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――なんだったのかしら、あれは?
数日は耐えました。
そのまま耐え忍ぶかとも思われました。
しかしある日突然、湧き上がり留まることを知らない強烈な好奇心が、私に襲いかかりました。
私はなんの躊躇いもなく部屋を出ました。
そしてトイレの前をゆっくりと通りすぎました。
するとトイレの個室から声がしました。
私の名を呼ぶかすかな声が。
忘れようにも忘れられない、懐かしい、あまりにも懐かしい声でした。
その声は私の心臓を鷲掴みにしました。
胸が張り裂けそうになりました。
私は思わず両の手で胸を押さえました。
声は続いています。
私を優しく包み込むような音色で。
私は胸に、鋭い何かで刺されたような痛みを感じました。
――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
声に導かれ、私はトイレに入りました。
目から涙を流し続けながら。
たった一人しかいない住人が姿を消していることに大家が気付いたのは、数日後のことだった。
終




