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主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


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【花火と二人】2


 それは、夜空に咲く大輪の花だった。

 様々な色、形、大きさの花火が、夏の夜空を鮮やかに彩っていく。


 まさしく、夏の風物詩である。

 その趣深い光景に、そこにいた人々は目を奪われていた。


 ――しかし。

 そんな状況下でなぜか玲奈だけは、花火ではなく夕也を見ていた。


「……桐原?」


 何かに気付いたのだろう。

 玲奈の視線が夕也に刺さる。

 

「……なんだ?」


「いや、うちの勘違いなら、それでいいんだけど……」


 夕也を見る。 

 何かを見定めるかのように、ジーっと見つめる。


 直後、ヒューーーという、花火が打ち上がるときに鳴る音が聞こえて、続くようにバンっ! という爆発音が、夕也と玲奈の座っていた土手に響き渡ると――体をビクっと跳ねさせる夕也。


 玲奈の持っていた疑惑が確信へと変わった瞬間だった。


「ビビってる……よね?」


「い、いや。少しビックリしただけ」


「ふーん。それにしては――花火が打ちあがる度に、体が跳ねている気がするんだけど?」


「気のせいじゃねーかな。俺は――」


 ヒューーー、バンっ!


「……ッ!」


 夕也の肩が上下した。

 分かりやすいくらい……体が跳ねていた。


「うん。確実にビビってるね」


 玲奈はそう言うと、あはは。と笑う。

 夕也は黙って目を逸らした。

 

「桐原、花火が苦手だったんだね」


「別に……普通」


「いや、変に強がらなくていいよ。毎回体がビクっ! って。視界の端っこで跳ねてるんだもん。流石のうちでも分かるよ」


 もう隠すことはできなかった。

 それほどまでに夕也の反応は分かりやすいものだったのだ。


「……前までは平気だったんだけどな」


 観念するように呟く夕也。


「まぁ、ここは打ち上げ場所が近い分、音も大きいしね。仕方ないんじゃない? まぁ、それにしてはビビりすぎな気がするけど」


「うるさいな。俺もまさか大きな音がダメになってるなんて知らなかったんだ」


「ふふ。まぁまぁ。人間、一つや二つ、苦手なものがあるものだよ。まさかそれが花火の音だとは思いもしなかったけどね」


 なぜか嬉しそうに笑う玲奈。

 夕也はそんな彼女を睨むことしかできなかった。


「どうする? 場所、変える?」


「いや、大丈――っ!」


 ヒューーーという音が耳に届いた瞬間、反射的に身構える夕也。

 目が合う二人。


(ああ、最悪だ。一番知られたらダメな奴に知られた気がする……)


 夕也のその姿は……滑稽以外の何ものでもなかった。


「……違う場所に行こうか」


 玲奈は苦笑混じりにそう言うと、土手の階段から立ち上がる。

 夕也は無言のまま一つ頷いて見せ、玲奈のあとをついていくのだった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 場所は花火の打ち上げ場所から近かった土手から移り、少し離れたところにある山の上にある神社。

 玲奈と夕也は、運よく開いていたベンチに並んで腰をかけて、物理的に距離が離れた花火を眺めていた。


「ここなら、そんなに音が響かないし、怖くないでしょ?」


「別に怖いわけじゃないって。ただ……ちょっとビックリするだけで」


「いやいや、それは無理があるよ。めちゃくちゃビビッてたじゃん。ビクっ! ってさ」


 思い出し笑いを漏らす玲奈。

 夕也の気分は最悪だった。


「ここまで来る間もビビり散らしてたし」


「背後で花火はズルだろ。不意打ちみたいなもんじゃん」


「まぁ、それはそうだけどさ……それにしたってビビりすぎだよ」


 明らかに堪えられていない、プルプルと震えている笑い声。

 夕也の不機嫌ゲージがぐーんと上がる。

 

「でも、うちとしても場所を変えられて良かったよ。ここなら人が少ないし。まぁ……階段はちょっとキツかったけど」


 玲奈はそう言って周囲を見渡す。

 二人が移動してきたのは、この町を一望できるような小高い山の上にある、有名な神社だった。


「こんな場所があったんだな」


「知らなかったの? ここ、結構有名だよ。夜景スポットとしても人気だし、シンプルに観光地だし」


「へぇー」


 夕也はそう言うと、玲奈に倣うようにゆっくりと周りを見る。

 白い石が敷き詰められた境内に、柔らかい光で照らし出された赤を基調とした神社。

 なにより、この町のランドマーク的な存在であるライトアップされている橋がここからだとよく見えた。


「ただ、階段がキツイっていう欠点もあるけどね。まぁ、ハイキングコースの一部になってるくらいだから、当たり前と言えば、当たり前なんだけど」


「何回か転びそうになってたもんな」


 と、そんな会話をする二人。

 花火から距離が離れているからか、土手にいたときよりも、のんびりと話すことができた。


 遠くで上がる花火が、夜空に咲いては静かに消えていく。

 土手で見たときのような迫力はないものの、花火と夜景、そしてライトアップされた橋が織りなす光景には風情が感じられた。


「ここからだと、落ち着いて見れるね」


「うるさくないしな」


「だね。特に桐原は――そうでしょ?」


 そう言って、玲奈はニヤニヤした嫌な笑みを浮かべる。


(あー……やっぱり、河野に弱点を晒したのは、失敗だった……重大過ぎる失態だ)


 夕也は隠すことなく大きなため息をつく。

 すると、その様子を見た玲奈が小さく吹き出した。


「桐原って、うちに散々なことを言ってくるけど、案外隙だらけっていうか……そこ!? ってところで抜けてたりするよね」


「うるさい。それはお互い様だろ」


 ベンチに座ったまま、そんな会話を続ける二人。

 夜風が心地よく吹き抜け、遠くからは花火の音。

 それに、人が少ないこともあってか、この場所には不思議と落ち着いた空気が流れていた。


 ふと、下の石段の方から二つの足音が聞こえてきた。

 夕也はその気配に導かれるように視線を向ける。


 すると、そこに見えたのは河野玲奈と同じ、複数いるヒロインの一人、”鳴海まりん”と、主人公、”広瀬弘斗”が手を繋いで階段を登ってきた姿だった。


 夕也はその光景を見て、玲奈の言っていた言葉を思い出す。


『なんかさ、今この瞬間にも、誰かが誰かに想いを伝えているって考えると、ちょっと不思議な感じがするよね』


 夕也と玲奈は知らなかった。


 二人が穏やかな時間を過ごしていた裏で物語が静かに、それでいて確かに進んでいたということを。


 そして、今この瞬間にも、誰かが誰かに想いを伝えていて……その関係性を変えているということを――


 二人は知らなかったのだった。

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