に、一人でいるのが怖いです!!


「ミュラル様あぁああああああ!! アージェント様ぁあああああああああ!! 今なら乙女の柔肌をっ、水着までならサービスしますっ!! 見ますよね見たいですよねお邪魔しまぁああああああああああああすっっ!!!!」


 水着なんて持っていない。着衣のまま私は浴室を“解錠”し、二人に泣きつこうと乱入した。


(……あれ?)


 浴室に鍵はなかったはずなのに変ですね。少しの疑問が浮かんだものの、もっと大きな問題に出会って何処かへ吹き飛んだ。


「ぎゃああああああああああああああああああ!! な、なんでまたいるんですか!? え? え? え??」

「あら? 可愛い女の子! でもごめんね、今取り込み中だから……後から自己紹介しましょう?」

「へ? 何言ってるんですか……?」


 浴室には先客がいた。巨大影ゴキブリ……ではなく、×100エルフのヴァート。私の部屋から逃げた後、すぐに此方へ? それともあの影は魔法? 本体は最初から此方に来ていた?

 それでも妙です。魔法ではなく彼女が扱っているのは弓。弓を構えたエルフは何故かミュラル様の股間に狙いを定めています。どういう状況ですかこれ。


「エルミヌ、こいつの指を見ろ! こいつは指輪をしていねぇっ!!」

「え!? 指輪を外したらミュラル様のあの時みたいに、何か良くないことがあるんじゃないですか!?」

「いや、こいつはまだ指輪を得ていない。遅れてやって来た、本物の魔女だ」

今回は、エルミヌが頑張ったので100点(激甘評価)


伏線回なので何も言うことが無いです。何か言おうとして絞り出せたのがそれって……100点。

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