第四十六話 悪意渦巻く
お待たせしました。今年最後でございます。是非御覧下さい!
この街に来てから大体三週間が過ぎたある日、俺は街をフラフラと宛もなく歩いていた。
最近は俺、レイナ、ウォルフの三人で依頼を受けることが多くなった。今日は久しぶりのオフだ。といっても特に何かすることがあるわけでもない。
レイナとウォルフはギルドの訓練所でそれぞれ訓練をするらしいが、俺は久しぶりのオフまで戦闘に明け暮れる気はさらさら無いので断らせてもらった。
さて、何をするかと思っていたら━━━突如として爆音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
音のしたほうを向くと、もうもうと黒煙が立ち上り、赤い炎が燃え盛っている。俺は何かを考える前に駆け出していた。
◇ ◇ ◇
音の発生源に辿り着くと、既にそこには何人もの住人や冒険者らしき人々が集まっていた。
「悪い、通してくれ!頼む!」
なんとか人の群れを掻き分けた俺の目に入ったのは━━━崩れ去った街の外壁だった。
外壁を破壊したのか?あの堅牢な外壁を?どうやって…いや、問題はそこじゃない。できている以上、それを考えるのは無意味だ。問題は破壊した後にする相手の一手だ。
外壁が砕けて火の手が上がっているということは、間違いなく人の手が加わっている。魔物の攻撃で破壊されてるなら、炎が燃え盛ることはない。
外壁を破壊したなら、次は何をしたらいい?外壁は敵の侵入を防ぐために作るもの。それが無くなった状態で打つべき手は…まずい!
「下がれ!近づくな!」
俺は近くの野次馬たちに下がるように呼びかける。中にはなかなか下がろうとしないやつもいたが、力づくで下がらせる。すると…
「「「ヴオォォォォォォ!」」」
煙の奥から大量の唸り声と共に、何体もの人間が現れた。それは老若男女様々だが、どれもひと目で死んでいるとわかる生気のない目と土気色の肌をしている。
俺はほぼ条件反射で【鑑定】を発動させた。
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名前:マリック・スウェート
種族:ゾンビ
職業:料理人
ランク:−−
Lv:1
HP:23/23
MP:12/12
攻撃:21
耐久:19
敏捷:14
持久:16
器用:26
幸運:49
‹耐性スキル›
【状態異常無効】
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名前・職業持ちでランク不表示…?今までこんなことはなかった。他の人間に【鑑定】を使ってみるも、同じく名前・職業持ちのランク不表示。ゾンビは生前のステータスが反映されるのか?
「グルァア!」
ふと、うめき声のした方を向くと、逃げ遅れた住人にゾンビが襲いかかっているところだった。
「っ……クソがぁ!」
俺は悪態をつきながら、ゾンビの左腕を斬り飛ばした。だが、ゾンビは痛みに反応する様子はなく、ただ突然無くなった自身の腕を見つめているだけだった。
やがて俺に斬られたことに気付いたゾンビが俺に殴りかかる。俺はゾンビの右腕を斬り、胴体を断ち切る。
しかし、それでもゾンビが死ぬことはなく、上半身だけの身体を芋虫のように這わせていた。俺はゾンビの首を刎ね、心臓を貫きとどめを刺した。
━━━気分が悪い。吐き気がする。
頭の中に一つの感情が渦巻いた。だけど、これは多分元々人間だったものを殺したからじゃない。こんなことをしたゴミクズがいるからだ。
外壁を破壊したやつとゾンビをけしかけたやつが無関係なはずがない。少なくとも同士、もしくは同一人物だ。そう考えると腸が煮えくり返る。
「なんでこんなことができんだよ…!」
前世で一部の人はゾンビを死者蘇生と考え、それを行った者を崇拝する者もいると聞いたことがある。前世の俺はそれも考え方の一つだと捉え、深く考えたことはなかった。
だが、それを目の当たりにして、そんな考え方を容認することはできなくなった。ゾンビ化は救いなんかじゃない。ただの死者への冒涜でしかない。
怒りで目の前が真っ赤になったのも、血が出るほど拳を握り締めたのも、音が鳴るほど歯を食いしばったのも全てが初めてだった。
俺は怒りのままに剣を振るい、次々にゾンビを絶命させていく。それが俺のできる唯一の供養だと思ったこともあり、その手が止まることはなかった。
やがて、俺は目に付く範囲全てのゾンビを絶命させた。しかし、それでも俺の腹の奥に煮えたぎる怒りは収まらない。
ふと、あたりを見回すと、外壁の瓦礫の奥から数十体のゾンビが蠢いていた。なんだ、まだまだいるじゃないか。俺はゾンビたちに再度攻撃を仕掛けようとするが━━━
「こんのアホ!頭冷やせ!」
「アガッ!?」
突如として横から割り込んできた謎の男に殴り飛ばされた。なんとか体勢を整えて立ち上がると、そこには明らかに怒りの表情を浮かべたカナタがいた。
カナタは俺に掴みかかると、無理矢理近くの路地裏へと引きずり込んだ。
「何すんだよ!早くあのゾンビを殺さねぇと人が死ぬんだぞ!」
俺が反論の声を上げるが、カナタはそれを意にも介さなかった。
「アホかお前は!あんな状態で戦ったらいつか死ぬに決まってんだろうが!」
俺はカナタが何を言っているのかわからなかった。あんな状態?ただ俺はアイツらを殺さねぇと思って戦っていただけだ。
「テメェの身体をちゃんと見てみろ」
カナタは俺のわかっていない様子に嘆息し、呆れたように告げた。俺がなんの気無しに目を向けると、俺の身体には大小様々な無数の傷が刻まれていた。
「…やっぱりそれにすら気付いてなかったのか」
これまで怒りを浮かべていたカナタの表情が呆れと哀しみを帯びた表情へと変わる。そして、俺の肩に手を置き、じっと俺の目を見つめた。
「テメェが怒り狂うのもわかる。大方アレを仕掛けたクズ共に腹が立ったってとこだろ。だが、それでも自分自身の身体さえわかってない状態で戦うのはバカ以外の何者でもねぇ。ムカつくのも苛立つのもわるいとは言わねぇ。だが、戦うときは頭は常にクールに。これだけは必ず守れ」
カナタは諭すような優しい声音でそう言った。俺は今まで俺の行動がどれだけ愚かだったのかに気が付いた。例え何人守ろうが、死んだら何にもならねぇよな。
俺は戒めとして、自分の顔を思い切り殴る。
「ありがとうカナタ。目が覚めた」
「おう、気にすんな」
そんな俺にカナタはニッと笑いかける。さて、アイツらを倒しに行かないとな。
「よし、行こうぜカナタ」
「あー、そのことなんだが、もう大丈夫だ」
「はぁ?どういうことだ?」
「まぁ、見てろ。あと、下がってろよ。巻き込まれんぞ」
俺は首を傾げながらカナタの指示通り、少し下がって外壁の方を見ていることにした。
「ジュラララララララ!」
数分後、けたたましい鳴き声と衝撃を伴った破壊音があたりに響いた。
「あ!?なんだぁ!?」
声を上げた俺の目に飛び込んできたのは━━━一匹の大蛇だった。その大蛇は、地面や周囲の建物ごとゾンビを飲み込むと、頭を上げ嬉しそうに身体を揺らした。
「デビルパイソンのジュラ。冒険者ギルドメイナード支部ギルドマスターのマルクスの愛獣の一体だ」
呆けていた俺の耳にカナタの声が聞こえた。
「あの人、こんなん従えてたのかよ…」
「当たり前だろが。ギルドマスターはBランク以上の冒険者から選ばれる。マルクスも現役の頃は『蛇使い』なんて名で知られた凄腕だぞ。って、こんなことしてる暇はねぇんだよ」
「ん?何かあるのか?」
少々焦ったような表情を浮かべるカナタに俺は問いかける。
「メイナードの冒険者全員に招集命令がかかった。多分この騒動についてだとは思うが、できる限り急ぐぞ」
「あぁ、わかった」
俺とカナタは二人揃って冒険者ギルドへ走り出した。




