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Celestial sphere  作者: 一条 灯夜
【Auriga】 ~Elnath~
91/424

2

 森から急に現れた俺達の姿を見て、敵陣が騒がしくなった。

 艦隊決戦の結果が敗北したと誤認してくれると助かるが――いや、そんなに甘くは無いか。人の動きが多いのは、戦列を組もうとしている証左だろう。時間稼ぎのつもりなのか、海上で見たのと同じ投石兵が、柵の向こうで投石器を振り回し始めている。陣形は組んでいない。散発的に警備兵が其々の柵から、小隊規模で対応をはじめる姿勢を見せている。

 背後の本隊へは届かないが、俺に対してならぎりぎり射程圏内だ。

 上陸後、間を開けずに行動を起こしたのが功を奏したのか、重装歩兵はやはりまだ隊列を展開出来ていないようだった。だが、時間を敵に与えれば、すぐにでも繰り出してくるだろう。味方の損耗を防ぎつつ、敵を殲滅するにはやはり重装歩兵のファランクスが一番だからな。

 おそらく、投石で牽制もしくは足を鈍らせ、こちらの正面に隊列を整えた兵を配置して数任せに圧し潰すって作戦だろうな。策を巡らす必要は、向こうには無い。むしろ、変にけれんみを出して、余計な損害を出したくないと考えているはずだ。

 その有利にある、という部分につけ込んで、前衛の自分達だけが犠牲になるのは割に合わない――と、思わせられれば勝機はあるか。敵に恐怖を感じさせるのは得意だしな。

 ニッと笑って、無造作に歩を進める。

 抜き身の剣は、肩に担ぐようにして持つ。

 睨み付けると、目が合った数人が肩を震わせたのが遠目にも分かった。

 一歩、二歩、三歩……。

 初撃は、斉射とは呼べない。多分、新兵だったんだろう。前進されているという圧力にビビッたのか、号令も無く数発の石が投げ上げられ――ほかの投石兵が慌ててそれに続いた。

 まだ短くない距離があるからだろう、斜め上に放られた石の軌道を読むのは、そう難しくは無かった。

 避けながら更に前進すると、そう経たない内に直線的に向かってくる石が増え、左腕の盾を使う機会が増えた。

 敵も前進している?

 しかしその割には、積極策として軽装歩兵なんかを繰り出してくる気配も無く、相も変わらずの投石攻撃を続けたままだ。

 もしや、なにかの罠が……。

 背後を確認したいが、そんな隙を見せるわけにも行かない。だから、更に前へと圧力をかける。

 ふと、引っ掛かりを覚えた。敵の兵士の攻撃は、確かに激しいが、あきらかに適当に放っているだけのような軌道の石も多い。充分に加速させていないようなのも。

 目の色が確認出来る距離の一番近い兵の顔を見ると……思いっきり後ずさられた。

 ん?

 ……ああ、俺の盾が小型だから、近付いて命中精度を上げたいだけだったのかもしれない。こんな攻撃で俺自身が止められるなんて、自分では考えても無かったから、失念していたが。

 ったく、斬り合いが怖いのかもしれんが、投石でなんとかしようだなんて、俺も随分と安く見られたものだな。


 いずれにしても、俺に注目が集まっている今ならいけるか。と、合図を送ろうとした瞬間、敵からの遠距離攻撃が止み、飾り兜と青銅の胸鎧を身につけた男がゆっくりと歩み出てきた。

 おそらく、攻囲陣の左翼の大将だ。

 一騎打ち、か。

 随分と古式ゆかしい大将だな。まあ、そういうの嫌いじゃねーけど。

 予想とは違ったが、これはこれで面白い展開になった。犠牲を出さずに味方の陣地に入るには、理想的な形だしな。

 左手を上げて、準備していたであろう味方の投石攻撃の中止を指示する。

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