番外編 とある魔族の哄笑〈2〉
「アーデス、あとは任せた」
「承知いたしました」
ガランは『七罪魔将』の一人である【色欲】のアーデスに会議の進行を任せる。それに対して反応する者はいない。ガランがアーデスに会議を任せるのは今に始まったことではないからだ。
それどころか、ガランは魔王という地位にいながら何かすることはほとんどない。魔王軍の統率は各師団長に、魔族の取りまとめはアーデスに任せている。
ならばなぜ魔王という地位にいるのか。理由は簡単━━━強いからである。その圧倒的強さゆえにガランは魔王たり得ているのだ。
「それでは総括会議を始めます。始めは各師団長の報告から。ルア殿からお願いいたします」
ガランから司会を任されたアーデスが会議を開会する。総括会議とは魔王たるガランと『七罪魔将』のルア、サター、ゼブル、モーマン、レヴィア、アーデス、ベルフェルの八名で行われる会議である。主に報告で終わってしまうものの魔族の最高決定機関でもある。
その会議は毎回各師団長の報告から始まる。師団長とは魔王軍にある五つの師団を統率する者達である。代々『七罪魔将』の上位五人が務めている。今の代で言うならルア、サター、ゼブル、モーマン、レヴィアの五人である。
『七罪魔将』にはもう一つの役職があることが多い。ルア、サター、ゼブル、モーマン、レヴィアの五人は師団長、アーデスは『政務統括代行』、ベルフェルは『魔王城研究室統括』という役職を与えられている。
しかし、魔族は戦闘部族であり、研究室に入るような者などほとんどいないため、ベルフェルの役職は実質無いに等しい。
さらにベルフェルは『七罪魔将』の中では最弱と言われているため、他の『七罪魔将』には蔑まれている。
「レヴィア殿ありがとうございました。私からの報告は特にございません。これで総括会議を終了いたしま━━━」
「待て、ベルフェルがまだ報告していないだろう」
自身の報告を終え、総括会議を終了しようとしたアーデスをガランが止める。ガランはベルフェルに問いかける。
「ベルフェル、何か報告はないか?」
「そうですね…報告ってほどじゃないですけどお伝えしたいことが一つ」
ガランは目で続きを促し、ベルフェルはひと呼吸開け話し出す。
「『ユニーク魔法』系の『ユニークスキル』の所有者を発見しました。おそらく転生者だと思われます」
ベルフェルが放ったその言葉に場が静まり返る。数瞬後、ようやく理解できたのか、それぞれが反応を示す。
「はぁ!?」
「なんと…」
「嘘でしょ?」
「ホントかい?」
サター、ゼブル、モーマン、レヴィアがそれぞれの言葉で動揺を見せ、アーデスは大きく目を見開く。ルアとガランは一切の反応をしなかった。
ベルフェルはまるでいたずらが成功した子供のような表情で笑った。誰にも見られないように口元を手で覆い隠す。そこにサターが食ってかかる。
「おい、それはホントだろうな?手柄欲しさの嘘じゃねぇのか?」
「僕が魔王様に嘘をつくことは絶対に無い。知ってると思うけど?」
「グッ…」
サターはベルフェルの言葉に黙り込む。ベルフェルはその様子を見て一層笑みを深める。いつもは蔑まれている自分がこの場を支配している。それに快感を感じていた。ベルフェルはさらに言葉を続ける。
「そして、その転生者についてですが、捕獲、懐柔、処分などを僕に一任していただきたいのです。」
「なぜ?」
「理由は二つ。他の方々では懐柔には不向きであることが一つ。もう一つは彼と僕は面識があり、警戒されにくいということです」
もっともこれは建前であり、本心はその転生者━━━ソースケ・ナグモを手に入れることが目的である。
「わかった。その転生者はベルフェルに任せよう」
「ありがたき幸せ」
ベルフェルは内心でほくそ笑む。ガランはあまり腹芸や騙し合いは得意ではない。ガランの決定に逆らえる者はいない。たとえ『七罪魔将』と言えどベルフェルに手出しはできない。これでソースケの確保に専念できることにベルフェルは喜んだ。
「これで総括会議は終わるわけだが━━━集まってもらった理由について話すとしよう」
ガランがそう言うと会議室に緊張した空気が張り詰める。そしてガランはゆっくりと口を開く。
「我々の悲願を果たす時が来た。我々は中断していた人間との戦争を再開する」
ガランの言葉に『七罪魔将』の全員が身を震わせる。やっとこの時が来たという喜びが全身を駆け巡る。
「さぁ、世界を手に入れる戦いを始めよう」
◇ ◇ ◇
ガランの宣言とともに会議は終了し、『七罪魔将』は己の役目を全うするため次々に会議室を飛び出し、ベルフェルは一人山奥の小屋に帰っていた。
「あの場で許可を求めたのは急ぎ過ぎたかな。ルアやアーデスは気づいただろうし、もしかしたらゼブルの爺にも勘付かれたかもしれない。いや、のんびりする訳にはいかなかったし、直談判しに行ったらさらに目立っただろうからアレで良かったとは思うけど…」
ベルフェルは先程の会議の反省をしていた。しかし、過ぎたことは忘れ、今後の計画について思考を巡らせる。
「ベラ」
「ここに」
ベルフェルが名前を呼ぶとどこからとなく一人の女性が現れる。全身黒装束のベラと呼ばれた女性は短く返答する。
「ここに来たソースケ・ナグモという少年を監視してくれ。何かあったら僕に報告するように」
「承りました」
ベルフェルがベラにソースケの監視を命じるとベラは姿を消した。ベラはベルフェルの数少ない部下の一人であり、情報収集に長けている。
「さて、僕も始めるかな。ソースケはなるべく無傷で捕えたいけど…」
そこまで言ってベルフェルはハッとした。自分がソースケの身を案じていることに気がついたからだ。それと同時に笑いがこみ上げてくる。
「今更何を思ってんだよ…罪悪感かなにかか?僕が今まで何人殺して何人見捨ててきたか、自分が一番わかっているだろうに…」
ベルフェルは魔王軍のことなどどうとも思っていない。それどころか、魔王に尽くす気も無ければ、魔族の繁栄を願う気も無い。彼はただ自分の目的のために行動してきた。
そして、ベルフェルは哄笑する。それが目的に一歩近づいた喜びからの笑いなのか、自分の身勝手さに対する自嘲の笑いなのかは誰にもわからない。
すみません、ここ数日立て込んでいて投稿できませんでした。
明日からは毎日投稿目指して頑張ります。




