お助けキャラから見た彼女
二話完結です
私、シスと申します。卑しい奴隷の身であるため家名はありません。
お嬢様の玩具として与えられ早10年、お嬢様の為に身も心も捧げてきました。ある意味でお嬢様のお父上達よりも近しい距離に居させていただいたという自負もあります。
しかしながら卑しい奴隷の私では王宮に足を踏み入れることはできませんのでお嬢様との生活はここまででございます。
白い花嫁衣装に身を包み、まるでこの国の女神イオリアーネの再臨かとも歌われた美貌のお嬢様。
しかしながらそのお心は美の女神イオリアーネというよりも、知と平等の神ヘイラのように強く気高く尊い物だったと存じます。
お嬢様とお会いしたのはお嬢様5歳、私が10歳ほどの時でした。
お父上がお嬢様の玩具として買い与えたと言ったときの複雑そうな顔は今でも忘れられません。
玩具といってもお嬢様は私に不当な扱いは一切なさいませんでした。
普通の使用人のように衣食住をお与え下さり、更に共に文字を学ぶ機会をもうけてくださったのです。
この国で文字を知るのは貴族や商人、神官のみでございます。
文字とは金にも勝る宝物となりました。
お嬢様は5歳とは思えないほど賢く、聡明でございました。
お嬢様とお会いした頃私は学が有りませんでしたので、お嬢様の疑問を解消して差し上げることが出来ず、歯がゆい思いをしました。
今はある程度学が身についたと思っていますが、お嬢様のおっしゃったスイハンジャーやセンタクキというものはついぞ解りませんでした。
お嬢様が成長していく内にこの国の法や制度についてとても興味を示したことをお父上にお伝えしたところ、お嬢様を女性の身でありながら王学院に進ませていただいたことは一つの転機だったと思います。
お嬢様のお父上が例外なだけで基本的にこの国は女性が知識を身に付けることを良しとしません。
刺繍やドレス以外に興味を持つ女性は悪い女性だとすら言われていたと思います。
そんな中、貴族の後継者だけが進むことができる王学院にお嬢様が通うことが出来たのはとても凄いことなのです。
お嬢様には弟君がいらっしゃいました。お嬢様付きの私ではどのような方かを知る機会は殆どありませんでしたが目だった欠点はなかったように思います。
しかしお父上はお嬢様を後継者として扱うと実質宣言なさったのです。
お嬢様はこの決定に大層驚かれ、しかし決意を持って受けました。
私も家具の一部とともにお嬢様と学院へ行き日常生活のサポートをさせていただきました。
男性しか今まで入ることの無かった世界に初めて女性の身で進んだのです。入学当初の風当たりはキツいものでした。
教育のなってない貴族の子弟には心無い言葉をかけられたり、性的な誘いをかけられたりとモラルの欠如した振る舞いも見受けられました。
しかし、お嬢様は一歩も引くことなく勉強に専念し、誰よりも優れた結果を残し続けました。
奴隷の身で意見することは許されないため私は見ていることしかできませんでした。
しかし、どんな嫌がらせにも知を持って対処されたお嬢様のその素晴らしい振る舞いは私の誇りにございます。
ですが、逆恨みの末お嬢様の部屋に侵入しようとした不届き者については私も冷静ではいられませんでした。
奴隷の身で貴族様に手を挙げたとして処分されそうになったとき、お嬢様とお父上が庇ってくださった時は己の不甲斐なさと幸福に涙が止まりませんでした。
「貴方は何も間違ったことをしていないわ」
そう仰ってくださったお嬢様のお言葉は一生忘れません。
結局嫁入り前の女性に対して余りにも非道な事をしたとして王太子様が処罰して事を納めてくださった事が、お二人の出会いの切っ掛けだったのかもしれません。
この一件以来、同じく王学院に通う王太子様がお嬢様を気にかけてくださるようになりました。
元より女性の身で頑張るお嬢様のことは気になってはいたそうです。
これにより王太子の後ろ盾があると思われたのか、お嬢様に対する卑劣な行いはぐっと息を潜めました。
以降のお嬢様の学院生活は充実したものであったように思います。
学力においてお嬢様がライバル視していた伯爵家の子息とは性別を越えた友情を気付き、学院の荒くれ者として爪弾きにされていた公爵家の子息とは裏庭の花壇をきっかけに仲良くなりました。
他にも魔導士として最高の力を持つ王宮魔導士の方には才能があるとお声掛けいただき、隣国から留学に来ていた王子とは国の制度について議論を交わし、気がつけばお嬢様は誰からも実力を認められる存在となっていました。
そんなお嬢様も3ヶ月前に学院を卒業する日が来ました。
ご学友との別れを惜しみ、自領へと帰還なされました。
気高く立派になって帰ってきたお嬢様にお父上は大変感激し、私のような者にまで過ぎた扱いをしてくださいました。
これからこの領は安泰だと誰もが思いました。
しかし、お嬢様が領主となることはありませんでした。
お嬢様と得難い友情を築かれた方々が揃ってお嬢様をもらい受けたいといった手紙を寄越したのです。
勿論、領主となるべく勉強してきたお嬢様は全て断るようにとお父上に進言致しましたがそうは行かない事になってしまいました。
なんと、お嬢様をこの国の正妃にという申し出が来てしまったのです。
流石にこれは断ることは出来ません。
ルヴェール領は突如として領主候補を失ってしまいました。
断れないと悟ったお嬢様は即座に手を打たれました。
弟君の学院への入学と私の処遇についてです。
私は今までお嬢様と共に学んで参りました。
遊びよりも学びを優先してしまうお嬢様でしたので、気がつけばこの国の制度や法について多くのことを知りました。
このことをお父上に訴え、なんと私は奴隷の身でありながら領主補佐として採用されることになったのです。
勿論一度は断りました。
奴隷の領主補佐なんて前代未聞のことであり、あってはならないことだからです。
しかし一度お嬢様という前代未聞をやってしまったお父上はあっさりと頷いてしまったのです。
しかも奴隷のままでは外聞が悪いからと、平民にしてくださったのです。
私はお嬢様に感謝をしてもしきれない大恩を頂きました。
全てはお嬢様のお陰なのです。
お嬢様に一生仕えていくことは出来なくなってしまいましたが、お嬢様と同じようにお父上と弟君にお仕えすると誓いました。
跪いて誓いを立てたら、困ったように笑って
「もうあなたは奴隷ではないのよ」
と仰ったお嬢様に涙が止まらなくなりまた困らせてしまいました。
そして今日、お嬢様はこの屋敷から出て行きます。
多くの者に別れを忍んで、この国の国母となりに行かれるのです。
美しいお嬢様を王妃として迎えることに国民は熱狂しました。
美の女神イオリアーネの再臨だとあちこちで囁かれ、お嬢様の生まれ育ったルヴェール領はとても潤いました。
そしてお嬢様が王妃となられて10年ほどたった頃でしょうか、この国から奴隷制度はなくなりました。
どんな家の子供でも文字を学ぶことができ、女性の身で勉強することが当たり前となりました。
この功績は賢王と名高い国王のものとなりましたが、私はお嬢様の努力もあったのではないかと密かに信じております。




