21
今日の会場は王立学園らしい。遅刻しては大変と、早めに養成校をでることにした。朝ごはんもしっかり食べることができた。寮に関しては、大会終了後にこちらで行う卒業式のようなもの、それが終わった後で退出らしい。贈呈されるのは卒業証書ではなく、冒険者のランクだが。
大会は2日間。今日は予選で明日が本選だ。まあ、バタバタするだろうともう荷物はまとめている。そもそも全然ないが。予選では王族は見に来ないようなので、必ず本選に残る必要がある。気は抜けない。
「あああ、き、緊張してきた……」
「そんな緊張しなくても。
フェリラは直接対決はしないんだろ?」
「うん……。
あたしは弓しかできないから」
「しか、じゃないだろ?」
「……うん!」
お偉いさんの退屈な話を聞き流して、やっと大会が始まる。さすが王立学園の学生。いかにも金持ちといった様子なやつもいる。本当に戦えるのか? ってくらい。でも、確かに強そうな人もいる。警戒すべきはそいつらか。
ちなみに俺とリキートが出演するのは魔法剣部門。まんま魔法と剣両方使える人の部門だ。本選は部門混合になるみたいだが、予選は別々らしい。
魔法剣部門の出場者が集まるところに行くと、明らかに場所違い。他の部門よりも出場者が少なめか? あー、視線がいたい。肩身狭いわ。
「はっ、高貴な出でもない癖に魔力もちか。
運がいいことだな」
「くく、どうせまともな使い方もできないやつだろう。
当たった人運がいいな」
「ま、見ものじゃないか?」
くすくすと笑う声が聞こえる。余裕があるようで何より。ま、そんなのいちいち気にしないが。隣にいるリキートもそれは同じようで、平然としている。それが面白くないらしいやつらはまたそれに対して何か言っていたが、まあ知らない。
そして、先に俺の番が回ってきた。
「よろしくお願いします」
「はは、俺ラッキーだわ。
まさか養成校行ってるようなやつと当たれるなんて」
相手の実力が測れないって、それだけ自分と能力値離れてるって公言しているようなものだけれど、まあいいや。
相手の命を奪うこと、体の一部を切り落とすことはもちろん禁止だが、別に怪我させるのはいいらしい。なにせ治るから。ということで、遠慮なく。
「はじめ!」
言葉と同時に距離を詰める。一応部門的に魔法と剣、両方使った方がいいらしいので、ここで風を使っておく。そして、剣をその喉元に突き付けた。その間、相手は一歩も動いていない。
「しょ、勝者、ハール!」
審判員が俺の名を呼ぶと同時に、周りがざわつき始める。相手は未だに呆然としている。ま、あっというまに決着付けたからな。
「さすがハール!
あっという間だったね」
「まあ、言葉だけの弱者は倒すの簡単だよね」
しかも、自覚のない弱者はもっと楽。自分が強いと思い込んでいるからな。次のリキートももちろん即決着がつく。ま、こんなもんだろう。
2回戦目の相手は、1回戦目と違ってちゃんとしたやつだった。挨拶もちゃんとしたし、油断もしていない。ということで、多少は時間がかかったが、まあこれも勝った。よかった、これだったら本選にはちゃんと出れそうだ。
さすがに回を重ねるごとに、対戦相手も強くなってくる。剣に魔法に、お互いが出し合って火花が散る。初戦がいかにぼんくらだったかわかるよな、本当に。
「正直、養成校の人がここまで戦えるとは思わなかったよ。
剣の扱いに長けている人はいると聞いていたが、魔法はうまく扱えない人がほとんどらしいからな。
だが、君も、もう一人も同程度扱える。
さすがだよ」
「あ、ありがとうございます」
と、なぜかほめてきてくれる人も。本当に人それぞれ。まあ、とにかくそんなこんなで俺たちはなんとか本選に残ることができた。
「あ、あたし、明日は二人のこと応援しているから。
そのために、わ、わざとだから……!」
「うんうん、ありがとうな」
「フェリラも頑張ったよ」
どうやらフェリラは本選に残れなかったらしい。でも、十分頑張ったのだろう。泣きそうになりながらも、必死にそういっている。どれだけ正確に的に当てられるか、という部門だったらしいが、その武器は様々。弓を始めて一年ほどのフェリラには厳しかったろう。
まあ、俺もリキートも一年以上やっているからな。自分の魔法とか、剣技とか、そういったものを見せつけたいだけのやつと対戦で戦うのは楽勝。だが、的を射る、というのはまた話が違う。本当に仕方がないと思われる。
「うん、ありがとう、慰めてくれて。
もう大丈夫。
本当に頑張ってね、明日も!」
「ああ」
「もちろん」
フェリラも回復したところで、今日はもう寮に戻る。明日に備えないと、というのは確か。でも、どうしてもサーグリア商会に顔を出していきたかったのだ。次にいつ会えるのか、そもそも会えるのかもわからないから。
行ってらっしゃい、と二人が見送る中、サーグリア商会、というよりも家の方に向かう。事前に伝えていたこともあって、温かく迎えてくれた。
そして、おいしいご飯を食べて、たわいもない話をして。そんな普通なら何ともない時間も、大切に思えた。ああ、本当に。俺が本来望んでいたものはこういうものだったはずなのだ。こういう幸福な時間の、かけがえのない一人になること。どうして、こんなになっているんだろうな……。
久しぶりに嫌な奴を思い出した。