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見える人

 

 思わず顔を上げて見ると、ちょうど男性の正面に、一人の男の子の姿があった。


 浴衣を着た、小学生くらいに見える子。おそらくは霧島よりも年下で、四年生か五年生くらいだろうか。


 男の子は「えっ」と驚いたような声を出す。


 それもそのはず、彼は列の先頭に立っていたのではなく、その後ろの二番目に並んでいたからだ。


 彼の前にはまだ一人客が並んでいる。にも関わらず、なぜか店主の男性はその男の子の方しか見ていない。


「え、あの。だって、こっちのお姉さんの方が先に……」


 恐る恐るといった様子で彼が目の前の背中を見上げると、先頭に立っていた客もゆっくりとこちらを振り返る。


 男の子よりもいくらか背の高い、中学生くらいの少女だ。水色の浴衣を着て、長い髪をゆるく結い上げている。


 その後ろ姿に、どこか見覚えがあるような気がする——そう思いながら見つめていると、やがて露わになったその顔に、霧島は思わず目を見張った。


 振り返った少女の顔は、どこか少しだけ大人びた雰囲気があるものの、霧島の顔と瓜二つだったのである。


(私……?)


 まるで鏡でも見ているかのようだった。

 他人の空似か、あるいはドッペルゲンガーか。


 しかも似ているのは顔だけでなく、背格好もほぼ同じで、さらにはその身に纏っている浴衣も、いま霧島が繕っているあの手作りの浴衣にそっくりだ。


 あの浴衣が完成する頃には、ちょうど彼女のように少しだけ大人っぽくなっているかもしれない。


 そして極め付けには、


「あなた、私のことが見えるの?」


 まるで自分の姿が他の人間には見えていない、幽霊であるかのような発言をする。


 それは正しく、いま霧島が置かれている状況と同じだった。


「へ……? どういう意味?」


 男の子は至極当然の反応をする。

 お互いに見つめ合っている相手に、見えるのか、なんて聞かれたら混乱するに決まっている。


 しかし実際、周りの人間には少女の姿が見えていないらしいのだ。それがどうやら、この男の子にだけはなぜか見える。


「おい。買うのか? 買わないのか? 買わないなら邪魔だからさっさとどいてくれ。後ろがつかえてんだから」


 再び、屋台の男性が不機嫌そうな声を上げた。


「あっ、すみません。えっと、買います。小さい袋の、一つ下さい」


 男の子は慌ててカステラを買うと、すぐさま列の外へと抜け出した。

 そんな彼の後を、少女も軽やかな足取りでついていく。


「あなた、私のことが見えるのね」


「だ、だから、さっきから何を言ってるの? キミが変なことを言うから、お店の人に怒られちゃったじゃないか」


「ふふっ。ごめんなさい。私のこと、あなた以外の人には全然見えてなかったみたいだから、ちょっとだけ寂しかったの」


 どこからどう見ても、霧島とそっくりな姿をした少女。

 やはりドッペルゲンガーか何かなのだろうか。


 いや。

 そもそもこれは、ただの夢なのかもしれない。


 過去の世界で、自分とそっくりな少女が、見知らぬ男の子と会話をしている、だなんて。こんなちぐはぐな世界観は、夢以外には有り得ない。


「笙悟ー!」


 と、今度はどこか遠くから、また別の声が届いた。

 高い、女の子の声だった。こちらもあの男の子と同じくらいの年齢という印象だ。


 しかしそんなことよりも。

 『笙悟』というその名前の響きに、霧島はどきりとした。


 その名前は、狭野と同じものだ。


 声が聞こえた方を見ると、人混みの奥から、一人の女の子がこちらに駆け寄って来るのがわかった。桃色の浴衣を着た、ショートカットの可愛らしい子だった。

 彼女はまっすぐにこちらへ向かってきたかと思うと、霧島とそっくりな少女の背中をすり抜けて、例の男の子の前に立った。


 まさか身体をすり抜けるとは思っていなかったのか、男の子は驚いた様子で口をぽかんと開けていた。

 

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